【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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第十三話 「やまとせるりあん! にー!」

 

山からずいぶん離れたところまで、タヌキを抱えて飛んだダンザブロウダヌキは、森が終わって草原地帯に切り替わっているその境目の所に降り立ちました。

 

前を見れば膝の高さほどの草が延々と生えている緑の草原地帯。

後ろは木漏れ日を地面に照らしながらこれまた延々と続く森林地帯です。

 

ダンザブロウダヌキは草原地帯の方を指差しながら、タヌキに言います。

 

「この方向に、ひたすら逃げてください。しばらく森の方には立ち入らないことです」

「わかりました…………あの、この姿って、どうやって生きていけばいいんでしょうか…………」

 

タヌキが不安げな目でダンザブロウダヌキを見上げます。つい先ほどフレンズ化したばかりで、右も左も分からないままセルリアンに追われていました。

これからどうやって生きていけばいいのか。

 

フレンズ化して、確かに1番最初に戸惑う部分です。

 

「まずは食べること。それから寝ることです。このジャパリパークではジャパリまんという食べ物が豊富に流通しています。お腹をすかせればすぐ見つかる所に出現しますし、ラッキービーストという青くて小さくて耳が大きいものを探せば、その子が持ってきてくれることもあります。なにより、困ったら他のフレンズを頼ってみてください。よっぽど機嫌が悪い時以外は、みんな優しく教えてくれますから」

「はい…………わかりました。とりあえず、その、ジャパリまん? っていうのを食べればいいんですね」

「すぐに食べれると思います。そして、先ほども言った通りセルリアンには近づかないこと。もし近づかれたら全力で逃げること。いいですね」

「わかりました…………。怖いけど、頑張ってみます」

 

身を縮こませながら頷くタヌキに、ダンザブロウダヌキはポンと頭に手を置いて撫でました。

タヌキは少しだけ困ったように目線を投げましたが、ダンザブロウダヌキの優しい手に、安心したように口元を綻ばせました。

 

「さぁ、行ってください。誰か他のフレンズにもすぐ出会うはずです。その子と一緒に逃げるのがいいでしょう。この森で起きていることを、草原地帯の皆さんにも伝えてください」

「はい……わかりました。ダンザブロウダヌキさん、ありがとうございます」

「いいってことですよ。私は森の方へ戻ります。必ず、生き延びてくださいね」

「ダンザブロウダヌキさんも…………とっても、気をつけてくださいね」

「ええ、言われなくても」

 

ダンザブロウダヌキはそう微笑むと、バサリと羽を広げて飛び立ちました。

タヌキはダンザブロウダヌキが見えなくなるまで空を見上げた後、

 

「よし…………がんばるぞー」

 

弱々しく、小さな声でしたが、拳を握って草原地帯の方へと走っていきました。

 

 

太陽が一番高いところへもうすぐ届こうかという頃に、ハクトウワシの姿で山の方へと戻ってきたダンザブロウダヌキは、上空から森の様子を注意深く見ていきました。

 

山へ近づけば近づくほど、セルリアンの数は増えています。

いずれも赤や水色、中には緑色のセルリアンもいます。

大きさはバラバラ。腰の高さほどのものもいれば、身の丈を倍以上超えるような大きなものもいます。

 

総合的には一般的なフレンズと同じくらいの大きさのセルリアンが多いようです。

ハンターのような戦えるフレンズにとってはまだ対処できる大きさですが、戦えないフレンズにとっては脅威以外の何物でもありません。

 

形は単純に丸や四角のもの。それに一、二本の触手のようなものが生えているもの。

あるいはもう数十本触手の生えているもの。

棘のようなものが生えているもの。

腕の模倣のように2本生やして振り回しているものなどなど、千差万別です。

そこに法則性は見出せません。

 

実に多種多様なセルリアンが、草の根を分け、たまに樹木をへし折りながら、フレンズを食べようと進行しています。

その密度たるやどこを見ても一定の間隔でセルリアンが進んでおり、地上に降りようものならどこに降りてもすぐに四方八方を囲まれてしまうような量です。

 

「ヒクイドリさんは大丈夫でしょうか」

 

思わずひとりごちます。

取り残されているかもしれないフレンズを探すため、ヒクイドリはわざわざセルリアンの進行が進んでいる東の森へと向かっていました。

この様子では取り残されたフレンズはいないか、あるいはいるとしたらもうセルリアンに食べられているとしか考えられません。

 

何にしてもヒクイドリはまだこの近くにいるかもしれません。

脚力に自信があるフレンズのようでしたから、逃げ足は早いのかもしれませんが、もしまだこの場で戦っているとしたら離脱の手伝いをする必要があります。

 

