俺の名は土御門春虎。俺には前世と呼ばれる記憶がある。
しかも、その前世の記憶がなんとあの有名な土御門夜光の物だった。
彼の偉大な大陰陽師の記憶は、俺が本家に置いてある呪術の書物に興味を持った時から少しずつ思い出し初めた。
初めはマジで困惑した。最初は5歳のときだったかな?
急に変な呪文みたいな声が聞こえて来てさ。
だんだんと思い出してきて今では完全に思い出したと言っていい。
そして、初めのうちは何ともなかったけど、思い出していくうちに何故だか涙が止まらなくなった。
次にはスゲー悲しくなったし、辛くもあった。そして、最後に何故あの大陰陽師が死んだのか。
分かってしまった。彼は、生前一人で戦っていたのだ。
いや、一人というのにはさすがに語弊があるか。
いつもそばにいてくれていた式神たちをはじめ、多くの人たちもいた。
確かに何も伝えていない者がほとんどではあったが、とても楽しかった。そして、俺は最後に呪術を失敗し、亡くなった。
・・・・・いや、俺はあいつらに呪術戦で負けたんだ。
「ホホゥ、これはまた」
割り箸の先で麺をつかんだまま、土御門春虎はテレビを見ていた。春虎は箸先を店の奥のテレビに向け、
「見ろよ、冬児。あのデカい木、斬り倒した。すごくね!」
向かいに座る阿刀冬児にそう言い放った。話しかけられた冬児は、肩越しにテレビを振り返る。
「陰陽師のキャリアはだいたいあんなこと出来んだろ。つか、お前もあれ出来んだろ」
「あれはなかなか大変」
(否定はしねーのな)「まあ、こっちには関係のないことだろ、霊災なんて」
「それはどうだろ」
「あ?なんかあんのか?」
「ズズズ」と音を立てながら春虎は汁を飲み干していた。
(聞いてねー)
春虎の方を向いて、冬児が不機嫌そうに眉を寄せた。
店の外に出ると日差しが痛かった。
「暑い」
「まあ、今は夏だがこれはさすがに暑いな」
二人はすぐさま木陰に移動。それから何となく、並んで歩き始めた。
「さて・・・・・これからどうすっかな?」
「帰る」
「いや、さっき出てきたばっかだろ」
冬児としては、この引きこもりを外に食事と称して連れ出すということを現在進行形で決行していた。
「帰って、呪術の勉強」
(こいつ、またか)
この土御門春虎という少年は基本的に学ぶということが好きだ。学校でやっているテストや全国模試では1位をとるぐらいに頭が良い。こいつの頭なら東京の名門校に首席で入れる。
下手をすれば、海外留学で飛び級までできるかもしれない頭を持っている。なのにこいつは、地元の普通の学校に進学した。そして、さらには呪術なんてオカルトじみたものにまで手を伸ばしている。
「なあ、春虎」
「んぁ、」
「なんで、お前東京に行かなかったんだ?そんだけ勉強してんのに」
「別に学ぶことなんてほとんどこっちでも変わんねえだろ」
「俺が言ってんのは陰陽術についてだ。東京の方にはそれ専門の学校があんだろ」
「あぁ、それか。・・・・・別にいってもなぁ」
(何度聞いてもまた、言葉をにごす。こいつの真意が分からない)
何故、冬児が何度も聞いているのかというと春虎の家に何回か行ったことがあるからだ。そして冬児は驚愕した。いや、恐怖や畏怖と言っていい。
春虎の部屋には呪術に関わると思われる書物などが山のように積まれていた。しかも部屋だけではない。それが家全体にまで及ぼうとしているぐらいにいたるところに置いてあった。もう、異常としか言いようがないくらいの量だ。確かにこいつの家は
「む、今失礼なことを考えていたな」
それに感も鋭い。
「気にするな」
「むむ、それはどういう意味で?」
「その通りだからだ」
「おいコラ」
そう春虎がつぶやいたとき、狙ったかのようなタイミングで春虎の携帯が鳴った。おっ、と言いながら春虎がポケットから携帯を取り出す。しかし、ディスプレイを見たと思うとすぐさまポケットに戻した。
「・・・・・北斗か?」
「・・・・・北斗だ」
<・・・・・・・・・・・・・>
暫しの静寂が流れた後、二人はふと後ろを見てしまった。どうやら、詰んでいたようだ。二人の後ろには魔物がすでに降臨していた。
「どうして出ない、春虎?」
明るい色をしたボブカットの髪の少女がそこにいた。
「いや~、忙しかったもんで」
「ホゥ、こんなところにいて忙しかったと?」
「今、移動中だったんだ」
「その移動中に電話に出るというくらいの時間は?」
「・・・・・ありました。ごめんなさい」
今回はすぐに折れた。だが、今回は春虎だけではなかったようだ。
「それで、冬児。冬児は何をしてた?」
「・・・・・ただ、見てました。・・・・・ごめんなさい」
「よろしい、・・・・・・よし、春虎。説教だ」
「あれ、おれだけ!!」
もう何度目だろうか、北斗に怒られるのは・・・・・
「それで、珍しく春虎は家から出ているけど何してたの?」
「飯を食っていた」
「おや、珍しい。まあ、いいや。春虎」
「んぁ」
「カキ氷食べたい」
「それが狙いか」
それから、10分後。公園のベンチで3人でカキ氷を食べていた。
3人で食べている中、冬児が話題を振ってきた。
「・・・で、北斗。お前、また春虎に陰陽師になれって言いに来たのか?」
すると、カキ氷をバカ食いしていた北斗が春虎に話しかけた。
「春虎、どうして陰陽師を目指さないの?」
「・・・・・」
「どうして答えないの?春虎」
「・・・・・忙しい」
「こんな田舎で何をやるっていうの?暇でしょ」
その会話を聞いていた冬児がつぶやいた。
「まあ、あれだけ呪術の本みたいなのを読んでたらな、そりぁ、忙しいだろ」
「・・・・・え!?」
「おぃ、冬児!!」
「・・・・・どういうこと、春虎」
「・・・・・・お前には関係ない」
「どうして、前はあんなに熱心に・・・・・あ」
どうやら、思わず出てしまったようだ。まあ、春虎は北斗の正体を知っているから別に関係ないが。
当の本人はバツが悪そうに急にソワソワし出したかと思うと、急に立ち上がり「じゃ」と言い残し颯爽と離れて行った。
「全く、お前は何がしたいんだか分からん」
「なんだよ、急に」
「そろそろ答えてやったらどうだ?春虎」
「・・・・・あいつを巻き込みたくない」
「一人で何かを抱え込みやがって。・・・・・まあ、良い。帰るか」
「いいのか?」
「今から遊ぶのもな」
「そうか」
二人は帰路に着いた。
そして、二人が帰路についている途中で陸橋を渡っているときに偶然出会った。
大きく見開かれた凛とした、綺麗な瞳。少女は、胸元にレースをあしらっただけの、シンプルな黒いワンピースを着ていた。手に小振りのボストンバック。バックの取っ手には、オレンジのリボンがまかれた茶色い麦わら帽子がひっかけられていた。
「ひ、久しぶりです。春虎くん」
本家の少女。春虎が最も巻き込みたくない少女だった。
そして、彼はまだ気づいていない。歯車が軋み始めていることに。
以外に進まない。