新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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そして『翼』は姿を現す。





      大地に聳え立つ扉(後編)

数日後、ヒイロはザフトとの合流地点に向けてラゴゥを疾走させていた。

前部の座席にコニールが座り同乗している。

ウィングゼロは予定通りレジスタンスベースに置いて来てある。

しばらく走っていると前方に2隻の軍艦がモニター越しに目に入る。

 

「ヒイ、じゃ無かった……デュオ、あっちの派手な方に近づいて」

 

「了解した」

 

コニールが示した一隻、

おそらく件の『新造艦』と思しき方に機体を接近させていく。

向こうもこちらに気付いたのだろう、底部のハッチを開きこちらを誘導する。

 

 

ラゴゥを『新造艦』―――ミネルバの中へ収容すると

ヒイロとコニールの二人はこの艦の副長、アーサー・トラインなる男に

モビルスーツパイロットのミーティングルームへと案内される。

 

二人が室内に入ると

 

「――― 子供じゃん」

 

という呟き声が聞こえてくる。

ヒイロは声のした方を一瞥する。

 

(………こいつは……)

 

そこにいたのはカーペンタリアでぶつかった

黒髪の少年がいた。

 

 

「えー、ではこれよりラドル隊と合同で行う

『ガルナハンローエングリンゲート突破作戦』の詳細を説明する。

 ……この敵は難敵である。

 以前にもラドル隊が攻略を試みたが結果は失敗に終わっている。

 そこで今回は………アスラン、替わろう。後は君の方から頼む」

 

「はい……ガルナハンローエングリンゲートと言われるこの渓谷には―――」

 

アーサーに替わりコニールとヒイロの傍で待機していた

アスランと呼ばれた男が説明を始める。

 

このガルナハンを攻略するには

このローエングリンの破壊が最優先である事。

しかし、渓谷に挟まれた地域のため進攻の経路が一つしかなく

また、砲台の前には陽電子リフレクターを

装備したモビルアーマーが配備されており

容易に攻略が出来ないという説明をしていく。

 

「そして―――」

 

「要するにそのモビルアーマーをぶっ潰して

 陽電子砲を落とせばいいんでしょう?」

 

「……シン、俺たちは今どうすればそれが出来るのかを話しているんだぞ」

 

「出来ますよ。オーブで同じようなのを倒したし」

 

「なら、やって貰おうか。俺たちは後方で待ってるから突破出来たら伝えてくれ」

 

「えっ! ……それは………その」

 

アスランの言葉にシンという少年はたじろぐ。

彼の隣では紅色のショートヘアの少女が笑いを堪えている。

 

「と、そんな馬鹿な話は置いておいて……ミスコニール」

 

「え? あっ! はい!」

 

唐突に名前を呼ばれたコニールは慌てて返事をする。

 

「彼がそのインパルスのパイロットです」

 

「えっ! コイツが!?」

 

「……何だよ?」

 

「本当にこんな奴で大丈夫なのか? あんた隊長なんだろ?

 あんたがやった方が良いんじゃないのか?

 この作戦が失敗したらマジでもう終わりなんだから」

 

「っ! 何だとコイツっ!」

 

「シンっ! ミスコニールも止めろ!

 ………大丈夫ですよ、ミスコニール。彼ならやれます。

 ……さあ、データをこちらに」

 

アスランにそう言われ、コニールはポケットから

データメモリーを取り出し、渋々とアスランへと渡す。

 

「ほら、シン。受け取れ、今回の作戦の要となるデータだ」

 

コニールから受け取ったメモリーを

アスランはシンに差し出すが

 

「…………」

 

「シン」

 

「……ソイツの言うとおり、アンタがやればいいだろ?

