ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

12 / 12
 手直ししました。


十一話

 

「ただいま」

 

「何てこと……ニック、ニックなのね!」

 

「ふむ。この顔を他の誰かと見間違うのは難しくないか?」

 

 事務所の奥から帰ってきたニックの姿を見て、駆け寄ってきた女性へとニックはそう言うとニヤリと笑みを浮かべる。秘書の女性は目の縁の涙を拭うと笑みを浮かべ、ネイトの方を振り向くと深々と頭を下げた。

 

「ニックを、この事務所を、そして仕事をアナタは救ってくれた。本当にありがとう」

 

「礼には及ばない。早速だが、依頼を頼みたい」

 

 ネイトはニックへと自分の事情と依頼内容を説明した。

 

「アンタは命と事務所を救ってくれた恩人だ。直ぐにでも引き受けてやりたいが……俺が居ない数日に色々とやらないといけない事が貯まっていたらしい」

 

 ニックは机の上に積み上がっている夥しい量の書類の束を指さし、依頼については六日後まで持ち越してほしいと頼んできた。こちらも依頼よりも優先してやらなければいけない事が存在したのでニックの提案に乗ることに躊躇いはなかった。

 

「分かった。では、六日後にまた来る」

 

「すまんな。六日後にまた会おう」

 

 事務所から出たネイトはひとまず体に蓄積した疲労を回復する為、宿泊できる施設を探しに町の中を歩く。町中を歩いていると私の姿を認めたセキュリティが声を掛けてきた。

 

「前は助かった。アンタが来てくれなかったら俺や同僚はスーパーミュータントの餌になってた。良かったら後で酒を奢らせてくれないか?」

 

「いいのか?いや、それよりも泊まる事ができる場所を探しているんだが……」

 

「泊まれる場所を?なら市場を抜けた先にある給水場の隣に設備とサービスが充実しているし宿泊料金も安い宿がある。そこを使うといい」

 

「そうなのか?じゃあ、行ってみるよ」

 

 セキュリティの薦めを聞いた私は深夜と言う事もあり人が少なくなった市場を抜けてその宿泊施設へと進む。数分後、ネイトは他の施設と比べて規模の大きい建物の前に着いた。恐らくここが宿泊施設だ。

 

 靴裏の汚れを落とすと、階段を上がり金属製のドアを開ける。宿泊施設の中はかなりの広さを誇っていた、一階は食堂になっているのか何卓ものテーブルが置かれており、テーブルの上に置かれた見た事も無い料理を幾人かの客が食していた。

 

 店内の客の視線が私へと集中する。物珍しそうな視線に辟易しながら私は食堂の隅にある階段を足早に上ると、二階にある宿泊施設の受付らしき場所へと歩いていく。

 

 受付係らしい年季の入ったストライプスーツを着た男は私の姿を見ると少しだけ驚いたような顔をするが、直ぐに営業スマイルを顔に浮かべると何泊するのかを尋ねてきた。

 

「一泊で」

 

「承りました。食事やサービスの料金を含め全部で五十キャップとなります」

 

 差し出されたプラスチック製のカートンに料金分のキャップを置くと台の上に置かれた部屋の鍵を受け取る。

 

「右の通路を進んで一番奥の部屋となります。室内にあるシャワールームと水飲み場はご自由に使用して下さって構いません」

 

「分かった」

 

 鍵をポケットにしまうと私は与えられた部屋へと向かった。通路を進み、部屋の前に着いた私は鍵を使ってドアを開ける。部屋には小さな机とその上に置いてあるラジオ、パイプベッド位しか調度品はなかった。

 

 荷物を置くと私は疲れと汚れを取るためにシャワールームへと入っていく。数十分後、錆臭く温いシャワーとバックパックから取り出した石鹸とで汚れを洗い流した私はシャワールームから出た。

 

 パイプベッドに寝転がった私は窓の外の町の景色に目をやる。深夜だと言うのに町の明かりは消える様子がない。電力の無駄なのではないかとも思ったが、この街に住む人々はこの眩い光があるからこそ安心して眠れるのかもしれない。

 

 しかし自分にとっては眠りの妨げになるだけなのでカーテンを閉め、外からの光を遮断する。疲労により瞼は重い。目を閉じれば直ぐに眠れる筈だ。

 

 それから少しあと、私は久しぶりとなるベッドの感触に安らぎを感じながら眠りに落ちていった。

 

 

 ■■■■

 

 

「お待たせしました」

 

 テーブルの上に雑用を任されているらしいMr.ハンディーがスプーンとフォーク、水の入ったコップ、そして料理が盛られた皿を置いた。置かれた皿は三つ、串焼きの肉とサラダ、野菜と肉の入ったスープだ。

 

 何れの料理に使われている食材は全て、端的に言って食用が失せる見た目をしていた。紫と白色の粒がギッシリと並ぶトウモロコシもどきに異臭を放つ串肉、湯気の立ち上る仄かに青白く発光しているスープの表面には見当もつかない物体が浮かんでいる。

 

 Pip-boyに搭載されているガイガーカウンターは料理から微量の放射能を検知していたが、トレイに置かれていると言うことは食べれるのだろう。現に隣の席に座る男は全く同一のメニューを平然と口にしている。二百年経ったこの世界では食べるのが当たり前なのか。

 

 私が眼前の料理に手を付けるべきか悩んでいると、私の隣の席にどこか記者を思わせる服装をした女性が座った。

 

「ちょっといい?あなたが街で噂になってるVault居住者?」

 

 隣に座る女性が私へと話しかけてきた。無視を決め込む理由も無かったので私は彼女の問いに返答をもって応じる。

 

「噂になってるのかは分からないがVault居住者だったのは確かだ。……それで、一体君は?」

 

