ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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九話

「エルダーマクソン。ご報告が」

 

 紙の束を手に持ち室内へと入ってきた補佐官の言葉を受け、東海岸B.O.Sを率いる顔に奔る傷跡が特徴的な屈強と言う言葉が相応しい鋼鉄を具現化したような男が僅かに顔を上げる。

 

「連邦へと偵察に向かったパラディンダンスの部隊から救難信号を受信しました」

 

「分かった。直ぐに救援を向かわせろ」

 

「ハッ!」

 

 敬礼を返すと補佐官は部隊の救援を向かわせる為に室内を退室し救援部隊を編成しにかかった。補佐官が退室するのを確認すると、マクソンは額を抑え顔を僅かに歪める。

 

「無事でいてくれよ。ダンス」

 

 彼の呟きは誰にも聞かれる事なく霧散する。この数週間後、救助されたダンスの口から語られた連邦で確認された謎の高エネルギー反応にインスティチュートが関与していると確信したマクソンは東海岸B.O.Sを率いて連邦へと乗り出す事になる。

 

 

 ■■■■

 

 

 キャピタル・ウェイストランド。かつてはワシントンD.Cと呼ばれていた土地に東海岸B.O.Sの本拠地は存在した。数年前と比べて規模も設備も比べ物にならないほど拡大した要塞の中はマクソンによる連邦への遠征準備が進められていた。

 

 今から十年前、エンクレイヴ残党の本拠地だったアダムス空軍基地を壊滅させた際に入手した資材を使い数年の年月を要して建造された飛行船プリドゥエンへと乗組員たちが総出で荷物の運搬を行っている。

 

 プロクター・ティーガンが武器を運ぶ人間に指示している。運んでいるのは対人造人間戦を想定して用意されたパルスガンやパルスグレネードが詰め込まれた箱だ。

 

 当然、人造人間以外のアボミネーション達を排除するための武器弾薬も運び込まれていく。運搬されていく兵器の中には、かつての東海岸B.O.Sでは目にすることができなかった武装もあった。

 

 勢力の拡大に伴い戦前の軍需工場を幾つも支配下に置くことに成功した東海岸B.O.Sはそれらの工場を再び稼動させパワーアーマーや武器弾薬、そしてフュージョンコアを量産していた。

 

 プロクター・イングラムがパワーアーマーを来たナイトに整備用の機材をどこに搬入するか指示する。

 

 現在の東海岸B.O.Sのナイト及びパラディンに支給されているパワーアーマーは長年に渡ってスクライブたちが戦前の軍事基地や研究所から回収してきた技術資料を使って運用されていたT-45パワーアーマーを大幅に改良したT-60パワーアーマーだ。

 

 T-45の整備性をそのままに戦前のパワーアーマーを凌駕する性能を誇るパワーアーマーは兵士たちのキャピタル・ウェイストランドでの生存率を格段に高めてくれている。

 

 対人造人間戦でも彼らの命を守ってくれるパワーアーマーの整備に妥協は許されない。次々に整備用の機材が積み込まれていく。

 

 

 

 

 

 ■■■■

 

 

 ダイアモンドシティを取り囲む緑色の壁の外、シティの直ぐ近くに作られた見張り台の上ではセキュリティが五人、周囲の廃虚群を見下ろしていた。

 

 廃虚を見る事に飽きたセキュリティの一人が、自分と同じように眼下の町をぼんやりと見ていた同僚に話しかける。

 

「今日は静かだな」

 

「ああ。レイダーもスーパーミュータントも見当たらない、この間はあんなにウジャウジャいたのにな」

 

「お互いに殺し合ってるんじゃないか?だとしたらラッキーだよな」

 

 二人の会話に暇をもてあました他のセキュリティも話に加わり始めた。

 

「なあ、お前が今まで出会った中で一番ヤバいと思った敵ってなんだ?俺は腕にミニ・ニュークを括り付けたスーパーミュータントだな」

 

「俺はピカピカ光るフェラルだな。アイツが緑色の光を放ったら他の倒れていたグールが生き返ったんだ。グールの群れが後ろから追ってきた時は死ぬかと思ったね」

 

「ミュータント共も怖いが俺はロボットの方が怖いね。セキュリティに入る前にキャラバンの護衛をしていた事があるんだが─────」

 

 話の途中、唐突に口を閉ざしたセキュリティの一人に嫌な予感を感じた別の一人がそのセキュリティに声をかけようとし、自分達が今居る場所から直ぐ近くの廃虚群から銃声と何かの叫び声を聞き取り五人全員の視線が音のした方へと向いた。

 

「おい、今のは……」

 

