ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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三話

「……すっかり変わってしまったな」

 

 ネイトは眼前に広がる核戦争によって荒廃しきった大地と大地に生える茶色に変色した雑草、そして毒々しい紫色の果実を実らせる未知の植物を見て自分の知る世界は既に存在しないのだと改めて実感した。

 

 そしてサンクチュアリとコンコードの中間辺りに存在する、屋根に飾られている赤色のロケットのモニュメントがトレードマークの『レッドロケット・トラックストップ』と呼ばれるガソリンスタンドにネイトたちは差し掛かった。

 

 モニュメントの塗装は剥げ、骨組みは剥き出しの廃墟と言える外観の店を見ながら車の給油をする時に良く使っていた事を懐かしく思い返していると、不意にネイトの耳に犬の鳴き声が聞こえてきた。

 

 鳴き声が聞こえてきた方向を振り向くと、こちらを警戒しているのか牙をむき出しにして身構える犬がネイトたちから数歩離れた場所にいた。

 

 そうなのかと頷くとネイトはこちらを警戒する犬へと視線を向ける。薄汚れてはいるが、よく見れば愛らしい顔立ちをしている。犬が特別好きと言う訳ではないが、この犬に何か惹かれる物を感じたネイトは犬へと挨拶をする。

 

「やあ。こんなところで何をしてるんだ?」

 

 挨拶を受けた犬はしばしの間、警戒を弛めなかったがネイトの事を警戒しなくてもいい人間だと感じたのが警戒の姿勢を弛めるとこちらへと歩み寄ってきた。

 

 お座りの姿勢でネイトの顔をつぶらな瞳で見てくる犬の頭を私はやさしく撫でようとしたが、その行動は地中から現れた邪魔者によって中断されることとなった。

 

「何だ!?」

 

 地中から現れたのはピンクに近い肌色の肌と黄ばんだ鋭い牙を持つ犬と同程度の大きさの醜悪な生き物だった。前に一体、左右に一体ずつ、音からして後方に一体いる筈だ。

 

 左手首に嵌まるPip-boyが地中から現れた生き物から敵性反応を検知し、ディスプレイにDNGERの文字を表示すると共にアラーム音を脳内に響かせる。ライフルを構え、照準を前方の敵に合わせる。

 

 

 来るか。軍人の勘が次の瞬間に奴らが攻撃してくることを告げてくる。事実、地中から現れた生き物───『モールラット』と呼ばれる放射能によって巨大化した元はハダカデバネズミと言う名の生き物は目の前の獲物を狩る準備を整え終え、次の瞬間襲いかかろうとしていた。

 

 一対四、数ではこちらが圧倒的に不利。相手の一体の脳天に風穴を開けている間にこちらは残りの三体の攻撃を喰らってしまうのは避けようがない算段だ。

 

 が。その結果を覆し、相手側の攻撃の一切を喰らわずに相手側を全て仕留める事ができる手段をネイトは持っている。ネイトの部隊が以前、戦場にて使用していた機能が左手首に嵌まるPip-boyには搭載されている筈だから。

 

 そして、モールラット達が脚部の筋肉を総動員して獲物に襲いかかろうとしたのと私の思考をインプラントを介して検知したシステムが起動したのは同時だった。

 

『V.A.T.S』

 

 Pip-boyが内部に搭載された戦闘支援システム───Vault-Tec Assisted Targeting systemを起動させる。画面が一瞬ノイズに覆われ脳の中枢に痺れが奔る。

 

 起動と同時にシステムは身体へと作用を及ぼす。戦闘に突入し、只でさえ鋭くなっていた神経がシステムにより極限まで研ぎ澄まされ自身を除く全ての物体の動きがスローモーションになる。

 

「標的への命中率を表示」

 

 前方と左右、そして後方の敵の体の部位が緑色の枠組みでロックされ敵の動作や彼我の距離から算出された命中率が枠組みの中に表示される。各部位に表示された数値は殆どが95%と言う高い確率だった。

 

 それで十分。腰から取り出した10㎜ピストルの銃口を鈍重な動きでこちらに迫る敵の頭部へと向けると引き金を引く。

 

 手前の敵が頭部に空いた穴から鮮血を噴き出しながら絶命したのを確認する間も惜しんで、次の行動に移る。

 

 左側のモールラットの脳漿が地面に飛び散り、続いて右側のモールラットに向けて発射された弾丸はその皮膚を突き破り心臓にあたる部分を貫くと体内へと埋まりその役目を終えた。

 

 そして最後に牙を剥き出し、間近まで迫った敵の眼球に一発。視界の片方が欠如したことにより怯んだ敵へ引き金を引く。

 

