書きたい所まで書いたら長くなりました。楽しかった。
私の中で史上最長なんで、記念ですね。どうぞ!
目を開けると彼女が見えた。
何やら鏡を覗き込んで、目元を触っている。
暫くすると、目線をやや左下に向けてにこりと笑う。 そこには……フランがいた。
フランは嬉しそうに笑って、華麗なお辞儀を見せた。
その可愛らしい様子を見て、彼女がまた笑う。
私は彼女の笑顔に惹かれ、一歩踏み出した。
その瞬間、彼女は消えた。
まるで私と引き換えるかのように、フランと私の目の前から消えた。
フランは私を睨み、片手を上げる。
私を恨むように、憎むように。
私は意識を放った。
―――――――――
「燐乃亜!大丈夫か!?しっかりしろ!」
「っ……魔理沙?」
「意識はあるな?立てるか?」
「おう……」
なお続く爆風に煽られ、急いで元紅魔館の瓦礫の山を出る。後ろにフランの姿は無く、少しホッとしてしまう。
外では、霊夢とアリスが厳しい表情で立っていた。私たちを見つけると、二人ともハッとしたように駆け寄ってくる。
「魔理沙っ!無事?!」
「あー……まぁな。そっちは大丈夫だったか?」
「えぇ。今の爆発、結界に異常を来さないと良いのだけれど。」
今の発言は確実にヤバい。魔理沙はとうとうキレた。
「んなこと言ってる場合かよ?!フランは、パチュリーはッ!」
「うるっさいわねッ!あんな奴らに構ってられるほど、事態は甘くないの!」
「ッ!あんな奴らって何だよッ……もう一度言ってみろ!」
「魔理沙!」
「落ち着け!」
先程もそうだったが、何故魔理沙はこんなにも相手に真剣になるのだろう。滅多に見ない形相で、霊夢に掴みかかろうとしている。
被害者がパチュリーだからか?
違うはずだ。きっと霊夢でもアリスでも、例え関係のない人妖だとしても、魔理沙はそうなるはずだ。
だとしたら……何だ?
「……魔理沙。その……今のはちょっと言い過ぎた、ごめん。」
「!……まぁ、そーだな。」
「……何よ、今度はにやにやして。変な奴ね」
「変な奴ね、とは失礼な。こちとら大真面目だぞ?」
「あっそ。……行くわよ」
「行くぜっ!」
「あ、ちょっとっ!」
そう、簡単な事だった。
相手がよく知る友達だから、それだけだったのだ。
本心が聞ければそれでいい、お前はそんなこと思ってないだろ。魔理沙が伝えたいのは、きっとそういうことなのだ。
だとしたら……
「「私にだって出来ることがあるはずだ。」」
「え?」
「わわっ……!」
背後から声が重なって思わず振り向くが、霧が濃く何も見えなかった。その正体を考える余裕も出来ているのだから、我ながら落ち着いていると思う。
気を引き締めて、玄関ホールへと再度足を踏み入れる。そこはもう戦場と化していた。フランと戦っているのは霊夢だ。札と炎が中央で互いに散って落として接戦を繰り広げている。
「はは……さっすが霊夢だな。」
「……別に。」
魔理沙の一言に霊夢の陣形が一瞬乱れたのは内緒の話として、霊夢は額に汗を滲ませている。一方、フランはまるで新しい玩具を試すかのような表情で、どこかつまらなそうにしている。
その態度に疑問を抱き始めた時、ホールに声が響く。
「……つまらないわ。」
「は?」
「つまらないって言ったのよ、聞こえたでしょ?」
色のない瞳が霊夢を捉える。怪訝そうな顔をして佇む霊夢に対して、魔理沙が突如叫んだ。避けろ、と。
霊夢も何か思うところがあったのか、横に素早く飛ぶ。狙いを外れた人一人分ほどの爆発が大理石を歪ませると、柄にもなくフランが舌打ちをする。
いつの間にかフランは右手を真っ直ぐ突き出していた。
フランは霊夢を壊そうとしていたのだ。
そう、まるで飽きてしまった玩具を放り投げるように。
そして飽きてしまった玩具は二度と相手にはされない。
……相手にされていない?
