東京レイヴンズ <鵺への挑戦>   作:yaukl

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泰山府君祭 其の弐

(ボク)は誓ったんだ。あの時は何も出来なかった者として今度こそ彼らに・・・>

 

 

 

 

 今日夜光の名は、呪術界における一種の禁忌(タブー)となっている。発端は、日本の敗戦が濃厚になった太平洋戦争末期。

 そのころになると、陰陽寮を支援していた軍の一派が夜光に要請を出し、その要請を受けた夜光が大規模な呪術儀式を敢行し――それに失敗したとされている。

 この儀式に関する詳細な記録が一切残っていないために現在、東京で起きている霊災はその時の失敗に因るものだとされ、今日の呪術界では夜光の名を大々的に語る者は少ないと言っていい。

 ただ、それは何も知らない者たちによって大部分が脚色された物だとも知らずに・・・

 

 

 

 

 ある者が禁忌に触れようとしていた。つい先ほども呪術を行使し歪ではあるが、成功した。

だが、この者はまだ、気づいていない。これが災厄へ続く序章に過ぎないことを・・・

 

 

 

「あの・・・・・なんでこっちに?」

「・・・・・夏期休暇です。今日から」

「あ~、なるほど」

 

 春虎の質問に、夏目が硬い声で答えた。二人のやり取りを見て何やら騒いでいる者がいるが、三人はそちらを見ない。正確には二人気づいていないが。

 

「こっちにはいつまで?」

「一週間ほどです」

「以外に短いのな」

「向こうでやることがあるので」

「なるほど」

 

 二人の間にはあまりに遠い距離がある。・・・別に陸橋の端と端で話しているとかそういう意味ではない。

 互いが進んだ進路は似て非なるもの。夏目は第一歩を踏み出し、春虎は終焉に近い。夏目にとっては隣に立ちたいと思っていて、春虎にとっては彼女を守らなければいけない存在だと思っている。

 

「東京の暮らしはどうだ?」

「・・・・・とても忙しいです」

「そうか・・・・・」

「春虎くんはどうなんですか?」

「俺も忙しいかな」

「・・・・・そうですか。」

 

 夏目はしばらくの沈黙の後に「おやすみなさい」と言い放ち、春虎からは離れて行った。

 

「全く、お前らは何をしてんだか・・・」

 

と、冬児が不機嫌そうにぼやいた。

 

 

翌日

 

今日は花火祭りが開催される。それだというのに暑すぎる。

 

「で、どう回る?」

 

冬児が聞いて来た。

 

「どうすっかな、」

 

と、春虎が言った矢先に冬児は春虎の背後を見た。

 

「あ、万年引きこもりの春虎がまた外に出てる」

 

後ろから声がした。北斗だ。

 

「なんだ、お前も来てたのか」

「なによ、来ちゃダメなの?」

「いや、よくもまぁ外で遊んでんなぁと思って」

「私が遊び人のような言い方止めて!?」

「違うのか?」

「違うわよ!?」

「・・・・・そうか」

 

まだ、北斗は不機嫌そうな顔をしている。少ししてその北斗が春虎に問うた。

 

「で、何か言うことは?」

「・・・・・?」

「分からないの!?」

「何を聞きたいんだ?」

「一回、そこら辺のアスファルトに埋まってみる?」

「やめて!?土よりひどい!?」

「じゃあ、土に」

「だから待てって!!」

 

北斗の浴衣姿を褒めたのは少し時間が経ってからのことであった。

 

 

 三人で屋台を見て回っているときにふと、春虎は神社の拝殿の方を見た。そこには、人ではない者が立っていた。そこへ、2人には気づかれないように春虎は近づいた。

 

「あんた、何者だ?」

 

春虎が先に話しかけた。

 

「おや、私に気づかれるとはあなたは陰陽師ですか?」

 

「いや、陰陽師では無いな」

 

「そうですか、まあ、良いでしょう。・・・あぁ、そうでした。つかぬことお聞きしますが、土御門家の方をお探ししておりまして、ご存知ないでしょうか?」

 

春虎はしばしの沈黙の後に問い返した。

 

「土御門は俺だが、何か用か?」

 

 

 