「待て!あれ見ろ!」

 

 セキュリティの一人が見張り台の正面の道路を指さす。それに釣られてセキュリティ全員が指さした方向に目をやる。二人のセキュリティが自分達がいる見張り台へと必死の形相で走る姿が見えた。

 

 巡回に行ったセキュリティは七人。それなのに走ってくる人影は二人しか見受けられない。これは、まさか─────

 

「スーパーミュータントだ!!他の奴らは全員殺された!」

 

 見張り台へと上がってきたセキュリティが蒼白な顔で息も切れ切れに叫ぶのを聞いたセキュリティ達は見張り台から降りると正面の道路に設置された金属製のバリケードに隠れ敵が来るのを待ち構える。

 

 バリケードの前にはタレットが複数配置されている。これまでにこの一帯を抜け見張り台へと到達した敵はいない。何故なら到達する前にセキュリティとタレットによる銃弾の雨によって蜂の巣になるからだ。

 

「来たぞ!!スーパーミュータントだ!」

 

 バリケードから身を乗り出しセキュリティが一斉に銃を構える。彼らの視線の先にあるのは隆起した筋肉の鎧を緑色の肌で覆い廃材や襤褸切れを使って作られたと思しアーマーを装備し銃器を構えた化け物達だ。その顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。

 

「ニンゲンダ!コロセ!!」

 

 スーパーミュータントの一体が手に持ったハンティングライフルを掲げ叫ぶと叫び声に触発された周りのミュータント達も咆哮を廃虚群に響かせる。そして銃弾を前方にばら撒きながら突っ込んできたミュータント達をセキュリティ側が迎撃する。

 

 先陣を切ったスーパーミュータント達が銃弾に体を貫かれ血飛沫をあげて倒れる。その屍を踏み越えて別のミュータントが前に突き進み両手で握ったスレッジハンマーでタレットの一基を破壊する。どれくらいの時間が経っただろうか、セキュリティ達とスーパーミュータントとの戦いはセキュリティ側の勝利に終わった。

 

「終わったのか……?」

 

 バリケードから顔を覗かせ呟いたセキュリティの一人に別の顔を覗かせ前方の敵がいない事を確かめたセキュリティの一人が戦闘が終わった事を告げようとした時─────声をかけようとしたセキュリティが頭部を貫かれて絶命した。

 

 同僚の後頭部から赤い液体とピンク色の脳症が飛び散ったのを見たセキュリティ達は顔を再びバリケードに引っ込めると、銃弾によって生じた綻びから仲間を殺した敵影を探した。

 

 見つけた。離れた建物の屋上からスーパーミュータントの一体がライフルを構えて獲物である自分達を狙っていた。加えて前方からはミニガンを携えたスーパーミュータントが三体、確固たる足取りで進んでくるのが見えた。

 

 非常に不味い事態に陥った。タレットは先の戦闘で全て破壊され残ったのは自分達だけ、しかも手持ちの銃器の弾は全て使い切ってしまった。それは他の同僚も同じだろう。

 

 状況を打破できる可能性がある物は見張り台にある箱の中だ。このまま無残に殺される位ならと意を決して見張り台の階段へと向かおうとしたセキュリティの一人はその寸前、ミニガンを携えたスーパーミュータントの一体が頭部に穴を作られ地面に崩れ落ちる姿を目にした。

 

『ナンダ!!』

 

 仲間の突然の死に動揺するミュータントは背後から飛来した真紅の輝きに身体を貫かれ苦痛の呻きを上げながら背後を振り向き、敵の姿を視認する。

 

『オマエガヤッタノカ!バケツアタマ!!』

 

 憎悪に只でさえ醜悪な顔を牙を剥き出しにし、目を充血させ見る物に嫌悪と恐怖を抱かせる凄まじい形相を浮かべたスーパーミュータント達が怒りの矛先を攻撃を放ったバケツ頭ことパワーアーマーを装着した何者かに向ける。

 

『シネ!!キョウダイノカタキダ!』

 

 唸り声と共にミニガンの銃身が回転し五ミリ弾の砲火がパワーアーマーへと浴びせられる。アーマーの搭乗者は近くの廃墟に身を隠すとフラググレネードをスーパーミュータント達の近くに放置されていた自動車へと投じる。

 

 拳銃の銃弾なら容易に耐え凌ぎ、ライフルの銃撃ですら頭部に喰らっても何発かは耐える化け物だ。フラググレネードの直撃にも耐えるだろう。しかし──────

 

『グオオオオッッ!!』

 