そして万が一にでもセルリアンにやられていたら。

食べられてしまってはもうどうしようもありませんが、行動不能くらいでしたら抱えて逃げるつもりです。

ダンザブロウダヌキは目を皿にして下に広がる森を見て回りました。

しばらく飛んで、山を中心に東の森をまんべんなく見定めて行ったその時です。

 

「ッ! いました!」

 

思わず口に出して、その瞬間にはもう体を寝かせて急降下していきました。

ヒクイドリはいました。森の中、少し開けた場所で、周りをセルリアンに囲まれた状態で。

 

赤、水色、緑色の触手を持ったセルリアンが、ヒクイドリににじり寄っています。

もう何体もヒクイドリの抵抗によって屠られているのか、迂闊に近づけばやられるということをセルリアンも学習している様子です。

 

それゆえに逃げ道を塞ぎ、確実に仕留められるように数を用意して外周からじわりじわりとにじり寄っているようです。

 

「ヒクイドリさん! 掴まって!」

 

急降下しながらダンザブロウダヌキが叫びます。

声に気がついたのはヒクイドリと、周りを囲っているセルリアンの両方でした。

 

ヒクイドリとセルリアンの包囲網の間は五メートルもありません。

セルリアンが触手を伸ばせば届く距離です。それでもまだ触手に捉えられていないのは、単にセルリアンがヒクイドリを恐れているからなのかもしれません。

 

しかしその慎重なセルリアンも、目の前に掲げられた食事が急に現れたフレンズにお預けになろうとすれば、次に出る行動は二つに一つです。

 

慎重に近づいていた対象に一気に歩み寄って捕食してしまうか。

あるいは、

 

「ッ!」

 

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セルリアンが選んだのは後者でした。

ヒクイドリを囲んでいた十数体のセルリアンが、一斉にダンザブロウダヌキ目掛けて触手を伸ばします。

 

空中から下降していたダンザブロウダヌキは、勢いを止めることができずそのままセルリアンの触手の束に突っ込んでしまいました。

 

「だめだ! 逃げろダンザブロウダヌキ!」

 

ヒクイドリが悲鳴のような声を上げます。

ダンザブロウダヌキも逃げようともがきますが、触手が腕に、足に、腹に、首に、巻き付いて離そうとしません。

もがけばもがくほどに絡みついてきます。

 

空中で絡んできたそれらはそのままダンザブロウダヌキを地面へと追い落とします。

 

「くっ! こ、この! 離しなさい!」

 

地面の上で砂埃を上げながらもがくダンザブロウダヌキですが、触手は離れるそぶりを見せません。

ヒクイドリが奥歯を噛み締めながら地面を蹴り、囲んでいたセルリアン目掛けて突っ込んでいきました。

 

「はぁぁぁぁぁッッ!!」

 

正面のセルリアンを蹴り飛ばします。石が見えないので有効打とはならず、セルリアンはその場でふわりと浮いただけになりました。触手がダンザブロウダヌキに繋がっているので、吹き飛ばすこともままなりません。

 

続け様にヒクイドリは隣のセルリアンへと足を振り上げ、振り下ろします。今度は石に当たりました。踏み砕いて、セルリアンは光の粒となって消失します。

 

ですがまだまだ、右も左も前も後ろもセルリアンだらけです。

そして触手はダンザブロウダヌキを完全に捉えてしまいました。

もがこうにももがけず、解こうにも解けず、動けば動くほどその触手はダンザブロウダヌキを締め上げます。

 

「待ってろダンザブロウダヌキ! 今助ける!」

「んんんんん! ぐんんんん!」

 

ダンザブロダヌキを締め上げる触手は、口にまで到達しました。

言葉も発せないまま、ダンザブロウダヌキは地面でもがき続けます。

ヒクイドリも、心臓が張り裂けそうなほどに焦りを抱えながら周囲のセルリアンを蹴り飛ばしていきます。

 

石の位置が分からなかったり、分かっても攻撃の届かない所にあったりして、思うようにセルリアンを討伐できません。

 

「あああああぁぁぁッッッ!」

 

セルリアンの石をなんとか蹴り抜きながらヒクイドリが叫びます。

このままではダンザブロウダヌキは食べられてしまいます。

それどころかこの状況。自分自身も包囲から抜け出せずに、そのまま食べられてしまいかねません。

 

かつてないほどの焦りがヒクイドリを襲います。

背中に嫌な汗をびっしりとかいています。

心臓が口から飛び出してしまいそうなほどに早鐘を打ち、手が、足が、恐怖で震えて使い物にならなくなりそうです。

 

