Fate/Giant killing   作:ニーガタの英霊

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聖杯戦争1日目/皇帝と男

 疾走する影と、それに対しただ構え続ける悪魔の王。戦いは第二段階目へと推移していた。

 

 数だけで数えれば二対二の同数。しかし、此方は若年の拳士一人に対し、相手は多彩な魔術を操る魔術師の英霊とその下僕たる悪魔の王。

 単純に考えてマスター一人に対して、相手は純粋な魔術の腕を以て暗殺教団のトップになった英雄。その魔術的素養は現代の魔術師の及ぶどころではない。それどころか悪魔の王(シャイターン)という召喚術における最高峰の高位悪魔の召喚と使役を行えることから、数の差は明白である。

 

 だが、八十八はそんな相手の優位に対して同等に戦いを進めている。その理由はただ一つにして明確なことであった。

 

「兄ちゃんええで! そや、オッサンが信じるマスターが『魔術程度に脅かされることはあらへん』!!」

 

 その言葉と共に、八十八に向けられる、呪詛や魔術の類が弾かれる。魔術というアドバンテージはハサンにとって優位に進めるための切り札足りえなくなっていた。

 

 それと同時に八十八も自分の体に起きている異変を感じ取っていた。

 すでに制限(リミッター)は解放状態であり、肉体にダメージがいってもおかしくない状態にもかかわらず、八十八は生まれて初めてといっていい解放感に包まれながら戦っていた。

 

 曰く、肉体のダメージが動くたびに回復していく。

 曰く、自身の肉体を侵食していった魔術の攻撃や影響による阻害を全く受けない。

 曰く、今までにないほどに身体の軽さを感じる。

 曰く、多少の痛み程度なら鈍化して、それによる隙はなくいつも通り、或いはそれ以上に戦える。

 

 そしてこういったことのすべてはエンペラーの声援ありきのことであった。

 

「『道を究めしその求道はまさに聖人!』『我がマスターが怪力無双の英雄でないはずがない!』『痛み程度で立ち止まるような軟弱を認めることなどあるだろうか!!』」

 

 その言葉と共に、まさに自分の体が作り替えられるような増強。薬や運動を行った後のビルドアップとは違った作用が、今、八十八の体には起こっていた。

 

「―――成る程・・・・・・」

 

 そしてその状況に対して真っ先に察したのは敵であるハサンであった。

 

「エンペラー・・・・・・つまりは皇帝か。嗚呼、そのスキルには覚えがある。ハァ―――言うなれば『皇帝特権の他者付与』か。成る程考えたものだ。味方が多ければ多いほどポテンシャルを発揮できるそのスキル。嗚呼、何と恐ろしい・・・・・・ハァ!」

 

 圧倒的不利、そんな押されている状況に際してもハサンは喜悦を浮かべる。

 

「感覚としては、『対魔力』『戦闘続行』『怪力』『聖人』による自己回復といったところか」

 

 アサシンはすぐさまスキルの構成を読み取る。それぞれのスキルとの組み合わせやそれ単体における能力は成る程、対キャスターにおけるスキルとしては非常に厄介。しかもランクにおいてもAランク相当の高位ランクを誇っていることは想像に難くない。ぶち抜けないという訳ではないが、その場合こちらもかなりの準備と労力を消費する以上、厄介この上なかった。

 

「ほう、中々鋭いやんけ、だとしたらなんや? その程度分かったところでどうにかできると思っとるんか?」

 

 そして何より、手がわかったといってもそう簡単に対処できないのがエンペラーの皇帝特権の特徴だ。手によって千変万化に変わる多彩なスキルはそれだけで武器になり得る。それこそ、戦況に応じてスキルの組み合わせをいかようにも変えられること。

 加え、己のマスターの武錬。それがそのままエンペラーと八十八の相性の良さを最大限に引き出すものであったことも大きい。

 八十八は何処まで行ってもただの人間である。卓越した武術の技と、天性の才覚を以っても英霊に敵うことなどほぼ不可能にも等しい。特に三騎士クラスともなれば、どう足掻いたとしても圧倒的なスペックの差がある。蟻が象に勝つことなど到底不可能な如く。

 しかし、エンペラーが居ればその懸念はある程度払しょくされる。本来であればサーヴァントが持つ多彩なスキルをマスターが扱えること、紛いなりにも戦うことに対しての基本を熟知していることがあれば、本来の英霊は兎も角、劣化したサーヴァント程度であれば数合は打ち合えることは想像に難くない。

 

「―――ほれ、見てみいや、うちのマスターをな」

 