 直後、フラググレネードの爆発の煽りを受けて放置されていた廃車のエンジンが誘爆する。爆発物の爆音とは比較にならない大きさの爆発のあと、セキュリティ達は廃車の残骸から立ち上るキノコ雲と全身に車体の破片が幾つも突き刺さった大火傷を負い地面に倒れたスーパーミュータントの死体を視界に捉える。

 

 そして、屋上から狙撃手を務めていたスーパーミュータントがいつの間にか場所を移動していた何者かが放ったレーザーに頭部を貫かれ絶命する。

 

「ヨクモ!ヨクモ、コンナコトヲ!!」

 

 最後の一体がスレッジハンマーを両手で握り何者へと横薙ぎに振るう。何者かは懐に飛び込むようにして転がると狭い路地から広い道路へと戦いの場を変えると即座に体勢を立て直す。

 

 パワーアーマーを着た何者かは得物であるレーザーライフルを構えると照準を敵の頭部に向ける。そして、何者かが引き金を引こうとするのを確認したスーパーミュータントは地を這うような姿勢でスタートを切った。

 

 人間とは比べ物にならない身体能力を有するスーパーミュータントだ。瞬く間に彼我の距離を詰め、得物を振るう。

 

 スレッジハンマーがスーパーミュータントの膂力を持って信じられない速度で振るわれる。横合いからバットを振り抜くようにして振るわれたハンマーを避けようとパワーアーマーを着た男が上体を屈めようとした時、ハンマーの頭の片面から火が噴き出しハンマー自体が加速したのだ。

 

 スーパースレッジ。ハンマーの頭の片面にジェット推進器を取り付けた近接兵器をそのスーパーミュータントは所持していた。

 

 予想外の攻撃に回避しきれず胸部装甲に加速したハンマーの打撃が直撃する。装甲がひしゃげる嫌な音と共に体勢を崩した何者かの頭部へと大上段から再び加速したハンマーの一撃が振り下ろされるのを見ていたセキュリティ達はパワーアーマーを着た何者かは死ぬだろうと直感した。

 

 

 しかし、彼らの予測をパワーアーマーを着た何者かは覆した。セキュリティたちが、そして何より必殺の一撃と確信してハンマーを振り下ろしたスーパーミュータントがハンマーの頭が敵ではなく地面を叩いた光景を理解できず思考が停止する。

 

 何が起こったのか。パワーアーマーを着た何者かは体勢を崩した状態から傍目から見て異常な速度で体勢を立て直すと同時に、相手の腹に蹴りを叩き込む。

 

 パワーアシスト機構によって威力を増した痛烈な蹴りが腹部に突き刺さる。並の人間なら吹き飛ぶ一撃もスーパーミュータント相手では、よろめかせるだけに留まる。

 

 しかし今の状況に置いては致命的な隙。スーパーミュータントの頭部にレーザーが連続して撃ち込まれる。光線に脳を貫かれ、スーパーミュータント何が起こったのかを永遠に理解する事なくスーパーミュータントはその命を絶たれて地面に伏した。

 

 スーパーミュータントの頭部から赤黒い血とピンク色の脳漿が地面に流れる光景と、スーパーミュータントを殺戮した何者かを見ながらセキュリティ達は茫然としていた。

 

 突如現れてミニガン持ちのスーパーミュータントを即座に葬った事も驚嘆に値すべき事なのだがセキュリティ達の脳内は避けられぬ一撃であった筈のスーパースレッジの一撃を避けた動きの事で占められていた。

 

 断言できる。あれは常人ができる動きではない。それが意味するのは、あの何者かは何らかの薬物を摂取している、もしくはインプラント手術を受けている。あるいは自分達の知らない手法を所持しているかだ。

 

 何者かはセキュリティ達がいる場所へと近づいてくる。セキュリティ達は本能的な恐怖から体が震えるのを感じながら、せめて態度にはおくびにも出さないようにするのだった。

 

「町に入る前にパワーアーマーは脱いで貰うぞ。ステーションが建ち並んでいるあそこにパワーアーマーを置いてきてくれ」

 

「分かった」

 

 セキュリティの言葉に頷いた男は町の入り口にある検閲所からステーションが建ち並ぶ場所へと歩いていく。ものの数分で返ってきた男の姿を見たセキュリティ達は男の姿を見て驚きを露わにするのだった。

 

「そのスーツ、Vault居住者か」

 

「ああ。Vault111からやって来た。……中に入ってもいいんだな?」

 

 頷きを返すと印象的な青いジャンプスーツを着た男は町の中へと入っていった。無事に事が済んだセキュリティ達は安堵のため息を吐くとタレットの残骸とスーパーミュータントの死体の片付けに向かった。

 

 




 
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