「ヒッキー行くよ」
「比企谷君、早くしなさい」
「うるせー。休日くらい寝かせてくれよ。なんで休日返上して俺も行かないといけないの?ここってブラック企業だっけ?」
2年の3学期のとある日曜日。
俺と雪ノ下、それと由比ヶ浜で千葉駅に来ていた。
なんでそうなったのかと言うと、金曜日部室にあった紅茶のストックがなくなったのだ。それを買いにいくついでにショッピングしようと由比ヶ浜が言い出し、俺もついていくことになった。
「ゆきのん。次こっち行こー」
「待ってちょうだい。まだ会計が済んでないのだけれど」
「ねぇ帰っていい?」
「黙りなさい」
「アッハイ」
さらっと帰る提案をしたが、雪ノ下の一声で封じられた。
「じゃあ、本屋に行っていい?」
「比企谷君?」
「……ヒッキー……」
「却下」
「ダメ、だよ?」
やっぱりダメですか。
「色々見て回ったねー」
「だな」
「ええ。少し疲れたわ」
「だからこうして飯食ってるんだろ」
今はサイゼで休憩を兼ねて昼飯を食っている俺はもちろんミラノ○ドリアだけどな。この値段でこの美味しさはさすがだ。学生の味方よ。
「あれ?先輩方。こんにちはー」
いつの間にか俺らの席の通路から、日本あざとさ全国選手権を優勝するんじゃね?って思ってしまう、あざとい一色がいた。
「いろはーどうしたー。……ん?……お、ヒキタ…比企谷じゃないか」
「うわっ。ヒキタニくーん。ここで会うとかかなりレアっしょー」
一色の後ろから葉山と戸部が現れた。そして、2人ともかなり荷物を持っている。いや、持たされているの方が正しいか。部活の荷物持ちに呼ばれたのか?……なんつーか、ドンマイ。
「よぉ」
俺は目を合わせず、アイサツを済ます。頼むから関わりたくないという雰囲気を察してくれ。
「あ、いろはちゃん達一緒にご飯食べない?」
「いいんですかー?」
「ねぇねぇ、いいゆきのん?」
「……まあ、いいわよ」
おい!由比ヶ浜!お前は空気を読むのに長けているんだろ。俺の空気も読んでくれ、頼むから。
雪ノ下さんも断れよ。断ってくださいよ。
「じゃあ、失礼しまーす」
「比企谷。……何だか、ごめんね」
「おなしゃす!」
と言い、席に着く。
……ワイワイガヤガヤうるせぇ……。
恐らく今、俺と雪ノ下の心境は似ているはずだ。雪ノ下の顔を見れば一目瞭然。そんな顔をするなら、最初から断れよ。
由比ヶ浜のお願いは断れないってか?そんなにゆるゆりしたいの?百合思考なの?
サイゼから出て、なぜか俺らは一緒に行動することになった。
さっき一色が、
「これで荷物持ちが増えた」
って呟いていたけど、俺、利用されるだけなのかな?やべぇ、ものすごく帰りたい。
雑貨屋で奉仕部とサッカー部どちらも何か買い終わり、どうせならもっと遊ぼうと一色と由比ヶ浜が言い出した。
いやいや、面子見てみろ。
相性の悪い雪ノ下と葉山。
特に仲が良いわけでもない俺と戸部。
お互い嫌いと言った俺と葉山。
対極の位置にある雪ノ下と戸部。
………この時点で無理あるだろ。
ガヤガヤと、俺と雪ノ下以外騒いでいる。俺らは後ろからのんびり歩いているだけだ。
別行動、していいですか?俺、ここにいても気まずいだけだろ。
その時、周りの客がうるさい中、聞こえた。
――アノマロカリス
と。
突然、
「きゃあああ!」「うわあああ!!」
誰かの悲鳴がする。叫ぶ声がする。
俺たちはそこを一斉に向く。
そこには怪物がいた。
俺はその怪物を知っている。
その怪物は近くにいた男性を殴り飛ばす。その勢いで、赴くままに暴れている。
客が叫んで逃げる。中には腰を抜かしている人もいる。
怪物は急に立ち止まると、独り尻餅をついている少女に怪物は狙いをつける。
「い、いや……」
その少女は涙目だ。遠くからでわからないが、どこか見覚えのある少女だ。
「葉山、戸部。雪ノ下たち連れて逃げろ」
俺はそれだけ言い残し、その少女の元へ駆ける。
怪物は俺に気付かず、少女の方に近づいていた。
「比企谷!?」
「比企谷君?」
葉山と雪ノ下の声がした。俺を心配してくれるのか?ははっ、嬉しいな。でも、俺は振り向かず駆ける。
………あれを使うしかないのか。まあ、仕方ないか。
怪物の不意を突くことに成功し、俺は飛び蹴りを怪物に放つ。意識外の攻撃ということもあり、怪物は大きく後退する。
「えっ。………八幡?」
後ろから声がする。……声でわかった。その、少女は鶴見留美だ。千葉村、クリスマス会で会った少女。
「離れてろ」
留美にそれだけ言う。
そして、ジャケットの内ポケットから2つ取り出す。
1つは、ロストドライバー。
ロストドライバーを腰に巻く。
もう1つは、「牙の記憶」を内包したガイアメモリ。そのメモリのスイッチを押す。
――ファング
周りが静かな中、その音声だけが鳴り響く。
それは、T2の「ファングメモリ」だ。入手した理由は……今は語るまい。
ファングメモリをロストドライバーのメモリスロットに入れる。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
俺は右手でメモリスロットを傾ける。
ロストドライバーから音が鳴る。
――ファング!
