新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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それぞれの思惑が動き出す中

少年はある男と再会を果たすことになる。


※すいません。文章が長すぎて中編と後編に分けました。


      Rest to next battlefield(中編)

黒海沿岸都市ディオキア

 

ガルナハンを発ってから数日後、

ミネルバはガルナハンを落したことで解放された都市、

ディオキアのザフト軍基地に入港を果たしていた。

 

艦長のタリア・グラディスが副長のアーサー・トラインと共に

艦から降りると騒がしい声が聞こえて来る。

何事かとタリアが喧騒の聞こえる方に目を向けると

ディオキアのザフト軍兵士たちによる人だかりが出来ており

また、基地の周りに建てられている塀の外側には

ディオキアで暮らす人々だろうか老若男女を問わずに集まっているのが分かる。

 

そして、彼らの視線の先に映るのは

 

『みなさーーん! ラクス・クラインでーす!!』

 

 

 

 

二機のディンに支えられ上空より現れたピンク色に塗装を施されたザクウォーリア

その掌の上で平和の歌姫ラクス・クラインが観衆に向かって大きく手を振っている。

彼女の登場に観客たちからは声援が飛び、それに合わせて彼女がその歌声を響かせ始める。

 

『っ♪ ~~~♪ ~~♪』

 

 

突如始まった『ラクス・クライン』のライブに

ミネルバクルーの面々は大喜びといった様子で

今もアスラン・ザラの横を整備兵のヴィーノとヨウランが

駆け抜けていき、一瞬にして観客の一部に溶け込んで行った。

 

アスランは表面上には落ち着いて見えるが、

ミーア・キャンベルの扮する『ラクス』が唐突に現れたことで

彼の内心は戸惑いの感情が渦まき続けている。

そんなアスランに妹のメイリン・ホークと

一緒に近づいてきたルナマリア・ホークが話しかけて来る。

 

「隊長は知らなかったんですか? ラクスさんが御出でになる事」

 

「あ、ああ……」

 

「まあ、お互い連絡を取っていられる状況じゃ無かったですからね」

 

「え、ああ、いや……」

 

ルナマリアの言葉に対しアスランは曖昧な返事しか出来ない。

既にアスランとラクスの婚約関係は二人の間では無かったものと為っているが

公にした訳ではないので、アスラン・ザラとラクス・クラインとの婚約関係は

未だに続いているというのが世間の見方となっている。

 

『~~~♪ ~~~♪ ~~~~♪』

 

そんなアスランの心情とは裏腹にミーアは観衆の前で実に楽しそうな表情で歌っており、

観客たちもそれに呼応するかのような盛り上がりを見せている。

 

『~~~♪ ~~♪ ~~~♪ ~~~っ♪ 』

 

やがて、彼女が歌い終えるとディオキアの基地は大歓声に包まれる。

ミーアはそんな歓声に応えるように手を振りながら

 

『ありがとーー! ありがとーー!

 ―――勇敢なるザフト軍兵士のみなさーーん、平和のために本当にありがとー!』

 

戦いに身を置くザフト兵たちに労いの言葉を投げ掛ける。

基地内の兵士たちはそれに応えるように歓声を上げる。

 

 

「やっぱり、少し変わられましたよね? ラクスさん」

 

そんな光景を見ていたメイリンがポツリとアスランに尋ねて来るが

 

「え、いや……それは……ちょっと」

 

「別人だからだよ」とは心には思っても、口が裂けても言えず

やはり曖昧に言いよどむ事しか出来ないのであった。

 

 

 

 

塀の外からディオキアの人々が『ラクス・クライン』に声援を送る中

人ごみに紛れて一人の女性記者が熱心にカメラのシャッターを切っていいる。

女性記者―――ミリアリア・ハウの表情は周りの人たちとは違い実に険しい。

ミリアリアは一頻りステージ上の『ラクス』をフィルムに収めるとその場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

ミリアリアが写真を撮っていた人ごみのさらに後方

皆が盛り上がっている光景を路上から冷めた目で見つめる三人組みの姿があった。

正確にはその光景を見ているのは三人のうちの二人の少年だけで

残りの一人である少女は停車させているオープンカーの助手席で空を眺めている。

 

「何か楽しそうじゃん、ザフトの連中」

 

少年アウル・ニーダそう口にすると車の後部座席の真ん中に飛び乗る。

アウルが車に乗車するともう一人の少年スティング・オクレーは運転席に座り

車を発進させその場を後にする。

 

ディオキア基地に入港してきた標的であるザフト艦ミネルバを横目に睨みつけながら

アウルはスティングに問うていく。

 

