新市街の道すがら、メアリと八十八は新市街の大通りを歩いていた。
喫茶店といっても時刻は夜中であり、しかも揺れる馬車はメアリの拒否によって使わなかった為に新市街に入るまでの道のりはゆっくりとしたものであった。
夜となれば、既に人通りも少なくなり、空いている店もそう多くはない。そのため八十八は全国展開している有名チェーン店のファミレスを探しながら、メアリの話を聞いていた。
「へぇー、そうなの! やっぱり日本てすごいのね!」
切っ掛けは些細なものだった。地震が多いだとか、そこからの自然との折り合いや信仰などの曾祖父から教えてもらった民族説話などを語ること数分。もとからそういった話に興味があったのか、メアリは八十八の話にのめり込んだ。
「そもそも日本で八つの頭を持つ蛇と言えばヤマタノオロチだ。もとは山の神や水の神として祀られ、今もそういった信仰があって、土地名にもなった」
「確かに、此処って海も近いしね」
「もとは地震や噴火、津波、洪水なんてざらにあった土地だ。さっきの山だって今は休火山だが、昔は活火山として有名だったらしい」
「そういう自然と向き合う立地だと所謂シャーマンとか祈祷という自然に語りかける魔術体系が生まれやすいわ。因みにこれは魔術じゃなくて呪術と呼ばれるものね。アメリカインディアンのシャーマニズムやスラヴ系のウィッチクラフトがメジャーね!」
かみ合っているのかそうでないのか。まさしく会話のドッチボールを繰り返しながら八十八とメアリは会話を続けていた。
相手の話を都合のいいように解釈するメアリもそうであるが、そもそも対人経験に対して非常に欠落している八十八もそういうものなのかと素直に相手の言葉を鵜呑みにしていく。まさしく天然対天然の戦い。事は混沌に向かい、互いに異次元の方向に進んでいく。
「けどね、そういうのは往々にして絶えていくものよ。西洋古来の魔術基盤には敵わなかった証拠ね。ああ、別にこの国の魔術を馬鹿にしている訳じゃないわ。貴方にも自国の誇りというものがあるものね! 現にあの技は見事なものね、どうするのかしら?」
「ん? 『徹し』のことか? ありゃあ相手に向かって思いっきり打てばいいだけだ」
「トオシ?」
その発言に対してメアリは首をかしげる。
「
「へぇ・・・・・・私にもできるかしら」
「出来るんじゃないか? 齢百歳を超えた
そういうと、八十八は神速の突きを放ち、商店街のフラッグがパァンという甲高い音と共に大きく揺れる。
そんな技にメアリは目を見開いて驚く。
「すごい・・・・・・。本当に魔術を使ってない・・・・・・」
「『人間がんばりゃ、ここまでできる』そう言って俺を何度も昏倒させた技だ。ま、奥義って言ってもただの牽制技でしかないんだがな」
それは本当に人間なのだろうか・・・・・・。メアリは否定も肯定もせずにただ複雑そうにごまかしの笑みを浮かべる。
八十八からすればただそれだけのこと。確かに便利な技であるが、必殺の一撃なり得ないそれは牽制技としか言えない。こんなもの、達人と呼べる階梯の者であれば容易に避けることが出来るものでしかない。
利便性は評価するし、特に
「敵を殺すにゃ、拳一発当てればいい。殺し切れなかったらそいつぁ、俺の未熟だ」
一撃必殺。八十八の持つ武術はそれを思想の根本としている。
『二の打ち要らず、一つあれば事足りる』李氏八極拳にも通じる思想でもある。
「一撃で殺せなかったらどうなるの?」
当然のような疑問を、メアリは紡ぐ。そんな疑問に対して八十八は明瞭かつ淡々と語る。まるでそれが当たり前の摂理かのように。
「俺の未熟だな。死出の一番乗りだ、あの世で
破顔して、八十八は笑う。その心、精神をメアリは理解できない。
言葉に詰まり、何か言おうにも言えない中、ふと八十八はとあることに気づく。
「しかし、なんだ。今日は人通りがすくねぇな。コンビニに車や人もいやしねぇぞ」
「えっ・・・・・・」
その言葉にメアリは気を取られ、そしてコンマ一秒にも及ぶこと無いその刹那に、それは飛来した。
「―――『
『
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:5~50 最大補捉:9人
ヘラクレスより受け継いだヒュドラ殺しの武具。
追尾効果のある幻想種殺しの矢を、 同時に九本まで流星の如く発射する事が可能。
矢には魔獣ヒュドラの毒が塗ってある為、鏃に触れた者はその毒に侵される。
毒に侵された者は毎ターン開始時に残HPの1/10のダメージを受け、
さらにVITでの判定に失敗すると、対象は激痛のためにそのターンは行動が不可能になる。
目にも止まらない速射、神速を超えて飛来する矢は同じ方向から九つの弾頭となって八十八たちを狙う。
気づいたところでもう遅い、飛来する矢は回避不能。狙撃手すらその瞳に捉えること能わず。それぞれの矢は、各々しなり、曲がりながら着実に狙いを撃たんと迫り来る。
