ダーティ・ウェイストランダー   作:たまごねぎ

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七話

「来るか」

 

 ネイトがそう呟くのと同時に数メートル離れた場所にある廃屋の屋根から舞い上がった黄色と黒の縞を持つトンボを歪めたような醜悪な姿の昆虫が私の方へと弾丸のような速さで突進してくるのが確認できた。

 

 奴が何なのかは全く分からないが、尾の先端に存在するぬらぬらと輝く毒針に刺されば無事では済まないことは分かる。

 

 ホルスターから素早くショットガンを引き抜く。ネイトの所持する銃の中では図体が小さく素早い動きをする敵を狙うのに最も適している。

 

 敵はもう目と鼻の先だ。銃身を切り詰めた弊害で射程距離は大幅に落ちているが、ここまで接近してくれたなら問題はない。

 

 散弾が昆虫の透明な羽を吹き飛ばし、その胴体へと深い傷を残す。羽を失い地面へと落下した昆虫を足裏で踏み潰す。

 

 足を退かし原型を留めず、汚らしい泥濘と化した昆虫

の絶命を確かめるとショットガンをホルスターに収納する。敵性反応が消失した事でPip-boyがビープ音と共に通常の状態に戻る。

 

 V.A.T.S.を使えば戦闘はもっと早くに決着していた筈だ。しかし、V.A.T.Sは戦自分以外の全ての時間が停滞しているように感じられるほどの感覚の鋭敏化を筆頭に相手の弱点の表示や体の部位の命中率など戦闘において役立つ機能を付与してくれるが、同時に脳に多大な負担を掛ける。

 

 戦闘中に無闇に使用し続ければ、いつしか肉体に限界が訪れ戦闘を続ける事ができなくなる。その欠点故にネイトは本当に窮地に立たされた時以外にはV.A.T.Sを使用しない事に決め、自身の反射神経を鍛える事でV.A.T.Sを使用せずとも敵の動作を完璧に見切る為の訓練をしていた。

 

 溜め込んでいた息を吐き出したあと、ネイトは少しの間休息を取る為に短機関銃を構えながら近くの廃屋に入っていく。

 

 

 ■■■■

 

 

 いつ敵が現れても大丈夫なように銃を構えながら屋内を探索し、危険がないことを確かめるとネイトは二階のかつてリビングルームとして使われていたと思しき部屋に足を踏み入れる。

 

 双眼鏡を用いて周囲の様子を探る。過去にカレッジスクエアと呼ばれ多くの学生で賑わっていた場所は見る影もなく寂れている。

 

 廃墟と化した建物群を探っていると、この建物の前にある建物の中で倒れる何者かの姿を捉えた。廃材と襤褸切れで構成された服装から見るにレイダーだろう。そのレイダーの四肢は千切れ、絶命していた。

 

 不穏な気配に胸がヒリヒリするような気がした。そして嫌な予感は的中する。突如、近くの建物の手前で爆発が起こったのだ。

 

 爆音から立ち直った直後、耳鳴りがするのを無視してネイトは頭に響く警告音に従いpip-boyの画面を覗く。Pip-boyの画面には町のマップが表示されておりマップには敵性反応を示す赤い光点が五十を優に超える数表示されていた。

 

 驚愕もつかの間、ネイトは手前の建物から出てきた萎びて変色した皮膚に元は服だった布きれを申し訳程度に体に纏ったゾンビのような生き物。放射能で脳を損傷し理性を失った人間のなれの果て、フェラルグールと二百年後の世界で呼称されるモノがネイトの姿を認識したのを確認した。

 

 グールは言葉にならない叫びをあげながらネイトがいる建物へと糸の切れたマリオネットのような異様な動きをしながら信じられない速さで走ってくる。ネイトは短機関の銃口を階段の方に向けながらグールが来るのを待つ。

 

 足音が徐々に近づいてくる。古びた木製の階段がギシギシと軋む音が聞こえ────射線上にその身を晒した。

 

 フェラルが行動を起こすよりも早く銃口から火が噴き出す。無数の弾丸を喰らい全身を貫かれたグールは後ろに倒れ、階段を落ちていく。

 

 ネイトはPip-boyに視線を向ける。予想していたことだが、先の爆音が聞こえたのか町中に散らばっていた赤い光点が前の建物付近へと近づいてきていた。

 