 男に連れられ行った先は、射的屋の近くだった。

 男に声をかけられたとき、断ろうか考えはしたが、この男が綺麗に作られた式神だと気づくと、製作した者に興味が湧き、付き合ってやることにした。

 

 

 そして、春虎が連れてこられたのは、屋台の前だった。

 「.....お連れしました」

 その声に振り返った人物を見て、先ほど抱いたちょっとした興味から陰陽を極める者としての好奇心が勝った。

ただ、春虎が興味を持った者は、明らかに春虎より年下と思われる女の子だった。

 

「.....ふ~ん。あなたが噂の天才児?」

「.....?」

「何よ、その間抜けな顔わ」

「いや、何でもない」

「で、そっちの奴は?」

 

 そう少女に問われ、先ほどから気づいてはいたが見ないようにしていた後ろから、冬児が近づいて来ていた。

「なんだ、冬児。気づいてたのか?」

「ふ、まあな」

「北斗は?」

「向こうではしゃぎ回ってる」

 

 それを聞き、春虎はホッと胸を撫で下した。今、あいつには知られたくなかったからだ。春虎が考えに耽っている中で冬児が口を開ける。

「その顔、雑誌で見たことがあるな。確か『十二神将』の最年少。『神童』大連寺鈴鹿、じゃなかったか」

 冬児の台詞に、春虎は欣喜した。

(十二神将?.....面白そう!!是非、一度手合わせしたい!!)

 ニヤけた顔をしている春虎を見て、冬児が呆れているような顔をしていた。

 

「う~ん、にしてもアホ面にしか見えないのだけど、ホントにあんたが土御門夏目なの?」

 

 初対面の人に対してなんて失礼な、なんてことを春虎は考えておらず、一刻も早く呪術比べをしたいと今なお考えている。

 何も言い返さない春虎に変わって、冬児が話し始めた。

 

「まあ、確かにこいつの顔はアホ面に見えるかもしれないが、腕は確かだぞ。なあ、夏目」

「ん、あぁ。まあ、それは今は隅っこに置いとくとして、で、鈴鹿っつったか?何の用だ?」

 

 春虎は今すぐにでも呪術戦をしたいと思っているため、話を進めることにした。それに対し、問われた鈴鹿は不敵な笑みを浮かべながら春虎に答えた。

 

「土御門家次期当主、土御門夏目。あたしの実験に付き合って」

「実験?」

「そう、実験よ、実験。私がしたいのは土御門夜光が用いた陰陽術」

 

 鈴鹿の台詞に、春虎は「?」を頭の上に浮かべた。

 

(.....ふむ、どれを言っているのか分からんな)

 

「あんたなら知っているわよね?帝式がどういった物なのか」

 

 この問いに春虎は鈴鹿が何を聞きたいのか理解したが、冬児の方は分からなかったようだ。 

 

「危ないものが多いってことぐらいしか分からんな」

 

 冬児の答えに対し、鈴鹿は鼻で笑った。

「アハハッ。まあ、その解釈で間違っちゃいないけど流石にそれだけじゃ不十分にもほどがあるわ。まあ、つっても私も帝式はあまりに莫大にありすぎてどれくらい知ってるのか分かんないんだけど」

 

 鈴鹿は不敵に笑いながら淡々と応えていく。

「それで~、今私が知りたいのは魂に対するメソッドについて。土御門ならこの意味分かるわよね?」

 

 それを聞いた春虎は神妙な顔をする。魂の呪術と聞いて興味を示さない訳が無いし、さらに先ほどから後ろに控えている自分の式神が暴れ出しそうでどうしたものか、と考えていた。

 その顔を見て鈴鹿は何を思ったのか、さらに話を進めた。

 

「で、あんたに付き合って貰いたいのは、あたしが復活させた魂の呪術。その手助けをして欲しいのよ」

 

 春虎はそこまで話を全部聞いていたとは言えないが、聞いていて疑問に思っていたことを聞き返した。

「で、お前は何をしたいんだ?」

 

 鈴鹿は少しの間、思案した後に話し始めた。

「私がしたいのは、『泰山府君祭』だから、この呪術の成功者であり経験者であるあんたに助力を乞うてるのよ」

 

 鈴鹿の話を聞き、春虎はまたもや?を浮かべた。こいつは何を言っているのか、と。

「だから、お前は何をしたいんだ?」

 

