Fate/Giant killing   作:ニーガタの英霊

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聖杯戦争1日目/かくも偉大な現代文明

「どうしてこうなった・・・・・・」

 

 先んず拠点に戻ったメアリはリビングにて頭を抱えていた。

 紆余曲折があり、自らの拠点に戻ったメアリ達であったが、現在彼らは混乱の極地にあった。

 

「美味い! 紅茶に砂糖入れると美味い!!」

 

 そう言いながら八十八は紅茶に角砂糖を盛大にぶち込む。その姿は今まで食べたことも無かった甘味に感動を覚える幼子のように目を輝かせ、紅茶をがぶがぶと飲み始めるなど普段とは違った側面を見せる。

 確かに紅茶に慣れてないなら砂糖を入れろと忠告したが、ここまでおかしくなるとはメアリは思わなかった。控えめに言って頭おかしい。

 

「だからって五個も六個も入れるなんて―――ってエンペラー!? 貴方なんでワインを薄めてるの!?」

 

「何って、ワインって水で薄めるもんとちゃうんか?」

 

「薄めるわけないでしょ!? 馬鹿じゃないの!?」

 

「そのまま飲んだら甘ったるすぎるわ! お前はオッサンの義理の息子かっちゅうねん!」

 

 そんな微笑ましさを感じさせる八十八とは違い、エンペラーはどこぞから引っ張り出したワインを開けるとそこに水道水をぶち込もうとする。酒を嗜むことはないメアリであってもそれは異常な行動であり、頭おかしいと断じても仕方はなかった。

 ちなみにエンペラーは水割りワインを飲むと、しっぶぅ!!? と言って噴き出していた。全く何がしたいかわからない。

 

「し、嗜好品たる茶に医薬品である砂糖を入れるとは・・・・・・、西戎は狂っておる・・・・・・!?」

 

「だったら飲むなっ!!」

 

 そして案の定、ライダーまでもが自国の文化とは違う状況に戸惑い目の前で行われている常識に対して批判を述べるほどである。

 どうしてこうなったと、メアリは数分前の自分を怒鳴りつけたい気分であった。

 

 

 

 

 

 時は数時間前に遡る。

 

「さあ、ここが私たちの拠点よ」

 

 新市街から歩くこと数分。新市街のビル群を抜けた同エリアの住宅街の中。そこに佇む一軒の平屋の住宅。そこがメアリの拠点であった。

 

「・・・・・・結構いいところに住んでるんだな」

 

 大きくもなく小さくもなく、手ごろな大きさである平屋の一軒家といえばそれはある種の夢である。八十八の場合、八頭龍山に土地を持っていた関係もあってそこに住んでいたが、父母の実家は確かマンションだったはずである。

 一般的なサラリーマンの家系に生まれた八十八にとってこういったそこそこ発達している都市の土地価格は安いものではないことぐらいは分かっているし、そんな家系に生まれた阿武木一家が手を出せるものではないことも理解しているために、メアリの家庭環境がとても裕福であることを察する。

 

「ふふふ、そうかしら?」

 

 ポツリとつぶやいた八十八の声にやや気をよくしながら、メアリはウキウキ気分で家に入る。

 なんだかんだ褒められることに慣れていないメアリだ。褒められた想い出といっても家族内でのことだけ、周囲に対する期待や賞賛はすべて姉に行っていたことを考えると、メアリは特に自己承認欲求という物に縛られているといってもいい。

 

「ま、まあそんなことはいいわ! ほら、早く入りなさい。特別に私がもてなしてあげるわ! ゲストをもてなすのもホストの役目ってものだからね!」

 

「おう、期待してるわ」

 

 メアリは胸を張って自慢げにすると、八十八はそのまま頷く。

 そういった期待という物を背負ったメアリは何ともこそばゆいというかなんとも言えない暖かな気持ちで作業に移る。

 

 そもそもの発端は先ほどの襲撃のせいである。本来であれば近場のファミレスで作戦会議と行きたかったものの、そうは問屋が卸さない。アーチャーの襲撃があった以上、周囲は危険。安全に話し合いができることを考え、メアリは八十八たちを拠点に招待した。

 

 メアリによって通されたのはリビングルーム。部屋は新しく間借りしたために整理整頓されており、積み上げられた段ボールの山もまた特徴の一つといえるだろう。

 キッチンは真新しいIHクッキングヒーターであり、魔術師としては珍しく割かし新しい冷蔵庫や大型テレビが置かれている。メアリはケトルに電源を入れてお湯を沸かし、その間に茶菓子やティーカップを用意する。

 

「面白い建築様式やんけ、なんかあらへんかな?」

 

 そう言ったのはエンペラーであり、ちょっとした冒険心に取りつかれたのか、冷蔵庫や棚を手当たり次第に開きまくる。 

 

