プリズムリバーは分けました。
第一夜
降りゆく雪。炬燵に二人の少女。
前回の夢とは季節感が違うようだなぁ、と思いながら耳を澄ませる。
「なぁ霊夢~。おかしいとは思わないか?」
「……思うわよ。ただ、少し様子を見てただけ。」
「そうか。……ま、今日はお暇するぜ。」
魔理沙が箒を手に取り、帽子を深く被った。すると、鳥居の方から神社特有の石畳の足音がした。
二人が顔を上げて、見合わせる。足音は近づいてきて、ついに姿を現した。
「あら、魔理沙も居たのね。丁度良かったわ。」
「んー今から帰る所だったんだがなぁ……まぁいいか。んで、館のメイド長さんが何の用だ?」
「……二人とも気づいているのよね?」
「ん、まぁな~。」
「そうね、気づいてはいるわよ。だから何?」
何が起きているのかは分からないが、あのメイド……紅魔館にて霊夢と乱闘を繰り広げていた、女性のようだ。この様子だと、意外と上手くやっているようだなぁと思っていると、魔理沙が深く呟いた。
「もう四月……だもんな。」
「えぇ。何でかしらね。」
「……館の備蓄が無くなるのよ。この様子じゃ、貴女達に任せてられないわね。」
呆れたようなメイドは、そのまま足早に立ち去った。残った魔理沙は解せぬ表情で問った。
「ったく咲夜は、時なんか止められるのに、何であんなにせっかちなんだろうな……。」
「忠誠心とかいうやつでしょ。私には解らないわね」
「……ふぅん。じゃ、またな!」
魔理沙はそのまま箒に跨がると、遠くの方へと飛んでいった。
一人残された霊夢は、面倒そうに呟いた。
「そろそろ、かしらね。」
――――――
第二夜
肌寒い空の上、メイド服にマフラーをした咲夜が(どういう原理かは知らないが)飛んでいた。
時々浮かれた妖精共が襲ってくるのたが、鋭いナイフに貫かれて爆散する。
辺りがまた静かになって、吐き捨てるように咲夜が言い放つ。
「あぁもう、こんな雑魚倒しても何にもならないわ!さっさと黒幕の登場願いたいものだわ。」
「くろまくで~す♪」
茶化すように飛び出してきた氷っぽい妖精。が、今の咲夜に冗談は通じない。眼光を一層鋭くした咲夜は、淡々と言った。
「あなたが黒幕ね。それじゃ早速」
「ちょっと待って!私は黒幕だけど、普通よ。」
「黒幕に普通も何も無いわ。今何が起きているのか、分かっているの?」
「雪の結晶が大きいわね。それと……頭のおかしいメイドが空を飛んでいるくらいかしら。」
「そう。やっぱりあなたが黒幕ね。」
咲夜がナイフを投擲。一瞬にて闘いが始まった。この戦闘も見慣れたものだが、何を競っているのだろうか。
優雅さ?避けにくさ?俊敏さ?
