「ここがダイアモンドシティか」
眼下の町を見渡す。かつて選手達が試合を繰り広げていた球場には幾つもの店が立ち並び、大勢の人間でごった返していた。階段を降りていくと手前の店で少女が新聞を道行く人々へと渡していた。
二百年後の世界の新聞がどのような記事を取り扱っているのか興味が湧いたネイトは新聞を貰おうと店先へと歩いて行く。ネイトの姿に気づいた少女は驚いたように目を丸くすると声をかけてきた。
「失礼、ミスター?Vaultから来たの?」
「ああ。Vault111から来た」
「Vaultから?ダイアモンドシティにはどんな要事で来たの?」
「息子の手掛かりを探しに来たんだ。仕事の最中に悪いんだが、探偵事務所がどこにあるか教えてもらえるだろうか」
少女は町の一角を指で示すと、あの一角に彼が居を構える事務所があると言い、矢で射貫かれたハートの看板が目印だと言った。ネイトは少女に感謝の言葉を伝えると少女が指し示した一角へと歩いて行く。
道行く人々の物珍しそうな視線に晒されながら、その一角に辿り着き例の看板がぶら下がった建物を見つけた。身嗜みを軽く整えるとネイトは事務所の赤い扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けるとネイトは書類の束がそこかしこに綺麗に整えられて置かれている事務所の中に立ち、自分の方を見ている女性に挨拶をした。
「ネイトブラックウェルです。今日は依頼を─────」
「ごめんなさい。今、探偵が行方不明なの。依頼を受ける事はできないわ」
言葉の続きは秘書らしき女性の衝撃的な言葉によって遮られた。予想外の事態にネイトは言葉を失った。それを見た女性は再び謝罪の言葉を言うと今日は引き取るよう言うと事務所の奥へと消えていこうとする。
「待ってくれ。探偵を探すのに手を貸す」
ネイトの口から出た言葉に足を止めた女性は振り返ると信じられなかったのか疑るような視線を向けてくる。
ネイトは自身の現状を話し、探偵の助けが一刻も早く必要なのだと話した。
それを聞いた女性は小さく息を吐くと目尻を光らせながらネイトに感謝の言葉を述べ深く頭を下げた。
頭を上げ目尻を拭うと彼女はニックバレンタインががとある事件を追って失踪した事と彼がスキニーマローンと言う男が率いるギャング達によってパークストリート駅内の古いVaultに捕らえられている可能性が高い事を話した。
「ニックを助ける以上、ギャングたちとの戦闘は避けられないか。……身代金の請求は来ていないのか?」
「来ていないわ。恐らく交渉の余地はないものと思っていいわ」
「分かった。突入する以上、前もって場所と相手の情報は知っておきたい。そのギャングたちについて教えてくれないか?」
女性は自力でギャングたちを調べていたらしく机の上にギャングたちの情報が記載された紙を並べる。紙に目を通し女性からの説明を受け、ネイトは現在の装備で制圧できると判断した。
説明を終えた女性は報酬についての話を切り出してきた。ネイトはキャップでの支払いでなく別の形で報酬の支払いを求めた。
「いや、キャップは必要ない。代わりに私の依頼を最優先で引き受けてほしい」
「分かったわ。……彼はこの町には無くてはならない人よ、必ず連れて帰ってきて。お願い」
「確約はできないが、無事に連れて帰れるように最大限善処するつもりだ。私も彼には生きて戻ってもらわないと困るからな」
ネイトは事務所を出ると駅に向かう前に弾薬と医薬品の補充、資金に余裕ができればパワーアーマー用のポーチや弾帯を購入するために店が立ち並ぶ町の中心へと向かう。
「Vault居住者のお客とは珍しいな。アンタも外の世界に憧れて出てきたクチか?」
武器を販売していると思しき店の前に来たネイトは戦闘で使用頻度の高い銃器の弾薬を選ぶと店主に注文する。注文された弾薬をカウンターに置いた店主は銃器を物色していたネイトにそんなことを聞いた。
「いや、他の理由でだ」
そう言いながらネイトは店頭の台の上に置かれたカートンに金額分のキャップを置いた。弾薬を収納しながらネイトは店主に店はないかと訊ねた。
「驚いたな。アンタ、Vault居住者なのにパワーアーマーを使えるのか」
「Vault居住者がパワーアーマーを使えるのがそんなに驚くことか?」
「ああ。俺が今まで見てきたVault居住者は戦い慣れしていないヤツばかりだったからな。まあ、外の世界と隔離されてるって話のVault育ちじゃ仕方ないんだろうが」
