この話から物語は動く……と、いいなぁ。
「……うーっす」
気だるげな挨拶をしながら、奉仕部の部室の扉を開ける。
「こんにちは、比企谷君」
「おう、雪ノ下。今日は珍しく罵倒はなしか」
「ヒッキー、遅いよ!」
「せんぱーい遅いですー。待ちくたびれましたよ~」
「掃除が長引いたんだよ。それと一色、あざとい」
一色はここにいる頻度は多いが、これまた珍しい奴もいるな。
「やぁ、比企谷」
「……おう、葉山」
俺ららしく短い挨拶で済ます。
雪ノ下と由比ヶ浜はいつもの場所に、来客用の場所には葉山と一色が座っている。
「お邪魔してるよ」
「邪魔するなら是非とも帰ってほしいな」
「それは君の話を聞いてからね」
「あっそ……」
「そういえば隼人君、戸部ッちは来てないの?」
「あぁ、翔はサッカー部で僕の代理を頼んでるよ」
あの時いた総武高のメンバーからハブられるとは哀れ、戸部よ。まぁ、新年度や大会に向けて練習忙しいんだろうな。
俺も定位置に座る。
さーて、ここからどうなるんだ。俺に進行役とかやれって言われても無理だぞ。そもそも何を聞かれることやら。
「それで、比企谷君」
と、ここで話を切り出したのは雪ノ下。
「昨日、私なりにあの怪物を調べたのよ。検査や事情聴取が終わってからそれなりの時間があったからね」
「おう。それで?」
「あれは一時期、風都で話題になったガイアメモリを用いたドーパントと呼ばれる怪物で合ってるかしら?」
今のネット時代、そのくらいの情報なら簡単に分かるか。俺だってグーグル先生にお世話になった。
照井さんも基本情報くらいしか教えてくれなかった。ガイアメモリを作った組織の名前はミュージアムだったか。あとミュージアムのスポンサーについても少し教えてくれたな。そのくらいだ。
後は自分で調べたなー。
「正解。といっても、俺も詳しくは知らないぞ。多分ドーパントに関しては雪ノ下と同じくらいの知識しかない。」
せいぜい、今は裏ルートで横流しされているガイアメモリが急増しているくらいだ。
「なら、何故君もそのガイアメモリとかいう代物を持っていたんだい?」
「……成り行き」
葉山に適当に返答する。そううとしか言いようがない。
「てことはヒッキーはその、どーぱんと?ってことなの?」
次に由比ヶ浜の質問がくる。
「俺は違うぞ。ドーパントってのはガイアメモリを体に直接差してある状態の怪物だ」
昨日フィリップさんから聞いたけど、ファングでドーパントになったら、確実に身を滅ぼすまで暴走するらしい。ロストドライバーでも普通は暴走するが、俺はギリギリの所でしていない。
フィリップさんは左さんのジョーカーメモリのおかげでファングとの釣り合いがとれて暴走はもうしていない。
メタルとかトリガーのメモリならファングとの釣り合いがとれずに暴走するって言ってたな。左さんの相性が良いメモリがジョーカーだとか。まさに切り札だな。
「あー、確かに先輩は何かを腰に巻いてましたね。あれは何なんですか?」
「……そこまでは教えれない」
照井さんに「一般人には君の情報を言うなよ。どこから君が狙われるか分からない」と、忠告されてる。
「比企谷君、その成り行きとやらを教えてもらえるかしら?」
と、雪ノ下。
「……ノーコメントだ。誰だって言いたくないことがあるんだよ」
メッチャ睨んでくる。
雪ノ下の睨みは怖いな。そんなに怒らなくても。
「じゃあ、雪ノ下。今、この場でお前が過去されたイジメや嫌がらせを全部、細かく言えるか?」
「そ、それは……」
その問いに雪ノ下と葉山が微妙な表情を浮かべる。
そっちがその気なら、良い気はしないが、少し卑怯な手をこっちも使うぞ。
「だろ?だからあまり詮索してほしくないんだよ。できれば、お前の姉にも、な」
………あの人なら余裕で調べてきそうだけどな。情報網どうなっているんだろ。人海戦術か?それとも脅し?はたまた自分の足で調べてるんか?