 春虎の再度の聞き返しに苛立ちを交えながら鈴鹿は答えた。

「だから、泰山府君祭よ、泰山府君祭。まさか、土御門の次期当主ともあろう者が知らない訳じゃないでしょうね」

 

 それを聞き、春虎はやっと鈴鹿との会話が若干成立していないことに気づいた。あぁ、こいつちゃんと調べて来てないのかと。先ほどから冬児は話についていけず、聞きに徹している。

 

「だから、どの泰山府君祭かって聞いてんだよ」

 

 春虎の問いに鈴鹿はすぐには答えられなかった。こいつは何を言っているのか?と。

 

「お~い、聞こえてるか?」

 

 春虎は何も言ってこない鈴鹿に対し、尚も問い返す。と、そこで漸く鈴鹿も聞き返してきた。

「泰山府君祭は一つではないってこと?」

 

 鈴鹿の疑問に渋々春虎は答えてあげることにした。

「そりゃ、泰山府君祭っていうのは言わば、呪術群全般を差す言葉だ。これは、『泰山府君』と呼称する霊的存在にアクセスし、人間の魂を操作しようとしたものの呪術システム全般を差す。だから、泰山府君祭と言っても用途は多岐に亘るって訳だ。ここまでは理解したか?」

 

 それを聞き、鈴鹿はついにフリーズした。冬児は結構前からフリーズしていたようだ。

 

「で、お前は何をしたいんだ?」

 

 春虎はもう一度、同じことを聞き返した。と、そこへ何かが飛来した。

 

「ソコマデダ、大連寺鈴鹿。陰陽法二基ヅキ、貴様ヲ拘束スル」

 

 ツバメが喋るのと同時に羽が鈴鹿を囲み込もうとしていた。だが、鈴鹿は国家一級陰陽師。素直に捕まる訳が無い。鈴鹿の後方から式神が現れた。

 

「マジ、ウザい。今いいところだったんだから、邪魔すんな。雑魚が!!」

 

 鈴鹿の式神が暴れ始める。冬児はすぐさま距離をとった。だが、そこへ鈴鹿を包囲するように人が現れた。

「すでに周囲は封鎖した。投降しろ!」

 

 その言葉を受け、止まるような奴ではないと、春虎は鈴鹿のことを思っている。その通りになったが。鈴鹿は一冊の本を取り出した。それに反応した男たちは呪文を叫び、呪符を投じた。この時、春虎は隠形を行使し傍観に徹していた。

 

「だから、ウザいって言ってんだろうが!殺すぞ、雑魚が!!」

 

(.....にしても口悪すぎじゃねえか、あのゴスロリ)

 

 鈴鹿はしゃべりながらではあるが、式を打った。ページの一枚一枚が千切れ形を成していく。

「これでさっさとクタバレ」

 

(だから、口悪すぎだって)

 

 さらに鈴鹿は攻勢に出る。ポシェットから呪符を一枚抜き、投じる。五行符のひとつ、水行符。呪符から大量の水流が迸る。対抗する男たちも土行符で対抗するが押されていた。

 

 水流が強すぎるせいで回りにまで被害が及んでいた。見に徹していた春虎だからこそ気づけたのかもしれない。倒れたテントの後ろに、子供二人が蹲っていた。水流が子供たちの方へ飛んで行った。

 

(.....時間がない。色々と飛ばすがまあ、良いだろう。用途は違うが効くのかはあとだな)

 そう思案し、春虎は水の神である水天の種字を唱えた。

 

()

 

 そう春虎が唱えると先ほどまで荒れ狂っていた大量の水が霧散した。

 

(は?今、何が起きたの?)

 

 自分の呪術が掻き消されたのを鈴鹿は動揺を隠せずにいた。

 

(いや、こんなことを出来んのは今この場にあいつしかいない。はは、やっぱりあいつは本物.....あ、あいつどこ行った?)

 

 攻撃してきた男たちは全員が伸びていた。春虎の姿を探している鈴鹿の後ろから声が駆けられた。

 

「全く、暴れすぎだろう、お前」

 

 鈴鹿は恐る恐る後ろを向く。そこには春虎が悠然と立ち尽くしていた。

 

 

 

 




四月は腹痛が続く月であった。.....言い訳終わり。
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