ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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四話

「やれやれ。アンタが誰かは知らないが、タイミングが完璧だったな。プレストン・ガービー、コモンウェルス・ミニッツメンだ」

 

 部屋に入った私を出迎えたのはハットを被り、つぎはぎだらけのロングコートを羽織ったプレストン・ガービーと名乗る男だった。男は助かったよと感謝の言葉を述べてきた。部屋の中を見渡すと男の他に五人、一般人らしき人々が一人を除いて部屋に入ってきた私の事を注視していた。

 

「ネイト・ブラックウェルだ。役に立てたのなら幸いだ、それよりも……ミニッツメン?」

 

 ミニッツメン─────今から数えて何百年も前、アメリカ独立戦争の時に活躍したとされる民兵組織の名前だ。確か招集されてから一分で駆けつけると言うのが名前の由来だったはず。

 

「助けが必要な人々の元に迅速に駆けつける。それが意図だったんだ。俺もその理念に賛同した内の一人さ、実際にミニッツメンの活動で俺たちが今いる連邦は多少なりともマシになったんだ」

 

「だが、それも過去の話だ。ある事がキッカケでミニッツメンはバラバラになった。……残るミニッツメンは俺だけだ」

 

 話が後になるにつれ話を語るガービーの表情は苦悶の表情に歪み、声からは抑えられず溢れだした苦痛と何者かに対しての深い憎悪の念が感じられた。

 

 ネイトの視線に気づいた彼はすまないと謝罪の言葉を口にしたあと、自分達がレイダーたちに追いつめられていると話し、引き続き協力してくれないかと頼んできた。

 

「分かった、引き受けよう。ただし、このゴタゴタが片付いたら依頼分の対価は払ってもらいたい」

 

「ああ、いいだろう」

 

 対価を払う事をガービーは約束した。話が上手く運んだ事を神に感謝すると同時に入り口の方からレイダー達の増援が来た事を知らせるコズワースの声が聞こえてくる。

 

 ネイトとガービーがベランダから町の様子を窺うとネイトと犬が来た道から数十人のレイダーたちがネイトたちがいる博物館へと接近してきているのが遠目に確認できた。

 

 手持ちの装備を全て使ってもあれだけの数のレイダーを相手取るのは不可能だろう。ネイトはレイダー達からガービーへと視線を向け、何か策はあるかと尋ねる。

 

「ああ、一つだけな。スタージェス教えてやってくれ」

 

 ガービーの言葉を受け机の上に置いてあるターミナルを操作していたスタージェスと呼ばれた男が操作を止めて私の方へと向き直りレイダー達を打倒する為の策について話し始めた。

 

「屋上に墜落したベルチバードがある。戦前に軍が使っていたヤツだ。まぁ、そのベルチバードの乗客がかなり楽しいシロモノを置いていった訳だ」

 

「T-45パワーアーマーのフル装備一式。所々痛んじゃいるがフレームとパワーアシスト機構は無傷だ、動作に支障はない。ソイツを使えばベルチバードに付いてるミニガンをもぎ取ってレイダー達に地獄への特急券をプレゼントできる。分かるか?」

 

 戦前のアメリカ軍の技術の粋を集めて制作された機械化歩兵技術の頂点であり、通常の銃器はおろかミサイルランチャーの直撃にも耐えうる装甲を持ちパワーアシスト機構によって装着者に重火器を単独で持ち運べる力を与えるパワーアーマー。

 

 そしてベルチバードに搭載されているピストルやライフル等とは比べ物にならない圧倒的な火力を誇る銃火器、ミニガン。

 

 

 この二つがあれば─────

 

 

 

「いけるかも知れないな」

 

「かもじゃなくて、いけるんだよ。アーマーを復活させる事が出来ればな。燃料が全くないんだ」

 

 スタージェスは苦々しげにそう呟き、電源は入るんだがねと付け加えた。絶大な力を装着者に与えるパワーアーマーも燃料が無ければ単なる鉄の棺桶と化す。私が彼とガービーに解決策はないのかと聞くとガービーが解決策を口にした。

 

「アーマーを復活させるのに必要なのは戦前の古いF.C.、標準型フュージョン・コアだ。ハイグレードな長期型原子力電池で、かつて軍や企業の設備の動力源として使われていた。ソイツがこの建物の地下にある」

 

「だが近づけない。鍵の掛かったセキュリティゲートの向こうにある。ゲートを開くには錠を開けるかコンピューターをハッキングするしかない」

 

「俺たちではゲートを開ける事はできなかったが、アンタならやれるかも知れない」

 