「……なあ、俺たちまだあの船狙うの?」

 

「だろうな……ネオはその気みたいだ。

 まあ、あの船に関しちゃ黒星続きだろ? 俺たち」

 

「……負けてはいないぜ……」

 

「勝てなきゃ同じことだ。

 俺たち『ファントムペイン』に負けは許されない」

 

「…………」

 

スティングの言う事にアウルは押し黙る事しか出来ない。

ファントムペイン、特にこの三人は共通の境遇が存在し

その境遇故に周りの人間たちからは恐怖や侮蔑の視線を送られ

また、彼らを利用している上の人間からはパイロットという名の『部品』扱いを受けている。

彼らを唯一人間扱いしてくれるのは上官であるネオ・ロアノークだけだが

彼とて上の命令に逆らうことはできない。

上の人間が彼ら三人を不要と判断すればここぞとばかりに切り捨てられる。

だからこそ彼らには敗北が許されない。

 

 

三人を乗せた車が沿岸沿いに出たところで

 

「……! わあっ あはは!!」

 

これまで何の言葉も発さず、一切の感情を見せなかった助手席の少女が

車体から身を乗り出し、目を輝かせながら光煌めく美しい水面を眺める。

 

「おいステラ、あまり車から身を乗り出すな」

 

「うん!」

 

少女ステラ・ルーシェはスティングの忠告に返事はするものの

その行為を止めない。

ステラの顔に浮かぶ笑顔は爛漫であどけない

とてもこれから戦場に出ていくとは思えないほどに……。

 

 

 

 

皆がラクス・クラインの慰問ライブに駆けていく中

シン・アスカは一人、ミネルバのラウンジで待機していた。

ヨウランたちと一緒に艦から降りようとした際、アスランに呼び止められ

ラウンジで待機しているように命じられたのだ。

 

ラウンジに設置された長椅子に一人腰掛け、外から聞こえて来る喧騒に耳を傾ける。

 

そうしてしばらく時間を潰しているとシンのいるラウンジ内に一人の男が入って来た。

軍服はシンと同じく赤、襟元には特務隊『フェイス』の記章が付けられている。

 

ラウンジ内のシンに気付いたその男は真っ直ぐこちらに近づいて来る。

 

男はシンの前に立つと

 

「特務隊『フェイス』所属、ゼクス・マーキスだ」

 

自らの所属と名前を告げるととシンに対し敬礼をしてくる。

 

「グラディス隊所属、シン・アスカです」

 

シンも慌てて立ち上がり、敬礼を返しながら自らも名乗り返す。

 

「君がミネルバのエースか、君の活躍は議長からの報告で聞いている。

 ……なるほど……なかなか良い眼をしている」

 

「い、いえ、そんな……」

 

初対面の相手に思わず褒められ、シンは珍しく謙遜してしまう。

そんなシンには構わず、ゼクスは話を続けていく。

 

「さて、早速で悪いのだが案内してくれないか? 

 ……―――彼の下へ」

 

 

ガルナハンよりこの艦に同行していた傭兵の少年デュオのいる部屋へと

シンはゼクスを案内してきた。

 

「ここです」

 

少年のいる部屋の前でシンは立ち止まり扉を開けようとしたが

 

「いや、ここからは私一人でいい。

 君の監視役の任は私が引き継ぐことになっている」

 

ゼクスに制止され、さらには監視役の任も解かれることとなった。

 

「君………“シン”と呼ばせてもらっても構わないか?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「ではシン、一つ頼みたい事があるのだがいいか?」

 

「頼み?」

 

「そうだ。ミネルバのモビルスーツのパイロットたちを集めておいてくれないか?」

 

「わ、わかりました……」

 

「それではよろしく頼む」

 

ゼクスからの頼みを聞くとシンは背を向け、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

ディオキアに到着する数十分前にブリッジから通信が入り

ヒイロ・ユイは宛がわれた一室にて待機を命ぜられていた。

 

ヒイロは部屋のベッドに腰掛け俯き考え事をしていた。

艦の外が騒がしいが気にせずに考えを巡らせる。

考えている事は他でもない自分に面会を申し出てきた

ギルバート・デュランダルについてである。

 

