不眠転生 オールナイト   作:ビット

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どシリアスです。


雄英高校襲撃事件︰真 2

「不死!!!」

 

声を上げるのが一瞬遅れた。

 

吹き飛ばされ、黒い霧に呑み込まれて消えていく一人の生徒と黒いヴィラン。あの霧からヴィランが現れた事も考えると、恐らく座標移動か瞬間移動といった類の個性だろう。

 

先程黒いヴィランの片割れが抉ったコンクリートを見ると同時に舌打ちした。凄まじい破壊力だ。いくら優秀とはいっても、生徒には荷が重過ぎる。

 

「13号避難開始!学校に連絡試せ!とはいえ電波系の個性を持つヴィランが妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

連絡の指示を飛ばすも、正直期待はしていなかった。数十体を超えるヴィラン共を用意してるんだ。綿密な計画を練っていない筈がない。これだけいれば個性もかなり幅広く用意出来ている事だろう。

 

ゴーグルを装着し、臨戦態勢を整える。個性の発動と同時に、髪が逆立ち、肩に掛けた捕縛武器がふわりと浮いた。

 

「先生は!?一人で戦うんですか!?イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ、正面戦闘は……」

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

心配そうに声を掛けてくる緑谷にそう言って飛び出した。あれだけの数、正直勝算は薄いがやるしかない。

 

最大の不安要素は、主犯と見られる手まみれの男と、先程不死を吹き飛ばしたヴィランとよく似た黒いヴィラン。そしてワープゲート男。それ以外の殆どのヴィランは個性を持て余したチンピラだ。有象無象と考えていい。

 

だが雑兵といえど数が数である。俺の個性の特性上、長期戦に持ち込まれると詰む。仕掛けるなら短期決戦だ。

 

一気に階段を飛び降りると、射撃型と思われるヴィランが一斉にアクションを起こす。目を開きそいつらを視界に捉え、捕縛武器を使って拘束し、床やヴィラン同士で叩き付けた。

 

俺の個性でも消せない異形型のヴィランが襲い掛かってくるが、顔面を殴り、捕縛武器を使って円を書くように振り回す。

 

「オオオオオ!?!?」

 

ヴィランの叫び声を無視し、遠心力を利用して適当な場所へ吹き飛ばす。周りのヴィラン数人を一掃する事が出来た。

 

「嫌だなプロヒーロー。有象無象じゃ歯が立たない」

 

手まみれ男がぶつぶつと何かを言っているが無視する。分析のつもりか攻めてはこないが、その間に雑兵を減らせるならそれで構わない。

 

長時間目を開いていたため目が乾く。敵の隙を見極め瞬きをしたつもりだったが、瞬きの間にワープゲートのヴィランが生徒達の方へ一瞬で移動した。

 

しまった。一番厄介そうなやつを……!

 

「初めまして雄英高校の皆さん。我々はヴィラン連合」

 

ワープゲートのヴィランが何やら挨拶を始めた。その隙にと生徒達の方へ駆け出そうとするが、他のヴィラン達に行く手を遮られる。

 

「せんえつながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは――――――

 

 

 

――――――平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」

こちらまで聞こえてくるその声に一瞬体が硬直した。なるほどな。先週の襲撃事件の騒ぎが収まるまでは動かないと思っていたが、逆だったか。

 

目的がオールマイトの殺害だから。そしてそれによる社会の混乱だから、“世間が最も注目しているこの時期に行動した”のか!!

 

それに伴うリスクは承知の筈だ。オールマイトとプロヒーロー数人をまとめて相手出来る程の隠し玉が存在する可能性が高い。

 

絶望的だが勝機はある。どれだけ強力な個性持ちがいようが、俺の個性で消してしまえばいい。

 

奴らに割れたカリキュラムでは、俺は元々この授業に参加する事になっていなかった。俺の存在は奴らにとっては予想外の筈。

 

ともかく、正面を塞ぐヴィラン達を投げ飛ばし、生徒達の方へと急ぐ。まずは彼らの安全確保に徹しなければ。

 

「ダメだ!どきなさい二人とも!」

 

13号の叫び声に反応し上を見ると、ワープゲートを広げたヴィランが、次々と生徒達を呑み込もうとする寸前だった。駄目だ、間に合わない!