 過去にピッキングとハッキングの心得を同僚や知り合いが教えてくれたが、まさかこの技能を使う時が来るとは夢にも思わなかった。軍や企業のセキュリティは難しいが博物館のセキュリティ程度なら問題なくハッキングできる筈だ。

 

「そこまで難しくはない筈だ。やってみよう」

 

「そうか………ようやく俺達にも幸運が訪れたようだ。レイダー達もミニガンを持ったパワーアーマー姿のアンタを見れば喧嘩を売る相手を間違えた事が分かるだろうよ」

 

「行ってくれ。俺が時間を稼ぐ」

 

 そう言うとガービーはベランダから博物館へと迫るレイダー達へと狙撃を開始した。私も地下にあるフュージョン・コアを入手するべく地下へと向かおうとした。

 

 その間際───

 

「気をつけて。レイダー達とは別の強大な怒りを感じる」

 

 部屋の椅子に座っていた老婆が私へと忠告をおくってきた。私はその大きな怒りとは何かを尋ねようとしたが時間も差し迫っていた為に断念し、曖昧に頷きを返すと地下へと向かった。

 

「これか」

 

 地下のセキュリティゲート前に辿り着いた私は扉横の壁に設置されているターミナルへとハッキングを開始した。ロブコ社が開発した民間、軍事を問わずアメリカ国内のターミナルで幅広く採用されていたOSの名前が表示されディスプレイが単語と記号で構成された文字列で埋め尽くされる。

 

 

 ロブコ社が開発したこのOSはある重大な欠陥を抱えている。不正侵入しようとした際に表示されるこの文字列の中に一つだけ正解のパスワードが混じっているのだ。戦前ではその欠陥を悪用したハッキングが後を絶たず私の知り合いもその欠陥を利用して不正を行っていたらしい。

 

 試行回数は四回。時間も限られている────が、焦ってハッキングできる回数を無為に減らす訳にはいかない。知識と経験を頼りに私は文字列の中から、ある単語を選択すると決定のキーを押した。途端に文字列が消えディスプレイにゲートを解錠するか否かの選択肢が表示される。

 

 ゲートを解錠した私は機械に刺さっているフュージョン・コアを取り外すと再び階段を上りパワーアーマーとミニガンがあると言う屋上へ向かう。

 屋上に続くドアを開けた私は主翼が折れ曲がり墜落したベルチバードとその近くに佇む風雨に晒され錆にまみれたパワーアーマーを確認し、手早く作業に取りかかった。

 

 フュージョン・コアをバルブ型の部品の中央に空いている接続部分に差し込む。接続されたコアから溢れるエネルギーが百年の時を経て再びパワーアーマーへと命の息吹を吹き込む。アーマーの間接部に存在するサーボ機構やパワーアシスト機構が動力を得たことによって動き出す。

 

 バルブ型の部品を回すと私を迎え入れるようにして背面の装甲が開放され内部のフレームが露出する。

 

 携帯していた装備を一旦外し、開いた背面部からアーマーに入ると自動で背面の装甲が閉じバルブが強固にロックされる。

 

 ヘルメット内のモニターにはアーマーの状態が表示されており、表示された項目に目を走らせる。

 

 頭部装甲・胸部装甲・左腕装甲・右脚部装甲は異常なし。右腕装甲と左脚部装甲に深刻なダメージ。暗視装置使用不可。フィルター、フレーム、パワーアシスト機構、間接部のサーボ機構は問題なし。

 

 そして最後にPip-boyをパワーアーマー内部のコンピューターと接続するとネイトは駆動音を鳴らしながらベルチバードへと歩み寄る。

 

「パワーフィスト……一応、拾っておくか」

 

 ベルチバード内には近接兵器であるパワーフィストが放置されていた。アーマーの腰部分に設けられた武器を携帯する為の箇所にフィストとコンバットライフルを取り付ける。

 

 ベルチバードからミニガンを外しネイトは屋上から路面へと飛び降りる。重低音と共に着地したネイトはレイダー達にその眼差しを向ける。

 

「行くぞ」

 

 二百年の時を経て覚醒したアンカレッジの英雄とT-51に戦場の主役を譲り一線を退いた旧式パワーアーマーのコンビと仲間達の報復に燃えるレイダー達との戦いが始まろうとしていた。

 

 

 ■■■■

 

 

 前触れもなく屋上から落下し爆音を立てて路面に降り立ったパワーアーマーの姿を視認したレイダー達が採った行動は三つに分かれた。

 

