ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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二話

 地表へと出たネイトは自らの家がどうなってしまったのかを確かめる為に住宅地へと歩き出した。道中、Vaultへと続く道に横たわる白骨死体を幾つも目の当たりにした。

 

 Vault111に入れなかった人々の成れの果てを尻目にネイトは枯れ果てた木々が立ち並ぶ林を抜け、核戦争が起こる前まで暮らしていた“サンクチュアリ・ヒルズ”────聖域の名を冠する住宅地に辿り着く。

 

「……これは……」

 

 道路の上には折れた樹木やタイヤなどのゴミが散乱しており、殆どの建物は年月の重みに耐えきれずに朽ち果てた姿を晒している。かつての高級住宅街の面影は見る影もない。

 

「家は、コズワースはどうなった……?」

 

 家の方はともかく核戦争の起きたあの日、家に置き去りにした家族の一員。家庭用ロボットであるコズワースがどうなったのかを確かめる為にネイトは我が家へと駆け出す。

 

 コズワースはネイトたち家族にとても良く尽くしてくれた。爆風で壊れてしまったのだとしたら、残骸が残っていれば家族の一員としてしっかりと弔ってやらねばならない。

 

 だが、もし─────爆風に耐えきり我が家に残っていたとしたら彼に謝罪をしなければならない。状況的に仕方がなかったとは言え、家族の一員である彼を置き去りにしてしまったのだから。

 

 そして、ネイトは我が家の周りの雑草を刈るMr.ハンディの機影を視界に捉える。ネイトが彼の姿を捉えたと同時に彼の方もこちらの姿を発見し、こちらへと近づいてくる。

 

「コズワース……」

 

「なんてことでしょう、本当に、本当に旦那様じゃないですか!」

 

 驚愕と感激の感情が多分に含まれた声を彼───コズワースは発する。爆風の影響か年月による風化か、ピカピカに輝いていた銀色の塗装はところどころ剥げ落ちてはいるがそれ以外はどこにも問題がないように見える。

 

「コズワース。俺はお前を置き去りにしてしまったことを謝罪しなければならない。どんな罰でも受ける覚悟はできている」

 

 頭を下げ、謝罪の言葉を私は口にする。コズワースから置き去りにした事を弾劾されることを、もっと言えば襲われる事を覚悟していた私は彼が口にした言葉を聞いて耳を疑った。

 

「謝る必要も罰を受ける必要もありませんよ、旦那様。ロボットである私は連れて行くことはできないとの話を聞いていましたから。仕方がなかったのですよ」

 

「だが……」

 

「いいんです、旦那様」

 

 自責の念に苛まれる私はコズワースのその言葉を聞き、幾分かは心が楽になった。

 

「ところで旦那様。奥様はどちらに?」

 

 ネイトの近くにいるべき妻がいないことを疑問に思ったのか、コズワースは問いを投げかけてきた。

 

「ノーラは……殺された。Vaultに侵入してきた武装した変な服装の奴らに」

 

「コズワース、奴らを見ていないか?」

 

「いえ、旦那様の言う条件に当てはまる人間は誰ひとり見てはおりません。と言うよりも、奥様が殺されたなどと……ありえません……!」

 

 コズワースは今の話を聞き、信じられないと言った様子で妻が死んだと言う事実を否定する。

 

「気分転換でもしましょうか。そうです!気分転換をして落ち着きましょう」

 

 頭部についている三つのアイカメラ内の人間の瞳孔にあたる部分を動揺しているからか激しく動かしながらコズワースはネイトに落ち着きを取り戻すよう言ってくる。

 

「お前の方こそ落ち着け、コズワース。……聞いてくれ、ショーンが攫われた。ノーラを殺した奴らにだ」

 

「俺は必ず息子を見つけ出し、奴らの手から取り戻すつもりだ」

 