オーブのキラ・ヤマトたちの下に身を寄せていた頃

ニュースで会見を行っていたのを見ていたので

デュランダルの存在を知ってはいた。

だがヒイロが彼について知っている事といえば

コーディネイターたちが暮らすコロニーの長であるということくらいで

その他の彼に関する情報を持ち合わせていない。

故に今回の面会ではデュランダルの指導者としての器も見極めなくてはならない。

例え彼がキラたちを襲撃させた事に関わりが無かったとしても

OZのトレーズ・クシュリナーダや

ホワイトファングのミリアルド・ピースクラフトの様な指導者であれば

今後の戦況次第でヒイロにとっては倒すべき存在と成り得る。

 

 

ヒイロが自らの考えに没頭していると

 

「やはりな……」

 

「っ!?」

 

突如開いた部屋の扉から声が掛かる。

 

聞き慣れた声、

だがその声はこの世界では決して聞く事は出来ないはずで……。

 

幻聴かとも思ったが

 

「報告ではデュオということだったが……

 ウィングゼロに乗っていたのは、やはりお前だったか

 ……――― ヒイロ」

 

残念ながらヒイロの聴覚は正常に働いているようだ。

 

ヒイロはゆっくりと顔を上げ、声のした扉の方へと目を向けていく

 

そして、そこに立っていた人物は

 

「っ! ゼクス」

 

元の世界で幾度となく死闘を繰り広げた男

――― ゼクス・マーキスその人であった。

 

 

「久しぶりだな……ヒイロ」

 

ゼクスは好敵手の少年ヒイロ・ユイに再会の挨拶を告げる。

 

プラントの議長室でウィングゼロの映った映像を見せられた後

デュランダルから聞いた報告ではウィングゼロに乗っているのは

『デュオ』と名乗る傭兵の少年であるということだったが

ゼクスはその少年があの『デュオ・マックスウェル』であるとは思えず

偽名を使ったヒイロであるという推測を立てた。

そして先ほど扉を開いた際にその推測は決定的となった。

 

ヒイロはゼクスがこの部屋に入って来た直後

驚愕を露わにしたが、すぐに冷静さを取り戻した様子で

こちらへとに話しかけてくる。

 

「生きていたのか?」

 

「おかげ様でな。しかし、お前もこの世界に来ていたとは驚きだった。

 ………お前はいつこちらに来た?」

 

ゼクスは返答すると、今度はこちらからヒイロに尋ねていく。

彼には一つこの少年に聞きたい事があった。

 

「……気がついた時にはもうこの世界にいた」

 

「そうか……では元の世界の状況は? ……」

 

「わからん」

 

「そうか………」

 

ゼクスがヒイロに聞き、知りたかった事とは他でも無い自分たちが元いた世界の状況。

しかし、少年の返答からは明確な情報が得られず

表情を取り繕いはしたもののゼクスの目には落胆の色が残る。

そんなゼクスの機微を汲み取ったのか

ヒイロが付け加えるように言葉を紡いできた。

 

「だが、俺たちの様な兵士は必要無くなったはずだ。

 あとはリリーナたちが世界をどう導いていくか、それだけだ」

 

ヒイロの言葉によりゼクスは安堵の表情を表に出す。

 

自らの意志で画策した地球へのリーブラの落下。

だが、ヒイロに敗れたことでその間違いに気付き

贖罪の為に命を賭けて自らの行いを阻止しようとしたが

直後の爆発で意識を失ってしまい、気がついた時には

異世界のコロニーであるプラントの医務室に寝かされていた。

ゼクスはこの世界で日々を過ごす中でずっと元の世界のことが気掛かりで

心の中にわだかまりを残していたが

ヒイロから元の世界と何よりも自身の妹であるリリーナの無事を告げられた事で

ゼクスは漸く胸を撫で下ろす事が出来た。

 

 

「……ザフトに入ったのか?」

 

今度はまたヒイロがゼクスに質問をしてくる。

 

「デュランダル議長の計らいでな。

 ……だが、私が自分で選んだ事だ」

 

「……デュランダル……俺に会いたがっていると聞いたが?」

 

「そうだ、その為に私がお前を迎えに来た」

 

「……そいつは俺たちの事を知っているのか?」

 

ヒイロが聞きたいのは自分たちが異世界から来た存在であることを

デュランダルが知っているのかどうかだ。

ゼクスはこのヒイロの質問の意図を的確に読み肯定の言葉を述べる。

 

「無論知っている。私とお前が違う世界の人間だという事は……」

 

ゼクスがそう答えたとき

 

『『『 ――――――っっっっ!!!!』』』

 

ミネルバの外から一際大きな歓声が聞こえてきた。

おそらく外で行われていたラクス・クラインのライブが終わったのだろう。

 

「良い頃合いだな。ヒイロ、悪いが私について来て貰うぞ」

 