「―――憤ッ!!」
九つの弾道に対する反撃として、八十八は徹しを撃つも、彼の手は二つしかない。精密な動作で放たれた矢は、徹しの衝撃波によって、僅かに軌道を逸らし着弾を免れる。しかし、それでもたった二つだけ。残る七つの矢は狙いをメアリと八十八を狙って離さない。
蛇行にも似た矢の軌道を捉えるのは如何に達人とは言え難しい。徹しが当てられたのも比較的曲線を描かない矢であったからこそできた芸当。残る矢はメアリの頭部、腹部、脚部。八十八の頭部、鳩尾、股間、脚部を狙うがその矢が本当にそこに着弾するかはわからない。
「―――ぐああああァァァァ!!!?」
着弾する矢、大きく響く悲鳴が新市街で起こった。
「なっ―――!?」
驚いたのはメアリだ。それもそのはず、わけのわからないまま、見知らぬ二人の男が彼女らを守っているのだから。
「無事かッ! 兄ちゃんッ!!」
「ああ、怪我はないが、この二人は?」
「儂の部下じゃ、それでどうじゃ。話せるか?」
飛来する矢に対して八十八の次に対応できた老将は努めて冷静に、召喚した配下の兵士に声をかける。
「し、将軍ッ! こ、これは・・・・・・、毒で―――がぁぁぁぁあああああ!!!!」
毒が周り始めるとともにのたうち回る兵士たち。片方は運が良かったのか、突き刺さる四本の矢の一つが頭部に突き刺さり即死。残る兵士がこの様では、しゃべることすらままならない。
やがて兵士は顔中をかきむしり、痛みに耐えきれなかったのか、腰に差す剣を自らの首に突き刺して自死した。
「ひっ―――!?」
目の前で男が苦しみ死んだ光景はメアリの顔を引き攣らせ、怯えをみせる。だが、そんなことにいちいち気にする状況ではない。
「敵は恐らくアーチャーじゃろうな・・・・・・」
新市街は大小さまざまなビル群がそびえたつ格好の狙撃ポイントである。そうなればここは敵サーヴァントの庭にも等しい。
ライダーは頭を回転させ、一つの結論を指示した。
「ならば、ここで迎え撃つ。宝具の開帳を求む!!」
そう宣言したライダーはメアリを見つめる。メアリは未だに状況を飲み込めなかったが、ライダーのあまりの勢いに押され、首を振って肯定した。
「宝具の許可を得た。エンペラー、補佐を頼みたいが・・・・・・」
「かまへん、オッサンはあんたを友軍と認めるで」
「結構、ならば括目せよ。これぞ我が宝具! 我らが血縁! 儂の富貴長寿の果て也!!」
老将の叫びが周囲に響き渡る。
集束し、渦巻く魔力の流れがライダーの背後で荒れ狂い、その姿を見せる。
それは、ライダーの手に入れた栄光、権威、そして幸福。
彼ほど苦難に満ちながらも、栄光を手にした者は無く、そして彼のように栄光を手にしながら、破滅を得なかった英雄はおらず。あらゆる富と、あらゆる尊敬と、血族の繁栄を手に入れた英雄はいない。
「いざ開け、我が門前! 安ずるがいい、儂も屋敷の内部など把握してはおらん!! その中に居れば安全よッ!!」
そうまさしく、盛者必衰の理など、この英雄には何ら意味のないものであった。護国の武人、救国の英雄。彼こそが、中国史上の中でも最高の名将の一角に並ぶ英雄。
「―――『
『
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
晩年あまりに子孫が増えすぎたためにライダーも顔と名前を記憶出来なかった故事と、屋敷が広大過ぎて使用人ですら主の居場所を知らない者がいた故事に由来する宝具。
迷宮のように入り組んだ邸宅とそこから湧き出して来る兵士と家人の群れが出現し、ライダーが得意とした消耗戦に持ち込むことが出来る。
兵士たちは単独行動:Eのスキルを持ち、最大60ターンの行動が可能。
軍勢召喚能力でありながら燃費は驚くほど軽い。
新市街に突如現れる巨大な門。それは邸宅を囲う垣根の一部だけが新市街の中央に現れ、そこから伸ばされた手が、八十八とメアリを門の中に引っ張り上げた。
「ライダーッ!!」
それと同時並行に多くの武装する兵士たちがライダーを守るように現れ、一切の乱れなく、陣形を創り上げる。
「驚いたわ、いわゆる軍勢召喚宝具って奴やろ。大層なもんもっとるやんけ、ライダー」
そう言ってエンペラーは賞賛を行う。
ライダーの宝具は単純なようで複雑だ。何せ門の内部と外部で完全に空間が別となっている。固有結界の亜種かといえばそうではなく、単純な魔術とは言えない。異界化された内部空間である屋敷と自由に兵士を取り出すことが出来る外界。ライダーが担当する魔力は門の維持だけであり、外に出ている兵士は自前の単独行動スキルで動いているだけのことである。
故に、軍勢召喚能力といってもその消費は著しく軽い。
「儂は一騎当千の怪物でもなければ、魔術師でもない。―――ただの一介の武弁じゃ。軍を率いるしか能がないからのぅ」