 ネイトはコズワースへと自分が為すべき事を語る。私のその言葉を聞いたコズワースは数秒、間を置いたあと────

 

「思ったより酷いですね。ふむ、なるほど。どうやら……空腹誘発性パラノイアを患ってらっしゃる。二百年間きちんと食べないとそうなるんです」

 

 一瞬、何を言われたのかネイトには分からなかった。コズワースが発した言葉の内容に理解が追いついたとき、ネイトはコズワースに詰め寄っていた。

 

「二百年!?本当なのか!間違いじゃないのか!」

 

「間違いありません旦那様。実際には二百十年とちょっとですね、地球の自転と古いクロノメーターのせいで多少のズレはありますが」

 

 詰め寄られてもコズワースは三つのカメラアイで見返しながらネイトとは対照的に落ち着いた音声で否定の言葉を口にしなかった。

 

 ネイトは一歩、二歩後退るとその場で立ち尽くした。二百年と言うワードで脳内が埋め尽くされていた。

 

 

 二百年──────余りにも、余りにも永い。

 

 

 そして、少しずつ本当に少しずつ二百年の時間が経過したと言うことを飲み込み始めていると、我が家からアメリカ国民の食事として親しまれていた“砂糖の爆弾”の名前を持つシリアルであるシュガーボムが山盛りになった器と水の入ったカップが乗せられたトレイを持ったコズワースが出てきた。

 

「旦那様、食事をお持ちしました!二世紀ぶりの食事ですよ、ハッハッハッ……」

 

 笑い声を上げながらコズワースは器を差し出してきた。気のせいだろうか、ネイトは彼の笑い声が作った笑いに聞こえた。違和感を拭えなかったネイトはトレイを受け取ると、コズワースの様子を窺った。

 

「……コズワース、少し変だぞ。平気か?」

 

 ネイトの言葉を受けたコズワースは動きを止めると、今までとは一転して声を震わせながら内心を吐露した。

 

「……その、私……ああ、旦那様。本当に酷かったんですよ?二世紀もの間、話す人も仕える人もいなくて!」

 

「最初の十年は床のワックスを手入れしようと試みましたが、ビニールのフローリングについた放射性降下物を

除去できるものが何もないんです!何も!」

 

「あと、倒壊した家のホコリを払うのがいかに無駄か分かりますか!それと、車!車ですよ!どうやってサビを磨くんです」

 

 アームを倒壊した家と錆びに被われた車に向けこの二百年の間のことを声に苦痛を滲ませながらコズワースは語った。私はその間、黙って彼の話に耳を傾けていた。

 

 コズワースは人よりも長い寿命を持つロボットであり、加えて人間と同じように意志と感情を持っている。

 

 それが仇となった。なまじ自我を持っているだけに長い年月の間、仕えるべき主も話す相手もおらず帰ってくるかも分からない主人を待ち続けると言うのは想像を絶する苦しみだっただろう。

 

 だが彼はシステムを自らシャットダウンすると言う選択肢を、自殺するという選択肢を選ばなかった。それが意味するのは───

 

 二人の間に、沈黙の帳が下りる。そして動きを止めて何かを考えている様子だったコズワースは唐突に家の中に入るとアームにある物を掴んで帰ってきた。

 

「コズワース……」

 

「取り乱して申し訳ごさいませんでした。……これを」

 

 差し出されたある物──ホロテープをトレイを置いた私はコズワースから受け取る。

 

「このホロテープを見つけました。奥様が旦那様にプレゼントなさるおつもりだったのでしょう、サプライズで。それなのに………真に残念です」

 

「ありがとう。コズワース」

 

 私はコズワースに感謝の言葉を告げると受け取ったホロテープをポケットの中に入れた。

 

 今すぐにでも再生したいと言う気持ちが無いと言えば噓になる。

 

 私には為すべき事が山積しているため形見であるホロテープを聞いている時間すら惜しいと言う理由もあるが、今このホロテープを聞いてしまったら私は妻の仇を討ち息子を取り戻す旅路の一歩を踏み出せなくなる───