 一つ目は咄嗟に勇敢にも手に持った獲物の引き金を引き、二つ目は目の前のパワーアーマーが手にする巨大な重火器を見て咄嗟に近くの遮蔽物へと隠れ、三つ目は踵を返し元来た道を全速力で駆け出した。

 

 前方のレイダー達に照準を合わせ銃爪を引く。ミニガンの銃身が回転し、弾倉に詰まった大量の弾丸が銃身を通り銃口から放たれ前方のレイダー達へと殺到する。遮蔽物へと隠れたレイダーを除いたレイダー達はものの数秒の内に全身を銃弾の雨に貫かれ路面には四肢や頭部が欠損した赤とピンクの肉塊が転がる。

 

「ひぇあぁあぁっ!!」

 

 遮蔽物へと隠れ銃弾の雨から逃れたレイダーの一人が路面に転がる人だったモノの残骸を見てタガが外れたような甲高い悲鳴を上げた。圧倒的な恐怖を感じたそのレイダーは遮蔽物から飛び出し路地を通って逃げ去ろうとした。

 

 それを見逃す筈も無く、そのレイダーも仲間達と同じように銃撃によって全身を貫かれ地面へと倒れ伏す。

 

 残弾を確認し、残ったレイダーを屠るだけの弾数がある事を認めると私はミニガンを構えて一歩踏み出そうと──────

 

「オアアァァアァァア!!!」

 

 突如、数メートル先の路面を突き破り町の地下に張り巡らされている巨大な配管から“ナニカ”が絶叫と共に這い出してきた。

 

 本能的な恐怖を呼び起こす叫び声はその場にいた全員の背筋に戦慄を走らせ皮膚を粟立たせた。必然、視線は配管から這い出してきたソイツに釘付けになる。

 

 全身は硬い質感の緑色の皮膚で覆われ、その体は人間とは比べ物にならないほどに隆起した筋肉の塊と呼ぶに相応しい物だった。頭頂部からは対になる湾曲した角が生えており、眼球は真っ白、しかし物は見えているようで私たちを凝視しており視線を向けられたネイトは体が硬直した。

 

 間違いない。アレが老婆の言っていた“強大な怒り”だ。

 

「デスクローだ!!」

 

 レイダーの誰かがソイツの名前を口にした。死の鉤爪────その声を聞き取ったデスクローは確かにその鋭い牙が並ぶ口元を歪めてネイト達の元へと突進してきた。

 

「ぎぇあ」

 

 デスクローに最も近い場所にいたレイダーの一人がデスクローの鋭利な刃物を想起させる鉤爪に引き裂かれ、臓物と鮮血を地面に撒き散らして絶命する。

 

 その光景を見て我に返ったネイトはヤツは最優先で排除しなければならない敵だと判断し、ミニガンの照準をレイダーからデスクローへと移すとこちらに突進してくるヤツへとマガジン内の弾丸を全て使い切る覚悟で引き金を引いた。

 

 ネイトは引き金を引きながら瞠目した。化け物とは言えミニガンの銃撃を浴びればレイダー達と同じように数秒で肉塊に変わるだろうと思っていた彼は銃撃を浴び全身から血を滴らせながらも勢いを緩める事なく突撃してきたデスクローに完全に意表を突かれた。

 

 回避する間も与えずに距離を詰めたデスクローは右拳をネイトの胴体へと叩き込み、胴体への直撃を喰らった彼は近くの店へと吹き飛ばされた。数瞬の間訪れた浮遊感は直後に鋼鉄の装甲越しに全身に伝わってきた凄まじい衝撃によって途絶される。

 

「不味いっ!」

 

「待ちな!プレストン、今は撃つと時じゃない。まだ撃つんじゃないよ」

 

 援護しようとした所を止められ、何故といった表情で睨まれてもママ・マーフィーは動じることなくガービーを見据えた。ネイトと彼女の両者に視線を彷徨わせたガービーは今まで自分たちを危機から救ってくれた彼女の言葉を信じることにした。

 

 店のショーウィンドウへと叩きつけられたネイトはパワーアーマーの計器が警報を鳴らす中、鼻と口から粘着質の液体を垂らしながら朦朧とする意識の中で記憶の海を漂っていた。

 

 人が命の危機に晒された時に見るという走馬燈、フラッシュバックと呼ばれるモノを私は体験していた。過ぎ去りし日々の情景が鮮明に、コマ送りで再生される。そしてぼんやりとそれを見ていた私は最後の方のある一コマに目が止まった。

 

 傭兵のような男と赤子を抱えた防護服を着た女、そして冷却ポッドの機内に倒れている額に穴が空き、そこから真っ赤な血を滴らせている女性。

 