 

黒い霧が霧散した後に残ったのは、13号と数人の生徒のみ。分断された、更に分断された先にも、ヴィランを配置している可能性がある。

 

数十体どころじゃない、明らかに100を超えている。一体どうやってこれだけの人間を扇動してきたんだ。思わず歯ぎしりをし、手だらけの男を睨んだ。

 

「怖いなぁ、プロヒーロー……」

 

顔に装着された指の隙間から見える目が、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

目で追えない程のスピードで拳が迫る。横に身を投げ出して何とかかわし、がむしゃらに地面を転がって距離を取った。

 

服に草がまとわりつくが、払っている余裕はない。立ち上がると同時に再度迫ってくる拳を、エネルギーを纏った腕で防御し、咄嗟に背後に向かって飛んだ。

 

刹那、脳無の拳から強烈な衝撃波が発生し、吹き飛ばされる。直接喰らった訳でもないのに十数メートルも宙を舞い、木の幹に叩きつけられた。内臓がやられたらしい。口から盛大に血を吹く。

 

一歩踏み込む脳無。そして再び放たれる衝撃波。反応すら出来ずにまともに受ける。体の後ろにあった木がへし折れ、俺は木と共に再び吹き飛ばされた。

 

ダメージが大き過ぎる。不味い。必死になって左手で右肩の後ろにあるボタンを押し、毒死した。

 

蘇生と同時に白炎が吹き荒れ傷が癒えるが、白炎をかいくぐり、急接近してきた脳無の拳がすぐ目の前に現れた。

 

首から上が“なくなる”。再び白炎が吹き荒れ、蘇生した俺は前方に炎を放ち、全力で距離を取った。

 

敵の動きに対応出来ていない。速すぎる。硬すぎる。重すぎる。直接当たれば即死なんてどんな無理ゲーだ。

 

余剰エネルギー90パーセント。左手で銃の形を作り、十数メートル離れた所にいる脳無へと向ける。

 

全力全開。入試の無茶苦茶ロボットを貫通した俺の必殺技。

 

指先にエネルギーを一点集中させ、一気に解放した。余波で地面が抉れ、射線上の木々が吹き飛ぶ。

 

「RUSH」

 

呟くと同時に、毒薬を使って即死する。先程と同じ様に指先にエネルギーを集中し、解放。これを更に三回繰り返した。

 

90パーセント一発に、100パーセント四発。少しはダメージが入っているといいのだが、どうにも嫌な予感がする。

 

案の定と言うべきか、脳無は無傷で棒立ちをし、こちらをじぃっと見つめていた。

 

ふざけてる。緑谷のデトロイト・スマッシュと同程度の威力、つまりはオールマイトの100パーセント並のパワーだぞ。

 

ここまで出鱈目な性能は絶対におかしい。こんなのが現段階で作れているなら、原作でも投入されている筈だ。

 

そもそも脳無は簡単に量産出来る存在じゃない。奴を作るには個性の素体が必要不可欠だ。こんな強力な個性を持つ人間を複数発見・誘拐するなんて、短期間では絶対に出来やしない。

 

突進してくる脳無にエネルギーを放つが、黒い巨体は腕を振るい衝撃波を発生させ、エネルギーを相殺する。

 

成程あれで攻撃を防いでるのか。つくづく出鱈目だ。拳を振り回すだけでこちらの攻撃を完全に無効化してくるなんて。

 

回避は不可能。退避も不可能。っていうかこんな奴生徒や先生のいる場所に連れて行っていい筈がない。間違いなく死人が出る。

 

脳無の攻撃を甘んじて受ける。右と左の2連撃。多分腿から上が消えた。

 

瞬時に蘇生。超至近距離から炎を放つが、横に飛んで避けられる。反応速度もとんでもないなコイツ。

 

絶望的だが勝ち目が全くない状況ではない。この脳無が腕から発する衝撃波で俺の攻撃を防いでいるなら、懐に入り込んでゼロ距離でエネルギーを打ち込む。殺害してしまう危険性があるが、一点集中の弾丸ではなく、奴のすぐそばでエネルギーを炸裂させて吹き飛ばす形にすれば大丈夫だろう。

 

目的はあくまで戦闘不能にする事。だって、俺はヒーローの卵だから。

 

左手の人差し指にエネルギーを全集中させる。先程放った分を差し引いても、残りのエネルギーは95パーセント。十分だ。

 

全身から立ち上るエネルギーが、不規則な軌道を描きながら左手へと奔る。

 

その挙動に脳無が反応した。少しだけ前に体を倒したかと思えば、爆音と地面を抉ったクレーターだけを残し俺の視界から消えた。

 

