幻想郷は夢を見る。   作:咏夢

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わーい!メリークリスマス!

……とりあえず書きたかったんです。ごめんなさい。
時系列は多分一年後ですかね。
……設定の矛盾?
あ、サンタが持っていきました、はい。


レミリアは夢を見る。―サンタクロースの紋様

「ん……。あふ……」

「~……?」

 

欠伸を噛み殺して起き上がる。隣では燐乃亜がうっすら瞼を開ける所だった。もはや夢の迷い人の概念を無視した私達は、稀に此処――名を幻想郷という異世界を訪れている。

揺れる木々はもう葉を散らしきり、樹皮を剥き出しにしている。朝の弱々しい陽射しと冷たい空気が、今が冬としっかり分からせてくれる。

12月23日土曜日、午前10時。現実とは午前午後が逆転したこの世界での生活時間は貴重だ、充実させたい。

 

「ん……魅空羽?」

「起きた!おはよう、燐乃亜」

「あー、おはよ……。此所は……」

「神社の裏かなー。今日は運が良かったんじゃない?」

「ま、紅魔館の中庭よりはマシだな。」

 

連休に私達を呼び寄せる事は出来て、その呼び寄せる場所を指定出来ないとは困ったものだ。無論、紫の事である。

 

「何にせよ、今呼ばれたって事は……」

「あぁ。多分帰してもらえないだろうな。」

「だよね~……ま、とりあえず霊夢に挨拶しに行こうか」

 

立ち上がって、埃を軽く払う。毎日のように掃除される境内とは、やはり環境が違う。暇なんだから此方も掃除すれば……、と思ったのは内緒だ。

 

建物の脇を通って境内に出ると、食器の触れあう音が微かに聞こえた。きっと、朝食後の洗い物だろう。

障子を開けて声をかけようとすると、廊下の奥から声が聞こえた。

 

「魔理沙?朝ごはんならもう残ってないわよ~。」

「!?……あははっ」

 

思わず吹き出すと、怪訝そうな顔をした霊夢がひょっこり出てきた。私達を見ると、すぐに表情を変えて此方に歩いてきた。

 

「おはよ、また紫が呼んだのね。今度は確か……あっ、着替えてくるわね。」

「うん。お邪魔しちゃうね。」

「はぁい。」

 

白い寝巻きの着物姿が、廊下の反対側に消えた。靴を脱いで近くにあった座布団に座る。

暫くすると霊夢が、今度はいつもの巫女服姿でやってきた。湯飲みを三つ卓袱台に置いて座る。

温かい緑茶をありがたく頂くと、燐乃亜が霊夢に訊く。

 

「で?今度は何するんだ?紅魔館主催のデスマッチ?」

「あれはデスマッチじゃなくてサバゲでしょ。違うわよ。」

「じゃあ何するんだよ?」

「まぁ言い出しっぺが紅魔館なのは変わらないんだけど……ね、クリスマスって知ってる?」

「勿論。サンタさんがどーたらこーたらだろ?」

「そう、それよ。パチュリーの所で何か見つけたらしくてね、レミリア。それで咲夜が困り果てて、こっちに回してきたのよ。」

「つまり今回はサンタさんごっこ?」

「そういうことよ。ま、頑張ってね。」

「「ん?」」

「……え?」

 

呆けた顔をする霊夢の手を、私達はにっこりと握りしめた。

 

――――――

 

「おーい、起きろー」

「何で私まで……」

 

私達は紅魔館の門前に来ている。もちろん霊夢も連れて、今は美鈴を起こす作業だ。

 

「えいっ。」

「あだっ……何ですかぁ?」

 

いつもの事ながら門番らしくない、そののんびりした声に苦笑を溢す。と、何処からか指を鳴らしたような音が重なって二回聞こえた。

 

「さぁ、何でしょうね?」

「みぎゃあぁぁあああ!!!?」

 

そう、紛れもない彼女の登場フラグだ。能力を駆使して突如現れた咲夜は、こめかみに青筋を浮かばせて微笑んでいる。美鈴の目線はその手に持たれた銀のナイフに注がれているが。

 

「はあぁ……あんた、今日の昼食抜きね。」

「うぅ~そんな殺生なぁ~」

「はは……お邪魔しまーす。」

「えぇ、こっちよ。」

 

咲夜に続いて中庭へと入る。後から付いてきた美鈴も含め、全員が玄関前へとたどり着くと世界が見覚えのあるカラーリングに変わった。

 

「ふぅ……。流石に四人も動かすとなると、体力いるわね。」

「その割には特に変わり無いですけど」

「何か言ったかしら?何なら置いていくけど」

「すみまっせーん!」

 

