ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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六話

「ワン!ワン!」

 

「慌てるなよ、ほら、お待ちかねのご飯だ」

 

 朝靄の中、ネイトは水とドックフードの入った器を犬小屋にいるドッグミートに差し出す。犬の肉と言う名前をつけた元飼い主に叶うなら会ってみたいとネイトは名前をママ・マーフィーから聞いた時、そう思った。

 

「お、おはよう……」

 

 ドッグミートに食事をやっているとネイトは思わぬ人物に話しかけられた。

 

 ジュン・ロング。出会った当初は何らかの要因で精神を病み会話すら成り立っていなかった彼だがサンクチュアリと言う安全地帯に来てからは徐々に回復の兆しを見せている。

 

「おはよう。……餌をやりに来た訳ではないみたいだな」

 

 彼の表情から、そう感じたネイトは立ち上がるとジュンの方を振り向いた。

 

「お礼を、言いに来たんだ。本当はもっと早く言わないといけなかったんだろうけど……」

 

「構わない。言おうとしてくれただけで十分だよ」

 

「……ありがとう」

 

 自分と妻、大事な仲間たちを助けてくれてありがとう。と、彼は深々と頭を下げながらネイトに感謝を伝える。そして顔を上げると悩むような表情のあとに意を決した様子で口を開いた。

 

「できればでいいんだけど、話に付き合ってくれないか」

 

 ネイトは頷きを返すと彼を自宅へと招いた。互いに向き合う形で椅子に座ると、彼は話を始めた。ガンナーと言う武装集団が町に攻め込んできた時、彼はカイルと言う名の息子を亡くしたと。

 

 彼の不幸は息子を失い、家を焼かれただけに終わらずサンクチュアリに辿り着くまでの数ヶ月で彼は大事な人たちを殆ど失ったと言う。

 

「カイルも彼らも近くにいたのに、守れなかった。僕は……僕は……」

 

「気持ちは分かる。俺も少し前に妻を失った」

 

 彼が息子を亡くした時に感じたであろう気持ち、胸に抱える苦悩の全てを理解しているとは言わない。だがネイトも彼と同じく大事な人を亡くしているのだ。気持ちや苦悩の一端は理解しているつもりだ。

 

「君も大事な人を……?」

 

「ああ。俺は今、妻を殺した奴らとそいつらに攫われた息子を探している」

 

「そうなのか…………僕も、あなたみたいに前に進まないといけないな。息子と彼らのためにも」

 

 ジュンの言葉から僅かだが前に進もうとする意志を感じた気がした。話を最後まで聞いてくれたネイトへと頭を下げるとジュンは席を立った。そして去り際────

 

「ネイトさん。僕はカイルを救えなかったけど、あなたなら救える気がする。息子さんを救えるよう願っているよ」

 

 息子を失った親からの言葉には重みが伴っていた。言葉の中に含まれた救えなかった自身に対する罪の意識とネイトには救える力があると信じているのを感じた。

 

 亡くした人たちは帰ってくることはない。残された自分たちは彼らのために前を向いて進み続ける必要がある。

 

 

 

 ■■■■

 

 

 

「さて、どうするか」

 

 ネイトは武器を整備、改造するためのツールが一式揃っている作業台の上に置かれたハンティングライフルを険しい表情で見ていた。

 

 旅に出る前に狙撃ができる武器を一つは所持しておこうと考えたネイトはレイダーの遺体から回収したハンティングライフルを改造しようとしていた。

 

 ネイトたち一家は戦前、サンクチュアリ内のとある一家と交流があった。交流を深めるにつれネイトは家の主人が銃の愛好家と言う隠された一面を知ると共に彼から地下に作られた作業場を見せてもらっていたのだ。

 

 当然だが一家は既に家を去っていた。地下に降りると作業場のロックは外されており、保管されていた武器の幾つかは持ち出されていたが作業場は手つかずのままだった。

 

「作業場を使わせて貰うぞ、ポール。部品もな。……これで貸し借りなしだ」

 

 ここにはいないアディ一家の主人に断りを入れるとネイトは作業場に足を踏み入れる。

 

 軍隊で使用していた狙撃銃のベースとなったのが、この銃なのでネイトは軍属の時に学んだ知識を活かして整備や改造ができる。

 

 作業に取りかかる前にネイトは作業場に備え付けられた幾つもの棚に収めてある民間に出回っている銃火器の仕組みや改造に関することが記載された雑誌を参考までに取り出した。

 

 虫食いだらけで読めないだろうと諦め半分に開いたネイトは痛んではいたが読める状態にある雑誌に驚きの表情を顔に浮かべる。

 

 劣化しないように処理していた主人の徹底さに心の底から感謝しネイトはハンティングライフルについて記載された雑誌を選別すると、それらに目を通していく。

 

 分厚いページ数の雑誌を読み終えるのに使った時間は二時間。改造が長丁場になることを見越して持参してきたコズワースの生成した浄化水が入った洗浄済みのビール瓶の蓋を外す。

 

 水分補給を終えネイトは早速改造に取りかかる。銃を分解し、パーツの汚れを一つずつ落としていく。作業場に積み上げられた部品の中から対応した部品を選び著しく劣化した部品と交換する。