 失敗したらマジ終わりとか言って………」

 

「シン、おま―――」

 

シンのそんな態度にアスランが叱責を飛ばそうとしたそのとき

 

 

「だったら、その役目俺が代わろう」

 

 

ここまで成り行きを見守っていたヒイロが口を挟む。

 

「シンとかいったな。お前のモビルスーツを俺に貸せ」

 

「何っ!?」

 

「ヒ……デュオ! 何言ってるんだよ!?」

 

これにはシンだけでなくコニールも驚きを露わにする。

特にシンは突然見知らぬ少年にこんなことを言われて黙っていられない。

 

「お前っ! 」

 

「お前はこの役目を放棄すると言った。そんな奴に戦場に出られても足手まといになるだけだ」

 

「っ! じゃあ、お前には出来るって言うのかよ!?」

 

「俺には出来る。お前には出来ない」

 

「――――っ!」

 

「……………」

 

ヒイロとシンはお互いに睨み合ったまま一歩も引かない。

そしてそんな中、さらにヒイロが口を開く。

 

「お前は状況が全く分かっていないようだな?」

 

「わかってる! それぐらい!」

 

「なら、この戦いで誰が命を賭けているのが言ってみろ」

 

「? そんなの俺たちザフトだろ?」

 

「……違う」

 

「じゃあ、誰なんだよ!?」

 

「……お前、本当に分からないのか?」

 

ヒイロは再度問いかけ、シンを先ほどよりも強く睨みつける。

 

「…………」

 

しかし、そんなヒイロの問いかけにシンは何も答えられない。

その様子を見かねたヒイロがその解を告げる。

 

 

「……全員だ」

 

「え?」

 

「この戦いに参加する全ての者が命を賭けている」

 

「っ!!」

 

「実際に戦っている人間だけではない。

 ガルナハンの街でこの戦いを見ている人間もだ。

 ……中には自ら戦えないことに憤っている者たちもいるだろう

 中には恐怖に駆られ、怯え、震えている者たちもいる。

 だが、彼ら全員が命を賭けている。

 皆、自分たちの守るべき未来のために、明日へと希望を紡ぐためにだ」

 

シンだけではない、その場にいる全員が静まり返っていた。

 

「………戦いの采は既に投げられている。

 作戦開始までもう間も無くだ、

 そんな中お前がこれを拒否するのなら俺が代わりにやる。

 ……希望を消させるわけにはいかない」

 

シンは心に穴を開けられた様な気分だった。

何故ならこの少年の言っている事は

いつだったかカガリ・ユラ・アスハに自分が言ったことと同じだったから。

 

インド洋での戦闘、マハムールでアスランに言われた事、そして今この少年からの言葉が

その胸中を渦まく。

そんなシンの心に聞こえてきたのは、いつも聞いていた妹の携帯電話の音声。

 

そして、

 

シン・アスカは決意する。

 

何故『力』欲したのか、その『力』を何のために行使するのか。

 

そんな『想い』を己の心に問いかけ、答える。

 

その決意を……。

 

 

「――― やる」

 

「え?」

 

「……………」

 

シンの口からポツリと聞こえた声にアスランは疑問を呈し

ヒイロは何も言わず聞いて聞き入る。

 

「俺になら任せても大丈夫なんでしょう? 隊長」

 

「あ、ああ……そうだが」

 

「だったらやってやりますよ。

 俺にだって、俺にだって守りたいものがあるんだ!」

 

シンの言葉にはこれまで以上の強い想いが宿っている。

それをアスランもヒイロも感じ取る。

 

「……なら、任せるぞ。シン・アスカ」

 

アスランはもう一度データメモリーをシンへと差し出す。

シンも今度はしっかりと受け取る。

そして、それを見届けたヒイロはミーティングルームを出て行こうとする。

 

「ち、ちょっと、ヒ……デュオ、どこに行くの?

 まだ説明の途中なのに……」

 

部屋の扉へと近づくヒイロをコニールが慌てて呼びとめるが

 

「……作戦内容はすでにお前から聞いている。

 俺は俺に出来る事をするだけだ。今ここで俺に出来る事はもう何も無い。

 ………出撃までにモビルスーツの調整をしておきたい、ラゴゥのところへ行く」

 

そうして部屋の外へと足を踏み出そうとする。

 

「デュオ!……ありがとう」

 

そんなコニールの声を背に受け、ヒイロは

 

「……礼を言うにはまだ早いぞ。コニール」

 

そう切り返し、改めて部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

『気密シャッターを閉鎖、非常要員は退避してください。

 中央カタパルトオンライン、発進位置にリフトアップします。

 コアスプレンダー全システムオンライン、発進待機願います』

 

メイリン・ホークによる発進シークエンスを聞きながら

シンはコアスプレンダーのコックピットの中で

今回の作戦内容を反芻していた。

 