 忘れもしない、あの光景だ。

 

 記憶に刻まれた光景が明確な形を持って私の視界に映った事で心の奥底に溜まっていた憎悪と憤怒が燃料を得て再び燃え上がった。

 

 ここで斃れる訳にはいかない。妻を殺した奴らをこの手で殺すまでは。息子を奴らの手から取り戻すまでは。

 

「───────ッッ!」

 

 激情を起爆剤として覚醒と無意識の狭間を漂っていた意識が表層へと浮上する。同時に搭乗者であるネイトが負傷した事をPip-boyを経由して検知したコンピューターがアーマーに搭載された機構を作動させる。

 

 ネイトが着用してるT-45は投薬ポンプを装備したタイプだった。投与された医療用ナノマシンが傷ついた内臓を修復し、身体を動かせる状態にまで回復させる。

 

 口内に溜まった血を無理やり呑み込むとネイトは真っ赤に染まった視界でデスクローの姿を捉える。

 

 居た。動かなくなったレイダーの四肢を引きちぎり口内へと運びながら、悠然とした足取りで近づいてくる奴の姿を真紅に染まった視界が捉える。

 

 モニターに表示された項目を一瞥し、まだアーマーが問題なく動作する事を確認したネイトは腰からフィストを外すと右腕に装着。左手にライフルを装備する。

 

 ネイトが起き上がる気配を感じ取ったデスクローは食事を中断し、唸り声を上げつつネイト仕留め損なった獲物の命を今度こそ刈り取るべくその鋭利な爪を振るう。

 

「V.A.T.S.!!」

 

 V.A.T.S.を起動。飛躍的に高まった反応速度を以て本来ならば視認するのも難しい速度の一撃を回避する。なまじ半端な知性を有していたのが仇となった。デスクローは常人の域を外れたネイトの動きに驚愕の感情を覚え、一瞬だが隙が生まれた。

 

 その一瞬の間をついて後方に下がったネイトは即座にV.A.T.Sを停止させ、構えたライフルの銃口を燃料タンクに向けて引き金を引く。弾丸がタンクを貫き、容器の破片を四方に飛び散らせながら爆発する。

 

 タンクは足元付近に存在した為、爆発を至近距離で受けたデスクローの全身は炎に包まれヘルメットのフィルタ越しにオイルと表皮の焼ける悪臭が鼻に届く。

 

 眼前の敵はミニガンの銃撃ですら通用しなかった化け物、爆発自体のダメージをネイトは期待していない。ネイトの目的は爆炎によって視界を奪う事にあった。

 

「オオオッッ!!」

 

 ライフルを放り投げると、サーボへの負荷を無視して出力を限界まで上げた状態で路面を蹴り、出鱈目に振るわれた爪を避けてデスクローに肉薄したネイトは無防備な腹部へとパワーフィストが装着された右拳を叩き込む。

 

 パワーアーマーの規格外の膂力によって強化された拳の一撃はデスクローの頑強な皮膚をもってしても威力を吸収しきれなかった。

 

 拳が腹部にめり込むのと同時にパワーフィストの機構が作動。先端の金属パーツが飛び出し、更なる一撃がデスクローの臓腑にダメージを与える。

 

「グオオオオッ」

 

 口の端から血の混じった唾液を垂らしながら腹部への痛烈な攻撃を喰らったデスクローは後方へと大きく後退した。後方へと下がったデスクローへと踏み込み距離を詰め追撃の姿勢をとる。

 

 纏う雰囲気がガラリと変わったのを見るに奴は自分を脅威と見なしたらしい。今までとは比べものにならない濃密な殺意を浴びながらもネイトは臆する素振りを欠片も見せなかった。

 

 ネイトがパワーフィストの一撃を再び叩き込もうと腕を伸ばす。しかし拳が届くのよりも早く、先とは段違いのスピードでデスクローの爪がネイトへと振るわれた。

 

 雰囲気の変化を受け事前に警戒していた事とかつての戦いで培われた戦士の本能と言うべき感覚が二百年ぶりに働いた事でネイトは振るわれた爪の直撃をギリギリ避けた。

 

 直撃は免れたが爪の先端が装甲を掠めた。並みのミュータントの攻撃ならパワーアーマーの堅牢な装甲には擦り傷をつけただけで終わりだ。

 

「グッ!!?」

 

 しかし、ウェイストランドに跋扈するミュータントの中でも最上位に位置するデスクローの爪の一振りは掠めただけでもアーマーの装甲を容易く引き裂くだけの威力を秘めていた。

 