美鈴と咲夜が漫才を繰り広げている内に、一行は大図書館に着いた。咲夜は懐中時計を取り出すと、つまみを押し込む。

先程とは違った静けさが一瞬で流れ込んでくる。咲夜が少し前に出て、声を響かせた。

 

「パチュリー様。到着致しました。」

「分かっているわ。此方に来て。」

「はい。さ、行きましょう」

 

奥の机でパチュリーが顔を上げた。その横では、慣れた手つきで紅茶を入れる女がいた。何処かで見た気のするその少女は、私達に気づくと目線を上げた。

 

「あっ、もしかして私、自己紹介してません?」

「あ、はい。」

 

赤い髪に黒いワンピース。同じく黒い小さな羽は、レミリアに似ている。少し浮かび上がって、クルリと回って一礼。

 

「小悪魔っていいます!こあって呼んでくださいね~」

「宜しく~」

「宜しくな」

「こあは私の使い魔よ。大体は此所にいるわ」

 

パチュリーの付け足しもあって、話が本題へと変わる。

 

「で?サンタさんごっこなんだっけ?」

「えぇ、そうなるわね。こあ、あれを。」

「はいはーい!」

 

小さな羽を忙しなく動かして、こあが一冊の本を運んできた。いかにも重そうな分厚い本で、英語で書かれている。パチュリーが軽く手を振ると、それは日本語に変わった。

 

「あー。良くある感じの……」

「絵本、ていうか童話?レミリア趣味子供だなぁ」

「……お嬢様。今回ばかりはこの咲夜、庇い様がございません故。」

「本人寝てるけどな。で?結局サンタになるのか?」

「それなんだけど……」

 

当然と思っていた構想に、パチュリーが口ごもる。咲夜も苦笑を浮かべているので、何かしらあるのだろう。私は紅茶を一口頂くと、燐乃亜を確認する。何やら先程の童話を読み耽っている様なので、声はかけないことにした。

霊夢は何やら咲夜と話しているが、表情の雰囲気的に『普通の世間話』とやらなのだろう。無論、普通の人間のような話をしていた覚えは一度も無いのだが。

 

「レミィ、何か勘違いしているみたいなのよねぇ。」

「と、いいますと?」

「燐乃亜なら分かるんじゃないかしら?」

「?」

「あぁ。魅空羽、これ見てくれ。」

 

さっきまで燐乃亜が読んでいた本をもう一度覗き込む。やはり良くあるような童話だ……あるところを除いては。

 

「あ、はは……」

「これは……面倒ね。くっ……」

「笑っちゃあダメだろ……~っ!」

 

肩を震わせる霊夢と口元をひくつかせる燐乃亜。無理も無い、これは酷い。

 

『サンタクロースは、プレゼントを運び終えると、空へと舞い上がった。そして、疼く右手を解放した。そこには星の紋様が刻み付けられていたという……。』

 

「何が起きてるんだよっ、中二病かっ……!」

「あーヤバい。お腹痛いっ」

「ふぅ……と、いうわけなのよ。レミィったら信じ込んでて……」

 

つくづく精神年齢が低い。こんな話、小学生でも信じまいと苦笑を隠しきれずにいると、どこかに行っていた咲夜と美鈴が帰ってきた。何やら抱えている。

 

「これが衣装ですね~。それと……」

「はい。其を読ませて頂いて、新しく作ってみました!」

 

咲夜が取り出したのは二つの衣装だった。

サンタのカラーである赤を基調にしたワンピース、マント、リボン(髪留め)、ブーツ。

こちらは紅を基調にしたワンピース、マント、シュシュ、パンプス。

そして何やら包帯らしきもの。

 

「あ、あのさ咲夜……」

「どうしたの?燐乃亜」

「これ、誰が着るのかな?」

「「「貴女達に決まってるじゃない(ですか)」」」

 

燐乃亜と顔を見合わせる。苦虫を噛み潰したような顔をする燐乃亜に、渋々頷く。これはもう強制だ、やるしかない。

 

徐々に騒がしくなる大図書館にも気づかずに眠るレミリアを思い浮かべて、私は少し微笑ましくなった。

 

――――――

 

「さて……用意は良いわね?」

「「はい!パチュリー様。」」

「……大丈夫、です。」

「こっちもオッケーだよ。」

「……だから何で私まで。」

「何も話を聞かされずに引っ張られるよりかマシだろ。」

 

上からパチュリー、咲夜とこあ、燐乃亜、私、霊夢、そして魔理沙の発言である。

もう一つ付け足しておくと、霊夢と魔理沙はいわゆるトナカイ役らしい。勿論本物のトナカイを召喚して躾る、等と色々方法はあったのだが、まぁ致し方ない。

 

