「ふっ!」
八幡がブレードで斬り、ナスカがそれを受け流す。と、同時に迫っているビーストの殴打を八幡は腕で受け止める。
「おらっ!」
ナスカと距離を取ると、すぐにビーストが声を荒げて攻撃してくる。
八幡はそれをひたすら避ける。
連続の攻撃が止んだ直後の隙を見つけてブレードでビーストの胸から腹にかけてを精一杯の力で斬りつける。
――――ザクッ!!
と、肉を抉る生々しい音がする。
「うっ……!」
あまりの威力に後退するビースト。斬られた部分には深い傷が刻まれる。
しかし、
「――そんなんじゃ、効かねぇなぁ」
直ぐ様ビーストの傷は煙をたてて再生する。まるで何事もなかったかのように。
ファングの力を受けてもなお、ビーストの余裕な姿を見て八幡は苛つく。
「……チッ」
「八幡!そいつにダメージ与えるなら、回復させる隙間なく攻撃するか、もっとデカイ一撃を叩き込め!」
『すまない、こちらも手を離せない』
Wである2人はナスカが呼び出したインベスや多数のマスカレイドと交戦している。
1対1なら問題ないWでも100体――これだけの数を鎮圧するのにはかなりの時間を有する。
「さあ………どうする」
戦況の悪さに苛つく八幡。
だが、苛ついては理性が削られるのは早まるだけ。冷静になり、自分の最善を探す。
――――先ずはナスカを。
八幡は厄介な能力を持つビーストを後回しにしてナスカに狙いを定める。ナスカがリーダー格という理由もある。
距離を詰めるために目にも止まらぬスピードで一気に跳び、ほぼ零距離まで近づく。
「ハッ!」
八幡が唸る。
八幡とナスカ両者は互いに持っているブレードで、目にも止まらぬスピードで斬りつけ合う。
――――………イケるか。
これだけ近かったらビーストがナスカを援護するのは難しいと判断する。
八幡の判断は正しく、ビーストは両者のスピードに付いていけずに手を出そうか迷っている。
「こっちもそろそろ加勢するぞ」
『もちろんだ、翔太朗』
少しインベスの数が減って楽になったWはルナ・トリガーにメモリチェンジする。
ルナ・トリガーの力で無数の弾丸を操り、マスカレイドたちを攻撃しながらナスカにも攻撃を当てる。
その攻撃をナスカは剣を使って防御する。
――――ガキィィィン!!!
が、その隙を八幡は見逃さずブレードでナスカの剣を弾く。
弾かれた剣は上空に舞う。
「うらっ!!」
そのままの勢いで腹に渾身のキックを繰り出す。
ナスカは防御しきれずに大きく吹っ飛ぶ。
八幡は追撃しようとしたが、ナスカに光の羽が生えてくる。ナスカはそれを用いて空高く飛ぶ。
――――俺では追い付けない。
そう判断するや否や、次に八幡の元に来る相手は分かる。
「今度は俺だ!!」
ビーストが八幡に突っ込んでくる。
「………っ!」
八幡は上空にいるナスカを意識しながらビーストを対処しようとする。
空にいるナスカはビーストを援護しようと直径20cmほどの光弾を10発以上を連続で上空から八幡とビーストにに向かって撃つ。
ぶっちゃけビーストもナスカの光弾に被弾しているのだが、持ち前の再生能力でお構い無しに再生するので好き放題に八幡に攻撃できる。
対する八幡はビーストの攻撃を捌きながらナスカの光弾を避けている。しかし、それも完全ではなく、所々攻撃は喰らっている。
「……くっそ」
「八幡!……フィリップ」
『分かってる』
Wがナスカの光弾をルナ・トリガーの弾丸で打ち消しているが、インベスやマスカレイドも迎撃しなくてはいけなく、ナスカに撃てるのは限度がある。
インベスの数は少しずつ減ってきているが、マスカレイドはインベスを盾にいているためまだ顕在だ。
「八幡、まだ耐えれるか?」
「多分大丈夫です」
『実に矛盾した言葉だ』
「八幡の援護をする前に、コイツらさっさと片付けるぞ」
『それならこれだ』
「おう」
トリガーメモリをメタルメモリにチェンジする。
神秘の黄色と鋼鉄の銀色の姿のルナ・メタルだ。
「おらっ!」
翔太朗の気合いの籠った声と共にメタルシャフトが鞭状に伸びる。かなりの勢いを誇る鋼鉄の鞭はインベス、マスカレイドを薙ぎ倒す。
みるみる数は減っていく。
Wがルナ・メタルに変わり、5分ほど経過する。
八幡はビーストに細かい斬撃を繰り出しているが、ビーストは致命傷を避けて上手に回復している。
ビーストもナスカの援護があっても、ビーストとナスカの攻撃に慣れてきたファングの速さに付いていけずに一撃を叩き込めない。
上空にいるナスカは戦況が圧されているのを確認すると、ビーストへの援護を中止する。
「………思った以上に比企谷八幡の自我の持続が長い」
いくらファングに耐えているといっても、ある程度したら暴走するだろうと考えていた。
しかし、ナスカの想像よりも八幡は意識を保っている。
――――ふむ、どうしたものか…………。
ナスカは飛びながら思考を巡らせる。
これ程の理性を持っているなら、財団の計画には使えそうだとは思う。
だが、これではいずれインベスもマスカレイドもいなくなり、ナスカとビーストではWもいることから比企谷八幡の回収ができない、と判断する。
――――戦力を増やしておけば………いや、比企谷小町にもっと対策をしておくべきだったか。
内心そんなことを考えながら、一か八かの手段に出ようとする。
――――無理矢理でも、比企谷八幡に暴走してもらえば状況は変わるか。
ここで、他に何かないかとナスカは調べてきた八幡の情報を思い出す。
今までぼっちだった八幡。それは過去の話。今の八幡には大事な人たちがいる。そのように報告書に書いてあった。
――――確かその人の名前は………『雪ノ下雪乃』と『由比ヶ浜結衣』だ。
これは使えると考え、校舎を見て、いるかどうか探してみる。
結果は――――
「………いた」
そこには資料と同じ2人の顔が ある。窓から八幡の様子を覗いているようだ。
ナスカは考えた。
――――いくら比企谷八幡でも、この2人を傷つけたらさすがに動揺するだろう。
………と。
殺さない程度で攻撃しようとする。
幸いにもWはマスカレイドたちに、八幡はナスカの援護がないことから、さっさとビーストを仕留めようとナスカには意識が向いてない。今のナスカはフリーな状態だ。
――――物は試しだ。
ナスカの周りに光弾が数発浮かぶ。
その光弾は雪ノ下と由比ヶ浜のいる教室に向かって発射されようとしていた。
「…………っ!」
それを最初に察知したのは八幡。
ビーストから距離を取り、心を落ち着かせようとしたところで、さっきから鬱陶しかったナスカからの攻撃がないことに気づいた。
どうしたものかと上を見上げると、校舎を見ているナスカが八幡の目に映る。
――――まさかっ!!