ここで、終わるのか。

セルリアンハンターとして、大切なフレンズの命を守るどころか道連れにしてまで、ここで散るのか。

助けに入ってくれたダンザブロウダヌキを、助け出せないままこのまま食われるのか。

 

それは嫌だ。そんなのは嫌だ。どうしたって受け入れられない。

 

ヒクイドリは奥歯を噛み砕かんばかりに噛み締め、両足に力を込めました。

セルリアンの石を蹴り砕きます。目の前の一体が散っていくのを横目で見つつ、次の一体の石の位置を探します。

一秒にも満たない時間で見定めては、その石目掛けて足を振り抜きます。

 

足は、何もなければ再び石を蹴り砕き、セルリアンを一体屠れるはずでした。

 

ヒクイドリの足が、セルリアンの触手によって止められます。止められた足に、瞬時に触手が絡みつき、ヒクイドリの右足を吊り上げました。

 

「なッ! く、っそ! 離せぇッ!!」

 

右足をとらえたセルリアンはそのまま膂力いっぱいにヒクイドリを持ち上げます。

吊られるようにして腰が、胴体が引っ張られ、左足が地面から離れます。

 

頭を真下にして、ヒクイドリは空中に吊られてしまいました。

吊った水色のセルリアンが、目を、ヒクイドリに向けます。

まるで、ざまぁみろと言っているかのような。

憎たらしく、悍ましく、しかし感情などまるでないかのような無機質な目で、ヒクイドリを見下ろします。

 

これで、終わってしまうのか。

頼みの綱の足を拘束され、宙に吊られ、抵抗しようにももうどうしようもない状態にされてしまって。

 

ここで、終わりなのか。

もうどうにもならないのか。

 

…………もう、無理かもしれないな。

ここまでされてはもう、巻き返しのしようがない。

どうにもできない。

どうしょうもない。

 

ダンザブロウダヌキ————ごめん。救えなかった。

ごめんよ、こんな不甲斐ないハンターで。

 

願わくば、痛みなくフレンズとしての人生を終わらせてくれ。

 

ヒクイドリの目に涙が浮かび、目を瞑った拍子にはらりと一粒地面に落ちました。

全身の力が抜けます。

もう抵抗もできません。ヒクイドリは、次の瞬間にはセルリアンに食われると確信して、目を瞑り、口を閉じ、自らの終わりを迎えるその瞬間に耐えられるよう身構え————。

 

『その手を離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!』

 

澄んだ叫び声と共に、セルリアンの触手がぶちりと切れる音が耳に届きました。

 

 

身動きのできないダンザブロウダヌキでしたが、目だけはしっかりと動いていました。

視界に飛び込んできたのは、無数の触手を伸ばす周囲のセルリアンと自分達の間に降ってきた、水色のセルリアンです。

 

そのセルリアンたちは、まるで斧の刃のように下部を薄く楕円形にしており、そしてその形から容易に予想できる結末として、周囲を囲むセルリアンから伸びている触手を一刀両断していきました。

 

ダンザブロウダヌキを締め上げていた触手が一気に緩まり、手足が自由になります。

地面に引き倒されていた体をすぐさま起こし、周囲を素早く確認します。

吊り上げられていたヒクイドリも、触手から解放されて地面に落ちた後、すぐさま起き上がった様子です。

 

上から降ってきた水色セルリアンは、形を丸い球体に変化させ、周囲を囲んでいたセルリアンに体当たりをするようにして後ろへと下がらせていきます。

包囲の輪が広くなります。

広がり、そして輪の一部分が開けます。囲っていたセルリアンが後ずさって、輪の中に一人のフレンズを招き入れました。

 

『間に合ってよかったよ。ダンザブロウダヌキ』

 

白いワンピースに青白い肌。髪の根元は青く、毛先は白のグラデーションがかかった、肩より少し長いくらいの髪の毛。

 

どちらかといえば細身で華奢な印象の少女は、にこりと笑うとダンザブロウダヌキに手を差し出しました。

 

『改めまして、ボクはラッキービーストのフレンズ、セッキーだよ。君たちを助けにきた』

 

 

「助かった……のか? セルリアンが襲ってこないぞ……?」

 

口を開けて周囲を見渡しているヒクイドリに、セッキーは両手を広げながら得意そうに言い放ちます。

 

『もうここら辺のセルリアンはボクの支配下に収めたよ。フレンズを襲うことはないし、むしろフレンズのために働いてくれる』

「なんだと……? き、君はセルリアンを操れるのか?」

『そうだよ。珍しい能力だよね』

 

にこりと笑うセッキーに、ヒクイドリは信じられないものを見るような目線を投げつけます。

ダンザブロウダヌキが安堵の息を吐きながら、ハクトウワシの姿から普段のダンザブロウダヌキの姿へと変身を解きました。セッキーが『おお、これが変身か。すごい』と小声で感心します。

