不眠転生 オールナイト   作:ビット

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個性把握テスト︰始まり

「個性把握……テストォ!?」

 

入学式とガイダンスを無視し、あまりにも急に告げられたその言葉にクラスメイト達は驚きの声を上げていた。

 

雄英高校は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り、と呟いた相澤先生が、説明を始める。種目は八種類、中学生の頃からやってきた体力テストと同じ種目だ。ただ中学と違うのは、自由に個性を使用する事が出来るという事。

 

相澤先生の指示により、爆豪が例としてハンドボール投げを行った。彼は自身の個性である爆破を上手く使用し、球威に爆風を乗せる事で705メートルという信じられない記録を打ち出した。

 

楽しそうだと騒ぎ出すクラスメイトの中で、俺はこのテストにおいてどの様に個性を運用するかを考える。いくつかは身体強化で十分だろうが、先程の爆豪の様に大きく派手な記録を狙うには難しい。どうせやるなら1位を目指したいというものだ。その為には、ずば抜けた記録は必要不可欠。

 

相澤先生の最下位除籍宣言に更にクラスメイトが騒ぎ出すが、所謂前世の知識としてその事を知っていた俺は思考に没頭しながら聞き流した。身体強化だけで平均以上の順位は取れるだろう。何も心配する事はない。

 

デモンストレーションが終了し、いよいよ個性把握テストの開始だ。大記録を狙えるのは恐らくソフトボール投げと50メートル走、立ち幅跳びの三つ。睡眠薬のがぶ飲みで朝から死んでエネルギーは充分だ。

 

全力で乗り越えて、行こう。目指すは1位、脱ボッチだ。自分から話しかける事が出来ないコミュ障だが、1位を獲得出来ればきっと話しかけて貰える。

 

これからの明るい高校生活を想像し、俺は思わずにやけてしまった。我ながら気持ちが悪いし恥ずかしいのですぐに引っ込めたのだが。

 

 

 

 

 

 

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「3秒04!」

 

「はえーなあの眼鏡。確か飯田だっけ?」

 

「脹脛にエンジンが付いてるのか。機動力のテストならアイツがトップかもな。切島、お前はどう思うよ」

少し長い黒髪の生徒、瀬呂範太(せろ はんた)と話していた、金髪に黒い稲妻形のメッシュが入っているチャラそうな上鳴電気(かみなり でんき)が話かけてきた。先程話してから仲良くなった奴らで、このテストが始まってからは3人で他のクラスメイトの個性の観察をしていた。

 

「まぁ皆走った訳じゃねぇから分かんねぇけど、確かに平坦な道での機動力ならずば抜けてるよな」

 

3秒て!と話を続ける。他にも数名の奴らが個性を使用して好記録を出していたが、飯田程の記録を出す奴はいなかった。あと残ってるのは爆豪と緑谷、そして不死。

 

不死を見て、ふと今日の朝の事を思い出す。相澤先生の気配を誰よりも早く察知し、教室を鎮めていた。

 

入試から気になっていたけど、やはり只者ではないらしい。雄英高校に講師として務める相澤先生は、間違いなく現役のプロヒーローだ。そんな彼の気配をこともなげに察知するとは。

 

先程生徒達が浮かれ騒いでいた時も、アイツはあくまでも冷静に思考に徹していた。恐らくあの時から、既に策を練っていたんだ。このテストでトップを取るために。

 

相澤先生の最下位除籍宣言にもアイツは動じず、それどころか笑っていた。まるで理不尽を楽しむかのように、笑っていたんだ。すぐに真剣な表情に戻っていたが、俺は見逃さなかった。やっぱり不死はすげぇ。

 

だけど、俺だって負けられない。今回のテストでは俺の“硬化”じゃ大記録を打ち出すのは難しいが、それでも身体能力には自信がある。精一杯に食らいついて、そしていつか追い抜いてやる。

 