先ず、一射目のローエングリンはミネルバが陽動を仕掛けやり過ごし

ラドル隊のレセップス級が敵モビルスーツ部隊に攻撃を仕掛ける。

次に、アスランのセイバー、ルナマリア、レイのザク2機と

デュオという協力者の少年のラゴゥの計4機でラドル隊への援護と

陽電子リフレクターを持ったモビルアーマーを砲台から引き離す。

その間にシンがコアスプレンダーで現地の住民でもめったに使わないが

ローエングリン砲台のすぐ傍まで続いている坑道。

その坑道を利用して敵の砲台に強襲を仕掛けるという作戦である。

 

ただ、その坑道には二つの難点がある。

一つは人や車が通るには十分な広さだが、

モビルスーツが通るための広さは無い事。

そこで白羽の矢が立ったのがシンのインパルスである。

インパルスはコアスプレンダー、レッグフライヤー、チェストフライヤーと

各状況に応じたシルエットフライヤーの組み合わせで構成されている。

そして今回は前者三つの部分を分離した状態で坑道へと入る。

モビルスーツでは通れないがコアスプレンダーでならギリギリ通る事ができ

その後ろにレッグフライヤーとチェストフライヤーを牽引し坑道を抜ける。

 

そして、もう一つの問題は坑道内には全く光が入って来ず

コアスプレンダーのライトとコニールから貰ったデータだけが命綱となる。

 

デュオという少年が出て行ったあと、

ミーティングルームでアスランがシンにこう言っていた。

 

『モビルスーツでは無理でもインパルスなら抜けられる。

 データ通りに飛べばいい……ただし坑道を抜けるのが早すぎても遅すぎても駄目だ』

 

と、つまるところこの作戦の成否の全てが

シンに委ねられたということである。

 

 

『ハッチ解放、射出システムのエンゲージを確認。

 推力正常、進路クリアー、コアスプレンダー発進、どうぞ』

 

「シン・アスカ。コアスプレンダー、行きますっ」

 

 

 

 

ガルナハン地球連合軍基地指令室

 

 

ザフトの進攻に当然連合側も気付き

 

「ザフトの連中め、性懲りもなく……今度はミネルバなんぞを連れて来よって

 ………ローエングリン起動! 『ゲルズゲー』発進! 各モビルスーツも直ちに発進させろ!

 奴らに何度来たところで同じだという事を教えてやれ!!!」

 

ガルナハンの司令官が各員へと指示を飛ばす。

 

「それから……『アレ』の用意をしてくれ。

 丁度いい機会だ、実践テストをしてやれ」

 

司令官の男は何やら不穏な指示を出すのであった。

 

 

 

 

シンの発進を確認したミネルバは敵陽電子砲に向け陽動を仕掛ける。

 

「タンホイザー起動、照準の際は後方に留意。

 街を吹き飛ばさないでよ。

 敵モビルアーマーを前面に誘い出す」

 

「了解。ターンホイザー起動、照準、敵モビルスーツ群並びに陽電子砲台」

 

相手側もミネルバの陽電子砲の発射態勢を確認したのだろう

予定通りローエングリンとその他のモビルスーツの文字通り盾となるために

敵のモビルアーマーが前面に躍り出て来る。

 

その確認を終えると

 

「撃てぇーーー!!!」

 

即座にタンホイザーを放つ。

しかし、陽電子リフレクターが相手ではオーブ沖の戦いと同様

結果は目に見えている。

ただし、今回のミネルバの役目はあくまで敵の陽動である。

こちらの攻撃を防いだ連合軍はミネルバにローエングリンを向けて来る。

 

「敵砲台からの照準を確認!」

 

「機関最大っ、降下! かわして!!」

 

タリアの号令と共に大きく下降を始めるミネルバ。

そして、つい先ほどまで居た位置を敵の放ったローエングリンが通り抜けて行く。

一方ミネルバも辛々でそれを回避した為に船体を砂地へと叩きつけられる。

 

「―――っ、すぐにCIWS、イゾルテの砲門を上空の敵機へ

 モビルスーツ隊の援護をして!」

 

「了解」

 

「第一関門は突破したけど、私たちに出来る事はまだたくさんの残ってる。

 各員、決して気を緩めないで!」

 