 恐らくはその全てがグール。あれだけの数のグールが建物の周囲に集まればネイトのいる建物へと侵入してくる可能性が飛躍的に高まる。

 

 もし侵入され私が見つかり戦闘に突入した場合、現在の装備で奴らの群れを相手にする事は不可能────いや、待て。

 

 ナップザックの中に入っている金属製の箱を取り出すと箱の蓋を開き、ネイトは箱から道中で回収したフュージョンコアとダクトテープを取り出す。

 

 フュージョンコアとポーチから取り出したフラググレネードをダクトテープで固定し、ネイトはフュージョンコア・グレネードとでも言うべき即席の爆弾を作りあげる。

 

 施設の電力を二百年もの間、賄えるほどのエネルギーを持つ代物だ。爆発させた場合、数十体程度のグールなど発生した膨大なエネルギーによって跡形もなく吹き飛ぶだろう。

 

 幸いな事に戦前の習性による物か何かは分からないが、奴らは固まって移動してきているので一網打尽にする事ができるはず。

 

 即席の爆弾を手に持ちネイトは建物の壁から様子を窺いつつ奴らを纏めて倒せるタイミングを待つ。徐々に迫る足音と奴らが放つ言葉にならない叫びを聞きながら、ネイトはまるでゾンビ映画に入り込んでしまったかのような感覚を覚えた。

 

 そして、一網打尽にできるタイミングが訪れた。ネイトはフラググレネードの安全装置を外すと群れの中央目がけて投じ、直後の爆発に備え建物の壁に隠れ耳を塞ぐ。

 

 投じた爆弾は群れの中央へと落ちると目が眩むほどの閃光を放った直後に轟音と共に爆発した。ヘッドセット越しでも大きく聞こえる程の爆音、私は群れがどうなったかを確認する為に壁から顔を出した。

 

「何て威力だ……」

 

 爆発によって生じた破壊の跡を見た私は想像以上の威力に無意識に咽を鳴らしていた。

 

 爆発の後に残った物は破壊された路面と路面や建物に付着したグールだったモノの赤色の、あるいは焦げて炭化した黒色の肉片。

 

 どれだけ凄まじい爆発だったかが爆発後に残されたそれらから窺える。

 

 あの爆発を耐えきれるグールがいるとは思わないが、私は念の為にPip-boyに目を落とした。予想通り、あれだけの数の存在していた赤色の光点は全て消失していた。

 

 敵が全ていなくなった事を確認した私はPip-boyから目を離そうとし、突然Pip-boyから鳴り出したビープ音により再び画面へと視線を戻す。

 

「誰か近づいてくるな」

 

 画面に表示されていたのは何者かの生体反応を示す緑色の光点。その光点が爆発の起きた場所へと近づいてくる。不用意に姿を晒すのも危険と判断したネイトは壁から僅かに顔を覗かせ近づいてくる何者かの様子を窺うことにした。

 

 近づいてきたのは見慣れぬ形状の太陽の光を反射し、眩い銀色に輝くパワーアーマーを纏いレーザーライフルを構えた人物だった。その人物は破壊の跡にたどり着くと壁に隠れている私の方へと銃口を向けた。

 

「隠れているのは分かっている。建物から降りてこい、これは警告だ」

 

 悩んだ末にネイトは男の言葉に従うことにした。万が一何かあればV.A.T.S.とスモークグレネードを使って逃走すればいい。

 

 荷物を纏めて建物から男のいる道路へと出ると、二人は互いに向かい合う形で話を始めた。

 

「質問に答えてもらおう。この町にいたグール達を倒したのはお前か?」

 

「ああ。私が倒した」

 

 男はネイトの言葉を受け、少しの間何か考えるような素振りを見せたあとグール達をどのような手段で倒してきたかを質問してきた。その質問に答えると男は再び黙考の姿勢を数秒とるとネイトの言葉を信じる事にしたらしく態度を軟化させた。

 

「そうか。ならば感謝しなくてはならないな、お前が一定数のグール達の注意を引き付けてくれたお陰で窮地を脱することができた」

 

「次の質問に移らせてもらっても構わないか?」

 

 ネイトが続きを促すとダンスは次の質問に移る。

 