「ごめんなさいね。姉さんにもなるべく内緒にしておくわ」
「そうしてくれ」
………あれ、もう引き下がった。突っかかってくると思ったが、素直だな。
「ゆきのんはねー、ヒッキーに助けられたから今日は強く言えないんだよ。いつもなら何かを織り混ぜるのにね」
「ゆ、由比ヶ浜さん……」
焦りの色を見せる雪ノ下とどこか自慢気な由比ヶ浜。仲良いね、君たち。
「由比ヶ浜、よく織り混ぜるなんて言葉知っていたな。そっちの方が驚きだわ」
「私もそう思いまーす」
「ちょ、ヒッキー、いろはちゃん、2人とも酷い!」
「だったら、結衣。空気に含まれている気体を3つ言ってみて」
「隼人君!?……えーっと、酸素と二酸化炭素と…………」
由比ヶ浜、オーバーヒート。
「さすが由比ヶ浜、安心したわ。答えは窒素な」
葉山まで乗ってくるとはな。案外ノリ良いな、こいつ。……というより、窒素も言えないのか。小学生の高学年で習うだろ。
「由比ヶ浜さん、受験生にもなるのに、それも答えられないなんて……。また由比ヶ浜さんの為の勉強会開きましょうか」
あ、由比ヶ浜詰んだ。お疲れ様でーす。
「結衣先輩、ご愁傷様です」
「あら、一色さん。そう言わずにあなたもどうかしら?テストも近いことだし、教えてあげましょう。生徒会長たるもの、せめて平均点よりプラス10点は目指しなさい」
さっきまでの一色の笑顔が消えた、だと!?余計なこと言うから………。
「そのー、今回は遠慮とかは……」
「安心なさい。私が教えるのだからそのくらい取れるようにするわ」
「……先輩の勉強に影響は」
「日々、予習復習はそれなりにしているの。他にも受験に向けて勉強は進めているわ。それにきちんと自分の時間も確保するようにするから大丈夫でしょう」
雪ノ下の容赦ない口撃に俺と葉山、互いに苦笑い。
強く生きろ、一色。
「いろはちゃん、頑張ろうね!」
やべぇ、由比ヶ浜。雪ノ下への生け贄が増えたからかメッチャ乗り気なんだけど。
この2人に心の中で敬礼をする。生きて帰れよ。………他人事じゃねーな。俺も勉強しないと。
部室にピコンと誰かの携帯の通知音が鳴る。葉山か。戸部辺りから連絡がきているのか、スマホを見ている。
葉山はすまないが、と前置きをし、
「俺はそろそろ部活に戻るよ。押しかけて悪かったね。……そうそう、比企谷。この前はありがとな」
それだけ言い残し去っていった。
咄嗟のことで、俺は何も言えなかった。あいつが俺に礼をか………。
「そうですよ!話逸れましたけど、私たちちゃんとお礼言えてません!」
一色はここぞとばかりに話題転換してくる。
「いや、別に礼とかいらない……」
「そうだね。留美ちゃんからもお礼頼まれてたんだよ」
「だからいいって」
「ということで、ヒッキー、助けてくれてありがとね!留美ちゃんは照れながら『八幡にありがとうって言っといて』だってさ!可愛かったよ!」
………話聞けや。つーか、ルミルミもか。
「人の感謝の気持ちは素直に受け取りましょうよ、先輩。私からもありがとうございました」
「そうわね。あなたが居なかったら、怪我では済まなかったのかもしれない。比企谷君、助けてくれてありがとう」
「お、おう……。どういたしまして」
あれだな、面と向かって言われると、普通に照れるわ。
そんな感じで、その後は特に何も事件は起こらず時間は過ぎた。
2月中旬のテストは(数学以外)は無事に乗り越えた。一応数学は何とかギリギリで赤点回避はできたぞ。それでもぶっちぎりで悪いけど。これで進級できる。