話が逸れたなと謝ると店主は件の店がどこにあるかを説明してくれた。ネイトは店主に礼を言うと件の店には最後に訪れることに決め、 次に医薬品を販売している店へと足を運ぶ。
道中、市場に並ぶ食べ物を販売している露店の店先に視線を送ると店先に並んでいるのは串に刺してあり肉汁が滴っている何かの肉や炒めた野菜、不透明な赤色の液体。香ばしい匂いを放っているのもあれば酷い匂いを放っているのもある。
常識で考えれば口にするのをためらう食べ物であっても平然と口にする人々を見ながらネイトは改めて自身の常識と二百年後の世界で生きる人々の常識は異なることを認識した。
準備を整えた私は武器とパワーアーマーを預かっているセキュリティ達がいる球場の外へ向かうとセキュリティ達から武器を受け取った私はパワーアーマーに新しいフュージョンコアを装填し、再び装着するとゲートを潜り町の外へと出た。
■■■■
「探偵が囚われているのはここか。……死んでいない事を祈るぞ」
ネイトは最悪の場合を想定して探偵が死んでいた場合、どのようにして息子の手掛かりを探すかを模索し始めていた。そして仮に手掛かりを見つける事ができなかった場合、サンクチュアリにいるであろうママ・マーフィーの元へと向かわねばならない。
事を上手く運ぶためにネイトはポーチからグレープ味のメンタスを取り出し、器用にアームを操作して封を切ると箱を傾け、錠剤型のそれを数粒口に入れた。
ガリガリとメンタスを噛み砕きながらヘルメットを被り駅のドアを開けるのと同時にサブマシンガンを持った男二人が正面に銃を構えているのが目に入る。
「止まれ!ここに何の用だ」
「この駅に囚われている探偵を助け出す依頼を受けて来た。ニックバレンタインは何処にいる?十秒待つ、それまでに居場所を言わないのなら」
レーザーライフルの引き金に指を掛ける。このまま居場所を吐かなければ殺されることをネイトの言葉から理解した男達はどうするべきか迷う素振りを見せた。
「安心しろ。居場所さえ言ってくれれば悪いようにはしない、約束する」
「落ち着いて考えてみてくれ。今、自分たちが選べる最良の行動を」
薬物の効能によってネイトは極めて短い時間だけ喋り方と言葉に安心させるような重みを伴わせていた。最後の一押しとして言葉のあとに銃を収めたネイトに男たちは、探偵の居場所を詳細に話した。
「い、居場所は言ったんだ。約束通り俺たちは生かしてくれるんだろ?」
「残念だが、今の約束はなしだ」
その言葉を最後まで聞き取ることなくギャングの一人が顔が拳によって原形を留めずに破壊される。流れるような動作で二人目のギャングの胴体に回し蹴りが叩き込まれ吹き飛び、派手な音を立てて壁に衝突したあと動かなくなった。
駅の地下に降りたネイトは大量のギャング達がサブマシンガンを構え葉巻を薫らせながら自分たちのテリトリーを侵す者がいないか巡回しているのを確認した。情報通り、かなりの規模のギャングらしい。
ネイトはポーチからスタングレネードを取り出すと安全装置を外し空中へ投じる。投じられたスタングレネードは駅内部を閃光と騒音で満たし、ギャング達の動きを止めた。
照準を素早く変えながらレーザーライフルの熱線でギャング達を貫いていく。スタングレネードの影響から立ち直ったギャングの一人は回復した視界が映し出した光景が現実だとは信じられなかった。
自分を除く殆どのギャングは体に風穴を開けられ地に伏しているか体のどこかが欠損し、血を流しながら倒れていた。
また一人よろめきながら立ち上がった仲間の一人がレーザーに貫かれ息絶えた。視線をレーザーが飛んできた方に動かすとレーザーライフルの照準を自分に定めたパワーアーマーの姿が映った。
銀色の装甲を仲間の返り血で汚したパワーアーマーにギャングは握りしめていた機関銃を構えようとするが、熱線に胴体を撃ち抜かれ崩れ落ちる。
「不味いッ!」
弾丸ではない何かが発射される音を聞いたネイトは即座に地面を蹴り上げ回避行動に移る。そして次の瞬間、先ほどまでネイトが居た場所にミサイルが着弾し爆発する。
着弾の際に飛び散った無数の破片が装甲を叩き爆風が装甲表面に張り付いていた血糊を焦がす。駅内部に放置されていた大型のコンテナに身を隠したネイトが敵の位置を確認するのとグレネードが投げ込まれるのは同時だった。
コンテナの影から体を投げ出すようにして飛び出したネイトはレーザーライフルの銃身に取り付けられたサイトを覗き込み手に持つ火器に照準を合わせ、対するギャングもミサイルランチャーの照準をネイトに合わせていた。