「…………」

 

ゼクスの言葉にヒイロは黙って従う。

デュランダルがヒイロに会いたがっているように

ヒイロもまたデュランダルに用がある。

 

ヒイロがベッドから立ち上がるのを確認すると

ゼクスは部屋の扉へと近づいて行き、

ヒイロも彼の後ろについて行く。

ゼクスが扉を開ける直前、肩越しに視線をヒイロへと向け最後に尋ねる。

 

「……ヒイロ、お前はこの世界でも戦い続けるのか?」

 

そんなゼクスの問いに対しヒイロは即答してくる。

 

「お互い様だ」

 

その答えを聞くと

 

「……確かにそうだな」

 

ゼクスは笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

空が茜色に染まったころ、

アスラン・ザラ、

シン・アスカ、

ルナマリア・ホークのミネルバ所属のモビルスーツパイロットたちが

デュランダルに招待を受け、ディオキアのホテルへと案内されていた。

尚、もう一人のパイロットであるレイ・ザ・バレルは既に議長の下へ向かったとのことであった。

彼らを先導しているのはゼクスという特務隊。

そして、彼のすぐ後ろにはガルナハンより同行していた少年が続いている。

 

彼らがホテル内に入った所で

 

「ヒイロ、しばらくそこで待っていてくれ」

 

「わかった」

 

ゼクスが館のロビーにある椅子とテーブルの設けられた場所を示し

少年に待機を促す。

ヒイロは粛々とゼクスの言う事に従う。

 

だが、そんな二人のやりとりを聞いていた三人は

 

「「「ヒイロ???」」」

 

物の見事に声を揃え疑問符を浮かべる。

 

「……ヒイロ、もう隠す必要は無かろう」

 

「構わん好きにしろ」

 

ザフトにゼクスがいる以上『デュオ』が偽名であることが知れ渡るのは時間の問題である。

この男が自身が所属する勢力の害となることを許しておくはずがない。

 

ヒイロから了承を受け取るとゼクスは三人に説明していく。

 

『デュオ』というのが偽名で本当の名はヒイロ・ユイだという事

実はこの『ヒイロ・ユイ』という名前もコードネームであるのだが

この世界では特に説明する必要は無いので割愛する。

そして、傭兵稼業の為、仕方なく偽名を用いたという事

これは、ヒイロの立場を擁護する為の措置である。

本来ゼクスがここで彼の立場を庇うことなどしなくてもいいはずだが

ヒイロがリリーナの為にといって止めを刺さなかったことへの借りを返すため

ゼクスが計らってくれた行為であった。

 

ここまでの説明を聞いていた三人は

一応の納得はしてくれた様だが

彼らの中の一人、ルナマリアから

 

「あのー、御二人は知り合い何ですか?」

 

という疑問が投げ掛けられる。

これに対しゼクスは異世界からの知り合いだと説明する訳にもいかず

 

「……それに関しては詳しく説明することは出来ないが

 ヒイロとは以前に戦ったことがあって、その繋がりだ」

 

この様に説明をしていく。

 

「では……デュ……ヒイロのモビルスーツは何なんですか?

 あんな機体、データでも見た事が無い。

 聞けば彼の機体はユニウスセブンにいたという話でしたが……」

 

次にアスランが質問をしてくる。

 

「それは―――」

 

「何だっていいじゃないですか、別に」

 

ゼクスがアスランの問いに返答しようとしたそのとき

シンがそれを遮るように口を挟む。

 

「誰にだって話したくないことぐらいあるでしょう?」

 

「だがシンこの事は―――」

 

「それよりも!」

 

「っ!」

 

「ゼクスさん……先を急ぎませんか?」

  

シンが無理矢理アスランの言葉を封殺し

この話を終わらせる。

 

「ああ、そうだな。ではヒイロそこで大人しくしていろ」

 

「…………」

 

ヒイロは何も言わず彼らの傍から離れ

先ほどゼクスに指定された場所へ近づいて行く。

それを確認するとゼクスは三人を連れ移動を再開する。

 

しばらく廊下を進むと

 

「すいませんでした。隊長」

 

歩きながらシンは先ほどの無礼をアスランに謝罪する。

 

「俺だって分かってます。

 あいつ……ヒイロの事が問題だってことは」

 

「…………」

 

「でも俺たちはヒイロに大きな借りがあります。

 あいつがいなかったらガルナハンで俺たちは負けていました。

 あいつがいたから俺たちは何も失わずに済んだんです。

 ………俺は軍人だからって恩を仇で返すようなことはしたくありません」

 

