この物語のターニングポイントです。勘違い要素は次回まで待って下さい(震え声)
うつ伏せに倒れた状態のまま右手を上げ、エネルギーを放出した。奇襲は衝撃波で防がれる事になったが、俺はエネルギーの反動で後方へと飛び、体制を整える。
暗い夢を見ていた気がする。懐かしい誰かに、夢の中で出会えたかの様な、何処か浮ついた感覚。
眠れない、夢も見る事が出来ない俺がそんな感覚を覚えるなんて。そんな事を考えると自嘲気味に笑い、無感情な瞳でこちらを見ている脳無を見つめ返した。
爆音が鳴り響く。土と草が抉れ吹き飛び、クレーターと土煙だけがその場に残った。
右腕を青い空に掲げる。後ろに脳無の気配を察知。
手のひらで白い炎が炸裂した。横薙ぎの右ストレートを、個性の反動を利用し、体勢を思いっきり下げる事で回避する。
頭の上スレスレを通っていく黒い巨拳。
個性の反動で下がった右腕を構え、横に広げた左腕の手のひらでエネルギーを炸裂させた。体を中心に回転。
個性の反動を利用した超速のアクション。その挙動の速度は、脳無の知覚の遥か上を行く。
それは紛れもなく成長だった。本来なら為す術もなく殺される様な“格上”との戦いと、今まで対応する事の出来なかった超スピードと相対したが故の、速さへの慣れ。
握りしめた拳にエネルギーを全集中。白い炎は形を変貌させ、白い稲妻がバチバチと音を立てた。右腕は唸りをあげながら空気を裂き、脳無の黒い腹へと吸い込まれていく。
これは悪意を打ち砕く拳。俺が憧憬を追いかけ続けた所以。
吼えろ。
「SMASH!!!!!」
咆哮が空気を打った。
衝撃に周りの木々が軋み、俺の腕が砕け散る。頑強な黒い皮膚を衝撃が貫通し、脳無を吹き飛ばす。
倒れ伏した脳無は動かない。近くで確認してみると、呼吸のために胸が上下に動いている事が分かる。どうやら殺してしまってはいない様だ。
壊れた右腕を数秒見つめた後、襟のスイッチを押し、刃に俺の首を半ばから切断させる。考えるのは後だ。一瞬だけ意識が遠くなる感覚と共に、白い炎が噴出し蘇生した。
時間を掛けすぎた。一刻も早く先生達と合流しよう。イレギュラーが、この脳無だけとは限らない。
どうやら何処かの森へと飛ばされた様だ。こんなに性能の良い脳無を、生徒一人を殺すためだけに使うのは惜しい。俺を殺した後、黒霧の個性を使って本隊と合流させる為、恐らく敵は此方の情報を知る事が出来る筈。
場所が分からないんじゃ走って行くのは無理かぁ。アレを使うしか無いようだ。
エネルギーを全放出。体を白い炎が覆った。
あんまりこれ使いたくないんだけどなぁ、酔うし。
炎が炸裂し消滅する。一瞬だけ白い光で照らされた森には、動きを止めた黒いヴィランだけが残されていた。
目を開くと、最初に視界に映ったのは、白い炎を掻き分け接近する巨大な黒い拳だった。
嘘だろ。そう呟く暇すらない。先程迄相手をしていた脳無の衝撃波以上のパワーを持つ拳は、いとも容易く俺の頭を吹き飛ばす。そして瞬時に蘇生。
こちらをギョロりとした目玉で見つめてくる脳無から距離を取ろうと後ろへ飛ぼうとした瞬間、何か強い力に首の根っこを掴まれ後ろへと引っ張られた。
「不死少年!?無事だったか!」
上を見上げるとオールマイトの顔がある。どうやら脳無と彼との戦闘に割り込んでしまったようだ。オールマイトは猫の様に掴み上げた俺を、そのまま隣へと下ろしてくれた。
不死身の個性による蘇生は白い炎によって隠されていた様だ。バレてはいないらしい。
俺の地面に足が着いてすぐに、好機と見たのであろう脳無がオールマイトへと突進してくる。咄嗟にエネルギーを放つと、怪物は異様な軌道を描きながら回避した。
どうやったらあの体制から横に跳べるのか甚だ疑問である。挙動がキモイなとげっそりしていると、脳無は再び襲いかかって来た。
俺の方向に。
確かこの原作脳無は“ショック吸収”の個性を持っていた筈だ。物理攻撃主体のオールマイトより、エネルギーを使って攻撃してくる俺の方が危険だと判断したのだろうか。