「何やってんだアイツ?」

 

「変な体勢だよな」

上鳴と瀬呂の声で思考を打ち切り、顔を上げた。俯いてしまう程思考に没頭していたみたいだ。どうやら爆豪と緑谷は走り終わったらしい。

 

スタートラインに立っていた不死は、半身を前に向ける様にして、後ろに左手を突き出していた。右手も少しだけ前に突き出されている。確かに、走り出す姿勢にしてはどう考えてもおかしい。あれでは足が絡まってしまいそうだ。

 

その時、突き出された左手に白い炎がまとわりついた。不死の腕を中心に、渦を巻くように燃えている。

 

ふと入試の時の光景を思い出し、慌てて距離を取った。個性を観察する為とはいえ、近くに寄り過ぎていた。トラックと俺達の距離は5メートル程しかない。

 

「切島?」

 

「ん?どうした?」

 

「お前らも来い!」

 

疑問の声をあげる瀬呂と上鳴の腕を掴んで走る。目の端では相澤先生がクラスメイト達に距離を取るように指示していた。

 

不死の野郎こんなとこでアレをぶっ放す気か?!

 

巨大ギミックを一撃で破壊した程の威力だ。反動も計り知れなかった。硬化がなければぶっ飛んでいただろう。20メートル程距離を取って再度不死の方を見る。渦巻く炎はその苛烈さを増していて、不死が少しだけ体勢を低くした。

 

あの時同様、音はなかった。放たれた炎は一瞬の爆発の後、すぐに拡散して消える。反動を利用し、不死は一瞬で50メートルを駆け抜けた。いや、飛んだ。青山や爆豪も似たような事をしていたが、規模が比べ物にならない。

 

「……マジかよ」

 

上鳴が呆けた様な声を出し、呆然と不死を見つめている。巻き起こった風によって前髪が浮いていた。瀬呂も口を大きく開けて無言で不死を見つめていた。

 

「……二秒00」

 

相澤先生の言葉に思わず声を失う。二秒台。50メートル走は文句無しのトップだ。

 

とんでもない奴が居る。入試でその片鱗を目撃した俺以外のクラスメイトも、そう認識しただろう。

 

不死はあの規模で個性を使用するなら事前に言うように、と、相澤先生から少しばかり指導を受けていた。その言葉に頷いた不死は、次の握力測定の為に生徒達の列の一番後ろに並んでいた。

 

 

 

 

 

 

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クラスメイトの皆が距離を取ったのを確認し、左手に纏った炎を爆発させる。反動で身体が浮き上がり、浮遊感を感じる。着地の瞬間に身体強化を行い、慎重に地面に降りた。

 

「67メートル」

 

よし、立ち幅跳びもトップの成績だ。握力は身体強化で好記録を出せたし、クラス上位はキープ出来ている。

50メートル走では必要以上に張り切ってしまい、相澤先生からお叱りを受けたが過ぎてしまった事は仕方が無い。落ち込んでなんかいない。

 

ふと周りを見ると、既にいくつかのグループが出来上がっていた。一人でいるのは俺と、緑がかったくせっ毛黒髪の生徒、緑谷出久(みどりや いずく)位だ。

 

緑谷は今回の立ち幅跳びでも個性を使用せず、平凡な記録を出していた。それもそうだ。彼の個性は強力過ぎる力。上手く制御出来ない今では、反動で自身の身体を破壊してしまう。

 

とは言っても彼は所謂主人公だ。No.1ヒーローの弟子にして、オールマイトの力である、ワン・フォー・オールの継承者。

 

この世界の先(未来)を知っている俺としては、特に思う事はない。彼なら確実に乗り越えていくだろう。オールマイトを超える事を目標とする俺とはライバル同士という事になる。

 

その後の種目も身体強化を使用して順調に好記録を出していった。残る種目はハンドボール投げと持久走、長座体前屈と上体起こしだ。

 