猛烈に嫌な予感がする。
そして、八幡は改めて今の状況を認識する。
そうだった。ここは学校だ。俺は生徒や教師全員をを人質にされているようなもの――――だということを。
加勢しにやってきたWの2人の安心感からかその意識は確実に薄れていた。ただ目の前の敵を倒せばいいのだと。
勘違いだった。八幡の勝利条件は財団Xを追い出し、学校の人たちの被害をゼロにすることだった。
さらに八幡は、ナスカの周りに光弾が浮かんでいるのを目視する。
――――ヤバい、止めないと!!
そう判断する。すぐに、ブゥゥゥン!!!と、空気が切り裂く音がするほど力強くブレードを投げる。
ダンッ!!と、地面を蹴る音がする。
その音を出した八幡はブレードを投げたのと同時にファングの機動力を活かした跳躍でナスカに向かって跳ぶ。
まず先に届いた攻撃は投げた八幡のブレード。ナスカの足に命中して、あまりの痛みにバランスを崩す。
その瞬間、八幡の拳がナスカの腹にめり込む。
しかし――――
「も、もう……遅いです」
ナスカは大きなダメージを負うが、ニヤリと不敵に笑う。
「なっ………!」
その学校を狙った光弾は八幡の願いを聞かずに無慈悲にも発射された。
――――ドゴオォォォン!!!
爆発が起こる。
それは教室が壊れる音だった。
八幡がナスカに攻撃をし、地面に落下している間に、ファングで強化された視力である光景を見た。………否、見てしまった。
ナスカの光弾が教室の窓や壁に当たり、崩れたその瓦礫の下に、血を流した――雪ノ下と由比ヶ浜がいる光景を。
「あっ………」
今まで出したことないような、喉から絞り出した、声にならない声を出す。
混乱し、動揺し、そのまま地面に着地できずに背中から落ちる。
落ちた瞬間、かなりの衝撃が八幡に伝わる。
それにも関わらず、まだ立ち上がろうともしない。ずっとピクリとも動かずに倒れている。
サイクロン・トリガーに変わり、迎撃しようとしたが、間に合わなかったWの2人、ビーストとナスカ――財団Xも倒れて動かない八幡の様子を観察している。
その間も八幡は動揺している。
――――俺のせいで雪ノ下と由比ヶ浜が?
――――俺がいたから傷ついた?
――――俺が……俺がッ…………!
あの2人を守りきれなかったという後悔の念に襲われる。
八幡は自分を責めて、冷静になれずにいる。
ファングを扱うためには冷静さを保たないとならない。だが、それを八幡は今できない状態にいる。
「あっ!………ガッ……ハァ……ハァ………」
呻く。のたうち回る。まるで獣みたいに。
今、八幡の理性は削られている。それはかなりの勢いで。
前に探偵事務所で言った八幡の言葉を借りるなら、波に呑まれている。
「うっ……!」
これは………八幡がファングを使ってる時の脳内のイメージの話だ。
八幡は暗い、暗い水中にいた。そこから流れる強い波の勢いに踏ん張って押されないようにギリギリ耐えていた。
しかし、雪ノ下と由比ヶ浜に怪我を負わせたことから動揺した。そのせいで、踏ん張れなくなった。
脚が縺れ、流される。手を伸ばしても何も掴めない。流され、行き着く場所は分からない。
――――八幡の意識はここで途切れる。
「フィリップ!これはっ!?」
『………間違いない』
マスカレイドやインベスを片付けたW。
「おい、ナスカ!これが?」
「えぇ。……私自身も初めてです」
地面に降りたナスカ近くにビーストが近づく。
この4人が見たのはさっきまでの八幡ではない。
そこにいるのは全身は白く。瞳はさっきまで紅かったが、暗い紫。より刺々しいフォルムで覆われた別の……何か。
4人は口を揃えて言う。
「『「「暴走」」』」
個人的にWは多対一が苦手なイメージ。だから、八幡の様子に気づくのが遅れたということで。
まあ……その、暴走に関してはお約束ってやつです。
アカン、三人称難しい。何か不明、疑問がある箇所があれば教えてください。