ミネルバの今回の大きな目的は無事達成されたが戦いはまだ終わってはいない。

タリアはブリッジ内の船員に檄を飛ばす。

敵ローエングリンの再発射がされるまでのここからが本当の勝負となる。

この戦いの命運を祈りながらミネルバクルーたちは帯を締め直すのだった。

 

 

 

 

『レイ、ルナマリア。さあ、俺たちも行くぞ』

 

『『了解』』

 

『……デュオ、だったか……君も宜しく頼む』

 

「……了解した。指示はそちらに任せる」

 

アスランからの通信がミネルバのパイロットとヒイロへと入る。

現在各機の通信はオープンとなっている。

 

『わかった。ルナマリアとレイは後方から援護。

 セイバーとラゴゥ、機動力のある2機で上空と地上の二方向から

 敵モビルアーマーへと接近、その後敵を引き離す』

 

『『了解』』

 

「……任務了解」

 

各機への指示を出し終えると回線は閉じられる。

それと同時に各々に行動を開始する。

レイのブレイズザクがミサイルを

ルナマリアのガナーザクがオルトロスをそれぞれ放ち

敵機を撃墜する。

そして、その間隙を縫う様にアスランはセイバーをモビルアーマー形態へ変形させ

ヒイロはラゴゥ頭部のビームサーベルを作動させそれぞれ敵へと接近を仕掛けて行く。

 

2機のザクによる援護もあり容易に対象のモビルアーマーへと接近したセイバーとラゴゥ

ヒイロが空中にいるそれに向かってビームキャノンを撃ちこむ。

当然の如くリフレクターによって防がれるが、上空より接近したセイバーがモビルスーツへと変形させ、敵機を蹴り落とす。

地上へと落ちた敵機を軸にヒイロはラゴゥを旋回させビームを連続して放つ。

敵機も早々に体勢を立て直しラゴゥの攻撃に合わせリフレクターを展開させ、これを防ぐ。

そうして空中へと戻ろうとするが今度はまたセイバーのビームの雨が浴びせられ、逃げられない。

セイバーのビームをリフレクターで防御しているとラゴゥが接近、

それに合わせセイバーもビーム攻撃を止める。

ラゴゥの接近してくる方向に敵機もすかさずビームを放ってくるが

左右に機体を動かし回避、

また直撃コースに入ったものはビームサーベルで器用に弾いて、その全てを無効化する。

そうして敵の懐に入り込み、前足のクローで敵機を弾き飛ばす。

そしてセイバーとラゴゥの連携によってジリジリとモビルアーマーは砲台から距離を離して行く。

 

 

そんな二人の連携を見ていた後方のルナマリアとレイは

 

「何かあの二人凄すぎない? アスラン隊長もだけど、あのデュオって子

 ……あれだけの腕を持ってるなんて、あの年で傭兵やってるのも肯けるわ」

 

『ルナマリア、無駄口を叩くな。作戦中だぞ』

 

「はいはい、でもさあ……あの二人だけで、

 あの気持ち悪いモビルアーマー落とせそうじゃない?」

 

『それは駄目だ』

 

「え? 何でよ?」

 

『あの盾を失えば、おそらく敵はローエングリンを隠してしまう。

 そうなればこの作戦はそこで終わる。

 シンが出て来るまで、アレを撃墜してはいけない。

 あの二人は今、アレを生かさず殺さずの状態にしておく必要がある。

 その証拠にさっき、あのラゴゥのパイロットはビームサーベルではなく

 クローで攻撃していた』

 

「ていうことは何? あの二人、手加減してるってこと?」

 

『そういうことだ』

 

クローによる攻撃だけではない。

アスランもヒイロも敵のリフレクターを狙ってビームを放ち

わざと敵に防御させている。

いくらリフレクターが鉄壁とはいえ無限ではない、

あれだけ使用していればエネルギーが無くなるのは目に見えており

こうしておけばシンが砲台へと出てきた後、敵機を撃墜しやすくなる。

 

「何か私たちいらない子扱いじゃない?」

 

『……そうでもなさそうだ。ルナマリア』

 

「ん? どうしたの?」

 

『予想以上に敵を引き離すのが早い

 今砲台の前はガラ空きになっている。

 これなら長距離射撃で狙えそうだ』

 