俺の前に並んでいた緑谷が、深刻そうな顔でグラウンドに石灰で描かれたサークルの中に立つ。この後は確か、緑谷は粉砕覚悟個性を使おうとして、相澤先生に止められるという流れの筈だ。

 

案の条、緑谷は相澤先生に個性を“消され”、指導を受けていた。お前の力ではヒーローになれない、とまで言われ、俯いて意気消沈してしまっている様にも見えたが、こっそりと顔を見るとその横顔は決意に満ちた物だった。

 

しかし視るだけで個性を消す個性かぁ……不眠消せないかなぁ、とも思ったが、彼の個性で消せるのは彼が視ている間だけ、つまり瞬きすると個性は使用可能になる。彼はドライアイでもあるし、安眠は無理そうだ。

 

そんな思考を打ち切り、OFA(ワン・フォー・オール)の反動を警戒して5メートル程後ろに下がる。ふと横を見ると、相澤先生が立っていた。どうやらたまたま俺が後退した場所の近くにいた様だ。

 

緑谷が振りかぶった瞬間、前世で漫画で見たシーンがフラッシュバックした。肌が泡立ち、ニヤリと笑う。

 

緑谷はOFAの力を人差し指の指先のみに集中させる事で、動けなくなってしまう程の重症を防いだ。指先だけとはいえ、流石は身体強化能力でいえば間違いなくトップであるオールマイトの個性だ。ボールは物凄い勢いで飛んでいき、記録は705メートル。小数点第1まで求めれば、彼を馬鹿にする爆豪よりも0・1メートル勝っている。

 

骨折により指が腫れ上がっているが、このままあと3種のテストも受けるつもりだ。

「先生……!まだ……動けます」

 

「こいつ……!」

 

驚愕する相澤先生に向かって、痛みで涙目になりながらも挑発的な笑みを浮かべる緑谷。そんな緑谷に可能性を感じたのか、相澤先生は口角を吊り上げる。

 

カッコイイなぁ緑谷……!思わず腕を抱えてヨタヨタと歩く緑谷に駆け寄り、肩を叩いた。急な事に緑谷は驚いた様な顔でこちらを振り返る。

 

「カッコ良かったぜ」

 

「え……あ……ありがとう」

 

俺にしては頑張った方じゃないか!思わず声を掛けてしまったが、これを機に仲良くなりたいものだ。彼は少しネガティブだが、優しいし友人思いの性格だ。出来れば友達になりたい。

 

そういえば、こっそりと緑谷の様子を見るためにオールマイトが来ていた筈だ。ふと校舎の辺りを見渡すと、体育館の陰からオールマイトが半身だけを出してこちらを覗いていた。軽く会釈だけしておく。

「不死、次お前だ」

 

相澤先生にそう言われ、少し駆け足で俺もサークルに入った。負けてはいられない。麗日の∞メートルを超える事は出来ないだろうが、それならそれで2位を目指すだけだ。

 

先生に派手な規模で個性を使用する事を言うと、うんざりしたような顔でクラスの皆に距離を取らせた。

 

両足を開き、ボールを持った右腕にエネルギーを纏わせる。全身を捻るように使い、ボールを放す直前、余ったエネルギーの殆ど全てを放出した。白い炎の様なエネルギーを纏ったボールは勢い良く飛んでいく。

 

持久走と上体起こし用の身体強化分のエネルギーは残したが、残りは総量の1割程だ。少々ギリギリになったが仕方ない。入試で巨大ギミックを破壊した時よりは少ないが、それでもかなりのエネルギーを消費した。

 

「710メートル」

 

何とか2位。しかしこれだけエネルギーを消費してギリギリ何て、爆豪と緑谷の個性の威力はやはり凄い。緑谷に至っては指1本だ。

 

その後の種目では、長座体前屈がパッとしなかったが、持久走と上体起こしは中々の成績だったので、大丈夫だと思いたい。

 