 

「よし。こんなものだろう」

 

 スコープを取り付けバレルやストックを交換したライフルを作業台から手に持つと、ネイトは動作確認のために地下室を出て家の外に向かった。

 

 住民に銃の試射をすることを伝えるとネイトは的代わりの空き缶に狙いを定め引き金を引く。有効射程を確かめるために距離や姿勢を変えながら射撃を繰り返し、ネイトは銃の性能を把握した。

 

 動作確認を終えたネイトは自宅に戻ると自前のツールキットを用いて旅に持ち出す銃の整備をする。至近距離での戦闘を想定して銃身を切り詰めた散弾銃にパイプライフルを改造した短機関銃、中距離戦用のコンバットライフル。

 

 コンコードの戦いで損耗したそれらを回収した銃の部品も用いてメンテナンスツールを使って修理していく。散弾銃や短機関銃はともかく部品の予備がないコンバットライフルは満足な修理ができない、騙し騙し使っていくしかないだろう。

 

 コンバットライフルを念入りに整備したネイトはすべての銃器を机の上に置き、メンテナンスツールをケースに収納する。

 

「これで後は持ち物の準備をするだけだな」

 

 ネイトはコンコードで回収していた旅に必要な物資を大型のバックパックに詰め込んでいく。体温低下の防止のために必要なレインコートを筆頭に地図、ダクトテープ、万能洗剤アブラクシオクリーナー、強力な接着剤であるワンダーグルーと言った雑貨。

 

 金属製のマグカップにナイフやフォークと言った食器。そしてpip-boyのライトだけでは心許ないのでフラッシュライトや様々な用途に使うライター。最後に衛生的な面で欠かせないトイレットペーパー。

 

 缶詰やボトル入りの水などの食料は食料殺菌剤と共に入れる。回収できた医薬品は厳重に包装してあるので、戦闘の衝撃で使えなくなることはないはずだ。

 

 最後に耐衝撃性に優れたケースに収納されたメンテナンスツールを入れてバックパックへの詰め込みは終わりだ。

 

 装備一式を身に着ける。ポーチ内には新たに散弾銃と短機関銃用の弾薬、スティムパックを入れてある。バックパックを背負うとネイトは家の外に出た。

 

「旦那様、行かれるのですね」

 

 家から出たネイトの姿を見たコズワースが家屋の修理を止めて別れの挨拶をしに来た。

 

「準備は整ったからな。コズワース、家の管理は任せた。後は新しくできた隣人を支えてやってくれ」

 

「お任せ下さい。サンクチュアリで旦那様の無事とショーン坊っちゃんを取り戻せるよう祈っております」

 

 二人が言葉を交わしていると見回りをしていたガービーが近づいてきた。彼は懐から金属でできた小さい箱を取り出すと蓋を開けた。中身を見たネイトは視線を中身からガービーに移す。

 

「旅に出るならコイツが必要になる。戦前とは違って今、俺たちが使ってる通貨はキャップなんだ」

 

 戦前に使っていた紙幣は核戦争を機に価値を失ったと言う。にわかには信じられずコズワースに確認するが返ったきたのは否定ではなく肯定。彼は箱の蓋をダクトテープで固定するとネイトに差し出した。

 

「話は変わるが、ネイトさん。アンタに頼みたいことがあるんだ」

 

「続けてくれ」

 

 ガービーがネイトに頼んだのは助けを求める居住地の救助だった。ミニッツメンであるガービーは助けを求める人々に救いの手を差し伸べる義務がある。

 

 しかしサンクチュアリにいる人々は脆弱だ。ガービーが自分で身を守れるように彼らを訓練している間にも彼らは様々な要因に苦しめられる。

 

 そこで彼は自由に動け、自分たちを危機から救い出したネイトに頼みこんできたと言う訳だ。

 

「悪いが、ガービー。その頼みは引き受けられない。俺には救助に向かえるだけの時間の余裕がないんだ」

 

「……いや、こちらこそ悪かった。アンタにも事情があるってことを失念していたよ」

 

 僅かに肩を落としたが無理に引き止めることもなくガービーは納得してくれた。そして、ネイトの方へ手を差し出してきた。その意図を理解したネイトは差し出された手を握る。

 

「戦前と違って今の連邦は物騒だ。アンタなら大丈夫だとは思うが用心しろよ」

 

「ああ。書き込んでくれた地図を見る限り、どこもかしこも危険地帯だ。用心して進むよ」

 

 旅に備えて現在のボストンの地理を把握しておきたかったネイトはガービーに頼んで地図に取り引き可能な場所や危険地帯を印で表し、その場所についての内容を書き込んでもらっていた。

 

「幸運を祈る。負けないでくれ、この連邦に」

 

「負けるつもりはない。また会おう、ガービー」

 

 核戦争により世界は荒廃した。かつてのボストンも例外ではなく爆風と共に撒き散らされた放射性物質により大地は汚染され、ミュータントやレイダーが蔓延するようになった。

 

 

 

 およそ二百年の時はボストンを連邦と言う名の魔境に変貌させた。そして今、サンクチュアリから連邦へと一人のVault居住者が足を踏み出した。

 

 

 

 

 

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