白炎を放つが、簡単に避けられる。一瞬とはいえ回避行動に移ったというのに、脳無は全くスピードを落とすことなく突進してくる。
格上も格上だ。正面戦闘じゃ100回死んだって倒せない。
だが――――――今、俺の隣には、最強のヒーローがいる。
「SMASH!!!」
その声が聞こえたのと同時に、一瞬で脳無の懐に入り込んだオールマイトの拳が、黒い肌を打つ。
しかしショック吸収の個性を持つ脳無と彼との相性は最悪の一言に尽きる。ならばと、脳無の横へと回り込んだ俺がエネルギーを放つが、とんでもない威力の裏拳で相殺される。ふざけた身体能力だ。
「ガキィィ……!何なんだお前は……!あの脳無を無傷で倒したのか……!?」
プロヒーロー数人だろうと相手出来る代物だぞ、と死柄木が呻く。少し離れた場所で首をガリガリと掻いている彼にまぁな、とだけ返しておいた。まぁ実際は数回殺されたのだが、それを態々言うつもりも無い。
「不死少年!君は下がって――――――っ!」
再びこちらへと距離を詰めてくる脳無。狙いは俺だ。完全に“こちら(脳無)への有効な攻撃手段を持つ雑魚”として認識されてしまったらしい。
厄介な認識である。ただの雑魚として認識されるなら、脳無は俺に執着せずに、脅威度が図抜けて高いオールマイトを狙うだろう。なまじショック吸収の個性に対して有効打が存在するだけに、俺を狙い続ける。
そして死柄木の殺意もこちらに向いているらしい。さっきから殺せだの死ねだのと騒ぎ散らしていた。
余程俺が気に入らないらしい。
「何なんだお前は……!何がしたいんだ……!?」
何がしたいとは何だ。お前達を倒したいに決まってる。最強のヒーローになりたいに決まってる。平和な世界を望んでる。
だから。
「オールフォーワンを超える。そして俺が頂点に立つ」
悪の栄えたためし無し。強大な悪は絶やさねばならぬ。数世紀を生き悪の世界を支配する奴は、いずれ必ず倒さねばならない敵だった。
奴を討つのはきっとオールマイトだろう。だがしかし、実力という意味で、俺はかの魔王を超えねばならない。それ位出来ずして何が最強のヒーローか。
眼前の悪意を睨み付ける。俺にとって、彼等はどうしようもなく憎かった。
「不死少年!君は……!」
そう声を掛けてくるオールマイトに向かって脳無が駆け出して来た。オールマイトは怪物の右ストレートを、頭を低くして潜り抜け、カウンターで顔面を打つ。
しかし脳無はその理性の無い目でオールマイトを睨み付け、次の攻撃を放とうと再度右腕を振り上げた。
攻撃の瞬間を狙い、エネルギーを放射する。黒い巨体の体表に傷を付け、その勢いで数メートル後退させる。
すぐに癒える傷。超速再生の個性か。やはり意識を刈り取るしか、殺害以外で奴を止める方法はない。
再び襲い掛かってくる脅威を前にしても、俺は恐怖を抱かなかった。
「今だけは――――――共闘させて下さい!オールマイト!!!」
笑いながらそう啖呵を切り、首のスイッチを押す。作動した装置が俺の首を半ばまで切断し、蘇生する。
未だ道の途中。NO.1ヒーローの横で戦うには、余りにも不相応。しかし俺は嬉しかったんだ。憧憬の隣で戦える事が。
いずれ貴方のヒーロー生命は終わるだろう。俺がヒーローとして社会に出る頃には、きっと貴方は引退してしまっている。
だからせめて今だけは。未熟者なりに全力を尽くそう。
狙いはオールマイトに余力を持たせつつの脳無撃破。そしてその後、死柄木と黒霧の拘束。
爆音を上げながら突進してくる脳無の直線上から体を逸らし、右腕にエネルギーを集中させた。
コンクリートを容易に砕く巨拳を、オールマイトが受け止める。側面から炎を放ち、脳無の足を吹き飛ばした。
瞬時に再生が始まるが、それでも一瞬はバランスを崩す。オールマイトは脳無の背中に向かいラッシュを浴びせた。流石の怪物といえど、コンクリートに叩きつけられる。
地面に入ったひびが広がり、脳無の前半身がコンクリートに埋まる。起き上がろうと上体を起こそうとした瞬間に、俺は個性を利用して飛び上がり、上空から踊りかかる。
「オールマイト!」
