俺がボーダー隊員でチートなのはまちがっている 作:漆黒の光
修学旅行帰りの夜。
俺は、ベッドの中で嵐山の竹林での二人の言葉について思い出していた。
『あなたのやり方、嫌いだわ』
『人の気持ち、もっと考えてよ』
雪ノ下はもどかしそうに、由比ヶ浜は泣きそうな声でそう言った。
どうして、そんなことになったのか、俺には分かっていた。
だが、俺はあえてこれまでの経緯を振り返ってみることにした。
まず、修学旅行の前に葉山と戸部が奉仕部の部室にやってきた。戸部が軽率な発言をしたせいで、少し揉めかけたものの、依頼が戸部の告白を成功させてほしいというものだと聞き出すことができた。そのお相手は腐女子の海老名さんだ。
そこで、俺達はその依頼を受けることにして、戸部のサポートをすることにした。しかし、なかなかうまくいかなかった。
うまくいかなかった理由は主に二つある。一つ目にグループの中心人物である葉山が積極的に協力せず、中途半端な態度をとっていたから。そして、二つ目が、そもそも海老名さんが誰とも付き合う気がなかったからだ。
葉山が中途半端な態度をとっていたのはそのためだ。葉山は海老名さんから相談を受け、海老名さんの真意を知っていた。でも、ほぼ同時に、戸部の意思が固いことを知り、八方塞がりになってしまった。だから、奉仕部に頼ったのだ。そして、最後には俺自身を頼ってしまった。
しかし、遅すぎた。俺に打てる手はもはや一つしかなかった。それが、海老名さんに対する偽告白だ。その告白の返事を聞いた戸部は海老名さんの真意を知り、告白することはなかった。
そのおかげで、葉山グループは気まずくならずに済んだ。おそらく、これからも問題なく接することができるだろう。
これで、依頼達成だ。
だが……。
これで本当によかったのか?
さっきからずっとそのことばかりが頭によぎる。でも、そんなものは意味のない問いだ。考えるまでもなく答えは出ている。
あの状況では、あのやり方が一番効率がよかった。おそらく、それは事実だ。だが、同時に詭弁でもある。
その本質は欺瞞だ。俺の最も嫌う偽物だ。
なんてことはない。俺は結局自分が納得できる理由が欲しかっただけだ。そんなことをしたって、嘘がさらに積み重なるだけなのに。
一番の大嘘つきは俺だ。それに変わりはない。
だからこそ……。
そこで、急に俺の意識が遠のいた。
意識が覚醒すると、真っ白な部屋にいた。
これは夢か? それにしては、ずいぶんはっきりしているが………。明晰夢ってやつか?
「苦しんでいるみたいだな。八幡」
「!」
突然の声に驚く。え? なになに? 幽霊?
「はっ。俺がそんなちっぽけなものなわけがあるか。格が違うんだよ。格が」
声のする方を見る。
そこにいたのは銀髪オッドアイの男だった。グレーのスーツを着ていて、悔しいがかなりのイケメンだ。
名前を呼び捨てにして気安く接してくるってことは、材木座みたいなタイプか?
だが、まったく見覚えのない顔だ。こんな奴、一度見たら絶対忘れないはずだが。
「誰だ? お前……」
「そうだな。漆黒の光とでも名乗っておこうか」
…… こいつは材木座と同じ匂いがする。なんで、夢に来てまで、痛い厨二病と話さなきゃいけないんだ。どうせ、明晰夢なら戸塚を出せ。それか、小町。
「さて、それじゃ、早速本題に入ろうか」
厨二病は、俺の反応を待たずにさっさと話を進める。
「お前、転生しないか?」
「は?」
転生? 何言ってんだ? こいつ……。
「お前の苦しむ理由は分かる。きついよなぁ。雪ノ下や由比ヶ浜には毎日のように罵られ、そのくせ、面倒ごとになるとお前に丸投げ。お前は身を削る思いで依頼を達成してるのに、あいつらは、ただ文句をつけるだけだ」
「お前、何言ってんだ?」
何か急に意味不明なことを言いだしたぞ、こいつ。罵る? 丸投げ? 文句? 雪ノ下と由比ヶ浜が?
夢っていうのは、基本的にそいつの欲望や記憶から成ってるって聞いたことがある。てことは、俺が無意識にそういうことを考えてたってことか?
だが、正直、そんなことを考えたことは一度もない。これは、間違いなく嘘じゃない。
いや、そもそも、これは
…… だが、もし夢じゃないとしたら、なんで、こいつは雪ノ下や由比ヶ浜のことを知っている?
「お前…… なんで、あいつらのこと知ってんだ?」
「そんなの決まってんだろ? 俺がお前だからだよ」
ますます意味がわからなくなった。こいつが俺?
本当に何を言ってんだ? こいつ……。
だが、厨二病は言葉を続けていく。
「許せるわけねえよなぁ。葉山はお前を嵌めるために海老名さんのことを隠した。平塚は暴力ばかり振るう。雪ノ下や由比ヶ浜は何もできないくせに、いつも文句ばっかり—」
…… 聞くに堪えなかった。俺のことを勝手に決めつけ、周囲の人間を貶めす。
ふざけるな。お前なんかに俺の何が分かる。あいつらの何が分かる?
俺は我慢しきれず、殴りかかる。
だが、その拳はそいつの左手で受け止められ、腹を蹴飛ばされる。
「がっ!」
「てめえ。何のつもりだ?」
厨二病野郎が俺を見下ろしてくる。
「てめえごときが…… それ以上…… 俺たちを語るな……」
俺は厨二病野郎を睨む。厨二病野郎は一瞬目を血走らせて、俺を睨む。
厨二病野郎は一つため息をつき、俺の首を掴む。
「うっ……」
「なるほど。分かったぜ。お前はあいつらに洗脳されちまってんだな」
「ぐっ……」
「いいぜ。それなら、てめえの代わりに俺が転生してやる」
その時、痛みが消え、視界が白く霞んでいく。
「俺の中でよく見てろよ。八幡。お前が本当にやるべきことを、俺直々に教えてやる」
その言葉を最後に再び俺の意識が途絶えた……。