案外どれもしっくり来るので、困る。
「あ、ヤバい。"テーブルターニング"!」
「……散りなさい。」
時を止め、丹念に配置したのだろう。数える気にもならないナイフの群れが、黒幕(?)目掛けて飛んでいった。
悲鳴が響く中で、咲夜はしれっと呟いた。
「黒幕、弱いなぁ。次の黒幕でも、探さないとね。」
――――――
第三夜
霊夢も何だかんだ言って、勢い増す雪の中を一直線に飛んでいた。前方に霞む敵を叩き落としながら、脇目も振らずに加速する。
「あら。こんな所に家なんてあったかしら?」
「ここに来たら最後!」
「最後?」
猫耳に二又の尻尾。幼そうな女の子が霊夢に向かって言い放つ。霊夢はあまり驚かずに首を傾げた。
「それはさておき、迷い家へようこそ。」
「で、何が最後?」
「迷い込んだら最後、二度と戻れないわ。」
ぽかーんと口を開ける私とは違って、霊夢は大して気にする様子も無い。
「そう。あ、迷い家の物を持ち帰ると幸運になれるらしいわね……。よし、略奪開始~。」
「何ですって?ここは私達の家よ。人間は出てって。」
「二度と戻れないわ。……は、どうなったのよ?」
戦闘が始まった。幼稚な見た目と裏腹に、知識はそれなりにあるようだ。次から次へと弾が放たれていく。
「出てってば!"鬼門金神"っ!」
「煩いわねぇ。はっ!」
薄い赤に発光する札を叩きつける霊夢。さすがの猫耳ちゃん(仮)も、その場から消え去った。
何か思うところがあるのか、霊夢は少し考え込んでいたが、すっくと立ち上がった。
「とりあえず……身近な軽い日用品でも探しましょ。」
誤魔化すようにそう言った霊夢だったが、ものの数分で飛び立っていった。
―――――
第四夜
相変わらず涼しげな空を、箒に跨がって飛んでいる魔理沙。ポケットから取り出したのは、一枚の桜の花弁だった。
その表情に暗さは無く、どちらかといえばまだ見えぬ春に、ワクワクしているようだ。
「……何つーか、心地いいな。」
「こんな殺伐とした夜が良いのかしら?」
「良いんだよ。」
金髪の少女は、どことなく冷たい瞳で魔理沙を見つめている。顔見知りのようで、魔理沙も素っ気なく返す。
「所詮、貴女は野魔法使いね。」
「温室魔法使いよりは良くないか?」
「私は都会派魔法使いよ。」
「へぇ、辺境へようこそだな。」
「田舎の冬は寒いのねぇ。」
「誰の所為でこんな吹雪に遭ってるんだか。」
「ちなみに私の所為では無いわ。」
二人の目線がぶつかり合う。
……決して、運命の出会いでは、無い。
「そうか。でも、なけなしの春くらいは持ってそうだな。」
「私も、あんたのなけなしの春くらいを頂こうかしら?」
人形のような少女は少し皮肉めいた笑みを浮かべて、見えない糸を操るように手を動かした。魔理沙が姿勢を低くする。
「"博愛の仏蘭西人形"。上海!」
「っ!行くぜ……っ!」
リボンを付けた人形が少女の周りを取り囲み、赤い弾を散らす。辺りは一瞬にして、明るく照らし出された。
魔理沙は心なしかいつもより真剣な瞳で、それでも笑みを絶やさずにそれを避け続ける。
パターンはどんどん変わっていき、人形の数も増えていく。魔理沙の余裕が消えることは無かった。
「くっ……"首吊り蓬来人形"。行きなさい!!!」
「まとめて吹っ飛ばす!"スターダストレヴァリエ"!」
小さな人形達は、驚異の火力には耐えられずに散った。少女もまた宙へと舞って、魔理沙の腕の中へと落ちた。
「普通の人間は外に出ない季節なんだぜ?」
「……普通の人間と一緒にしないで。」
「異常な人間か?」
「普通の人間以外!!!」
何だかんだ言って仲良さげな二人を見つめ、少し切なくなった。雪はまだ、止まないようだ。
――――――
第五夜
咲夜は相変わらず上空を突き進んでいた。目的地が分かっているのだろうか、もしかしたら時を止めて地図を見ているのかも……上空に地図は無いか。