「魔理沙っ飛べ!」
「!?」
気づけば訳も分からず叫んでいた。魔理沙は箒にぶら下がるようにして上空に上がると、私に問った。
「何だ?一体何があったん、だ……うわぁ」
今まで立っていた場所を指差そうと下を見た魔理沙が顔をひきつらせる。
そこには小さなクレーターが二つ出来ていた。再びフランと交戦し始めた霊夢も、此方を振り向いて目を見開いた。私達が無事であることを身ぶり手振り伝えると、霊夢は頷いて戦いに戻っていった。
しかし、おかしい。
先程のムラのある破壊の仕方も、手を抜いた戦い方も、私の知っているフランとは違う。もちろん狂ったフランを見たことは無いので、異常とは言い難いが。
そこで改めてフランを観察してみると、何か違和感を覚えた。光の射さない瞳は赤黒く、その下瞼には乾いた涙の跡があった。
涙が枯れるほどの哀しみに閉ざされ、
大切な人に会えず、苦しみ抜いて、
そして狂う。
脳内にノイズが流れて、掴みかけた感覚が消え失せた。
まぁどうでもいいか、と割りきって思考を戻す。
「燐乃亜!仕掛けるぞ、いいな!?」
「ん、あぁ!」
「"イベントホライズン"!」
「"スコーピオンアルバニア"!」
複雑な魔法陣と蠍座の象形が浮かび上がる。私達は併せて片手を掲げ、フランへと弾を撃ち込んだ。
と、もともとガタが来ていたのか、柱の一本が崩れる。三人で顔を見合わせる。霊夢が物凄く冷たい目線を向けてきて、魔理沙は戸惑った挙げ句に開き直ってどや顔を決めた。霊夢の目付きが一層悪くなった所で、館の内装が一気に崩れ始める。
「げっ」
「これはヤバいわね。退くわよ!」
「「はいぃっ!」」
霊夢の声かけに、全速力で大きな扉へと走る。というか地面すれすれを飛ぶ。ひしゃげて若干狭くなった入り口を通り抜けて、そのまま外壁の辺りまで退避する。
フランも霞む上空にて羽を広げていて、口角を心なしか上げた。ゆっくりと後方へ下がり、霧の湖へと続く小路に立つ。
まだ終わらない、終わらせないのだ。
運命が、狂喜が、この世界が。
そして、身体中がその危険を察知して怯えている。
「まだ……終われない。フランを救うまでは、終われないんだ。」
「……あぁ。」
「ま、私としてはさっさと終わらせたいのだけれどね。」
「その通りだぜ。」
「なら、手伝いましょうか?」
「!!!」
聞き覚えのある声に霊夢が振り向く。懐中時計を手にしたメイド、随分汚れたチャイナ服を着た妖怪、そして……大図書館の魔法使いがいた。
「な、パチュリー!お前……」
「簡単よ。アリスの家まで翔んだ、治癒を受けて……はい、終わり。」
「アリスェ……」
「何にせよ無事で良かったわ。咲夜、美鈴」
「一時はどうなるかと、ねぇ?」
「はは……すみません。」
「オハナシ……終わっタ?」
「ッ!!!」
数秒の沈黙に割り込んだ少女は、もはや正気の欠片さえ残していなかった。裂けるように広がった口から牙を覗かせ、紅い瞳をギラ付かせる。そんな変わり果てたフランに、私達は言葉を失うしか無かった。
恐ろしい静寂を打ち破ったのは、やはり霊夢だった。
いつものように、気だるげに、そして自信たっぷりに言い放つ。
「さ、行きましょ。それでさっさと終わらすのよ」
「んーっ……そうだな。遅れるなよ!」
「えぇ。」
「アイヤー!」
「……ん。」
「……あぁ!」
「ミンナ遊ンデクレルノ?デモ……」
フランは片手を上げて、ニッと笑った。その目は姉にとてもよく似ていて、従者達に向けられていた。
「フラン、ソノ玩具は飽キチャッタナ?」