「そういうこと……わかったわ。

 シンが出てきたときに、もう作戦は終わってましたってのも

 面白そうだしね」

 

ルナマリアはオルトロスの照準をローエングリンへと向ける。

 

「いくら私が射撃が苦手だって言っても

 的があれだけ大きければ外さないわ、よっ」

 

最後の一音と共にルナマリアはトリガーを弾く。

未だ次の発射態勢の整わないローエングリンに一直線に光が放たれる。

放たれた光は敵の矛を撃ち砕く

 

「よしっ! ちょく、げ……き?」

 

はずだった。

  

確実に砲台へとオルトロスの攻撃は届いた。

しかし、直撃したにも関わらず敵のローエングリンは未だ健在、 

それどころか傷一つさえ付いていない。

 

『何だ……アレは?』

 

「レイ? 何かわかったの?」

 

『砲台の周りを良く見てみろ』

 

言われて、ルナマリアはメインカメラをズームさせ

モニターにローエングリンを映し出す。

そして、そこに在ったのは

3機の見たことも無いモビルスーツ。

腕にはダガーと同じビームカービンしか装備していない。

だがその3機の周りには、円盤状の機械が何基も浮かんでいるのだった。

 

 

 

 

交戦を続けながらその一部始終を見ていたヒイロは

驚愕の表情で砲台にいる『モビルドール』を捉える。

 

(ビルゴ……何故あれがここにある?)

 

プラネイトディフェンサーを展開してローエングリンを

守っていたのはヒイロの世界に在るはずの兵器。

コニールが聞いた噂というのはこのビルゴのことであったのだ。

ヒイロはこのときウィングゼロを置いてきて事を後悔するが

そうしている暇などない。

 

これではいくら敵のモビルアーマーを引き離し

シンが坑道から出てきたところで意味は無い。

 

(おそらくアレは、俺が連れて来てしまったもの。

 ……なら全ての決着は俺が………)

 

ヒイロはアスランへと通信を開く。

 

『……どうした?』

 

「俺は一時この戦場を離れる。

 俺が戻るまでの間、何としてもこの場を食い止めてくれ」

 

『何っ!? お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか!?』

 

「分かっている。だが、アレを何とかする手段を俺は持っている。

 ……時間が惜しい、行かせてくれ」

 

『………わかった。だが、必ず戻って来い』

 

「……了解した」

 

ヒイロはラゴゥをレジスタンスのベースのある方へと向ける。

ラゴゥを疾走させながら今度はミネルバへと回線を開く。

 

「こちら、レジスタンス所属のデュオ」

 

『こちらミネルバブリッジ、メイリン・ホークです。

 どうかしましたか?』

 

「……艦長へと繋いでくれ、大至急だ」

 

『……わかりました』

 

少しの間があり、通信先の人物が入れ替わる。

 

『ミネルバ艦長のタリア・グラディスです。

 一体どうしたというの?』

 

「ブリッジから砲台は確認できているな?」

 

『……ええ、残念ながら見えているわ。

 ………このままじゃ作戦は終わりだわ』

 

「そうか……なら話は早い。俺は少しの間、戦場を離れる。

 すぐに戻る、それまで戦線を維持してくれ」

 

『何を―――』

 

「すでに、アスラン・ザラから許可は取っている」

 

『……なら、何故ここへ連絡をしてきたの?

 現場での指揮は彼に一任してあるから、彼の許可があれば連絡を―――』

 

「そうではない……いくつか指示をしておきたい」

 

『指示!? 傭兵である貴方が私たちに?

 ………いいわ、言って頂戴。どうせこのままじゃ失敗する作戦だもの』

 

「……先ず、インパルスが出てきたら追加武装を送れ

 なるべく機動性の高いものがいい」

 

『……わかったわ。それで?』

 

「次は……残念ながら陽電子砲の二射目までに戻れるか分からん。

 だから―――」

 

『だから、そのときは何とかして欲しい、と?」

 

「……そうだ」

 

『………無茶を言うわね……わかったわ、こちらで何とか対応してみます』

 

「……なら、この話は終わりだ。

 次、最後だが……これは指示ではなく頼みだ。

 この通信をミネルバ艦内全てに繋ぐことはできるか?」

 