「ここで何をしていたのか聞かせて貰いたい。救難信号を受信して助けに来たという訳ではなさそうだが」

 

「ここに来るまでの戦闘で武器と弾薬が消耗していた。警察署にいるあなた方と取引できるかも知れないと考えて立ち寄った。……次はこちらの質問に答えてもらえるか?」

 

「いいだろう。何が聞きたい?」

 

「一体、あなたは何者だ?」

 

 レイダーならば私の姿を見つけた瞬間に攻撃してくる筈だろうし、こうやって質問に答える事もないだろう。それにパワーアーマーの胴体装甲に刻まれている剣と翼、そして歯車を象ったエンブレム────部隊章、あるいは何らかの組織のマークだろうか。

 

「私はパラディン・ダンス。B.O.Sの偵察部隊を率いている者だ」

 

 B.O.S────ブラザーフッド・オブ・スティール。最終戦争の際に地下シェルターに逃げ延び生き長らえた米軍に属していた軍人や科学者が起源となった戦前の技術の収集と保護を目的とする組織に属している事をダンスは語った。

 

 以前、ガービーとの会話の中に出てきた事があったが彼に言わせればいけ好かない奴らとの事だ。所属する組織について簡単な説明を終えたダンスはネイトにある提案を持ちかけてきた。

 

「良ければ私達に協力してほしい。お前は武器と弾薬を求めているのだろう?メッセージを聞いているのなら知っているだろうが警察署は現在、私達の部隊の活動拠点となっている。私達に協力してくれれば何らかの見返りは約束しよう」

 

 ヘルメット越しに男の視線を感じながらネイトは男の提案について考える。ダイアモンドシティへと向かおうにも今の装備で辿り着くのは難しいだろう。

 

 考えの結果、ネイトは彼らに協力することに決めた。ダンスの後に続いてネイトはB.O.Sの偵察部隊が根城にする警察署へと向かうのだった。

 

 

 ■■■■

 

 

 警察署前の道路には夥しい量の灰の山が積もり、そして全身を引き千切られた無残な死体と転がっていた。部隊とグールとの戦いがいかに苛烈なものだったかをネイトは察した。

 

 ネイトが惨状を目にする傍ら、ダンスは部隊員らしき死体の元へと歩いていく。

 

「すまない、ナイト。私の未熟がお前を殺した。……お前の無念も怒りも私が背負おう」

 

 自身と部隊員を殺したグール、そして歪んだこの世界に対してダンスは憤怒を滾らせる。ダンスと同質の物を胸の内に飼っているネイトも、彼が抱く憎悪と憤怒を敏感に感じ取れた。

 

「お前の分も私はアボミネーション共を倒す。そしていつか奴らを必ず根絶やしにする」

 

 ヘルメットを脱ぐとダンスは遺体からホロタグを外すと自らの首にかけた。そして再びヘルメットを被ると警察署の扉を叩くと扉を開き中へと入っていく。私たちが署内へと入っていくと奥のマットレスに倒れている部隊員を介抱していた女性の部隊員が出迎えてくれた。

 

「パラディン!ご無事でしたか。……後ろにいるのは?」

 

「私達に協力してくれる人間だ。それよりもリースの容態は?」

 

「包帯で止血も行いましたし、スティムパックも投与したので恐らくは大丈夫です」

 

 そうかとダンスは安堵が滲んだ声を漏らした。そして私と女性隊員を部屋の中央に集めるとダンスは部隊が置かれている状況の説明と私が為すべき任務についての説明を始めた。

 

「アボミネーション共やレイダー達の攻撃で私たち三名を除いて偵察部隊は全員死亡した。加えて食料品も不足し始めている。今の状態が続けば課せられた任務を達成する前に私たちが先に死んでしまう」

 

「そこで我々は本隊に救援を求める為に屋上にあるラジオ塔を修理し、救援コールを送ろうと試みたが電波が弱く本隊がいる拠点まで信号が届かなかった。だが─────」

 

 ダンスが女性隊員の方に顔を向けると、意図を汲んだ女性隊員は背中のナップザックから地図を出し部屋の中央にあるテーブルの上に広げるとアークジェットシステムと言う名のロケットを開発していた企業の施設を指差した。

 