「ッ!"ルナクロッ」
「サセナイ。」
もう見慣れたはずの炎が、より赤く見えた。その場で燃え尽きたスペカとは対称的に、メイド達の姿は無く、無邪気な笑い声だけが響いた。
「キャハハハハハ!!!サァ、邪魔スル子ハイナイワ。遊ビマショ?!霊夢、魔理沙!」
「っ……臨むところだぜ!」
「合わせなさいよっ!」
目の前から、二人が消える。飛び上がった軌跡を目で追うと、フランが早くも二人のスペカを一枚打ち砕く所だった。
援護を出来る距離では無い。私はただ固唾を飲んで見守るしかなかった。
「アー楽シカッタ♪デモ……時間ミタイネ。残念デシタ!」
「は……何言ってんだ?私らはお前を救」
「イラナイ。フラン、全部壊スンダモン。」
「何ですって?バカじゃないの?」
「フラン、全部壊スノ!全部壊ス、全部壊ス全部壊ス……」
「っ……フラン……?」
「何が、起きてるの……」
拳を震わせて、うわ言のように繰り返すフラン。動揺を隠せない私達は、気づけば無防備にフランを見つめていた。
「全部……壊レチャエバイインダァ!!!」
「きゃあっ!」
「うわっ!?」
それがいけなかった。
霊夢と魔理沙の悲鳴に気づいた時には、二人は地面に叩きつけられていた。
「霊夢っ魔理沙っ!」
「キャハハハハハ!!!面白イワネ、燐乃亜?」
「この野郎……ッ」
もう怒りしか感じない。いくらフランだから、狂気に捕らわれた別人格だからといっても、もう限界なのだ。
地面を蹴ってフランの目の前に飛び出す。私にはもう、理性なんていうものはいらないと、本気でそう思った。
「"獄炎彗星―コマンドサテライト―"ッ!!!」
「燐乃亜モ遊ンデクレルノネ!?"スターボウブレイク"!」
「「アアアアアアッ!!!」」
叫び散らして、炎と星が行き交う。感覚で撃ちまくり、本能で避けるこの遊びに、私はいつしか相手との格差を忘れていた。
「楽シカッタワ……!デモコレデオシマイダヨ?」
「まだ……まだだ!終わらせる訳にはいかねぇっ!」
「鬱陶シイ人ハ、フラン嫌イダナァ……サヨナラ。」
Q.E.D."495年の波紋"。スペカ宣言が終わると一瞬、無数の弾幕が飛び出した。それは水面の波紋のように広がり、あっさりと私を撃ち落とした。
地面に叩きつけられて、脳が揺さぶられる。
「かはっ……」
「サァ、遊ビハ終ワリヨ?悪イ子ニハオシオキが必要ダモノ、ネ……?」
体が震える。奥深く眠っていた生存本能が、今は煩く鳴り響いている。
ただただ怖くて、逃げ出したいのに。
どうやって声を出すのか、
どうやって助けを呼ぶのか。
もう何も分からない。
「た、すけて……。」
この際誰でもいい。
咲夜でも、アリスでも、紫でも、通りすがりの妖怪だって、何だっていい。
彼女でも……あぁ。
「会いたかったなぁ……っ」
「ジャアネ、サヨナラ人間!!!」
笑いながら焔の聖剣を構えるフランが、滲んで遠くなっていく。涙はとても暖かくて冷たくて、何の役にも立たずに零れ落ちていく。
恐怖だけに囚われて、ただ楽にしていたかった。
もう何の希望も無い暗闇に、私は瞳を閉ざした。
「キャハ、ハハハハッ!!!」
「"アテンションロンド"ォォォ!!!」
そう、何の希望も無い暗闇だった。
そこに……
彼女が、冬の一番星が現れた。
暖かく綺麗な、流星群に乗って。
「大丈夫?燐乃亜」
ありがとうございましたぁぁぁ!!!
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