「私はパイパー、新聞記者よ。パブリック・オカレンシズって会社を経営してる。……まあ社員は私と妹としかいないけど」

 

 パブリック・オカレンシズ─────確かシティに入ってすぐの場所にある道行く人々に新聞を配っていた少女がいる建物がそんな文字の書かれた看板を店頭に掲げていた筈だ。

 

 こちらも名前を告げると、私の元を尋ねた理由は何なのかを私が彼女に問う前にパイパーは私を尋ねた理由を興奮した様子で語る。

 

「単刀直入に言わせてもらう。インタビューを受けて貰えない?」

 

「インタビュー?」

 

「そう。Vault居住者であるアナタの体験談を記事にしたい。Vault居住者って言う外の世界から切り離された存在から見た連邦はどう映るのか興味があるから」

 

 やらなければならない事は山のように存在するが、二百年後の世界での人脈が殆ど存在しないネイトにとって記者と言う多様な情報を知る人間と関係を築ける機会に乗る方が優先順位は高かった。

 

 関係を上手く築けることができれば自身にとって有益な情報を入手することができるかも知れないと言う打算的な考えからネイトは彼女の申し出を承諾した。

 

「やった!じゃあ、食事が終わったら本社に行きましょう」

 

「分かった。だが、君の時間の都合は大丈夫なのか?可能な限り早く食べるつもりだが、食べ終わるのは相当後になりそうだ」

 

「ああ、なるほどね。Vault居住者はこういう料理を食べる機会はないか」

 

 パイパーによると変異した動植物を使った料理はどういう訳か食べた者に様々な効能を与えるらしい。例をあげれば傷の治りが目に見えて早くなった、溜まっていた疲れがなくなったなどだ。

 

 パイパーからの話を聞いたネイトは食べると言う選択肢を選ぶことにした。味と軽度の放射能汚染に目を瞑り、出された料理を完食したネイトは確かに溜まっていた疲れが消え活力が溢れてくるのを実感していた。

 

「これは凄いな。下手な強壮剤よりも効果があるんじゃないか」

 

「そうでしょ。だけど、あんまり食べ過ぎるのも体に毒だから調子に乗って食べるのはやめた方が良いと思う」

 

「それじゃあ本社に案内するね。ついてきて、ブルー」

 

 ネイトのことをパイパーはそう呼んだ。青いジャンプスーツを着ているからと言う安直な理由で付けられたあだ名。

 

 別段、思うところもないのでネイトはそのあだ名で呼ぶことを了承した。そして二人は本社へと足を向ける。

 

 ■■■■

 

 

「今飲み物を用意するわ。そこにあるソファに座って待ってて」

 

「分かった」

 

 言われた通りソファに腰掛けパイパーが飲み物を用意するまで、私は社の内部を見回すことにした。新聞を印刷する為の機械に走り書きされたメモが壁に立て掛けられたボードに大量に張られている。

 

「さて、インタビューを始めましょうか」

 

 私達はテーブルに向かい合って座る。互いにヌカコーラを一口呷り、テーブルに置くのと同時にパイパーはインタビューの口火を切った。

 

「貴方が暮らしていたVaultでの生活がどんなものだったか教えて」

 

「Vault側以外の人間は全員、Vault-Tecの計画に巻き込まれて冷凍されていた。Vaultに居た時間は僅かだ」

 

「ちょっと待って。全員冷凍されていた?それってつまり、この世界を廃墟と放射能まみれにした戦争が起こる前から生きてたってこと?」

 

 信じられないような顔でそう言ったパイパーに私はそうだと頷き返し、もう二百才を超えていると彼女に告げる。

 

 私の言葉を聞いたパイパーはとんでもない特ダネを得た事に喜びを露わに興奮を隠そうともせず目を輝かせながら手に持ったメモ帳に傍目から見て凄まじい早さで聞いた話を書いていく。

 

「記事の見出しは時を超えた男で決定ね。次の質問に移るけど──────」

 

 時間の感覚が麻痺するほどに私はパイパーに質問攻めにされた。インタビューが終わる頃には私は疲労困憊と言った様子なのに対して彼女は聞きたい事が粗方聞けたからか実に活力に満ち溢れた顔で、最高の新聞を作ると息巻いていた。

 

「本当にありがとう、ブルー。久しぶりに良い記事が書けそう!」

 

「そうか」

 

 長時間のインタビューで溜まった疲れから気の利いた返答など出来る筈も無く素っ気ない返事を返した私にパイパーは良い反応を貰えなかったからか不服そうな顔を浮かべた。

 

「ところでパイパー。出会ったばかりの人間に聞くことでもないとは思うんだが……単刀直入に言うとキャップが必要なんだ。短期間で稼げる仕事のアテはあるか?」

 

 炭酸が抜け只の放射性物質入りの砂糖水となったヌカコーラを飲み干すと私はキャップを得る為の手段はないかとパイパーに尋ねる。

 

「あるわよ。腐る程ね」

 

 パイパー曰く、町の中央にある掲示板にはシティの付近に棲息するスーパーミュータントやレイダーを駆除して欲しいとの依頼書が幾つも貼られているらしい。直接命を賭ける仕事と言う事もあってか報酬のキャップも危険に見合うだけの額が用意されているとの話だ。

 

 パイパーに礼を言うと私はソファーから立ち上がり、パブリックオカレンシズを出ようとドアの取っ手に手を掛ける。

 

「気を付けてね、ブルー」

 

「ああ」

 

 ドアの閉じる音とネイトの言葉が重なる。そうしてネイトが去った直後からパイパーは早速、新聞の作成に取りかかるのだった。

 




 寝る場所については悩んだ結果、オリジナルの宿泊施設にすることに決めました。次回は戦闘回になると思います。感想や意見があればお気軽にどうぞ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。