テストが終わった直後の由比ヶ浜と一色は魂が抜けてた。雪ノ下の指導大変だったんだろうな………。同情するわ。
テストが終わるや否や、国公立か私立か等の進路選択に向けた授業が始まった。
当たり前だが、この時期になると休む暇ないよな。難関国公立を狙っている奴らは2年の夏休みから本格的に勉強に取り組んでいるらしい。
俺は数学があれなので私立狙いだ。3学期と3年の1学期の途中までは英単語や古文単語、今まで習った世界史の範囲に絞るつもりで勉強している。
そんなある日。昼休みも終え、今は午後のウトウトする時間帯の授業だ。しかし、平塚先生の古文の授業だ。寝たら死ぬ。
「ここの敬語は二重尊敬にあたるから、主語は中宮定子になる。このように文末の表現から主語を決定できることが多くあるので覚えておくように。…………む、何だ?」
先生が喋っている途中、廊下からコツコツと足音が聞こえる。ハイヒールで歩いてるみたいだ。
ここ、土足禁止なんだが。誰だよ。
俺を含むクラス全員がその音に気を取られ、廊下に顔を向ける。
ガラガラ!
勢いよくここの教室の扉が開く。
入ってきたのは、全身真っ白なスーツを着ていて、雪ノ下並の髪の長さの黒髪の女性だ。随分美人だ。………親にしては若すぎるし、誰かの親戚とかか?
「お、おい、君は誰だね?」
先生が近づくと、その女性は先生をけっこうな勢いで払いのけた。
………お、おい!?
いきなりな事態にクラスがざわめき始める。俺も何が起こっているのか飲み込めない。
先生や俺らクラスの様子は気にせずに俺らを見渡す。
「ここに比企谷八幡はいますか」
……………は?俺??
当然何を言い出すかと思えば……俺に用だと。物好きもいたもんだな。その前に誰だよ、今まで見たことないぞ、こんな奴。
「………君ね」
周りの反応でバレた。全員の視線が俺に集中しているから当たり前か。君ら大半ヒキタニって間違えてるのによく分かるなこの野郎。
「比企谷八幡。我々と一緒に来てもらえませんか?」
「だから、誰だよ。嫌だ、断る」
当然俺は拒否する。
「ふむ。断るというならこちらにも考えがあります」
俺の話聞こうぜ。
と、俺の思いとは裏腹にその女性はスーツの内ポケットから何かを取り出そうとしている。
「……っ!」
直感で、それが危険だと分かる。そのせいで勢いよく立ち上がってしまう。
何故なら、何回かそれを見てきたから。雰囲気で感じる。
――ヤバい。
「我々は、財団X」
その女性はそう名乗る。
その何かとは………金色の、ガイアメモリだ。
財団X。
その名前は確か照井さんが言ってたミュージアムのスポンサーだった企業。今では世界征服とか企むヤバい組織。
すぐにブレザーからロストドライバーとファングメモリを取り出す。
照井さんか左さんに連絡は……できない。そんな時間がない。由比ヶ浜も葉山もさすがに連絡先は知らない。
ロストドライバーを腰に巻きつける。
――独りで戦うのか。……別にいつも通りだ。大丈夫。さっさと、こいつをここから追い出さないと。
先生やクラスの奴らが何が起こっているのか分からないだろう。ざわついている。
そんな教室に、
『ナスカ』
『ファング』
2つの電子音声が響く。
「はぁー………」
深呼吸をして、気を鎮める。焦るなよ、ファングに呑まれることになるぞ。
ファングメモリをロストドライバーのメモリスロットに差し込む。
そして、メモリスロットを倒す。
「……変身」
次回から戦闘です。分かりやすく描写できるよう頑張ります!