「………――ハァ」

 

黙ってシンの言葉を聞いていたアスランは一つ溜息をつくと言葉を返していく。

 

「本当ならまたお前を殴らなきゃいけないんだろう。

 ……だが、お前の言うことも分からない訳じゃない。

 ……今回だけだからな、こんなことを許すのは」

 

「っ! ありがとうございます! 隊長」

 

シンは容認してくれたアスランに感謝の意を述べるのだった。

 

 

 

 

「議長、ミネルバのパイロットたちを連れてきました」

 

館のバルコニーに辿り着くと

純白のテーブルクロスの掛けられた大きなテーブルと

椅子が6脚、左側に2脚、右側に4脚に分けられて設置されており

左側の方にはデュランダルとタリアが隣り合わせで腰掛け

右側の方には手前から4脚目の一番端の位置に

レイが議長たちと対面する形で腰掛けていた。

 

ゼクスの報告に気付いたデュランダルが席から立ち上がり

彼らの方へと近づいて行く。

 

「ありがとうゼクス……例の少年は?」

 

「指示通り待機させています」

 

「そうか、この会談が終わったらすぐに向かおう」

 

ゼクスはデュランダルに一礼すると

テラスの出入り口前へと移動し護衛としてその場に待機する。

 

 

アスラン、ルナマリア、シンの順番に

デュランダルに挨拶をすると

三人は用意された椅子へ着席するように促される。

 

全員が席に着いたところで

デュランダルはパイロットたちと

とりとめのない会話に華を咲かせる。

 

やがて彼らの会話は現在の世界の情勢、戦況についての話に移っていく。

デュランダルは宙域でザフトと連合軍による小競合いが頻発している事

また、地球ではガルナハン以外にもその他のユーラシア西側で

連合の動きに反対した都市がプラントへ助けを求めている事などミネルバクルーたちに話していく。

タリアから停戦の動きはないのかという質問に

 

「……我々も戦争などしていたくは無いのだが

 連合側は何一つとして譲歩してはくれないのだよ。

 これでは停戦、ましてや終戦に向けての動きなど出来ようがない」

 

と答え、さらに言葉を繋げていく。

 

「こんなことは君たち軍人に話す事ではないのだが

 ……戦争を終わらせる、戦わない道を選ぶことは

 戦うと決める事よりも遥かに難しい事なのだよ」

 

「―――でも」

 

「ん?」

 

デュランダルの言葉が終わると同時に

シンが口を挟む。

 

「いや……その……すいません」

 

その場にいる全ての視線が集まり

シンはバツの悪そうに言い淀んでしまうが

 

「いや、構わんよ続けてくれたまえ。現場で戦っている者の意見は貴重だ。

 私もそれが聞きたくて君たちをここへ呼んだようなものだからね」

 

デュランダルは気さくな態度でシンに続きを促す。

 

「………確かに戦わないようにする事は大切ですけど、

 戦いで命を賭けているのは自分たちだけではありません。

 自分はその事をある人から教わりました。

 だからこそ、戦うべき時には戦わないと……

 戦いに関係ない人がこれ以上、命を賭けなくてもいいように」

 

自分の様な境遇をもう誰にも味合わせないようにと

シンはミネルバの中でヒイロと話し

自らの戦う理由を再確認したことで彼の言葉には迷いが無い。

 

「なるほど……ではシン、君は何故戦いが起こると考える?」

 

「え? それは……」

 

デュランダルの問いかけに対し

シンは慎重に考え、自身の答を紡いでいく。

 

「ブルーコスモスとか、大西洋連邦みたいな身勝手で馬鹿な連中がいるから……違いますか?」

 

頭の中ではそれに加えてオーブという文字が浮かんだが

何故か言葉にする事は出来なかった。

 

「ふむ……それもある。誰かの持ち物が欲しい、

 自分より優れているから妬ましい、憎い、

 そういった感情で動いている人々が戦いの原因である事も確かだ。

 だが、それよりももっとどうしようもない事が戦争の一面もある」

 

「え?」

 

このデュランダルの言葉にはシンだけでなく

ここにいる者全てが疑問に思った。

ただ一人、出入り口で立っているゼクスだけが

デュランダルの言おうとしている事が分かっている様である。

 

「戦争をするには兵器が必要だ。

 モビルスーツ、戦艦、ミサイル等が戦いが起こる度に生産される。

 だが、これらを産業として考えればこれほど儲かる事は他に無い」

 

「議長、でもそれは」

 