ライダーの本質は統率者。軍勢を率いる将軍。故にこそ彼にとっての武器は、手足は、自身の率いる兵士他ならない。
「人海戦術は嫌いかのぅ?」
「いいや、むしろ大好きや! なんせ、これほどの兵士や。『皆、一騎当千の兵士でないはずがないやろ』!!」
その声と共に、響き渡る総軍の声。
しかし、その声に反してライダーは努めて冷静に状況を読む。
聖杯戦争。それは英霊同士の覇の競い合いではなく、魔術師の儀式である。故に第一と考えるのは『神秘の秘匿』である。ライダーからすればどうでもいいモノであるが、魔術師にとってはそうではない。
相手が狙撃を行ったことから、この周辺における人払いは済んでいると考えていい。だとすれば相手が狙撃ポイントとして選んだのは周辺住民がいると思われるビル群の中。闇夜に輝く摩天楼のどれかとなる。
「『名将たるもの、千里を見通す瞳を持たないはずがない』!!」
だが、それもエンペラーの補助でどうにかなる。
付与されたスキルは千里眼。摩天楼の隅の隅まで見通す瞳は、的確に狙撃ポイントと敵手を示す。
「これは、素晴らしいな・・・・・・」
ランクにしておよそAランク。そうなれば透視は愚か、未来視まで可能とする。
「皆、南西の『森』の字が書かれた塔、同位『竹中』と書かれたビル。さらに西『キタミ』とガラス窓の多い塔を当たれ。並びに、敵手アーチャーのいる『IRON』と書かれた塔を当たるべし。各員少人数で事を運び十人程度の班を以って当たるべし」
ライダーはそう厳命し、兵たちは霊体化して各自散開する。
「いけるんか?」
興味半分にエンペラーは問う。エンペラーはあくまで統治者。つまり軍勢を率いて戦う武人、将軍ではない。またそういったことを基本的に苦手とする質であった。エンペラーはそれを無理して行うのではなく、他者への信頼を以って国外、国内のおける不穏分子や敵を排除してきた。だからこそ、皇帝特権の他者付与などの宝具を得るになった。
今回も同じ、自分よりも軍術に詳しいものが居れば聞けばいい、一任すればいい。そういった発想であり、必ずやよき展望を聞けると思っての行動であった。
「無理じゃろうな」
「えっ・・・・・・?」
まさかの発言に対してエンペラーは面を食らうが、ライダーは淡々と説明する。
「放つとしても二、三発こちらが射手を捉えてる以上長居はすまい。特にマスターを隠されたこと、先の一手の狙撃で仕留められなかった以上、威力偵察程度の意味しかあるまい」
「ちょおま。待ちや、それって宝具見せる必要あったんかいな?」
「ある」
エンペラーの疑問にライダーは簡潔に答えた。
「そもそも、儂らは貴公らの戦闘を見て現れた。行動した者は少なくとも、その戦闘を見たものは多かろう。それこそ、現代の魔術師にとって使い魔での偵察は常套手段じゃ。先回りしてこちらの戦いを視ようとするものは多い。特にアーチャーの弓は毒矢を射出する。当たるだけでも儲けものじゃろうて・・・・・・」
「成る程、戦略的価値からすれば、これ以上の深追いは奴さんの不利益っちゅうわけやな」
ライダーはゆっくりと頷き、肯定する。
加え、敵は用意周到。そもそも単独ではなく、複数で行動している以上勝つつもりなど傍から無いだろう。だからといって反撃の牙が全くないとも考えない。見せ札として宝具を使って本気であちらを追い詰めるポーズをとることこそ効果的。そして何より相手の姿を捉えた以上、それは然りとして情報に乗る。
こればかりは予想外の収穫であった。同時にエンペラーの優位性と危険性を感じ、警戒レベルを上げるのを忘れない。
「直に探索等は終わる。敵の狙撃能力の一端も見えた。これからは各地の狙撃時点の割り出しも急務じゃろう・・・・・・」
そう言ってライダーはこれ以上語ることはないかのように沈黙する。
視界には幸運にも千里眼の透視能力で見えたビル群の陰に潜んでいた狙撃手の姿は見えた。視界の接続によってマスターもその姿を把握しただろう、ならば詳細なステータスの詳細もわかる筈と考え、ライダーは持ちうる情報から戦略を練るのだった。
【CLASS】アーチャー
【マスター】―――
【真名】―――
【性別】男性
【身長・体重】200cm・97kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力B 耐久A 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具?
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【固有スキル】
千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは未来視さえ可能とする。
―――以下、詳細不明―――
勘のいい人はサーヴァントの真名に気づいているのでしょうから、感想欄で自重する必要はないですよ。好きに推理してください。