『できるけど、そうすればいいのね?』

 

「頼む……」

 

タリアはヒイロの頼みをあっさりと承認してくれる。

 

『繋いだわ、どうぞ』

 

そう言われ、ヒイロは話し出す。

今泣いているであろう少女に向かって……。

 

「コニール―――」

 

 

 

 

ローエングリンの前に構えられたもう一つの盾を見たとき、

コニールの胸中に絶望と後悔が押し寄せる。

 

これで救われると思った。これでまた明日から笑っていられると思った。

戦争が始まり、連合の植民地とされたガルナハンの街。

軍人に虐げられる街の人々、抵抗すれば容赦なく弾圧を受ける。

こんなものはもう見たくないと、許せないと思った。

だからレジスタンスとして今日まで戦って来たのに

それなのに何も報われず、

明日からまたあの苦悩と苦痛と絶望の日々を送らなければならくなる。

 

(……もっとちゃんと情報を集めていたら……

 あのとき無理してでも、もっと………

 もっと、もっと、もっと、もっと、もっと―――)

 

実際はコニールだけの責任ではない。

しかし、コニールはついこの間まで14歳の何処にでもいる

普通の少女だったのだ。

そんな彼女の心が押し寄せる自責に耐えられる訳が無い。

 

コニールの頬を涙が伝う。

その雫の一粒、一粒が彼女のこれまでの戦いの日々を

無かったものであるかの様に地へと落ちてき

そして、涙が溢れるたびに心には絶望が蔓延っていく。

 

 

 

 

『コニール』

 

 

 

 

声が聞こえてきた。

 

『言ったはずだ、希望は消させないと

 ―――だから、お前も最後まで戦い抜け』

 

たったそれだけの言葉だった。

そんな短い言葉は少女の心に届き、温かく拡がっていく。

そして、少女―――コニール・アルメタの眼には強い意志が宿る。

彼女の眼には最早、悲しみを見ることは出来ない。

 

 

 

 

シンは苦心を強いられたが何とか坑道の出口へと辿り着いていた。

 

コアスプレンダーを坑道の外へと抜け出させる。

続いてチェストフライヤーとレッグフライヤーが躍り出て来るのを

確認すると即座に各部の合体させに取り掛かるが、ここで思わぬ事態が起こる。

 

「え! 何で!?」

 

シンが坑道から出て来るのに合わせて、

ミネルバの方から『フォースシルエット』が射出されてきたのだ。

 

慌てて合体シークエンスにフォースシルエットを組む込み

ギリギリのタイミングではあったが換装を成功させる。

 

『ミネルバよりシン・アスカ機へ』

 

「メイリン? 一体これはどういうことだよ!?」

 

換装完了直後にミネルバからの通信が入る。

未だ状況の理解に追いつけないシンは戸惑うばかりであったが

この通信によりさらに困惑することとなる。

 

 

「―――作戦内容の変更!? このまま陽電子砲を落とすんじゃないのか!?」

 

『いいえ。本隊並びにラドル隊はこのまま戦線を維持。

 敵陽電子砲の二射目に備えて下さい』

 

「どうして、そんな急に!?」

 

『……敵陽電子砲台に陽電子リフレクターとは異なる

 防御フィールドが確認されました。

 このままインパルスで強襲を掛けても有効打撃は望めません。

 よってインパルスは本モビルスーツ隊に合流し戦線の維持に当ってください』

 

「何だよそれ!? それに異なる防御フィールドって……――っ! アレか!!」

 

シンが陽電子砲台を捉えるとその周りには

3機のモビルスーツが配置されているのがわかり

その周りには円盤状の機械が漂っている。

そしてそれらに向かって空中からセイバーが、

地上からはザク2機が攻撃を敢行しているが陽電子砲に一切のダメージは無い。

 

「っ! セイバーとザクだけ?……あのデュオって奴は?」

 

『それは………』

 

「何だよ、まさか落とされたのか!?」

 

『そうじゃないんだけど……』

 

「? だったら―――」

 

『そんなのこっちが聞きたいくらいよ!