 そうエンペラーが呟くと、そこには悪魔の王を圧倒する八十八の姿があった。

 神速の突きと距離という概念を無くす必殺の飛ぶ拳息。そして制限(リミッター)を解除することで身体能力を高めた状態だからできる、飛ぶ拳息の応用である三次元移動。

 是ぞまさに人間の修練の極みとそう豪語する八十八の拳術、その完成といってもいい。

 

 音速を超える突き、神速の歩法、研磨した技術に裏打ちされたフェイントと死角からの攻撃。それら虚実合わせた攻撃に悪魔の王は対処できない。

 

「―――なんだ、悪魔っていうのはもっと理不尽なものかと思えば、案外単純なんだな」

 

 八十八はそう思うのも無理はない。卓越した技術を持つ者でもなく、ある程度武術をかじれば誰でも思い当たる言葉でしかなかった。

 要は素直すぎる。持ちうるスペックを確かに思う存分に使っているものの、あまりに攻撃が単調だ。そこには技や技巧は感じられない。ただ振りまわすだけ。その様であるのに最強足れたのは、人よりも速く、強く、堅いから。そんな単純さ、ある種の稚拙さが、露呈した。

 

 お前の呪いはもはや効かない。そして、その全貌を見通したが故、既に倒せるだけの筋道は見えた。

 

「姿は人型、関節も何もかもそう変わらない。殴った感触から殺せないわけでもない。嗚呼―――なんだ、簡単なことじゃないか」

 

 そういうと、八十八は地面に着地し、そして待ちの体勢を取る。悲しいかな、それはシャイターンにとってただの隙にしか見えず、カウンターの構えであることなど理解の範疇にない。

 

 迫り来る、魔王の腕を、八十八は力に沿って、受け、そしてその巨体をそのまま背負い投げた。

 

 八十八を死の淵にまで追いやった魔王はすでに彼の獲物、ここに必勝の策はなった。

 八十八のやったことは簡単なこと、このようなこと八十八のような切り札を持たない曾祖父でも可能なことだ、要はほとんど力を使っていない。

 

 術の基本は如何に相手の力を利用するか、これにかかっている。

 力の方向性とどこに力がこもっているか、これがわかれば後は簡単なこと。

 

 八十八は自身の制服についていたベルトを素早く抜き放ち、関節の向きに合わせ、手と足を拘束、留め具をすればもう取れない、取ろうとするならば腕と足、両方の骨と肉が折れる。そういう結びだ。

 

「憤―――ッ!!」

 

 そのまま、背中を取った八十八は、魔王の内臓に向け、発勁を撃つ。いかに体の外が頑丈だとしても、内部はそうではない、例え固いとしても、発勁による衝撃は確実に相手に入り込む。そして八十八の予想通り、衝撃から逃げ切られなかったダメージは、魔王の内臓。心の臓を容易に破壊した。

 

「■■■■―――ッ!!?」

 

 シャイターンは呻く様に断末魔を叫ぶと、そのまま弛緩し、やがて魔力が拡散して消えていく。

 敵を倒したからといって、その身に油断などない、残心し型を整える。

 

「兄ちゃん、マジで強かったんやなぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 感嘆するエンペラーを向かず、八十八の注意は未だ別の所にあった。

 敵は未だ落ちず。ハサン・サッバーハは不遜に宙を漂うばかり。

 

「クククククッ、ハァ・・・・・・、嫌われてしまったな。俺はお前のことがこんなに好きだというのに・・・・・・」

 

 そうハサンは呟くが、この声色に悲しみの色はない、むしろこちらに対する期待が込められているほどであった。

 予想以上、そう断ずるほかない。だからこそ素晴らしい。想定の範囲内を軽々と超え、その身一つで悪魔の王を討伐せしめた。これは凡人に出来ることではない。

 

「ハァ、出来る事なら、存分に遊びたい。童心のように、何も考えずお前の煌めきというのを存分に鑑賞したい! ・・・・・・したいが、どうやらここまでだ」

 

 ハサンは悲し気にそう言うと、また新しい襤褸を纏った男たちが八十八の周囲を囲む。

 

「こちらもそちらと同じく主人(マスター)の意向というものがあってな。どうやら、嗚呼、まったくお冠のようだよ。ハァ・・・・・・」

 

「ほぉ、逃げる気満々見たいやけど、逃がすと思うとるんか?」

 

「追ってきても構わないさ、構わないが・・・・・・、その時はこちらの陣地で戦うことになるだろうさ。ハァ・・・・・・、その時は盛大に迎えることも吝かではないが。どうする? 来るかね?」

 

「そりゃかんべんしてくれや、これが見せ札なら、家に何抱えているかわかったもんじゃないわな」

 