相変わらず厳しい表情のメイドは、忠誠心を糧にスピードを緩めない。本当に人間なのか?いや、咲夜に限ったことでは無いのだが。
「上空の方が暖かいのね……。」
「本当ねぇ。この雲の下は猛吹雪だっていうのに。」
「ここはどこ?それと、あなたは誰かしら?」
「質問は一つずつにして。」
「そうねぇ。じゃあ、貴女は凄いの?」
「物凄く普通よ。どうでもいいけど、貴女は誰?」
「風上を目指していたら、ここに辿り着いただけよ。風は此所で淀んでいるみたいだし。」
「うーん……宴にはまだ早いけど、前夜祭といきましょうか!」
金管の音が鳴り響くと、波紋のように弾が広がった。咲夜は器用に弾を避けると、ナイフを投げる。
ここから……夢の中からでは、あの音に何か意味があるようには思えないのだが、きっと何かがあるのだろう。
「むぅ……"ゴーストクリフォード"!」
「"殺人ドール"。……時よ止まれ。」
私に時の狭間を覗く事は出来なかったが、刹那にしてナイフは並び、そして突き刺さった。
目の前には大きな扉があったが、咲夜は何か考えて、消えた。時空を飛び越えた彼女のそれからの経緯は分からないが、その後の夢で会うことは無かった。
―――――――
第六夜
霊夢は、昨日と同じ風景の中にいた。違うのは目の前にいる少女だろうか。今回は黒かった。
「どうして雲の上まで桜が舞ってるのよ?……誰か答えてくれないのかしら」
「ほら、きっとあれよ。気圧が、下がる。」
「テンションも下がりそうね。」
「……。」
「この扉の先に用があるの。帰らないわよ。」
「貴女はお呼びでない。雑音は排除するまで。」
バイオリンがメロディを奏で始める。一瞬顔をしかめた霊夢だったが、すぐに針を投擲し始めた。
「"スードストラディバリウス"!」
「……"夢想封印 集"ッ!」
辺りが瞬間的にして光に呑まれる。霊夢は何かバリアらしきものに触れて、難なく通り抜けていった。
――――――
第七夜
魔理沙はそのバリアに触れて、軽く唸っていた。時系列としては、もしかしたら霊夢よりも先かもしれないが。
「この結界は凄いな。素人には何が何だか……」
「えへへ、企業秘密~。」
「どうでもいいけど、お前は誰だ?」
「どうでもいいじゃん。」
「あぁ、そうだな。どうせ、倒せば扉も開くだろ。」
「よーし、たまにはソロで行くぞ~!」
鍵盤の上を滑らかに少女の指が動いていく。魔理沙は素早く弾の隙間をすり抜けていくと、次々と弾を当てていく。
「うぅ……"ベーゼンドルファー神奏"!!!」
「"ファイナルスパーク"!」
何のタメも無く発射された光線は、小さなピアニストの身体を直ぐ様消滅させた。
魔理沙が、扉の上を越えていく事に気づいたのは、それから数分もしない頃だった。
―――――――
第八夜
二夜連続であの魔法使いは私の夢に現れた。大階段を律儀に上りきり、更に街並みが見えてきた。その奥には、七分咲きといったところの桜の大樹。
「大分暖かくなってきたな。」
「霊達が騒がしいと思ったら、生きた人間だったのね」
「私が死体なら騒がないのか?」
「騒がない。人間がここ冥界に来ることはそれ自体が死のはずだから。」
「私はきっと生きてるぜ。」
魔理沙の暢気な様子に、厳格な表情をより深める少女。緑色の服に黒いリボンを結んだ白髪のボブカット。何より印象的なのは、腰に提げた二振りの剣だ。……ふよふよとした白い気体も気になるには気になるが。
大人びた口調で、微笑を浮かべた少女が言い放つ。
「貴女はその結界を自分で越えてきた。その愚かさに霊が騒がしくもなるわ。」
「で、ここは暖かくていいな。」
「それはもう、幻想郷中の春が集まったからね。普通の桜は満開以上に満開よ。」
「死体が優雅にお花見とは洒落てるな。」
「それでも……西行妖にはまだ足りない。」
途端に、少女は唇を噛んで悔しさを露にする。魔理沙はキョトンとして訊ねた。
「さいぎょうあやかし?」
「うちの自慢の妖怪桜よ。」