 あの子いきなり通信してきて少し戦域を離れるから戦線を維持して欲しいって

 本当ならもうとっくに撤退してなきゃなら―――って、あ、はい、すいません』

 

通信の途中でメイリンが不自然に言葉を切る。

突然大声を出したことをタリアにでも咎められたのであろう。

 

『……とにかく、そう言う訳だから……』

 

「……了解」

 

何であんな危険なルート通らなくてはならなかったのか

死ぬ覚悟で坑道を抜けてきた結果がこれでは納得がいかない。

まだ色々聞きたい事や納得のいかない事が多々あるが

シンは作戦内容に渋々と了承する。

 

ミネルバとの通信が閉じられると

フォースインパルスのスラスターを最大にし

アスランたちの元へと急行する。

インパルスの接近に気付いた敵のダガーL2機がビームを放ってくる。

シンは一つを回避、もう一つをシールドで防ぐと、

お返しとばかりにビームライフルを敵に御見舞させ撃墜する。

 

そこで、アスランがこちらに気付いたのか

セイバーからの通信が入る。

 

『シン、作戦内容は聞いているな?』

 

「……聞きましたけど……アレは一体何なんですか?」

 

『さあな……だが奴らかなり手強い。油断するなよ』

 

通信はそこで閉じられアスランは正体不明の3機に攻撃を再開し始め、

シンもまたそれに加わる。

こうして当初の奇襲作戦は失敗に終わるのであった。

 

 

 

 

シンが出て来る少し前、

アスランはエネルギー切れを起こした敵モビルアーマーの駆逐に成功する。

連合軍側に新たな盾が出てきた以上もう手加減をする必要は無くなり

実にあっさりと撃破することが出来た。

 

しかし、肝心要の陽電子砲が攻略できない。

敵が投入してきた3機が完璧に陽電子砲を取り囲み

こちらからの攻撃を一切通してくれない。

また、接近して叩こうにも敵の射撃が的確すぎて容易には近づけない。

 

(何だ?……コイツらは?)

 

射撃は正確、こちらの攻撃は円盤状の機械が形成するバリアに阻まれる。

アスランは想像以上の苦戦を強いられている。

アスランがこれまで苦戦をするのは2年前のストライクとの戦闘以来で

オーブや宙域で戦ったブーステッドマンの3機にさえここまでの苦戦はしなかった。

 

 

シンが参戦してからも同じである。

インパルスと連携して敵の死角を突いて攻撃するが

敵の3機がお互いにお互いをカバーしている為に簡単に防がれる。

 

そうこうしている間に敵の陽電子砲の発射態勢が整ってしまう。

 

「っ! シンっ、一端下がれ! ローエングリンが来る」

 

『でも――』

 

「いいから下がれっ! 死にたいのか!?」

 

『―――っ!!』

 

アスランの迫力に気圧されたのか、シンはインパルスを

敵ローエングリンの射線軸から引き離して行く。

アスランもまたセイバーをモビルアーマー形態へと変形させ

その場を離れて行く。

既にルナマリアとレイのザクは後方へと退避している。

 

そうして、射線軸から退避したアスランたちには

これから起こる事をただ見守る事しか出来ないのであった。

 

 

 

 

「敵陽電子砲の発射体勢を確認! 本艦が狙われています!」

 

デュオという傭兵の少年から言われた通り敵の陽電子砲は

二射目を放とうとしていた。

そう言われていてからこそタリアはミネルバを

わざと敵の陽電子砲の的となるため、もう一度上空に躍り出させていた。

 

 

「敵だって馬鹿じゃない、さっきと同じ結果になるかわからないわ。

 決して油断しないで! ――― タンホイザー起動!!」

 

タリアの号令がブリッジに飛ぶ。

その指令に対しアーサーが口を挟む。

 

「ですが、艦長。タンホイザーの充電率は―――」

 

「構わないから撃って……それともアレに対抗する手段が他にあるっていうの?」

 

「そ、それは、そうですが……」

 

「とにかく、彼のことを信じましょう。

 ……彼が戻ってくるまで何としてでも時間を稼ぐ」

 

「り、了解しました。た、タンホイザー起動、目標、敵陽電子砲台」

 

タリアはアーサーを説き伏せるが、

ミネルバの主砲の充電率は未だ80%を割っている。

 

「発射のタイミングに留意、敵のローエングリン発射前に先制を仕掛ける!」

 