 後に残ったのは四匹のモールラットの死体、それから流れ出した血溜まりの最中に佇むVaultスーツの男、そして犬だけだった。

 

 敵性反応が全て消失した事を検知したPip-boyがビープ音の後にシステムを停止させる。周囲の動きが元通りになり、研ぎ澄まされた神経が平常時の落ち着きを取り戻す。

 

 それと同時に人智を超えた動きの代償として脳の中枢に一気に負荷が押し寄せてくる。数秒の間、脳の中枢に生じた激痛を奥歯を噛み締めながら堪える。

 

 システムを使用する限り、この痛みは必ずつき纏う事となる。だがこれでも以前よりは負荷が軽くなっているとネイトは感じた。ネイトの部隊が上層部からの命令で試験運用していたモデルに搭載されていたV.A.T.Sの負荷は戦闘終了後、部隊内で絶叫する者や失神する者が現れる程の激痛を伴ったのだから。

 

「堪えられるだけ、まだマシか」

 

 V.A.T.Sを使用し瞬く間に四匹の敵を屠った私の動きに興奮したのか犬は私の周りをぐるぐると回っている。

 

「飼い主とはぐれたのか?」

 

 返答はない。首輪などがついていない事や雰囲気から見るに野生の犬なのだろうか。

 

「行く当てがないなら一緒に来るか?」

 

 その言葉に反応し、犬は嬉しげに吠え声を上げた。ピストルの弾倉を交換するとネイトたちは鉛色の空の下、今度こそコンコードへと続く道のりを歩き始めた。

 

 

 ■■■■

 

 

「静かに」

 

 ネイトは潜めた声とジェスチャーで犬に声を出さないように伝えた。聞き間違いでなければ今、奥の方で────

 

「発砲音か」

 

 ネイトたちの耳には銃声と複数の男女が発した罵声が届いていた。ネイトは犬に、ここで待機するようジェスチャーで伝えると奥で何が起こっているのかを確かめるために足音を殺し、自身の姿を晒さないようにして町の奥へと近づいていく。

 

 そして町の奥に辿り着いたネイトは何が起こっていたのかを知る事となる。町の奥では革や鉄板などを組み合わせて作られた防具を身に纏った男女が遮蔽物に隠れながら周囲の建物のよりも二回りほど大きい建物のバルコニーへと罵声を上げながら手にした銃器を撃ちまくっていた。

 

 そして彼らがリロードする間に手にマチェットを握った彼らの内の一人がその建物へと侵入しようとした瞬間、バルコニーから身を乗り出した人物が持つ武器から放たれた深紅の光線がその男を貫き、男の体を一瞬にして蒸発させると雪と見間違うほどに白い灰の山に変えた。

 

「レーザーライフル……なのか?」

 

 ネイトは屋上の男が手にする19世紀頃の兵士が戦場で使っていたマスケット銃のような形状の武器を見て、困惑混じりの声を漏らす。

 

 ネイトの知る光学兵器と言えばコンバットライフルと同じ位多くの兵士に支給されていたレーザーライフルか一部の士官や部隊長など限られた兵士たちへ優先的に支給されたプラズマライフル位だ。見た目から察するにレーザーライフルの部品を使った手製の武器だろうか。

 

「クソッタレが、ぶっ殺してやる!」

 

「死ねやぁ!」

 

「久々の獲物だ!絶対に逃がすなよ!!」

 

 

 仲間を殺され、無法者たちの攻撃と罵声は更に激化する。男が遮蔽物として利用していたベランダの柵が無法者たちの放った弾丸によって木片を撒き散らして弾き飛ばされる。それと同時にバルコニーにいた男は建物内へと転がり込む。

 

 多勢に無勢。建物内から銃声が聞こえる所からして無法者たちは建物内にもいるらしい。無法者を相手に戦う男は無駄のない洗練された動きからして兵士か何からしいが、このまま戦闘が続けば数で勝る無法者が勝つだろう。

 

 

 どうする───────

 

 

 話し合いなどできる訳がない。戦闘中だからと言う理由ではなく無法者たちの言動と行動────そして彼らの理性を失った目を見る限りでは話し合い自体が成立しない可能性が極めて高いと考えたからだ。

 

 となれば、残る選択肢は二つ。一つはこの町での情報収集を諦めて別の町かどこか人が集まる場所で再び情報を集めると言う選択肢。もう一つは建物内外の無法者を排除し、まだ話せる可能性がありそうな兵士風の男から情報を得ることだ。

 

 二つ目の選択肢を採った場合、かなりのリスクを背負うことになる。多数の無法者を相手にするのは危険だろうし当然ながら弾薬や治療薬を消費しなければいけない。この可能性は低いだろうが、助けた男が情報を提供しないと言う可能性も捨てることはできない。