アスランが言葉を挟むが、

デュランダルは彼の言いたい事が理解出来ている為

そのまま話を継続していく。

 

「アスラン、君の言いたい事は分かる。

 戦争なのだからそれは当り前のことなのだ。

 ……ただ、人はそれで儲かると分かると戦争を引き起こそうとする、何度もね。

 そして、今回の戦争の裏にも戦争を常に産業としてしか見ず、

 自分たちの利益しか考えていない者たち……―――『ロゴス』が蠢いている」

 

ついにデュランダルの口から戦争の黒幕の名が明かされる。

そして、デュランダルは最後にこう締め括る。

 

「彼らに躍らされている限り、

 これからも戦い続けていく事になるだろう。

 プラントと地球はね……」

 

 

 

 

一人残されたヒイロは椅子に腰掛け

デュランダルとの面会の時を待っていた。

 

ゼクスたちと別れてから30分あまりが経過した頃

ヒイロは何の気なしにホテルの入り口を眺めていると

一人の女性が館内に入って来るのがわかる。

しかし、その女性の姿を捉えたとき、ヒイロの眼つきが鋭いものへと変わる。

その女性がオーブでキラたちとともに暮らしていた女性ラクス・クラインに瓜二つであったからだ。

 

女性は館の中に入るとヒイロには目もくれず

先ほどゼクスたちが向かった方へと駆けて行く。

 

「あれってラクス様だろ?」

 

「ああ、こんな近くで見られるなんてラッキー」

 

ヒイロのすぐ傍にいたホテルマン二人が

小声で話しているのが聞こえる。

 

(……ラクス?)

 

二人の会話から先の女性がラクスであるということが窺い取れるが

ヒイロの知るラクスはキラたちと共に今もどこかにいるはずである。

 

別々の場所に存在する二人のラクス・クライン。

ヒイロはこのことについて考えを巡らせようとしたとき

 

「待たせたな、ヒイロ」

 

ゼクスがヒイロの前へと戻って来た。

 

「さあ、着いて来てくれ議長が待っている」

 

 

 

 

会談を終えた後、

デュランダルに召集を掛けられたミネルバの面々はバルコニーから離れ通路を歩いていた。

尚、デュランダル一人だけがヒイロという少年と話をする為にバルコニーに残った。

 

 

「シンもルナマリアも明日はゆっくりして来るといい。

 艦には俺が―――」

 

「艦には私が残ります。どうか隊長も休まれてください」

 

「いや、それは」

 

「隊長とシンは戦力の要ですし、

 それからルナマリアは女性ですので、私の話は順当です」

 

「………」

 

カーペンタリアから戦い続きであったミネルバクルーには

デュランダルの計らいで明日一日休暇が与えられた。

しかし、ミネルバにパイロットが誰もいなくなる訳にはいかず

上官であるアスランが非番を買って出ようとしたのだが

レイの提案に諭され何も言えなくなってしまった。

 

そんな会話をしながら彼らが通路を歩いていたところに

 

「アスラン!!」

 

進行方向から女性の声が聞こえ視線を向けると

昼間、ディオキア基地で慰問ライブを行っていた

ミーア・キャンベルがこちらに駆けて来るのが見える。

 

「ミ……あっ、ええ?」

 

「アスラン! ホテルにおいでと聞いて急いで戻ってきましたのよ。

 あの! 今日の私のステージ見て下さいました?」

 

ミーアは躍り出るようにアスランの前まで駆け寄ってくると

嬉しそうに声を掛けてくる。

 

「いやまあ………うん」

 

「本当!! 嬉しい。それでどうでした私の歌は?」

 

そんなミーアの様子にアスランはたじたじで曖昧な返事しか出来ない。

そんな二人の様子を間近で見たシンは眼を丸くさせ驚き、

ルナマリアは何故か機嫌を損ねている。

 

「アスランも今夜このホテルに泊まられるのですか?」

 

「………まあ、そうかな……」

 

「実は私もなんです。ですから今晩御食事をご一緒しようと思いまして」

 

ミーアはそう言うとアスランの左腕へと抱き付き

そのまま食事の場へ向かおうと腕を引っ張る。

 

いよいよ収拾がつかなくなって来たところで

 

「君たちはまだこんな所にいたのか?」

 

突然声が掛かる。

 

見てみると先ほどミーアが駆けてきた方向から

ヒイロを連れたゼクスが歩いて来るのが分かる。

 

「君たちは婚約者同士だと聞いたが

 それでも、こんなところで戯れるのは止した方がいい」

 

「いや、これはその……」

 

