ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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五話

「ただいま、コズワース」

 

「旦那様!ご無事にお戻りになられてなによりでございます!」

 

 ネイトはコンコードから帰ってきた。ただし、行きとは異なり新たな仲間と入植者たちの一団を連れて。

 

 コンコードの町での激戦のあと入植者たちの一団を纏めるガービーからネイトは様々な情報とパワーアーマーを救助の報酬として得た。

 

 得られた情報は二百年後の世界について何も知らないネイトにとっては何れも価値のあるものだったが、今もっとも知りたい息子と誘拐犯についての情報は得られなかった。

 

 そしてサンクチュアリに戻ろうとしたネイトにガービーは自分たち入植者の一団も共に連れて行って欲しいと頼んできた。

 

 聞くところによると仲間の内の一人、デスクローの襲来を予知した老婆がサンクチュアリならば落ち着いて過ごせると言ったらしい。

 

 彼女の言う通りサンクチュアリはレイダーやガンナーたちの勢力圏外に位置し害を及ぼす存在が巣くっている訳でもなく、加えて万が一の時があれば避難する事ができるVault111が近くにある。

 

 断る理由も特には無かったのでネイトは彼らを護衛しながら、こうしてサンクチュアリへと戻ってきたのだった。

 

「旦那様、この方々は?」

 

 喜ぶのもつかの間、コズワースはカメラアイをネイトの後ろ、少し離れた場所に立つ入植者たちへと向ける。

 

「コンコードで知り合った。何でも、このサンクチュアリに住みたいらしい。私は別に構わないが……お前はどうなんだ、コズワース」

 

「旦那様が構わないと言うことであれば私も異存はございません。ただ────」

 

 コズワースは一旦言葉を句切ると、カメラアイとアームをネイトたちが住んでいた家へと向けた。

 

「旦那様方が住んでいたあの家。あの家の所有権だけはしっかりと主張すべきだと」

 

「戻ってきた時に帰る家が他人の物になっていては旦那様も、ショーン坊ちゃんも困ります。それにショーン坊ちゃんには、あの家こそが唯一無二の帰るべき場所なのですから」

 

「お前の言う通りだ、コズワース。ショーンにとって帰る場所は私たちの家の他にはない。それに私たちがもう一度やり直すために、あの家は必要だ」

 

 会話を済ませたネイトたちはガービーら入植者たちのグループの元へ歩いていく。彼らに家の所有権を主張し、幸いな事に彼らはそれを快く受け入れてくれた。

 

「さて、俺たちはひとまず休む事にしようと思う。俺も含めて皆、ここまでの道中まともに眠れていなかったからな」

 

 入植者たちの憔悴しきった顔と薄汚れた身なりが彼らの道中がどれだけ過酷だったかを物語っていた。

 

 特に夫婦らしい男女は酷い有様だった。気弱そうな夫の方はサンクチュアリまでの道のりの間、時どき虚ろな表情で誰かの名前を呼んだり引き攣った声で笑ったり泣いたりと明らかに心に異常をきたしている様子だった。

 

 妻の方も心に問題を抱えているらしくヒステリックに叫んだり些細な事で激昂し、夫以外の入植者たちに当たり散らしていた。

 

 その二人をガービーとスタージェスが宥める光景をネイトはサンクチュアリまでの道すがら何度も目にした。今までの旅路もそうしてやってきたのだろう。

 

「アンタも少しは休んだらどうだ?コンコードに来てから、ずっと戦い通しだっただろう」

 

「そうです旦那様、彼の言う通り休息をとるべきだと。私が夜の番をしますので旦那様と入植者の皆さんは安心して休んでください」

 

「分かった。頼んだぞ、コズワース」

 

 入植者たちは他と比べて状態が良い建物で寝ることにしたらしい。ネイトも戦闘とV.A.T.Sの連続使用で肉体に蓄積された負荷により、激しく痛む頭と鉛のように重い体を引きずりながら自宅へ戻っていくのだった。

 

 

 ■■■■

 

 

「朝か」

 

 窓から差し込む朝日によってネイトは目覚めた。真っ先に視界に映ったのは風化によって穴が空き本来の役割を果たしていない天井。

 

「……今までの事が夢だったら良かったのにな」

 