さぁ、後は結果発表だけだ。間違いなく上位には食い込んでいると思うが。

 

 

 

 

 

 

 

結果は2位だった。1位は八百万だ。

 

悔しかったが、この恨みは来年まで取っておこう。もっと個性を活かしきれる様になれば、間違いなく勝てる。

 

最下位は緑谷だったが、相澤先生の除籍宣言は嘘だったらしい。まぁ俺は知っていたのだが。

 

教室に戻る為に歩いていると、オールマイトが立っていた。相澤先生と話した後らしく、マッスルモードである。

 

オールマイトは何か考え事をしている様だった。緑谷の事だろうか、彼が少し羨ましい。

 

何も言わないのも変かと思い、軽く頭を下げながら挨拶をする。憧れの人がすぐ近くにいるという喜びで、ニヤついてしまう。

 

冷水機で水を飲むために一旦曲がり、体育館の裏の方へ行く。少し遠回りになるがいいだろう。

 

今日は自分の課題も発見出来た有意義な一日だった。オールマイトにも会えたし。

 

さぁ、明日も気合いを入れて頑張ろう。本格的な授業は明日からだ。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

こちらに向かって軽く会釈をしてきた不死少年。私はそれを見て確信した。彼はワン・フォー・オールについて間違いなく何か知っている。そうでもなければ、緑谷少年に声をかけた後、どうしてすぐに私を見つけた?まるで私が居る事が分かっていたかの様に。

 

緑谷少年と私の師弟関係は校長先生とリカバリーガール以外知りえない。彼の担任である相澤君でもだ。それ程までに重大な秘密。

 

緑谷少年に声を掛けた後に私を見つけたのがたまたまだという可能性もあるが、あまりにも不自然過ぎる。

 

“気付いているぞ”という挑発ではないのか。少なくとも彼は私と緑谷少年に何か繋がりがある事に気付いている。

 

そもそもOFAの事をどうやって知り得た?一般所か闇の世界にも出回っていない情報だ。

 

個性把握テストが終了し、相澤君と少し話をした。内容は主に緑谷少年と不死少年の話。不死少年について何か違和感は無かったかと問えば、あまり生徒に肩入れするのは教師としてどうなんですかね、と言い去っていった。

 

彼の違和感に誰も気付いていない。いや、彼が違和感を与えていないんだ。与えているのは、私にだけ。

 

雄英高校の講師である、現役プロヒーローをも欺く徹底した印象操作に、何か目的がありながらも、それを決して悟らせない情報操作。着実に外堀を埋め、自身の思惑通りに状況を操ろうとする手口。

 

過去相対した最凶のヴィラン、オール・フォー・ワンが脳裏を過ぎり、嫌な汗をかく。

 

ふと耳に入った足音。足音の発生源は私の真横だった。目を向けると思わず息を飲み、身体を硬直させる。

 

 

────不死少年が、そこにいた。何も言わず、少しだけ俯きながら私の真横を歩いて行く。陰の差す顔には、初めて彼と接触した時と同じ様な笑みを浮かべていた。

 

一瞬の硬直の後に振り返ると、既にそこに彼の姿は無かった。

一年前のあの時と同じ状況。思えば彼と出会ってからだ。緑谷少年を後継者だと決めたのは。

 

それは間違いなく新しい世代の “始まり”だった。あの時と同じ状況、つまりまた、何かが始まるとでも言いたいのか。

 

「負けないさ……私は」

 

拳を握りしめ、誰に言うでもなく、確かな決意を胸に一人呟いた。誰がこようと、私は負けない。平和の象徴で在り続けなければならない。

 

不死透也。君の目的は知らないが、もし君が社会に、生徒達に手を出すというのなら。私は容赦はしないぞ。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

雄英高校ヴィラン襲撃事件まで、あと数日。

 

 

 

 

 

 

 


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