魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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原作の場面説明やセリフをなるべく避けながら再現するのは大変です。


#006 一科と二科

 授業を見学する予定だったのが、どうしてこうなったのか。

 あなたは左手で顔を覆うと、軽く頭を振った。

 

 ベンチのある中庭まで移動すると、少年を開放する。

 その頃には彼の頭もすっかり冷えて、呟くような声ではあったが「ごめん」と謝罪していた。

 

「改めて。僕の名前は1-Bの十三束(とみつか)(はがね)。よろしく」

 

 握手を求められたのであなたが応じると、十三束は年相応の――やや幼くも見える――笑顔を浮かべた。

 こうしてみると小柄で柔和な顔立ちの少年だ。さきほどの剣幕が嘘のように思える。思ったことをそのまま伝えると、「つい頭に血が上っちゃって」と照れくさそうに反省していた。

 

 聞けばやや特殊な魔法特性の持ち主らしく、プロの魔法師としてやっていけるのか、不安を抱えているように見えた。高い倍率を乗り越えて一科生として合格したことが、却って要らぬ気負いを生んでしまったのかもしれない。二科生への強い差別意識も、どちらかといえば追い抜かれまいと焦るあまりの過剰反応だったようだ。

 

 いささかシリアスな空気になってしまったところ、同行していた他の男子生徒らの一人が気持ちのリセットを促した。あなたにとっても好都合だったので、その流れに乗って彼らとも挨拶を交わし、雑談を始める。一人が近場に住んでいるというので、いきおい一高の近くで遊べる場所などの話になり、あれこれと益体もない話をしながら次の授業見学までの空き時間を潰す。

 その後は見学したい授業が別々だったので彼らとは別れた。彼らは総代を務めた少女を探しているらしい。

 

 あなたは魔法構造学の見学をした後、図書室へと足を向けた。

 

 

*  *  *

 

 

「これは一科の問題だ! 二科生ごときが口を挟むな!」

 

 あなたが図書室の端末で基礎魔法学の小事典を読みふけっていると、校門の方から怒りに膨れ上がったマガツヒを感じた。窓ガラスをかすかに震わせた怒鳴り声は、クラスで騒いでいた男子のものか。

 

――放っておいても良いのだろうが……

 

 とはいえ、一科と二科の溝を深めることは、あなたにとって何の利も無い。それに二科には無下にはできない実家の関係者がいるようだし、もし彼らが巻き込まれていた場合、後でもっと面倒なことになりかねない。祖父からうるさい小言をもらわないためにも、現場を見ておく必要はありそうだ。

 読みかけの小事典に後ろ髪を引かれながら、あなたは端末を終了させて図書室を出た。

 

 

 校門に駆けつける前に、周囲の状況についてざっと確認する。特に強いマガツヒの存在は無いかどうか。現代魔法にあるかは知らないが、古式魔法には励起や召喚といった形で悪魔に働きかけるものがある。万が一にもそんな魔法が行使された場合のことを考えたのだが、それらしき気配は感じられなかった。

 特に警戒を要する存在は無さそうだと判断し、改めて騒動の中心へと目を向ける。

 

 騒いで目立っているのは一科の男子生徒と、先程の栗色の髪の少女――エリカだったか――と一緒にいた、眼鏡を掛けた少女。よほど縁があるらしい。

 男子の後ろに五人の少年少女たち。全員が一科生。

 眼鏡の少女の後ろで、エリカが彼女を煽っていた。その後ろに彫りの深いゲルマン系の少年が一人。こちらは全員二科生。

 

 あとは……司波深雪と司波達也の兄妹が寄り添っていた。彼らは二科生の側に立って、彼らに庇われるように距離を取っている。だが騒動の輪の中にいるのは確かだ。兄は忍術使いの弟子、妹はまがりなりにも新入生総代。マガツヒの巨大さを別にしても、彼らの動きには注視しておくべきだろう。

 その逆側、つまり一科生の側には何故か軽いパニックを起こしているらしい気弱そうな少女と、彼女を支えるように立つもう一人の少女がいる。気弱そうな少女の、どこか懐かしい気配が気になったが、うまく思い出せなかった。

 

 取り巻いている野次馬の中から、「またあいつらか」という言葉が聞こえる。どうやら昼休みにも食堂で騒動を起こしかけていたらしい。詳しいことは分からないが、「一科生が二科生に席を空けさせた」とか「二科が一科に逆らおうとした」とか。同じようなことをする幼児(おこちゃま)は、一人ではなかったようだ。

 