「ちょ、貴方一体何を・・・・・・!」

 

「お、葡萄酒あるやんけ。もーらい!」

 

「話を聞きなさいっ!!」

 

「なぁ、これなんだ。ガスコンロじゃねぇのか? それもう湧いてるっぽいけど早くねぇか?」

 

 メアリの叱責などなんのその。エンペラーは自由に動き回る。そんな様子に触発されたのか、八十八も見慣れない近代様式のキッチンや家電に興味を示す。

 

「嘘でしょ!? 日本男児は家電を知らないっていうの!?」

 

 むしろ魔術師の癖に家電を使いこなす方が珍しいというのはこのメアリには通じないのだろう。英国におけるそれなりの表会社を運営しているセルウィン家では裏よりも主で関係の仕事に比重が置かれている。それゆえに現代知識で後れを取るということがあってはならないためにこういった文明の利器は一通り使いこなしていた。

 

「山じゃ豆電球とコンロとストーブありゃいける」

 

「貴方文明に取り残されてるわよっ! 明治じゃないんだから!」

 

「お、おう」

 

 メアリの剣幕に圧される八十八。この世界に降り立ったお雇い外国人の気持ちが痛いほどわかるメアリであり、同時にこりゃ見下されてもしょうがない人種ね、私がどうにかしなきゃ。と思うのだった。

 

 そんな風に喧々錚々の言い争いを続けながらもメアリは手を止めることなく数分の時間をかけて紅茶を淹れる。エンペラーの為にワイングラスを用意したりと言った作業も同時並行で進め、客人である八十八たちやライダーをソファーに座らせることも忘れない。

 

「さあ、私が淹れた紅茶よ、心して飲みなさい―――」

 

 話し合いが始まる前から苦労しっぱなしの状況。これで落ち着くかと言えばそんなことはなく、話は冒頭のそれに戻るのであった―――。

 

 

 

 

 

「まったく、ひどい目にあったわ」

 

「貴方は自業自得じゃないエンペラー」

 

「まあ、そうカリカリするでない」

 

「誰のせいでっ―――!」

 

 怒りを滲ませながらもなんとか堪えるメアリ。ここで怒ってもいいことはない。そう思い、落ち着くために紅茶を一口飲むと、なぜか妙に甘ったるかった。

 

「・・・・・・誰かしら、私の紅茶に砂糖入れた馬鹿は?」

 

「ん? 駄目だったのか、こっちの方が美味いだろ!!」

 

「馬鹿にしやがって、そんなに砂糖が好きなら口に詰めとけっ!!」

 

 半ば嫌味で言った言葉だった。ここに来ての様子があまりにも馬鹿みたいだったから言っただけ。メアリは言った後に流石に大人げなかったかと思えば、八十八は逆にキラキラとした目をしてこちらを見る。

 

「えっ! こんな美味いものそのまま食ってもいいのか!?」

 

「待って、オッサンにも一個くれへん」

 

「待て、砂糖とは黒かもしくは茶色なのではないのかのぅ、儂にも見せてはもらえんか?」

 

「素直かっ・・・・・・!!」

 

 なんでお前らはそんな中世的価値観なんだよ。そしてどうして皆して砂糖をそのまま貪り食ってるんだよ・・・・・・。

 メアリは再度頭を抱える。口に角砂糖を入れながら至福そうな顔をするもんだから、怒るにも怒れない。そんな砂糖程度で幸せになれる人間なんてメアリは今まで知らなかったからだ。

 

「もうっ、こんなんじゃ話が進まないじゃないっ!!」

 

「え、今から交渉するんかい? オッサンもう寝たいんやけど」

 

「サーヴァントが寝てどうするのよっ!」

 

 素っ頓狂なことをいうエンペラーに対してメアリは痛烈に批判する。

 サーヴァントの肉体を構成しているのは高い密度のエーテル体であり、要は魔力である。そんな状態であるためにサーヴァントは肉体にかかる負荷からある程度解き放たれた状態にある。それは人間として基本的な食事や睡眠といった行動を取らずとも生存が可能と言ったものであり、こと人間兵器としては優れた面である。

 

「なにゆうとんねん。いかにオッサンがサーヴァントやゆうたって、人間らしく生きとらねば、精神的な疲れとかとれんやろ。なんでオッサンのプライベートすら指図されなあかんねん」

 

「さ、サーヴァントが主に歯向かうっていうのっ!?」

 

「オッサンのマスターはこの兄ちゃんや。姉ちゃんのサーヴァントやあらへん」

 

 生意気な口をきくエンペラーに対してメアリは怒気を強めるものの、エンペラーは何のそのといった雰囲気でメアリを歯牙にもかけない。その様子にメアリの怒りはさらに膨れ上がる。

 しかし、そんなメアリの状態に冷や水をかけるかのようにライダーは口を開いた。

 