 デスクローは直ぐ様、次の攻撃を繰り出そうとするが直前に腹部に放たれた拳を喰らい口から血の塊を吐き出す。

 

 パワーアシスト機構の恩恵を受けた蹴りはデスクローの分厚い皮膚を通り先と同じ場所に命中。強靱な骨格にヒビが入り臓器の幾つかに深刻な損傷を与えたのを殴ったときの手応えからネイトは確信する。

 

 さしものデスクローも連続して同じ場所に重い攻撃を喰らうのは堪えたのか、その巨体を僅かにぐらつかせる。

 

 生まれた隙を逃す訳にはいかない。追撃を加えようとしたネイトだが、この状況に置いて致命的な異常が起きた事で足が強制的に止まる。

 

 ヘルメットの内のモニターに脚部のフレームと間接機構に異常発生と言う項目が一瞬の間、表示される。異常は一時的な物で直ぐに復旧したが隙を突くタイミングは失われた。

 

 奇しくも両者ともに体勢を整える為に大きく距離を置く。ネイトはモニターに表示される身体状況とフュージョンコアのエネルギー残量に目を走らせる。

 

 それらの項目から次の攻防で決着をつけなければ自身の敗北が確定することをネイトは理解すると視線をデスクローに向け、口を開いた。

 

「かかってこいよ化け物。終わりにしよう、この殺し合いを」

 

 ネイトの言葉を聞いたデスクローは意味を介したのかどうかは分からないが、獰猛な笑みを浮かべた。ネイトもそれを見てヘルメット内で笑みを浮かべる。

 

 火蓋が切られる。デスクローは道路に野晒しになっていたバイクを無造作に摑むとネイトに向けて投じた。

 

「なんッ────」

 

 今、この時に来て見せた知性を感じさせる新たな攻撃にデスクローを己の肉体のみで戦う獣だと認識していたネイトは完全に意表を突かれた。

 

 反応が遅れ本来なら回避できた筈の攻撃をネイトは

避け損なった。ネイトに向けて真っ直ぐ飛来したバイクは胴体に直撃し、彼の体勢を大きく崩した。

 

 決着をつける為に眼前の敵へとデスクローは疾駆する。満身創痍と言っても過言ではない状態の筈なのに、いや追い詰められたからだろうかその速度は異常とも言えるレベルで速かった。

 

 ────来る。このままでは体勢を立て直す前に引き裂かれると理解したネイトは時間を稼ぐため、仲間の力を頼った。

 

「ガービー!!眼を狙え!!」

 

 そしてデスクローが腕を振りかぶるのと同時に背後の博物館のベランダから放たれたレーザーの光がデスクローの眼球に寸分違わず命中、目の水分を即座に蒸発させる。

 

 完璧な不意打ち。外野からの思わぬ攻撃を受け片方の視界を熱線で潰されたデスクローは、足の動きを一時的に止めざるを得なかった。

 

 そして生じた隙を使いネイトが体勢を立て直すのと同時にデスクローも残った眼球でネイトの姿を捉えると叫び声を迸らせながら再び距離を詰めるべく駆け出す。

 

「グオオオオオッッッ!!!」

 

「V.A.T.S!!!」

 

 空気を裂き、幾多の生物を屠った爪が迫る。システムが脳神経に作用し五感を通して得られる情報の処理速度と反応速度が爆発的に引き上げられる。

 

「遅いぞ!!」

 

 横薙ぎに振るわれる血濡れの爪の軌道を見切ったネイトは身を屈める事で回避、振るわれた爪は獲物を引き裂く事なく空を裂くだけに終わる。

 

「ウオオオオッッ!!!」

 

 ネイトは一歩踏み込みデスクローの顎に渾身の打撃を叩き込む。二段階の攻撃によって強靱な骨に守られた脳髄に衝撃が届き、脳を揺らされたデスクローはグラリと体勢を崩す。

 

 体勢を崩したデスクローの胸部、先の攻撃でダメージを蓄積させた場所を狙ってネイトはこの一撃で決着をつける覚悟で右腕を突き出す。

 

 ヒビの入った骨が砕け、中の臓器が完全に破裂。デスクローは口の端から血を止めどなく溢れさせながら鈍重な動きで腕を振り上げたが、そこで力尽きた。

 

 殺し合いの果てに、最後に立っていたのはネイトだった。ヘルメット内に鳴り響く重度の損傷を伝える警報を聞き流しながらネイトはガービー達が来るまで屍で埋め尽くされたコンコードの町を見ながら戦闘が終わった後の余韻に浸っていた。

 

 

 

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