ゼクスの忠告にアスランは言葉を詰まらせる。

そんなアスランの戸惑う様子を見たゼクスは彼に近づくと

本人にしか聞こえない様に耳打する。

 

「……君は隊長なのだろう? 部下の前ではしっかりしたまえ」

 

「はい……私もそうしたいのは山々なのですが……」

 

「……何か事情でもあるのか?」

 

「……それは―――「あの」――っ!」

 

「御二人で何を話されていらっしゃいますの?」

 

ミーアが二人の会話に割って入ってくる。

もし、ここで彼女が口を挟まなかったら

自分は、何を口走ろうとしていたのかと

アスランは自責する。

 

「いえ、何でもありません。

 ラクス様、私たちは先を急ぎますので、これで失礼します」

 

ゼクスは言いながら恭しく一礼し、

 

「苦労するだろうが、しっかりな」

 

アスランの右肩を軽く叩き、ゼクスたちはバルコニーへと向かって行った。

 

 

 

 

ゼクスにこのバルコニーへと案内されたヒイロは

ようやくデュランダルとの面会を果たした。

ホテルに到着した頃は茜色だった空も薄闇が掛かり始めていた。

 

ヒイロの姿を見たデュランダルは椅子から立つとこっちに近づいて来る。

 

 

「ギルバート・デュランダルだ。

 知っているかもしれないがね……」

 

「……ヒイロ・ユイです」

 

「……『ヒイロ・ユイ』? ………ミネルバからの報告では―――」

 

「議長。それに関しましては私の方から説明します」

 

ゼクスがシンたちに話した事

『デュオ』というのが偽名である事をデュランダルへも説明していく。

 

「……なるほど、まあいい。

 それでは君……ヒイロ、でいいかな」

 

「………好きに呼べ」

 

偽名を使っていた事をそれ以上追及して来ないのはデュランダルの温情か、

それとも何か他に理由があるのか……。

どちらにせよ今の対応だけではデュランダルの本心を読み取る事は出来ない。

 

 

互いに挨拶を済ませると、

デュランダルはヒイロを椅子へ座るように促してくる。

 

「さあ、こちらへ……どうぞ座ってくれ」

 

「…………」

 

ヒイロは何も言わず、言われるままに椅子を引き腰を掛ける。

 

「ゼクスもこっちへ来てくれ」

 

「わかりました」

 

デュランダルがヒイロの対面に位置する席へと座り

その右斜め後方に位置取りしたゼクスが立つ。

全員がその場に着くとデュランダルがさっそく話しかけてくる。

 

「先ずはガルナハンでミネルバに力を貸してくれた事に感謝したい。

君のおかげでこの都市が解放されたといっても過言ではないだろうからね」

 

「………俺をここへ呼んだのは、礼を言う為か?」

 

「……無論違う。そうだね……早速だが本題に移ろうか。

 ……今日君をここへ呼んだのは他でもない。

 君がガルナハンで倒した『モビルドール』についてだ」

 

「――っ!!」

 

モビルドールという言葉を聞いた途端

ヒイロはデュランダルの後ろにいるゼクスを睨みつける。

 

「話したのか?」

 

「……そうだ、もはや黙っている理由は無い。

この世界に来たビルゴはあれだけではないのだぞ、ヒイロ」

 

「どういうことだ?」

 

プラントにいた頃に4機のビルゴが発見された事

それらをデュランダルが回収させ、ゼクスに処分を任せた

ゼクスは説明してくれた。

 

「私もそれを処分すれば問題は無いと考えていたが

……考えが甘かったようだ。

おそらく連合軍は他にもビルゴを隠し持っている。

それに……」

 

ゼクスはそこで一度言葉を区切り、ヒイロに問いかけてくる。

 

「例えもうビルゴが無かったとしてもだ。

 戦場でアレが使われた以上、これで済むと思っているのかお前は?」

 

「っ!」

 

ゼクスの言いたい事はモビルドールがこの世界で転用されるという示唆に他ならない。

確かにビルゴはこの世界にとって大きな脅威と成り得るが破壊してしまえば

技術体系の違いやガンダニュウムが無い事などから

ヒイロとゼクスが情報提供でもしない限り、この世界での修復や量産は不可能である。

しかし、機体そのものとは違いモビルドールのシステムは

一度転用できてしまえば幾らでも量産する事が出来き

また、あらゆる機体に応用する事が可能でとなる。

そしてその物量はこれまでとは比べ物にならない。

 

「この厄介事をこの世界に持ち込んだのは私たちだ。

 ならば私たちの手で決着を――― 「ゼクス」―――っ、議長?」

 