「それは見てみたい気もするな。」
「あとほんの微かの春が、満開を一押しするってものよ」
「だが、せっかく集めた春を渡すわけは無いんだぜ。」
「……妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど殆ど無い!」
長い方の剣を抜剣した少女は、魔理沙に協力する意志が無いことを悟って、斬りかかった。
決め台詞は冗談では無いらしく、街並みが少しずつ崩れていく。
魔理沙も驚きを隠せないようで、スレスレの所で斬撃を避けていく。
今度は魔理沙が小さなボムのような物をばら撒く。それを少女は剣を高速で閃かせ、一つずつ切り裂いた。
もう一本の剣を抜いて、目の前で翳して少女が叫ぶ。
「"三魂七魄"ッ!!!はあぁぁぁッ!!!」
砂煙が上がる。少女に少し余裕が見えた気がして、私は気が気で無くなった。
もし、魔理沙が斬られていたら……。
思わず両手を握り締めた、その時だった。相変わらず舞い続ける煙の中に、チラリと光が見えた。
「"マスター……」
「――ッ!!?」
「スパーク"ッ!!!」
猛スピードで飛び出してきた影は、後ろに牽いていた虹色の光線を真っ直ぐと少女に向けた。
驚愕の色に染まる少女の顔は、直後苦痛に歪み見えなくなった。
薄れ行く視界の中で、魔理沙が煙を上げる機械に優しく息を吹きかけていた。
―――――
第九夜
「ああもう!死霊ばっかでうんざりよ!」
「勝手に人の庭に乗り込んできて、文句ばかり言うなんてね。」
「ッ!?」
桃色の髪がフワフワしたフリルのワンピースと共に、風に揺れていた。手には扇を持って、目を細めている。
一見すれば無防備なのに、身構えてしまう雰囲気。
ただ者ではないのだろう、先程まで適当にしていた霊夢が鋭い目付きになった。
「少し礼儀がなってないんじゃないかしら?まぁ、うちは死霊ばっかりだけど。」
「さて、用件は何だったかしらね?見事な桜に見とれてたわ。」
「お花見かしら?場所は割と空いてるわよ。」
「あぁ、そう?じゃ、お花見でもしていこうかしら?」
「でも、貴女はお呼びでない。」
「そうそう、思い出したわ。」
「何かしら?」
「私はうちの神社の桜でお花見をするのよ。」
「……。」
今度こそ険悪な雰囲気が張り詰める。恐怖に怯えているのは私だけだが、二人が超人なだけだろう。
「そんなわけだから、見事な桜だけど。集めた春を返してくれる?」
「もう少しなのよ。もう少しで西行妖が満開になる。この程度の春じゃ、この封印は解けないのよ。」
「わざわざ封印してあるんだから、解かない方が良いんじゃない?」
「結界を越えてきた貴女が言うことかしら。」
「さて、冗談はこれくらいにして。
……幻想郷の春を返して貰えるかしら?」
「最初からそう言えば良いのに。」
「最初くらいに言った。」
「最後の詰めが肝心なの。」
「花の下に還るがいいわ、春の亡霊!」
「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶!」
響いた声と共に、蝶が舞う。光が翔ぶ。
私には判らない次元で、闘いが繰り広げられる。かろうじて分かるのは、霊夢が圧され気味という事くらいだった。
が、それも覆る事になるのだから、もう何も分からない。
霊夢は強いんだろうな、と分かりきった事を考えていた時だった。明らかに主導権が霊夢に移った、気がした。
慌てて目を凝らすと、虹色に不規則に変色するドームが出来上がっていた。
「"封魔陣"ッ!!!」
「"反魂鏡"ッ!!!」
ほぼ同時の宣言でパターンが浮かび上がる。
霊夢の押さえつけるような攻撃の嵐に、やがて女の子は諦めたように微笑んだ。
意識が光の中へと堕ちていく。
充実した九日間だったと思う。
ありがとうございました!
感想等お願いいたします!
活動報告の方、まだまだ募集しています。
テスト前になったので、投稿は出来ないかも。