 端整な顔を僅かにゆがませながら、エンペラーは飄々に拒否感を示す。

 キャスターの真髄は陣地戦による拠点防衛戦にあるといっていい。キャスターは聖杯戦争における最弱のサーヴァントと呼ばれる。確かに正面切って戦うにはあまりにも力不足。されど、搦め手や謀略、そして時間をかけて作り上げたその陣地はあらゆる状況に際してキャスターを優位にさせる。

 出来るならば、早々に仕留めたい。時間をかければかけるほど相手は戦力を増していく存在。このように襤褸を纏った男たちや悪魔の王といった存在が今度はこちらに不利な状況で襲い掛かるとしたら。それこそ単独での戦闘はあまりに危険といえる。まさに蜘蛛の巣にかかった獲物の如く絡み取られるだろう。

 

「と、いう訳だ。阿武木八十八。最後に盛大な花火を以って、さよならの宴としよう。また会えることを、俺は何より楽しみにしている。ハァ―――!」

 

 その言葉と共に、散乱する死体が、八十八に向かって投げ飛ばされる。

 八十八はその死体を弾こうとし、寸前で、回避行動を取った。

 

 瞬間、死体は四散し、爆風と共に八頭龍山に閃光が走った。

 それはまさしく人間爆弾。脳漿と肉片が散乱し、辺り一面を濃い鉄の匂いが覆う。閃光が晴れるとともに、ハサンは姿を眩ませ、残るは八十八と八十八が咄嗟に抱えたエンペラー。そして足止めとして残された襤褸の男たちであった。

 

「えぇ・・・・・・、なんやこれ。グロいわぁ、これにはオッサンもびっくり、オッサンの孫でもここまで残忍やなかったで・・・・・・」

 

「何、こちらが負ければあっちの仲間入りだ・・・・・・それでどうする? 寄らば撃つぞ?」

 

 独特な呼吸によって気を練り上げ、感覚を鋭くして襤褸の男たちの様子を見守る八十八。

 そもそも、八十八の武術は後の先を撃つカウンターが主流だ。飛ぶ拳息はあくまでその中で生み出された先制の小手先の技でしかない。それでも相手を一撃で仕留めうることが出来るのはひとえに八十八の鍛錬の成果であった。

 

 その言葉に気圧されたのか、或いはただの予定調和だったのか、牽制を果たした襤褸の男たちは一人、また一人と戦線から離脱する。あちらも戦力は有限。ならばここで徒に消耗するのは今後の戦略にも関わる。

 そうして、最後に取り残されたのは二人の人間。山に住む一般人であり、本来魔術とは関わり合いのない男、阿武木八十八。そしてその八十八の想いに寄せられ召喚されたサーヴァント、エンペラーであった。

 

「さて、残るはあんたのみだが、何か言いたいことはあるか?」

 

「オッサン、味方、弱い」

 

 片言で、単語三つを述べる。緊張を孕んだ空気に耐えきれず、エンペラーは深くため息を吐くと、頭を掻きながら、応える。

 

「冗談、冗談やで。オッサンはサーヴァント、クラスはエンペラー・・・・・・言うても分らんか。まあ兄ちゃんの敵じゃないな。信用してくれや」

 

「・・・・・・」

 

 その様子に毒気を抜かれたのか、或いは敵意を感じなかったからか。それとも紛いなりにも協力してくれた恩義か。様々な想いが胸中を渦巻き、八十八は構えをとって、エンペラーを受け入れる。

 

「阿武木八十八。それが俺の名前だ。歳は17歳、高校生やってる」

 

「ほぅ、学生さんかいな。兄ちゃん、実はすごい賢かったりするんかいな」

 

「ぼちぼちだな、悪くはないと言いたいが、俺よりよっぽど頭の良い奴なんて腐るほどいるさ」

 

 八十八はそう言って腰に手を当てて、エンペラーの問いに対して軽快に答える。もし戦闘になったとしても、この距離でならばすぐさま殺せる。見た目は人の形をしているが、目の前で感じる存在感というものが八十八の第六感が否と叫び続けているのも八十八が警戒を解きつつも間合いからエンペラーを出さない理由でもあった。

 

「でだ、エンペラー」

 

「オッサンでええで、愛称みたいなもんやし」

 

「じゃあオッサン、あんたを味方だと思っていいんだな」

 

 八十八は念を押すかのように問いかける。そこに少しだけ疑問というか、違和感を感じつつもエンペラーは八十八の懸念もある意味最もと思い、何ら気にしない風を装って答える。

 

「せやで」

 

「そうか、だったら協力してもらいたい。どうやら今日は千客万来といったところだ」

 

 そう言って八十八は下山道のその先、ライダーたちがいるところへと目を向けるのであった。

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