「何の権利があって、二人の仲を引き裂こうっていうんですか!」

「僕たちは司波さんに用があるんだ!」

「そうよ! 選択授業のこととか、相談することがあるんだから!」

「ウィードは引っ込んでろ!」

 

 売り言葉に買い言葉。どうも強く絡んでいるのは一科生の方らしいが、二科生の側も引く様子はまったくない。これはいくところまでいきそうだ。

 

 それにしてもこの選民思想、特権意識はどこから広まっているのやら。入学早々にこの有様ということは、学外にも暗黙裡に広まっている認識なのか、それとも彼らが個別に知り得ただけなのか。生まれ直してこの方、ろくに現代魔法師の社会に触れる機会がなかったあなたには、そうした話は聞こえてこなかったのだが。

 

 

*  *  *

 

 

 「これが才能の差だ」などと威勢のいいことを宣い、悠長に拳銃型CADを抜き放った一科生男子は、しかしあっさりエリカにその手の甲を打たれ、CADを弾き飛ばされている。才能の差とは何だったのだろうか。そもそも距離を詰めすぎだ。年の割にはよく動けていたと言うべきだろうが、あんな距離で拳銃型CADを抜き打ちするなら、バックステップでもして距離をとるべきだった。棒立ちではいい的でしかない。

 

 魔法の才能は分からないが、魔法師、戦士としての才能はあまりないのだろうな、とあなたは判断する。ならば泥臭い努力を重ねることでしか、その力を伸ばすことはできない。それが彼にできるだろうか。ここに集まっている一科生にできるだろうか。

 次の瞬間には「馬鹿な」「二科生の分際で」「ウィードのくせに」などと激昂している彼らに、それができるとは思えなかった。そもそも第一校舎の方からすぐにも闖入者がありそうな気配ではないか。それにすら気が付いている様子はない。あなたはある()()の多難さに眉根を寄せた。

 

 

 次々にCADを取り出す五人の一科生。対する二科生たちもすぐさま攻撃態勢に入った。後列で汎用型CADを取り出したのはまだわかる。だが前列で白兵戦に長けた相手に特化型CADを取り出すことの愚かさを学習しなかったようだ。あっという間に距離を詰められ、叩き落とされていた。

 

 ふと目をやれば、先程までパニックを起こしていた少女がいち早く魔法の発動体制に入っていた。ここで発動を許せば、魔法科高校の敷地内とは言え傷害の意図を疑われるだろう。面倒事になる前に抑えるため、あなたは【マカジャマオン(魔法封じ)】を発動しながら少女の正面に移動し、CADのついた手首をつかんで止める。

 

――落ち着け。大丈夫だ。

 

 驚き身をすくめた少女の瞳をじっと見つめ、あなたは声をかける。

 

「…っ。はい!」

 

 あなたが少女の目を見て小声で制止すると、その一言に少女は元気よく頷いて動きを止めた。

 あまりに従順すぎるその素振りに違和感を感じている時、背後では再び混乱が起こっていた。一科生が発動しようとした魔法が、ことごとく失敗に終わっていたためだ。あなたの【マカジャマオン】が場の一科生全体に広がった結果なのだが、それに気付くこともなく次の瞬間には二科生の少年少女に殴り倒され、蹴り飛ばされている。

 

 その様子に緊張の糸が切れたのか、気弱げな少女はその場にへたり込んでしまった。傍に居たもう一人の少女もしゃがみ込み、彼女を支えるようにする。いきおいあなたもしゃがみ込んで、二人で少女の様子を見ると、彼女はわけもわからず涙を流していた。よほどストレスがかかっていたのだろう。付き添っていたもう一人の少女が、朴訥な声でゆっくりと宥めていた。

 

 どうやら任せておいても大丈夫そうだと、少女たちから騒ぎの輪へと再び視線を戻すと、

 

「そこまでだ!」

 

 騒ぎの外から駆けつけてきた闖入者のうち、いくらか背の高い方の大声が一瞬でその場を制圧した。




感想、お気に入りの登録、評価などありがとうございます。
気がつけばUA、評価ともえらい数字になって驚いたりビビったり。
とはいえマイペースで進めることは変わらないわけですが。

劣等生のストーリーをなぞりつつ、世界設定はメガテン風味な本作。
さすがに今のペースでの更新を続けるのは厳しいのですが、おっかなびっくりのんびりまったり続けていければと思っておりますので、今後ともお付き合いいただければ幸いです。


(20170706)誤字訂正
 銀太様、誤字報告ありがとうございました。
(20170327)誤字訂正
 5%アルコール様、誤字報告ありがとうございました。

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