 運良く廃屋から発見できた使える状態の寝袋から這い出たネイトは寝起きと体に残る疲労でふらつきながら、リビングのソファに体を預ける。

 

「おはようございます旦那様。お早いお目覚めですね」

 

 Pip-boyの画面を見る。時刻はおおよそ五時、空はまだ薄暗く声が全く聞こえてこない事から察するにガービーら入植者たちは、まだ眠っているのだろう。

 

「飯でも作るか。コズワース、手伝ってくれ」

 

「かしこまりました旦那様」

 

 冷凍睡眠から目覚めてからまともな飲食物を殆どとっていなかった為に酷い空腹感を覚えていたネイトは何か食べ物を作る事にした。

 

 当たり前の事だが核戦争により自宅のライフラインは使えない。冷蔵庫やキッチンの戸棚から食べられる状態の物をコズワースと手分けしてテーブルの上に置くと家に置いてあった食料殺菌剤をそれらに使う。

 

「どうせ食べるなら温めて食べるか。なら、まずは────」

 

 家の外に出たネイトとコズワースは建物の廃墟から廃材を集め、ネイトは持ち前の器用さを発揮し、集めた廃材を用いて簡単な造りだが実用に耐えうるクッキングステーションを作った。

 

 木ぎれに廃材集めの途中で見つけたマッチで火をつけ燃え始めたのを確認すると鉄網の上に缶詰を置き、吊り下げられた鍋の中にスープの素を入れる。

 

「そろそろ良い具合に温まってきたかな」

 

 器にスープをよそい缶詰の蓋をナイフで開く。ポークビーンズの缶詰と肉詰め、キノコのレトルトスープにコズワースが製造したきれいな水が今日の朝食だ。

 

 濃い味付けの缶詰と塩辛いスープでも今のネイトには丁度良く感じられた。瞬く間にそれらはネイトの胃袋の中へと消え、空腹感は消え去った。食後の片付けを済ませるとネイトはコズワースにある提案をした。

 

「なあ、コズワース。家の片付けをしないか」

 

「家の片付けですか?」

 

「ああ。まだ先の話になるが、ショーンを取り戻して三人で暮らす時に備えておこうと思ってな」

 

「私も賛成でございます。帰るべき家が散らかっているのはショーン坊っちゃんもお嫌でしょうから」

 

 コズワースの賛成を得たネイトは早速、家の片付けを始めた。壊れた家具を外へと運び使える家具の置く位置を整える。

 

 作業の中でネイトは穏やかな日常を思い出し、そして直ぐにその日常は二度と戻らない事に寂しさと虚しさが入り混じった感情を味わう。

 

 それに触発されてか同時に今まで薄々感じていた不安が顔を出してきた。

 

 もしショーンを取り戻せたとしても、ショーンの母であり私の妻であるノーラはいない。私もコズワースも彼女の代わりを務める事はできない、こんな状態で子育てなど果たしてできるのか─────

 

 第一、私は妻を殺した相手とさらわれた息子の手がかりを何一つ摑んではいない。簡単に得られる情報でない事は分かっているが、状況に進展がない事にネイトは焦りと苛立ちを感じざるを得なかった。

 

「おはよう。随分起きるのが早いんだねぇ」

 

 家の玄関前から聞こえた声にネイトは顔をそちらに向けた。声の主はガービー達からママ・マーフィーと呼ばれていた老婆だった。

 

「少し話をしに来たんだ。そう、あなたのこれからを左右する大事な話をね」

 

 挨拶を返すまもなく老婆の口から出た言葉にネイトは興味を引かれた。

 

「大事な話ですか」

 

「そう。悪いんだけれど、椅子に座ってもいいかい?この年になると立っているのも辛いんだ」

 

 近くに転がっていた椅子を老婆に差し出すとネイトも椅子に座る。コズワースに席を外させると、互いに向き合う形で話は始まった。

 

「それで、その大事な話と言うのは」

 

「私がある力を使えることは、もうプレストンから聞いたかい?」

 

「ええ。ここまでの道のりであなたの感と“サイト”には何度も助けられたと」

 

 サイト。薬物の使用をきっかけとして過去・未来・現在を見通せる力。当人の言葉によると頭の中にビジョンが描かれていくらしく、彼女のビジョンは必ず現実のものとなったらしい。

 