 

ダンザブロウダヌキは微笑みながら手を差し出しました。

セッキーが優しく握り返します。

 

「本当に助かりました。なんとお礼を述べていいやら。あのままでは私たち二人とも、セルリアンに食べられていましたから」

『ギリギリになってごめんね。東側のセルリアンを端から一気に仲間にしながら進んでたら、ここでフレンズと戦ってるって報告があってね。もしかしてと思ってすぐに駆けつけたんだ』

「ありがたい限りです。お一人で来られたのですか?」

『いや、旅の仲間と来てるよ。後二人。森の道の方で待機してる』

 

ダンザブロウダヌキは頷くと、ヒクイドリの方へ向き直りました。

 

「ヒクイドリさんも、必死になって助けようとしてくださって、ありがとうございます」

「いや……私は、どちらかというとハンター失格だよ」

「そんなことは」

「セルリアンに吊られた時、もうダメだと諦めてしまったからな。恥ずかしいよ」

 

伏せ目がちに肩を落とすヒクイドリですが、その肩をセッキーがポンと叩きます。

 

『誰だって何度でも諦めるし、間違えるよ。今こうして生きてるんだから、次がんばろうよ! それに、ヒクイドリが時間を稼いでくれなかったらボクは間に合わなかったわけだし。結果オーライってやつだよ』

「セッキー…………あぁ、そうだな。そう考えることにするよ」

 

まだ肩は落ちていましたが、ヒクイドリは少し微笑むと「よし」と気合を入れるように拳を握りました。

 

「セルリアンは、もう安全なんだな?」

『問題ないよ。ボクが補償する。こうしてる間にも、東側からセルリアン伝いに支配下に入れていってるから、ほっといてももう数分したら全部掌握できると思う。みんな結構素直な子たちでよかった』

「セルリアンにも素直とかあるんだな……」

『あるある。頑固者とか全然ボクの話を聞いてくれなかったりとかもたまにあるから、そういう子は仲間にできないかな。今回はどうやらそういうのはないみたい』

「それはよかった」

「よかったです」

『これからどうする?』

「それなんですけど……」

 

ダンザブロウダヌキがおずおずと手を上げました。

 

「山の頂上付近に一度行ってみる必要がありそうなんです」

『頂上? なんで?』

「フィルターはご存じですか? 山の上に張ってある結界のようなものです」

『知ってるよ。フィルターがどうしたの?』

「もしかしたら今回のセルリアン騒動、そのフィルターが原因かもしれないんです」

 

ダンザブロウダヌキの話はとても簡単なものでした。

キョウシュウでもフィルターが外れてサンドスター・ローが漏れ出していたのと同じように、ここゴコクではセルリウムが漏れ出して大量のセルリアンが生まれてしまっているのではないかとダンザブロウダヌキは予想しているということです。

 

『そういうことなら、早く頂上に行かなきゃね。ただ、もしフィルターが外れてたら、四神を再配置しないといけないよね? 位置はわかる?』

「それが問題なんです。私も四神の位置まではわからなくて……再配置できないんです。ヒクイドリさんも、何か知らないですよね?」

「まず四神というのがわからん。大事なものなのか?」

「島にとっての宝のようなものです。それを正しい位置におかないと、セルリアンが大量発生したり、巨大セルリアンが発生したりするんです」

「それは大変だ」

『四神の位置かぁ…………知ってそうなフレンズ…………あ!』

 

セッキーはポンと両手を叩いて、何かに閃いた様子です。

 

『知ってるフレンズというか、位置を割り出せそうな人を知ってるよ! バスに戻って通信機を取りに行こう』

「わかりました」

「私もついていこう。万が一があるかもしれないからな」

 

そうしてセッキー、ダンザブロウダヌキ、ヒクイドリは、バスの待っている方向へと進んでいきました。

森の中のセルリアンはセッキーたちを見送るようにして見ています。襲ってきたり、食べようというそぶりは一切ありません。

後をつけるというふうでもなく、その場に止まって目だけが動いています。

 

「セルリアンは……これ、何をしているんだ?」

『次の命令があるまで待機って形にしてるよ。下手に集まっても邪魔だしねぇ。百体以上いるからね』

「これ、セッキーさんがいなくなったらどうなるんですか?」

『どうもならないよ? フレンズを襲わないセルリアンが森の中に点在するだけかな』

「襲われないと分かっていても物騒ですね…………」

『慣れだよ、慣れ』

 

ころころと笑うセッキーに、ダンザブロウダヌキとヒクイドリは顔を見合わせて苦笑いを浮かべました。




次回「やまとふぃるたー!」
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