声を上げると、俺の狙いを察知したオールマイトが数歩下がった。上空で進行方向別通行区分とは逆の方向、即ち空へ向かって両手で個性を炸裂させ、足に白炎を纏わせたまま墜落していく。
上半身を起こした脳無の胸に、俺の飛び蹴りが突き刺さる。インパクトの瞬間に個性を炸裂させ、追撃と同時に反動を利用してオールマイトの隣に着地する。
敵意は未だ消えず。砂煙の中から現れた脳無に、俺とオールマイトが強襲した。
俺の顔面を目掛けて飛んできた拳を、オールマイトが横から殴りつけた。体制を低くし両者の腕を潜り抜け、脳無の懐に入り込み、その黒い胸に左手を添える。次の行動のため、右腕は地面に向けて。
白い炎を炸裂させた。胸を焦がしながら、脳無が上体を反らす。地面に向けた右腕から炎を発射。脳無を飛び越えて敵の背後を取る。
残りエネルギー30パーセント。しかし問題無い。脳無の背中に向けて炎を放った。脳無は先程の個性の炸裂でバランスを崩していた事もあり、簡単に、勢いよく上体が押し上げられる。
脳無を行動不能にするのには遠く及ばない。だがそれで構わなかった。
本命は俺じゃない。
「DETROIT――――――」
彼の放つ覇気に、味方でありながら気圧される。圧倒的強者、NO.1ヒーローが放つ覇気に相応しい。
押し上げられた脳無の胸に、またもオールマイトの拳が突き刺さった。しかしその威力は先程とは比べ物にならない。
「SMASH!!!」
完璧な状態で放たれた平和の象徴の全力。俺のエネルギーのダメージと反動がその拳の威力に加算され、怪物のショック吸収の個性の上限を突破し、その巨体を遥か彼方へと吹き飛ばした。
悠然と黒霧と死柄木に向き直る。
この場における最凶の怪物は今、英雄によって打倒された。さぁ、次はお前達の番だ。
「嘘だろ……俺の脳無が……このクソ共がぁ……!」
圧倒的優位に立っている。オールマイトはまだ戦闘を続ける事が可能。原作では脳無との殴り合いで消耗していたが、俺の介入により彼はまだ余力を残していた。
最優先は黒霧。逃げ道を塞ごう。そう考えエネルギーチャージの為に肩のスイッチを押し自殺。巻き上がる白炎の隙間から死柄木と黒霧を見据える。
不意に死柄木と目が合った。途端、身体中が槍に突き刺された。そんな感覚が俺を襲う。
それは紛れもなく恐怖であり、また畏怖でもあった。
「クソが……死ね……」
警戒度を跳ね上げる。隣のオールマイトも表情を険しくしファイティングポーズを取った。
「死ね」
異様な覇気が場を支配する。発生源は死柄木弔。首を両腕の爪でガリガリと引っ掻き、凄まじい形相でこちらを睨み付けている。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――――――
――――――殺す」
鳥肌が立つ。身体に微弱な電流が走るような感覚。ほんの1ミリだけ身体が浮くような感覚。
囁く様な殺害予告と同時に、黒い濁流が俺とオールマイトを襲った。
「避けなさい!!!」
俺とオールマイトは瞬時にその場を離脱し、階段の上へと飛び移る。濁流の正体は炎であった。
コンクリートの上でパチパチと音を立てて燃えている炎を見て、それがただの炎では無いと確信する。
馬鹿な。まさかオールフォーワンから個性を授かっていたのか?しかし何故だろう、自らのその問いに対し、俺は確信を持ってそれが否だと答えられた。
魂が燃えている。誰かが薪をくべている。
魂を燃やす炎の勢いが、大きく増した。
それは、◼◼である◼◼◼◼に対する、◼◼からのカウンター。
◼◼に選ばれたのは彼だったねと、何処からか幼い少年の笑い声が聞こえてきた。
俺は――――――間違いなく、その幼い声を知っている。
此処に役者は集う。ついに
“彼”が犯した罪を、未だ彼は知らない。
“彼”が与えられた役目を、未だ彼は知らない。
“彼”は自らの在り方さえ未だ知らなかった。
“彼”の意思や夢等意味が無く、“彼”の配役は此処で決定付けられる。
◼◼に選ばれたのは、果たしてどちらか。未だその答えを、“彼”は知らない。
だが再度◼◼は告げよう。
不死透也は悪である。