「この施設内のどこかにディープレンジ送信機……信号を強めてくれる物があるわ。あなたにはパラディンと共にそれを施設内から回収してきてほしい」

 

 施設内の状況については殆ど情報がなかった。ただ、施設の規模と重要度からの推測だが施設内には高い確率で防衛機構が備わっていると隊員は話した。

 

「話は以上だ。任務に出発する前に渡したい物がある、着いてきてくれ」

 

 ダンスの後に続いて地下に続く階段を降っていく。元は犯罪者からの押収品の保管庫だったらしい場所にはシートが被せられた何かがあった。

 

「窮地を救ってくれた礼だ。弾薬と武器が不足しているのはこちらも同じでな。その代わりだと思ってほしい」

 

 ダンスがシートを取り払うと覆われていた何かが全貌を現す。施されていたらしき深緑の軍用塗装は殆ど剥げ落ちてはいるが、全てのパーツが揃ったT-45パワーアーマーがそこにあった。

 

「本当にいいのか?武器や弾薬よりも、こちらの方が価値があると思うが」

 

「構わない。私たちB.O.Sは最新型のパワーアーマーを運用しているからな」

 

 装着しているパワーアーマーが使えなくなった時の予備として保管しておいたが、最新型の操作感に慣れたダンスたちは最初期のモデルであるT-45の劣悪な操作性と運動性に使わない方がマシだと放置されていたらしい。

 

 pip-boyを接続して使用できる状態であること確認するとネイトはダンスに調整の時間を求めた。それを了承したダンスが上に上っていく。

 

「工具はかなり揃ってるな。これなら何とかいけそうだ」

 

 装甲を全て取り外すとネイトは手始めに腕部のフレームと機構の整備から取り掛かった。任務中にアーマーと共に回収したと言う専用の機材を用いてフレームと機構が絡み合う部分を調整していく。

 

 腕部、胴体、脚部の順番に整備を終えた私はフレームを装着すると正常に動作するかを確かめる。問題がないこと確認すると装甲板を取り付け機材を片付ける。

 

 ネイトは椅子に座り戦闘と整備の疲れから大きく息を吐く。Pip-boyのボタンを二回押すと画面に自分の健康状態が表示され疲労の蓄積と睡眠障害の兆候が表れているとの内容が表示されていた。

 

 ここまでの道中、何とか気力で保たせてきた疲労が安全な場所に来た事で一気に押し寄せてくる。

 

「少し、休もうか」

 

 疲労が溜まった状態で任務に挑んだとしても成功する見込みは薄い。ダンス達に休息をとらせて貰えるかを尋ね、了承を貰ったあとPip-boyのタイマーを三時間後にセットすると私はピストルを片手に眠りに入った。

 

「パラディン」

 

 スクライブ・ヘイレンはレーザーライフルの整備を行っているダンスへと小声で話しかける。

 

「どうした、ヘイレン」

 

「パラディン自らが連れてきたのですから大丈夫だとは思いますが……あの男、本当に信用できるのですか?」

 

 ヘイレンは視線をVault居住者が眠る奥の部屋へと向けながら疑念と不安に濡れた声を漏らす。ダンスは整備を一旦止めると銃をテーブルへと置きヘイレンへと視線を向けた。

 

「……分からん。あの男が纏う雰囲気は温室育ちのVault居住者が纏えるものではない。戦いを生業にする者が放つ雰囲気だ」

 

 ダンスは男の動作や仕草、纏う雰囲気、そして目の奥に宿る自分が抱えている物と同質のナニカから男が一般人ではない事を見抜いていた。

 

 ヘイレンの信用できるのかとの問いだが、ダンスは話し合いにおける男の物腰から少なくとも自分達を不用意に攻撃することはないだろうと考えた。

 

「我々を攻撃するつもりなら既にしている筈。……信頼を得て我々が隙を曝した時に攻撃する事を目論んでいる可能性もあるがな」

 

「とにかく、最低限の信頼は置けると私は思う。我々には人員が足りないのだ、多少の不安要素には目を瞑るしかないだろう」

 

 話は終わりだと言わんばかりにダンスは自室へと戻っていった。ヘイレンは何も言わず彼の背中を見送ったあと男の部屋を一瞥し、胸の内から湧き上がる不安を押し出すように息を吐くと再びリースの介抱に戻った。

 

 




 
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