【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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第三話 「ぼす!」

「意外と……遠かったわね……」

「平たいのが目印だからねー。でももうすぐゲートだよー」

 

 太陽が傾き、すっかりオレンジ色になってしまったジャパリパークの空。

 すーすーと寝息を立てているアライさんを背負ったまま、レミア達はゲートの近くまで来ていました。

 

 フェネックが、肩から斜めにかけているライフルの位置を直しながら、レミアを見上げて心配そうに訊ねます。

 

「レミアさーん、なんかごめんねー。アライさん重くないー?」

「全然大丈夫よ」

「すっかり寝ちゃってるしさー」

「暑かったし、疲れてたのよきっと。夜行性でしょう? 寝かせてあげたほうがいいわよ」

「うーん、ありがとねー」

 

 苦笑しながらフェネックは、申し訳ない気持ち半分、感謝の気持ち半分でそう言いました。

 

 しばらく進むと、これまでの自然の景色とは違う人工物が見えてきました。

 もう残滓もかくやといえる頃、空は紫と宵闇のグラデーションになり、舗装された道のわきには鉄のポールと遮断機があります。

 

「ゲートだー」

「ここね」

 

 二人はホッとしたような顔でそういうと、進む足を止めずに鉄のアーチをくぐり。

 背中でアライさんが「うみゅ……」と一声上げたのが聞こえ、レミアはくすりと微笑みました。

 

 

 ○

 

 

「だいぶ暗くなってきたわね」

「アライさんに任せるのだー! 涼しくなって元気が出たから、鼻が利くようになったのだ!!」

「元気になったのはレミアさんの背中で寝たからなのさー。ちゃんとお礼を言うんだよー」

「そうなのだ! レミアさん、とってもとっても助かったのだ! またよろしくお願いなのだー!」

「アライさーん……」

 

 あきれた表情でフェネックがため息をつく横で、レミアは涼しい顔をしています。もちろんいいわよ、とも付け加えて。

 

 ここは右も左も重なるようにして木が生い茂るジャングル地方。空はすっかり暗くなり、闇に囲まれたジャングルの奥ではいくつもの動物の鳴き声が響いています。

 

 レミアは本能的に背筋がぞくぞくする気配がして、両手を体に回しました。

 

「ジャングルは苦手なのか?」

 

 そんなレミアの様子を気にして、アライさんが心配そうにのぞき込みます。

 

「あんまり好きじゃないわね」

「レミアさんは夜にー、休んだほーがいいからさー。アライさーん、今度はレミアさんが休憩する番だよー」

「わかってるのだ!」

「あとー、ちょっと私も寝たいかなー」

「フェネックが昼夜逆転してるのだ……」

「難しい言葉知ってるねー」

 

 眠そうに目をこすりながら、フェネックが感心しています。

 

 ジャングル地方の入り口、ゲートから続く道の両脇には一定の間隔で電球がぶら下がっていました。

 明かりの灯っていないものもありますが大半はついています。これのおかげでレミアは真っ暗な地面に足を取られることもなく、比較的まともに歩くことができるのでした。

 

 しかしいくら地面が照らされているとはいえ、猛暑の中をあまり睡眠時間を取らず一日中移動したレミアです。

 ゆえに、その足取りは昨日の晩よりも重くなっていました。

 

「ん! なんか平たいのが見えてきたのだー!」

 

 前を元気に歩くアライさんが大きな声で叫びます。

 顔を上げたレミアとフェネックの目にも、何かが見えてきます。

 

 それは電球で照らされていました。レミアの背よりもだいぶ大きい木の板に、何やら色とりどりの模様が描かれています。

 

「ジャパリパークの地図だねー。久しぶりに見たよー」

 

 いくらか歩いてその板の近くまで来た時に、フェネックは見上げながら、眠そうにそういいました。

 たしかに地図のようです。緑と茶色と水色で大半を占められるそれは、現在地がどこなのかと、各地方の名前を示している地図看板でした。

 

「レミアさーん、この辺で休憩にしよー」

「そうね、少し寝たいわ」

「分かったのだ! アライさんはセルリアンが来ないか見張っておくのだー!」

「お願いするわ」

「ありがとーアライさーん」

 

 電球でライトアップされた看板の下で、レミアとフェネックはそれぞれ横になりました。

 鉛のように重いからだが地面に吸い付くようにして力が抜けていきます。土の堅い地面でしたが、疲労の溜まったレミアにとっては寝心地の良いベッドも同然です。

 すぐにまぶたが重くなり、周りから聞こえてくる動物たちの鳴き声が遠くなっていき――――。

 