勝負は一瞬で決まった。レーザーライフルの銃口から放たれた熱線は光の速さで直進すると発射された直後のミサイルに命中し爆発する。至近距離で爆発に巻き込まれたギャングは凄惨な姿となり絶命した。
フュージョンセルを再装填したネイトは駅内を進んでいく。そして歯車の形を模した巨大な扉が先に見えた。
象徴的な形の扉はVault111で起きた忌まわしい出来事を嫌でも思い出させ、脳裏に焼き付いた光景を視界にチラつかせる。ネイトはヘルメットの中にある顔を歪ませながら片方の腕部装甲とフレームを解除するとPip-boyを使って扉を解除した。
■■■■
「こ、これが、パスワードだ」
恐怖によるものか上擦った声でパスワードを教えたギャングを射殺すると、入手したパスワードを扉横のターミナルに打ち込みドアのロックを解除する。
部屋の中にいたのは、年季の入ったフェドーラ帽を被り色あせたトレンチコートを着た探偵の格好をした人造人間だった。
敵対反応は感知されず攻撃する素振りも見えない事から害を加える意志はないらしい。警戒と戸惑いを隠せないネイトに人造人間もとい探偵ニックバレンタインは口に咥えていたタバコを灰皿に置くと口を開いた。
「血塗れの騎士様に感謝を。さて、大勢のギャング達を倒してまで年寄りの私立探偵を助けに来た理由を教えてくれないか」
以前アークジェットシステムで遭遇した人造人間とは違い、流暢にかつ人間と殆ど遜色ない声で探偵は言葉を発した。
「事務所にいる貴方の秘書から依頼を受けてここに来た。それよりも、何者なんだ?」
「それに関しては後で話す。まずは外に出よう、前衛はアンタに任せてもいいか?俺は後ろから支援する」
「分かった」
ニックの案内に従いギャング達を倒しながら外を目指してVault内の通路を進んでいく。そして出口まで来たネイトたちを黒いタキシードと光沢のあるシルクハットを頭に被ったギャング達のボスと思しき人物と取り巻きたち、そして派手なドレス姿の女性が出迎えた。
「ニッキー、何してる!どうやって部屋から脱出した!」
「この騎士様が出してくれたのさ、スキニー」
傍らに控えるギャング達も殺気を隠そうともせずに向けてくる。だが彼らのサブマシンガンの銃口から未だに炎が迸っていないのはパワーアーマーを着た相手には、この人数では勝てないと理解しているからだ。
口に咥えていたタバコを地面に捨てると足裏で踏みにじって火を消したニックは溜め息を吐く。
「さて、スキニー。平和的に解決しよう。彼女の事は諦めるように親御さんを説得する。この場所には二度と来ない。だから俺たちを見逃してくれないか?」
「馬鹿言うんじゃねえよニッキー。ここで、お前ら二人をみすみす見逃す訳にはいかねえ。俺にもボスとしての面子があるからな」
「面子と命とどっちが大事かなんて直ぐに分かることだろう。このまま行けばスキニー、お前はパワーアーマーを着込んだ奴を相手取ることになる」
「お前がドラッグか放射能で頭がヤられていないのなら、戦えばどちらが勝つかなんて考えなくても分かるだろう」
苦り切った顔で暫くのあいだ、葛藤していたスキニーに女性と部下が何ごとかを耳打ちした。彼らが何を言ったのか分からないが、少なくともスキニーに考えを決めさせる内容だったらしい。
「………見逃してやる。さっさと行け」
「あばよ、スキニー」
スキニーの言葉に従い二人はVaultから出ていく。背後からスキニーたちの視線を感じながら私たちは駅内を進み、梯子を使って外へと出た。
「見てくれ、連邦の空だ。どう見ても不吉な物にそそられる日が来るとは想像もしなかったよ」
上に広がる真っ黒な曇天の空を見るニックに吊られて私も空を見上げる。確かにただの曇り空だと言うのに妙に不吉な物を感じる。だが地下に囚われていたニックにしてみれば、金属製の天井よりかは遙かにマシなのだろう。
「改めて感謝の言葉を言わせてほしい。ありがとう」
フェドーラ帽を脱ぐとニックは感謝の言葉を述べた。そして再び帽子を被ると彼は懐からライターと葉巻の入ったケースを差し出してきた。
「吸うかい?」
「良いのか?では、ありがたく」
箱から葉巻を一本抜き取ると受け取ったライターで火を灯すと煙を吸う。途端に口の中が長い年月によって辛味が増した煙で満たされる。何故か、その辛味が私には心地よく感じられた。
「さて、俺は事務所に戻る。アンタはどうするんだ?」
「一緒に行こう。貴方に依頼したい事がある」
ニックは私の言葉に頷くと、ダイアモンドシティの事務所へと歩きだした。私も彼の後に続いてダイアモンドシティへと歩いていく。