「それは私から話そう」

 

デュランダルがゼクスの話を止める。

ヒイロはデュランダルへと視線を戻す。

 

「ここまでの話で大方の見当は付いていると思うが

 連合にあるモビルドールの脅威を取り除くために

 私たちに力を貸しては貰えないだろうか?」

 

デュランダルは実に切実そうな表情を浮かべ、助力を乞うてくる。

 

コーディネイターという優れた人間たちの住むプラントだが

ナチュラルの住む地球と比べれば極僅かな国力しか有しておらず。

そんな彼らにモビルドールという脅威が襲えば

結果は火を見るより明らかとなるだろう。

 

ヒイロとしても自分たちの世界の兵器が

この世界に影響を及ぼすようなことは避けたい。

その為ならデュランダルに協力する事も出来る。

 

「いいだろう、モビルドールを排除する事は俺も協力してやる」

 

「それでは―――「ただし」―― ん?」

 

「俺がこれからする質問に答えろ。

 その答え次第ではこの話は無かった事にさせて貰う」

 

「ヒイロ、お前―――」

 

「どうなんだ?」

 

ゼクスがヒイロを咎めようとするが

それを遮り、デュランダルに返答を求める。

 

「……わかった、私に答えられる事なら幾らでも答えよう」

 

同意が得られ、ようやくヒイロは

ここに来た目的を果たすべくデュランダルに詰問していく。

 

「……アッシュというモビルスーツを知っているか?」

 

ヒイロは質問をしながらデュランダルの反応を窺う。

 

「……あれはまだ試作機が出来た段階で

ロールアウトしていないはずなのだが」

 

「その試作機というのは何処にある?」

 

「まだプラントにあるはずだが」 

 

「そうか……なら質問は終わりだ」

 

「? もういいのかね……?」

 

「ああ、もう十分だ」

 

今の質疑応答の中での様子を見る限り、

この男の話に嘘は無いように思える。

だが、この男が例の襲撃部隊に関係していると捉えるなら

今の回答は全て虚偽であるという事になる。

ヒイロはまだ疑惑の目をデュランダルに向けている。

そしてこの男が敵であるならば、

ここで直接的な質問をする事は避けねばならない。

ヒイロが自身の身を危うくするだけである。

また間接的にこの男の関与を探ろうとすれば、

先ほどの様に当たり障りのない回答でかわされるだけだ。

ヒイロはここが引き際だと判断し、これ以上の深入りをしない。

 

 

「……それで、我々に協力して頂けることは出来るかな?」

 

質問が終わるとデュランダルは再度ヒイロに助力の承認を求めてくる。

ヒイロは頭の中で少しだけ考えを巡らせると

 

「……了解した。協力しよう」

 

もうしばらくザフトと共に行動し情報を探るため

デュランダルの申し出を受け入れる事に決めた。

 

「……そうか、それなら良かった一瞬断られるかと思ったが。ありがとう」

 

「だが、もう一つだけ条件がある」

 

「ヒイロっ!」

 

「ゼクス、別に構わない。頼んでいるのはこちらなのだからね。

 ……それで、その条件というのは何かな?」

 

この期に及んで、まだ何か条件を付けようとするヒイロにゼクスが声を荒げる。

しかし、デュランダルがそれを諌め、寛容にもヒイロに続きを促す。

ヒイロは「簡単な事だ」と宣言し、自身の要求を伝える。

 

「俺はザフトには入らない。あくまで協力者という立場をとらせて貰う。

 俺は自らの判断で行動する」

 

そんなヒイロの要求をデュランダルはあっさり認める。

 

「ああ、構わないよ。それで君が協力してくれるのなら」

 

この承認を以って、ヒイロとデュランダルの対談は終わりを告げるのだった。

 

 

 

ヒイロとゼクスが去った後のバルコニーには

未だに椅子に座っているデュランダルの姿があった。

 

既に日は暮れ、空を彩るのは黒一色と為っている。

デュランダルは両肘をテーブルに置き、顔の前で指を組んだ姿勢で

自分の目の前、先ほどまで少年が座っていた席へと視線を向けている。

 

「………」

 

デュランダルは静かにその場所を見つめ続ける。

 

しばらくして、その場には誰も居なくなる。

 

ただそこには深くなった暗闇だけが漂っているのだった……。

 

                         つづく




第八話(中編)です。

前書きにも書きましたが、書いていたたら二万字を越えたので
さすがに長すぎると思い中編と後編に分けました。
申し訳ございません。


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