 

 メリットとデメリットで考えれば一つ目の選択肢を選んだ方が負うデメリットは少ない。しかしネイトはその事を理解した上で二つ目の選択肢を選ぼうとしていた。

 

 理由はただ一つ。バルコニーで無法者たちを一人で相手取る男の背後に数人の一般人らしき姿が見えたからだ。状況を把握したネイトは無法者たちから一般人を守るべく行動を開始することにした。

 

 あらかじめ気配を消しておいたと言うのもあるが、無法者たちは意識を屋上の男にのみ向けていた為に自身の頭部へと銃口を向ける敵の姿に気付くことはなかった。

 

 立て続けに四発の銃声が町に鳴り響く。放たれた四発の弾丸は空気を切り裂きながら無法者たちの頭部を貫通し、反対側へと抜けていった。何が起こったのかを理解する間もなく命を絶たれた無法者たちが地面へと倒れ伏す。

 

 奇襲は成功。残った無法者が何が起こったのか理解し仲間を殺害した襲撃者へと標的を移すが、その隙を男が見逃す筈もなく深紅の閃光に貫かれる。

 

「入植者のグループが中にいる!レイダーたちがドアを開けて中に入ってきそうだ、助けてくれ!!」

 

「分かった!」

 

 バルコニーの上から届いた声に返事をするとネイトはPip-boyのディスプレイに視線を向け、外にはもう敵がいない事を確認するとレイダーと呼ばれる無法者たちが多数いる建物に近づいていく。

 

「コイツを使うか」

 

 入り口の扉横に移動すると私はタクティカルベストに取り付けてあるポーチから閃光手榴弾を取り出す。そしてピンを抜きレバーを確認し、扉を素早く開けると手榴弾を二階に立っていたレイダー目がけて投じる。

 

 爆音と閃光が建物内を満たす。直前に扉を閉め、光を遮っていた事とヘルメットに備え付けられたヘッドセットが音を遮断していた為にネイトは無事だったが、建物内から聞こえてくる悲鳴を聞くにレイダー達は視力と聴覚が使い物にならなくなったらしい。

 

 呼吸を整え、ライフルを構えながら扉を蹴破る。正面及び左右に敵がいない事を瞬時に確認すると近くの遮蔽物に身を隠し、二階で身動きできずにいるレイダー数人に銃弾を撃ち込み体に赤い花を咲かせてやる。

 

 即座に遮蔽物から通路へと移動したネイトは不運なことに様子の確認に来たレイダーと鉢合わせした。突然の遭遇に動揺したレイダーよりもネイトの方がトリガーを引くまでの動作が早かった。

 

 レイダーを射殺したネイトは迷う素振りを見せず館内を進む。過去に家族でこの博物館を訪れた事があったネイトは内部の構造をある程度は把握していた。彼らが立て籠もる最上階へとレイダー達を片づけながら進んでいく。

 

「ウラアアアァァ!!」

 

 通路の曲がり角から有刺鉄線を巻きつけたバットを持ったレイダーが奇襲を仕掛けてくる。咄嗟に上体を屈めて横薙ぎに振るわれたバットを回避したネイトは反撃に移った。

 

 レイダーの頭部に渾身の力を込めてストックを叩きつける。バットを手放し絶叫しながら顔を抑えるレイダーを蹴り倒すと銃の引き金を引いて悲鳴を止める。

 

「ヒーロー気取りか?クソッタレがぁ」

 

 特徴的な髪型のレイダーは仲間達の断末魔と銃声から自分のいる最上階へと敵が迫っている事を確信する。幸いなことに最上階に続く階段は自分の近くにある一つだけ。

 

 足音が一切聞こえない事を不気味に感じながらも階段近くの遮蔽物に身を隠しながら頭と腕を出して敵が射線上に入るのを待っていたレイダーは自身から少し離れた場所に不意に投じられたグレネードを見て即座に遮蔽物に身を隠し耳を塞いだ。

 

 投じられたのはスタングレネード。爆発時に発生した閃光は遮蔽物に遮られたが聴覚を狂わせることには成功した。耳を塞ぐ努力も虚しく聴覚を使えない状態になったレイダーはパニックに陥り敵の接近を許した。

 

 手早くレイダーを始末するとネイトはレイダーの死体を後に入植者のグループがいる部屋へと歩いて行く。

 

 




 今作のv.a.t.s.はゲーム内の描写を踏まえて、pip-boyのバージョンアップに伴って機能が封印されていたがネイトの脳内に埋め込まれたインプラントがシステムを強引に起動させているという設定にしました。
 
 
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