「うわぁ! びっくりしたッ!」

 

 アライさんの突然の声に、レミアは一瞬で起き上がり。

 腰から神速の勢いで抜いたリボルバーを声のした方向に向けます。

 

 撃鉄はすでに起こされ、あとは引き金を引くだけで44口径の鉛玉が音よりも早く撃ち出される、

 

「…………?」

 

 はずでしたが、レミアは引き金を引きませんでした。

 アライさんの足元に居たのはセルリアンではなかったからです。

 

 アライさんの膝の高さより少し大きいくらいのそれは、全体的に青っぽい色。頭のてっぺんにある尖った耳はピンと立っていて、何よりもその外見は小さく丸っこい機械でした。

 明らかに自然発生した生物ではありません。レミアにはそれがわかりました。

 

 セルリアンでないことは確かですが銃口は向けたままぴたりと動かさず、警戒心を緩めないままにその機械がなんであるか、観察することにしました。

 上から下まで特徴をつかもうと視線を這わせていると、

 

「あれー? ボスー、ひさしぶりー」

 

 レミアの背中から声が投げられました。

 フェネックは普段の眠そうな声にさらに拍車のかかった様子で、両眼をぐしぐしとこすりながら目の前の機械に話しかけます。

 そんな彼女に、レミアは振り返りつつ怪訝そうな顔で、

 

「ボス?」

「そーそー、私たちはボスって呼んでるんだー。パークのあちこちで見かけるのさー。知り合いだよー」

「アライさんはひさしぶりに見たのだ! ねぇボス! こんな感じのぼうしをかぶってるやつ、見なかったかー?」

 

 アライさんが駆け寄って頭のあたりに手を寄せて、帽子のような形を作ります。

 しかし〝ボス〟と呼ばれたそれはアライさんを無視して、ぴょこぴょこと奇妙な足音を鳴らしつつ前へ進み。

 

『――――はじめまして、ボクは、ラッキービーストだよ』

 

 レミアにしゃべりかけました。

 かけられたレミアは終始困った顔のまま、しかし微動だにせずリボルバーの銃口をラッキービーストに向けています。

 ちょっと逡巡してから、自分も名乗ることにしました。

 

「あたしは……レミアよ」

『よろしくね』

「……よろしく」

 

 なんでこいつ真っ先にあたしへ話しかけてきたんだ、と言わんばかりの複雑な表情でアライさんを見ます。

 ラッキービーストから華麗に無視されていたアライさんを見ま――――。

 

「しゃあああああべっっったたたたたぁぁぁぁぁぁッッッ!!??」

 

 アライさんは近隣のカラスが一斉に飛び上がるほどの大絶叫をかまして、その声は夜のジャングルへ吸い込まれていきました。

 

 

 ○

 

 

「しゃしゃしゃしゃしゃしゃべってるのだフェネック! フェネックぅッ!」

「わーすごーい。……ねむたーい」

「寝てる場合じゃないのだぁー!!!」

 

 ほんのちょっとだけ目が開かれたような気もしましたが、フェネックはすぐにそれだけ言い残すと地面に横たわってしまいました。

 

「ちょ、ちょっと待つのだフェネック本当にボスがしゃべってるのだ!」

「昨日も声は聞いたのさー。それよりねむ……た……」

 

 

 くー、くー、と寝息を立て始めたフェネックに泣きそうな顔で何事か言おうとしたアライさんですが、その寝顔があまりにも幸せそうだったので肩にかけていた手を引っ込めました。

 

「ぬあー……ぬぉぁー……」

 

 小声で叫びながら頭をわしゃわしゃします。器用なことをします。

 

『君の名前を教えてよ』

「だから、レミアよ。レミアって呼んでくれたらいいわ」

『わかった、レミアだね。君は何が知りたい?』

「知りたい? 知りたいことなんて山ほど――――」

「ボス! ボス!」

 

 さっきは声量が抑えられたのに、もういつも以上の大きさでアライさんが叫びます。

 

「ボス! お願いなのだ! ボスがしゃべりかけてたのと同じぼうしをかぶってて、おっきな荷物を背負ってたやつ! あいつがどこに行ったか知りたいのだ!!」

『…………』

「ボぉぉぉスぅぅぅ! 答えてなのだぁぁぁ!!」

「アライさんちょっと落ち着きましょう……」

 

 ラッキービーストにしがみつきながらだくだくと涙を流すアライさんを、レミアはそっと引きはがしました。

 

 




これは絶叫フレンズアライさん。

次回「じゃんぐるちほー! いち!」
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