 ネイトが彼女の話に興味を引かれたのも、その能力を引く彼女なら何かネイトにとって有益な情報を与えてくれるのではと考えたからだ。

 

「なら話は早い。私はね、見たんだよ。爆弾が落ちた日から氷に閉ざされたvaultから出てコンコードに来るまでのあなたを」

 

 ネイトは目を見開く。老婆の力に驚きを通り越して得体の知れない能力への怖気を感じている間にもママ・マーフィーの言葉は続く。

 

「あなたには時間も希望もない。でも、全てを失った訳じゃない。あなたの息子の生命力を確かに感じるわ、あの子は間違いなく生きている」

 

「それは本当なのか!?じゃあ、息子は、ショーンはどこにいるんだ!」

 

「ごめんなさい。あの子のいる場所までは分からないの、だけれど生きていることは確か」

 

 ママ・マーフィーは言い終えると壊れた窓に視線を向ける。外の様子を確認し、問題ないと判断したのか彼女は懐から小さな赤い容器を取り出した。

 

「ママ・マーフィー。まさか……」

 

「これを使えば私はあの子の元に辿り着く道を示せる。……アナタは私たちを救ってくれた。だから次は私にアナタを救わせて欲しいの」

 

 コンコードに辿り着くまでにもガービーたちの為にサイトを幾度となく使用してきたことをネイトはガービーから耳にしていた。老いた身での逃亡生活、そして薬物の使用で彼女の体は相当弱っているはず。

 

 中毒死する可能性は高い。だがネイトは墓前で息子を取り戻すためなら何を犠牲にしても構わないと心に決めたのだ。

 

 選択の結果、ガービーたちに恨まれることになるのはいい。だが憎悪の矛先が自分以外に、コズワースに向けられることは避けなければならない。

 

「心配しないで、今回は死なないから」

 

 表情から考えていることを読み取ったらしい。正確に心中を見抜いた彼女に驚くことはなかった。驚くことの連続で感覚が麻痺しているのだろうと判断する。

 

「あなたがそう言うのなら。……ママ・マーフィー、頼みます」

 

 

 ■■■■

 

 

 

「仕事はもう片付いたのか?」

 

「ガービー、戻ってきていたのか」

 

 家の片付けは昼過ぎに終わりを迎えた。遅めの昼食を済ませたネイトはコズワースの提案を受け食後の散歩をしていた。そして今、Vaultの調査から戻ってきたガービーに出くわした。

 

「アンタの話通り信じられない寒さだった。あそこで生活することも考えていたが、あれじゃあ無理だな」  

 

「だが浄水設備が生きていただけでも大きな収穫だ。ガイガーカウンターで放射能が少しも検知されなかった時のスタージェスの喜びようを見せてやりたかったよ」

 

 ガービーはそこで一旦区切りを置くと表情を改め、ネイトに頼み事をしてきた。

 

「なあ、もし良ければ俺たちの作業を手伝ってくれないか?」

 

「作業の内容を聞いてみないことには何とも言えないな。どんな作業なんだ?」

 

 ガービーは自分とスタージェス、そして可能ならばネイトの三人でコンコードの廃虚から今後の生活に必要な物資を回収しに行きたいと語った。

 

 ママ・マーフィーのサイトによって示された場所、ダイアモンドシティーへの旅路に必要な物資をコンコードで集めたいと思ってたのだが。

 

「分かった、だが私も旅に必要な物資が欲しい。それについては構わないか?」

 

「構わないさ。それについては現地で話し合おう。じゃあ準備ができたら橋の前に来てくれ」

 

 ガービーは橋の方に走っていった。ネイトも念のために自宅に戻り装備一式を身につけると橋の前に待つ二人の元に歩いていった。

 

「止まってくれ。あれは……なんだ?」

 

 コンコードに向かう道中、赤いロケットのオブジェが目印のガソリンスタンドを通り過ぎた辺りで前方に牛に似た動物の死骸に群がる数体のナニカを視認したネイトが仲間に待ったをかける。

 

「そうか、アンタは戦前の人間だから知らないのか。アイツはブラッドバグだ」

 

 ガービーの話によると放射能でミュータント化した蚊の一種らしい。昨日は見当たらなかったことからネイトたちが立ち去った後に何かがあったのだろう。

 

「どうする、迂回して進むか?」

 