「燐乃亜ったら、顔真っ赤だよ~……しょうがないけど。」

「だよな!?こんな上空……敷地内でも無いのに、誰に見られたか分かったもんじゃないし……うぅ。」

「た、確かに……。」

 

パチュリーの言うには、このイベントは今年だけに収める手段がある。との事だが、如何せん意味が分からない。

というか、今更だが何やってるんだ私達は。

 

改めてため息をついて、気持ちを切り替える。下を見下ろすと、こあが赤いライトを小さく点滅させている。移動する合図だ。慎重に――主にマントが脱げないようにだが――羽を動かして、館へと近づく。今頃、咲夜とフランが一芝居打ち始めた所だろう。

これは予測だが、大方の内容はこうだ。

 

「お嬢様、起きておられますか?」

「勿論よっ!……咲夜ね、入りなさい。」

「はい。お嬢様、門前にこれが。」

「こっ……こここれって!ぷ、プレゼント……よね?」

「えぇ、左様でございます。」

「わ、私……いい子にしてた、わよね……?うん、そうよね……きっとそう……!だとしたら」

「お姉さまああぁっ!」

「フラン!?ね、寝てたんじゃ……」

「ま、待ちきれなくって!それより窓開けてっ!」

「へっ?な、何がどうし」

「早くっ!」

「な、何でよ……?」

 

さぁ、いよいよ私達の出番である。窓が開いてレミリアが顔を出すまで、たった二秒。その一コマがゆったりとして見える、たかが子供騙しにこんなにも緊張するとは。

 

まずは、レミリアとバッチリ目が合った所で、自然に隠していた左手を上げた。同時に燐乃亜が響くような男声を出す。

 

「我、汝に祝福を授けん。我が名は、サンタクロース。」

「わあぁっ……!!!」

 

レミリアが目を一気に輝かせる。燐乃亜は今、非常に高難易度の事をしている。魔法を使い、幾つもの灯火を宙に維持して、更にはその明るさを顔が見えない程度に調節。馴れない低音を響かせ、重厚な雰囲気を造る。

ある意味イタズラとはいえ、手は抜けない。私はもう片方の手に魔力を込めて、レミリアへと伸ばす。無論届くわけは無いし、直接触る気もない。

なるべく大人っぽく聞こえるように囁く。

 

「さぁ、レミリア・スカーレット。左手を出しなさい。」

「は、はい……!」

「貴女は、サンタクロースの秘密を知った……。ですから、これから私達は同志になるのです。」

 

目を見開くレミリアを前に、燐乃亜と目線を交わす。このイベントを上手くこなすために、二人で考えた作戦に移る。

 

「Twinkle,Twinkle,little star……」

「How I wonder what you are……」

 

きらきら星、英訳歌詞。本当はクリスマスソングでも歌いたかったが、仕方ないと思う。それに実際今歌ってみると、なかなか場景にマッチするのだ。

歌いながら、二人でくるくると指先を回し合う。しっかりと、何回も練習した紋様を思い浮かべて、魔力を練り合わせる。

 

「「Twinkle,Twinkle,little star.」」

「How I wonder what you are……!」

 

"あなたは一体何者なのかしら!"

 

感動したように涙を流しながら、最後のワンフレーズを歌ったレミリアは、何だかとても可愛かった。

そっと指先を弾いて、レミリアの手の甲に光が染み込む。

 

同じように私達が差し出した左手には……

 

 

星の紋様が、刻み付けられていたという。

 

―――――――

 

「……何か、スゴかったな。」

「同感よ。二人とも気合入ってたわねぇ。」

「ともかく。添付した魔法は成功したのね?」

「あぁ、問題ないはずだ。」

 

あの紋様に込められていた術式は、

『一年毎に、刻み付けられた紋様が光る。』

という物だ。

昔は囚人に罪を忘れないように付ける物だったらしいが、それが今は幼心を持った吸血鬼に宿っているという訳だ。

多分、それでレミリアは満足するだろうし、ちょくちょく会いに行けば良いだろう。それか手紙でも残すか。

 

「何にしても、これで数年は安泰ね……。ありがとう。」

「ううん!楽しかったし、良かったよ!」

「出来ればもうやりたくはないが、な。」

 

燐乃亜の一言に場の雰囲気が和む。

明日だけは、レミリアの話を全部聞いてあげよう。

夢見る少女の夢物語を、笑わずに全部。

 

「メリークリスマス。」

 

誰かが、紅い館に向かって呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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