「り、了解」

 

そんな不完全の状態ではあるが相手のローエングリンに対してカウンターを

仕掛けるという作戦である、

向こうも防御を展開している間はローエングリンを撃つことは出来なくなる。

 

「ターンホイザーを撃ち終えたらそのままは急速降下、

 各員は衝撃に備えて!」

 

タリアは現在この戦場で出来得る全てをクルーに伝え終え

後はその瞬間を待つ。

 

そして、

 

女神(ミネルバ)は

 

その歌劇(タンホイザー)の

 

―――幕を開ける。

 

「ローエングリンからの熱源を確認しました!」

 

「今よっ! タンホイザー照準

 

  ――― 撃てぇーーーっっっ!!!」

 

光は一直線に敵の本丸へと突き刺さる。

当然敵の防御壁に阻まれるがミネルバは攻撃を続行する。

現在の充電率では、精々2幕までしか演じることは出来ないが

女神はその歌声が嗄れ、幕が下げられるその時まで舞台(せんじょう)の上で

自らの役を演じ続ける。

 

やがて、タンホイザーは収束しその幕を閉じる。

 

「機関最大!! 急速降下!!!」

 

タリアの号令の下、ミネルバは再びその船体を大きく地へと向ける。

 

しかし―――

 

「ローエングリンの照準がミネルバの降下先に向けられています!!」

 

「何ですって!!」

 

「このままでは直撃を受けます!」

 

「―――っ」

 

タリアは想わず唇を噛む。

敵は先ほどの陽動でこちらの動きを読んでいたということである。

 

「熱源来ます!!」

 

「回避はっ!!」

 

「間に合いませんっ!!」

 

無慈悲にも敵の放った反撃の矢は

ミネルバを貫くべく向かってくる。

 

直後

 

 

  ――――――ッッッッ!!!!!

 

 

 

ミネルバブリッジは光に包まれる。

ブリッジ内のクルー全員がその眼を閉じ、耳を塞ぐ。

メイリンが悲鳴を上げた様な気がしたがそれも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

呟いたのは誰かは分からない。

だがその呟きはブリッジ中に伝わる。

 

「な、何ともない?……」

 

タリアも、アーサーも、メイリンも、ブリッジ内のクルー全員が

いや、ブリッジ内だけでは無いミネルバ艦内全ての人間が

何が起こったのか理解できていない。

 

 

「か、艦長、アレ……」

 

「アーサー? どうしたの?」

 

逸早くその『異常』に気付いたアーサーがタリアにそれを報せる。

そしてタリアがそこに見たのは

 

「―――これは! あのときの!!」

 

ユニウスセブン破砕の現場で見た

 

あの白き翼を持つモビルスーツがミネルバの眼前に立ちはだかっているのだった。

 

 

 

 

ヒイロは機体をミネルバとそれに迫る陽電子砲の間に立ちはだかり

ウィングゼロの翼によってその攻撃を阻むと即座に機体を砲台の真上へと上昇させる。

 

「いくぞ、ゼロ」

 

目標位置に到達するとローエングリンへ向け、

ツインバスターライフルを構える。

 

照準を定め、破壊対象の周りに味方機がいない事を確認する。

 

「あの少女たちの希望を絶やさせたりはしない」

 

ヒイロは知っている

 

この地で出会った少女が戦いながらも恐怖に怯えていることを。

 

ヒイロは知っている

 

その少女の切なる願いと守りたいものを。

 

ヒイロは知っている

 

その少女が自分より遥かに

 

―――強者であることを。

 

だから、

 

「ターゲット、敵陽電子砲並びにモビルドール」

 

そんな彼女の心を蝕む

 

―――絶望を

 

   

    「破壊する」

 

 

 

 

 

少女はミネルバの中で見ていた。

自らの戦いの終焉が訪れるその光景を。

 

少女は

 

(また、「気が早い」って言われちゃうかな……―――でも……)

 

   

   「ありがとう…………―――『ヒイロ』」

 

そう呟く。

 

少女の眼からは涙が溢れ出ている。

再び流れ出るその雫は、彼女の心の中の闇を浄化していくのであった。

 

 

                         

                         つづく

 




第七話(後編)です。


この話から物語が大きく変化し始めます。

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