そして、呟く。
「変身」
――と。
ふと、ガラスに写ってる自分を見る。
涙状にラインが走っているのがわかる。
ああ、俺もお前ら――ドーパントと本質は同じなんだな。心底そう思うよ。
メモリスロットを開くと俺の体は、変化する。全身白いボディー、赤い目、刺々しいフォルム。肩にはブレードが展開される。
「ぐっ!くっ…ハァ……ハァハァ」
暴走しそうな、思い切り暴れそうな衝動を無理矢理俺の理性で抑える。
………大丈夫だ。もう、あんなことは絶対しない。だから、大丈夫だ。
ブレードを手で持ち、構える。
「八幡?」
後ろで留美が
「比企谷君……?」
「………ヒッキー?」
「せ、先輩?」
そのまた後ろでまだ逃げてない雪ノ下と由比ヶ浜、一色が。
「比企谷、お前は!?」
「えっ、どうなってるっしょ!?」
3人の手を引っ張っている葉山と戸部がそれぞれ驚く。
それを気にせず、俺はひとっ跳びでドーパントの目の前に移動する。そのまま横一閃でブレードを振り抜く。
「うわああ!」
ドーパントは大きく吹っ飛ぶ。が、後退しながら、遠距離攻撃を仕掛けてくる。何かの物体をかなりの数を飛ばしている。
ガキッガキッガキッ!!
それを身体に当たりそうなものだけ、ブレードで叩き斬る。
勢いに身を任し、畳み掛けるように何回も斬る。胸、肩、首、足を。時折蹴ったり、殴ったりする。
ドーパントがふらついた所を狙い、腹を思いっきり殴る。
「ぐわああ!」
ドーパントは転げる。倒れたまま動かない。
もうこいつは満身創痍だ。さっさとトドメにしようか。
倒れているドーパントを掴み、上に投げ飛ばす。7mくらい飛び上がる。
その間にメモリスロットからファングメモリを抜く。メモリをベルトの右横に付いてあるマキシマムスロットにファングメモリを入れる。
――ファング!マキシマムドライブ!
手に持っていたブレードが消え、右足のくるぶし辺りからに鋭利なブレードが生える。
ドーパントが落ちてくるタイミングを見計らい、カウンターの要領で蹴り上げを放つ。
振り上げた足のブレードはドーパントの胴体に直撃した。
閃光が走り、
ドゴオオオン!!
その場で爆発が起こる。
「ぐはぁ!」
メモリ使用者は、大学生みたいな風貌の男だ。メモリが身体から飛び出る。そのまま、メモリはパリィィンと割れた。
見ると、その男はメモリを刺したあるうで場所にメモリコネクタ手術を施した痕がない。
てことは、
「また裏ルートの横流しかよ………」
独りでそう呟き、メモリスロットを起こし、ファングメモリを抜く。
そしたら、変身から解除され、元の比企谷八幡の姿に戻る。
元に戻った状態で周りを見渡す。
客は逃げてほとんど居らず、いるのは雪ノ下、由比ヶ浜、一色、葉山、戸部、留美だけだ。あと、メモリの使用者。
あいつら、逃げろって言ったのに…………。
「ハァ………」
俺はロストドライバーとファングメモリを仕舞いながら、ただただ、ため息をつくのであった。
やってみたかったの。書いてみたかったの。