 

 だから、このホロテープに篭められたメッセージは全ての物事に決着をつけた後に聞くことにしようと私は決めた。

 

 ホロテープを受け取った私は、まず世界がどうなってしまったのかをコズワースに尋ねた。

 

 私の問いにコズワースは謝罪の言葉を最初に述べたあと、自分はこのサンクチュアリの外には一歩も出ておらず世界がどうなってしまったのかは全く分からないとの返答を返した。

 

 彼の答えに少なからず落胆した私だったが彼を責める事などできるはずがない。なにせ彼は仕えるべき主の帰りを待っていただけなのだから。

 

「どうする……」

 

「旦那様、私から一つ提案が」

 

「言ってみろ。コズワース」

 

 コズワースは一呼吸置くとサンクチュアリから直ぐ近くの町、コンコードに行ってはどうかと言う提案をしてきた。

 

 生きている人間がいるのかと言う私の問いにコズワースは肯定を返したあと、少々手荒な方達ですけどねと付け加えた。

 

 手荒な方達と言う言葉に嫌な予感を感じたが、私は二百年後の世界の情報をできるだけ早く手に入れる必要がある。即座に考えを纏め、嫌な予感を心の隅に追いやり私はコズワースの提案の通りコンコードへと向かう事に決めた。

 

「私はここに残って銃後を守ります」

 

「分かった。用心しろよコズワース、危ないと思ったら迷わず逃げろ」

 

 コズワースにそう言ったあとネイトはトレイを持つと二百年ぶりに自宅に足を踏み入れ、トレイを食卓に置くとボロボロになった自室へと足を踏み入れた。

 

「……二百年間も経てばこうなるか」

 

 ドアはなくなり、自室に飾ってあったポスターや装飾品の類は風化により痛んでおり木製のベットは腐り落ちていた。ベッドの残骸を退かし、ベッド下に備え付けられている隠し金庫のロックを外すと金庫の中身を取り出した。

 

「また使う時が来るなんてな」

 

 私が金庫から取り出したのはライフルに予備弾倉、弾薬箱、各種グレネードにアーマー、ヘルメット、タクティカルベスト─────戦前のアメリカ陸軍が兵士達に支給していた装備だ。

 

 軍から退役したあと万が一の時を考え上官と交渉し、入手した。治安の良い高級住宅街に住んでいたと言う事もあり使用する機会が訪れる事は無く、私自身も使用する機会は訪れないと思っていたのだが─────

 

 弾丸の状態の確認及び銃器の動作確認の結果、弾丸の状態は問題なし。二百年もの間メンテナンスをしていなかったのにも関わらず、ライフルは暴発する事なく正常に動作した。

 

 10㎜ピストルもそうだが、まともなメンテナンスをせず二百年経過した後でも問題なく動く銃を作り上げた戦前の銃器メーカーの技術力に改めて驚嘆の意を抱く。食事を済ませると私は防具を装着し、荷物を纏めると家の外に出る。

 

「いってらっしゃいませ旦那様。くれぐれも気をつけてください、奥様とショーン坊ちゃんに続いて旦那様まで失う事になったら私は───」

 

「安心しろコズワース。ショーンを取り戻して、三人でまた一緒に暮らすまでは死ぬつもりはない」

 

 そして妻の仇を討つまでは。コズワースに見送られながら私は橋を渡りサンクチュアリを出る。

 

 左手首に嵌まるPip-boyを操作すると、緑色のディスプレイにコンコードまでの道のりが表示される。道のりを確認した私はコンコードが位置する場所へと視線を向ける。

 視線の先には荒れ果てた大地と空を覆う鉛色の雲。嫌な予感を感じつつもネイトは情報を入手するべくコンコードへと続く道へと一歩を踏み出すのだった。

 

 




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