「正論じゃな。そなたもこれ以上突っかかるほどのことでも無いじゃろう。それにこれはそなたの為でもある」

 

「ライダーっ!」

 

「そなたもそして阿武木八十八も限界じゃ。気を張ってどうにかしているが今日一日で無理しすぎじゃ」

 

 そういうライダーの言葉にメアリは思い当たる節があるのか、顔を顰めるだけで反論はしない。

 

 今日一日でライダーの召喚、移動行動に宝具の発動。目の前で命の危機にも晒され、魔力、肉体、そして精神的にも疲労がたまっている。

 

「儂らも今日中に交渉をまとめるよりか、じっくりと腰を据えて話し合いたい。交渉も体力を使うでな、そなたには一足先に休んでもらいたいと思っておる」

 

「でも・・・・・・」

 

「話し合いもある程度こちらでまとめておこう。エンペラーとは長い話となるでな、儂としてもそなたの体調が第一じゃ」

 

「・・・・・・」

 

「頼む、この老骨に免じて頷いてはくれんか?」

 

 ライダーの真剣な物言いにメアリは息を呑む。そしてゆっくりと肺にため込んだ空気を吐き出して大きなため息を吐くと首肯した。

 

「しょうがないわね、ええ。本当にしょうがない。これは貸しよ」

 

「呵々、委細承知した」

 

「じゃあエンペラーのマスター・・・・・・確かヤソハチって言ったわね」

 

「おう、如何した?」

 

 ぼりぼりと角砂糖を口に含む八十八を見て、メアリはコイツ糖尿病になりそうだなと思いながらもてきぱきと要件を告げる。

 

「寝室に案内するわ。時間も時間だし、今日はこっちに泊まっておきなさい。なにせ今回の聖杯戦争はちょっとばかしセオリーとは違うわ。いずれ敵対するといっても今は共闘相手、少しぐらい馴れ合っても誰も文句は言わないわ」

 

 そういったメアリに対し八十八は頭を掻くと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「そうか、一つ屋根の下男女がいるっていうのはあまりいいこととは言えんが、お言葉には甘えさせてもらうか」

 

 そう言って、八十八とメアリはリビングを後にしていった。残ったのは二騎のサーヴァント、二人がいなくなったのを見計らい、エンペラーは口を開く。

 

「・・・・・・じゃあ、交渉に移らせてもらおうかい。アンタもそれでええやろ」

 

「然り、礼儀に関しては文句はないが、こと交渉に関しては儂のマスターは正直すぎる。美点ではあるが、こういった後ろ暗いことにはむかんじゃろうて」

 

 あの娘は、あまりに優しすぎる。

 それがライダーが感じたメアリという少女に対する評価であった。魔術師という特異な家庭で育ちながらもその芯は真っ当すぎるほど真っすぐだ。多少捻くれているものの、本来の性格は男勝りでお転婆なガキ大将気質なのだろう。

 自己評価よりも他人の評価を気にしすぎるきらいはあっても、自分に自信を持つことは責任感の強さに繋がる。八十八やこの時代における文化に無知な自分らの対応から見ても世話焼きや部分もある。それも過ぎれば傲慢になるが、自分がいれば問題はない。少なくともライダーはそう思っている。

 

「うちの兄ちゃんもそうやな、最も弁えているだけオッサンにとってはありがたいことや」

 

「嗚呼、違いない。こちらは後で機嫌を取らなければなるまい。それは兎も角、話をはじめようか。儂と貴公、恐らく目的は同じだ」

 

 そう言ってライダーは茶を傾けてのどの渇きを潤し、エンペラーも優雅にワインを揺らしながら目を細めた。

 

「ここまでのことだ。信用云々は不要じゃろう、答えを聞く。

―――同盟の話、受けてくれるだろう」

 

 老将から滲ませる覇気を感じさせながら、エンペラー愉快そうに笑みを浮かべるのだった。

 

「その前に、一つだけ言っておきたいことがあるんや、別にこれに対しては否と言ってもその後の交渉にケチはつかん。けれど、一言だけ聞きたい」

 

 一呼吸置いたその瞬間、空気が変わる。今までの陽気な姿とは一変し、エンペラーの瞳は氷のように鋭く、そしてライダーは息を呑む。

 この雰囲気をライダーは知っている。しかし、それはライダーが生前感じた以上の威圧感を持つソレであった。

 

 エンペラーの双眸はライダーを正眼に捉えて離さない。その先の言葉はエンペラーにとっての最大の賛辞であり、そして正当な評価より基づいた言葉。

 

「オッサンの―――余の配下となってほしい。余の右席はすでに埋まっているが、左席は用意しよう。どうか頷いてはくれないだろうか?」

 

 そう言ってエンペラーは目の前のサーヴァントを勧誘したのだった。

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