「いや、片づけてしまおう。この辺りで繁殖されても困る」

 

「おいおい、分かってるとは思うが戦闘の面で俺に期待はしないでくれよ」

 

 各々武器の照準をブラッドバグに合わせると引き金を引く。銃弾とレーザーによりブラッドバグの群れは肉片と灰に変えられた。

 

 戦闘とも呼べないものを終えたネイトたちは再びコンコードに向けて歩き出す。その後、敵に遭遇することもなく一行は目的地であるコンコードに辿り着く。

 

 話し合いの結果、ガービーは飲食物と生活雑貨、薬品をを取り扱っていた店をスタージェスは工具や電子部品などの機械をネイトはパワーアーマーの使用状況を確認したあと武器弾薬を回収することに決まった。

 

 戦闘後、稼働に必要なフュージョンコアのエネルギー残量がなくなったためパワーアーマーは博物館内の展示室に置いてきた。

 

 盗難防止のために一応仕掛けておいたトラップを解除するとネイトは早速使用状況を可能な範囲でチェックする。

 

 結果、全く整備されていなかった状態で負荷を掛けたせいで両腕と脚部のサーボに異常が生じていることが判明した。物を掴むことや歩行は可能だが、出力は通常よりも低下することを理解したネイトは次の作業に移る。

 

 博物館を出たネイトはガンショップに足を運んだが二百年の間に店内の商品は殆ど持ち去られていた。残っているのは錆びた金属部品とホコリだけ。

 

 落胆しながら店外に出たネイトは仕方なくレイダーの遺体から使えるものを回収することにした。彼らの武器は金属パイプとスクラップを加工して作ったらしい銃が殆どだったが、稀に水平二連散弾銃や10㎜ピストル、ハンティングライフルを所持したレイダーがいた。 

 

 武器や弾薬、薬品を回収し終えたネイトが博物館内から出てくると入口には回収品を詰め込んでパンパンになったナップザックを背負った二人がいた。

 

「収穫はどうだ?」

 

「生活雑貨は予想以上に残っていたが食料品と薬品は僅かだった。そっちはどうなんだ?」

 

「ガンショップに立ち寄ったが全て持ち去られていた。遺体から武器弾薬と薬品は回収しておいた」

 

「なるほどな。俺らの前に来た奴らは食い物に薬品、それと武器に目が眩んで本当に価値のあるものを見逃したらしい。これを見てくれ」

 

 スタージェスはナップザックを開いて二人に中身を見せた、しかし二人には中に詰まっている部品の用途が分からず首をかしげた。

 

「すまないスタージェス、俺は機械に詳しくないから俺にはこれが只のジャンクにしか見えん。そんなに貴重なものなのか?」

 

「そうだとも!この部品と持ち運べなかった残りのパーツを組み合わせれば小型のジェネレータが作れるんだよ!」

 

 加えて壊れてはいるが修理すれば問題なく使える小型の浄水器を見つけたことをスタージェスは興奮した様子で二人に伝える。

 

 確かに、それらが使えるようになれば今サンクチュアリに住む全員の咽を潤すだけの水は得られる。

 

「ふむ。そうなれば逐一、Vaultまで飲料水を補給しに行く必要はなくなるが……水質は大丈夫なのか?」

 

「店内にあった説明書を見る限り大丈夫だと思うがね。まあ作ってみないことには何とも」

 

 二人の話に耳を傾けていたネイトはあることを思い付き、スタージェスに提案をする。

 

「スタージェス、その残りのパーツと壊れた浄水器はパワーアーマーで運べる大きさなのか?」

 

「ははぁ、パワーアーマーを使って運ぶってことか。問題ないと思うぞ」

 

 ネイトは直ぐにパワーアーマーを装着し、二人の元に戻ってきた。スタージェスに案内されて件の場所に着くとパワーアーマーに二人は協力し合いながら浄水器と残りのパーツを落下しないように、尚且つ万が一の時に備えて自力で外せるように工夫して括り付ける。

 

 出力が低下しているとは言え銃火器を優に携行して進軍できるパワーアーマーにとって、その程度の荷物の運搬は訳ないことだった。

 

 収穫を背負い彼らはサンクチュアリへと戻っていく。幸運にも敵と出会わず、無事に辿り着いた彼らにはコズワースから冷えた水の入った瓶が渡された。

 

 

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