次に脳無が現れたのは俺の左側。右腕を振りかぶる直前の体制だ。しかし待ち構えていた俺は瞬時にそれに反応し、右足を思いっきり脳無の方へと踏み出した。距離が縮まり、そのまま左手をがら空きの胴へと向ける。

 

発射。白い炎は、確かに解放された。

 

しかし、黒には届かない。

 

「なん……だと……!?」

 

エネルギーを放った瞬間、脳無は振り上げていた右腕ではなく、体の後の陰に隠していた左腕をアッパーの

要領で打ち上げた。

 

左腕の肘から先が引きちぎられ、衝撃波で上空に飛ぶと同時に、凄まじい痛みが断面図に走った。

 

不味い……っ!エネルギーを全て消費してしまった。痛覚の遮断に回せるエネルギーが残っていない!

 

左手のエネルギーは遥か上空で暴発した。白い渦が何処か遠くへと打ち出され、その反動で左腕は何処かへと消える。

 

左腕もない。エネルギーもない。無力化された俺に脳無の拳が迫るが、逆にこれを利用し再生を試みる。

 

しかし、黒く太い腕は衝撃波を発さない。驚愕に顔を染める余裕もなく、俺は胴体に凄まじい衝撃を受けながら転がった。

 

またも吐血する。痛い。痛い。死んでいない。

 

学習された。殺す事が無駄だと気付かれていた。蘇生が当たり前になっていたが故、脳無を知性のない廃人と侮っていたが故に。

 

うつ伏せになって倒れていると、後頭部を踏みつけられ鼻の骨が折れた。更に脳が揺れる。脳無は俺の頭を踏みつけたまま、腕や足を小枝の様に折っていく。

 

絶叫した。地面に広がる自らの血で溺れそうになるが、そんな事に構ってはいられなかった。痛い。痛い。痛い。激痛だけが思考を支配する。

 

不眠の個性のせいで気絶する事すら出来ない。まさに生き地獄だった。

 

視界にノイズが奔る。頭の中が熱い。まるで脳脊髄液が沸騰でもしているかの様。揺れる脳髄がバチバチと音を立ててショートしてしまいそうだ。

 

荒れる。荒れる。視界が、記憶が荒れる。思考が揺れる。

 

倒れ伏した俺を見下ろす様に立つ脳無の足を、折れた腕で触れた。もうろくに物を考える事すら出来ない。

 

「おれは……おれは……」

 

意味の無い呟きが口からもれた。

 

脳裏に映し出されるヒーローの姿。暗い部屋で、産まれたままの姿で、息を潜めながらテレビの中のヒーローを見つめている。

 

痛かった。そうだ、痛かった。あの時も、あの時はずっと。

 

あの暗い部屋だけがおれの場所だった?そう、だった。

 

アイツらが寝静まった時だけが、“ぼく”が生きていられる時間だった。

 

お腹が空いていた。その時は寒かった。それでも生きていられたのはきっと。

 

ぼくを苦しめるアイツらに、四角い画面に映し出されるヒーローに、どうしようもない憎悪と期待を覚えていたからなのだろう。

 

だがしかし、そんなくそったれた世界を燃やし尽くした、羨望と憤怒とが混じりあった赤い炎を、ぼくは忘れない。

 

『子供……俺は――――――なんて――――――れ――――――と』

 

炎が何かを言っている。後悔と恐れの混じった二つの光がぼくを照らしていた。

 

ぼくの世界を創っていたのは、とびきりの悪意と、虚栄に塗れた正義だけ。

 

そんな世界を燃やし尽くしてくれたのが、“あのヒーロー”だったんだ。

 

時はまだ続く。夜は未だ明けぬ。

 

されど魂は燃ゆる。世界を創っていた悪への怒りを薪に。悪に囚われたにぼくを救ってくれなかったあのヒーローへの期待を薪に。世界を燃やしたあの炎は、確かにぼくの心へと燃え移った。

 

「おれは……ぼくは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーローになりたい……」

 

全ての悪を燃やし尽くす為に。ぼくの世界を再創した(ヒーロー)になる為に。

 

それは、“とある幼い少年”の夢だった。

 

ぼくは思いっきり舌を噛んだ。世界が暗転し“俺”へと変貌する。

 

“俺”の透き通った頭の中に浮かぶ憧憬は平和の象徴。

 

燃ゆる魂の薪に、夢がくべられる音がした。

 

 

 




夢は狂気を孕む。
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