新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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※一応この話までがこの作品の序章といったところです。


      戦士たち(後編)

ミネルバがユニウスセブン破砕継続にともなう地球降下を開始する少し前

アーモリ―ワンより強奪された3機のモビルスーツを追って、同行していた、デュランダルは

ミネルバの脱出艇に乗りボルテールへと移り、プラント最高評議会のあるアプリリウス市へと向かっていた。

 

(……まったく、とんでもない事になったものだ……)

 

彼は先のユニウスセブンでの事について考えを巡らせていた、

 

ユニウスセブン―――元々、農業用のプラントだったもの。

しかし、C.E.70 2.14 地球連合軍の放った1発の核ミサイルによる攻撃で壊滅した。

24万人もの犠牲者を出したこの悲劇は「血のバレンタイン」と呼ばれ、前大戦が激化する直接的な原因となった。

 

(……まさか、あんなものを落とすとは、……それに)

 

だが今、デュランダルが考えるのはそんな悲劇の墓標への哀愁ではない。

まして事件による地球への被害などでもなく。

 

ユニウスセブンを落としたテロリストに関するものだった。

 

テロリストたちが乗っていた機体に問題があった。

これが、地球連合のダガーや、オーブのアストレイであれば何も問題はなかったが

彼らが使用していたのは、まぎれもなくザフトで製造された、ジンであった。

 

(おそらく、この事実はすぐに世界中に拡がる。

……そうなれば、ブルーコスモスが黙ってはいない。必ず何か仕掛けてくる…

さあ、……どう討って出てくるか?)

 

そんな、世界の大局について二手、三手先を考え込んでいくデュランダル。

そんな折―――、

 

『議長』

 

ブリッジから通信が入る。

 

「どうした?」

 

『それが、前方にモビルスーツらしきものを確認しました』

 

「っ!? 狙われているのか!?」

 

『い、いえ、そうではないのですが』

 

アーモリ―ワン、ユニウスセブンとザフトに関する事件が続いたことにより

危ぶむが、すぐに杞憂へと変わる。

 

「なら、どうしたというのだ」

 

『実は、そのモビルスーツ今までに見たことのないものでして……』

 

「ふむ、……よく、わからないな? 私が直接確認しに行く」

 

要領の掴めない返答に業を煮やしたデュランダルは、自ら確認する旨をブリッジに伝える。

 

 

ボルテールのブリッジに移動し、

 

「どこだ?」

 

「はい、本機の前方、10時の方向です」

 

伝えられた方向に目を遣る。

 

そこにあった、

 

(っ! これは……!?)

 

 

原型こそ留めているものの

ところどころ剥げ落ち、内部の機械部分が露出し、赤黒い装甲に覆われ、

そして左腕は切り裂かれ宙を漂っている

紅の翼を背にもつモビルスーツ、まるで……

 

(悪魔だな……)

 

「……あの機体、何とか回収できないか?」

 

「はっ、牽引して運ぶことはできますが……ですが、今は評議会へ急ぐべきでは?」

 

「かまわない。少し遅れたとて、どうということはない」

 

「りょ、了解しました」

 

そして、そのモビルスーツをプラントへと運び込まれ、

秘密裏にザフトの整備工へと送られた。

 

 

デュランダルは会見の準備をするべく、一度議、長室へと立ち寄る。

 

「おかえりなさい、遅かったのね」

 

「ああ、来ていたのか? 御待たせして悪かったね」

 

扉を開くと若い女性に声が彼を出迎える。

デュランダルは彼女に敬意を込め、呼びかける。

 

 

「―――ラクス・クライン」

 

 

「平気よ、それより大変なことになったわね」

 

「ああ、今はまだいいが、地球への被害は甚大だ。死者の数もどのくらいになるのか……。

痛ましいことだ。これからだよ本当に忙しくなるのは、……当然、君にも動いてもらうことになる。」

 

「わかってるわ」

 

「頼んだよ、……それより、―――とっ」

 

デュランダルがさらに話を続けようとしたとき、通信が入る。

 

「どうした?……何っ!?本当か?………わかった、また後でこちらから、連絡する」

 

「どうしたの?」

 

「いや、また後で話すよ」

 

デュランダルは『ラクス』に返事を返すと、会見のため議長室をあとにする。

 

(まさか、パイロットがいたとはな……)

 

 

 

 

 

『お前は、純粋すぎる。そして、優しすぎる。

 しかし、そうでなければ生きる資格がないということか……。

 ――っ、ならば私はどこまでも生き抜いてみせる!

 誰よりも厳しく戦士としてだっ!

 また会おう、ヒイロっ』

 

 

ゼクス・マーキスはベッドの上で、好敵手と交わした言葉を思い出す。

 

『ホワイトファングの指導者ミリアルド・ピースクラフト』という仮面を脱ぎ捨て、

戦士として生きていくことを自身に刻みつけるため、あえて好敵手の前で宣言した。

 

 

 

その直後、自身で起こした爆発の中、モビルスーツごと吹き飛ばされる。

 

しかし、生きると誓った信念のおかげか、

生きるということを作戦目的と設定した『システム』のおかげかはわからないが、

ゼクスはこうして生きている。

 

(ヒイロ……、リリーナ……)

 

好敵手の少年と、妹を想いながら、

自分の現状について考えるが答えは出ない。

 

先ほどまで行われていた医者によると、

宙域をさまよっていたモビルスーツが通りがかったポッドに回収されたこと、

整備工でコックピットを開けると中に自分が気絶していたこと、

そして、ザフトという軍隊基地の施療室で治療を受けたこと。

 

(私の乗っていたモビルスーツというのは、おそらく……)

 

これらのことを踏まえさらに熟考しようとしたとき――ー

部屋の中に通信を告げる電子音が鳴り響く。

 

「はい、……え?……はい、ですが、さっき目を覚ましたばかりで

 ……はい、……わかりました。本人に確認してみます」

 

医者が通信に出、何か話をしている。

すると―――

 

「マーキスさんっ!」

 

自分の名が呼ばれる。

 

「何か?」

 

「あんたに会いたいって言ってる人がおるんだが、大丈夫かい?」

 

(私に?…いったい誰が?……)

数瞬考え

 

「ああ、大丈夫だ。問題ない」

 

その旨を伝える。

 

「そうかい、……あー、はい、大丈夫だそうです。

 はい、はい、了解しました……ふぅ」

 

医者は再び通信に戻り二、三話したあと、息を吐きながら通信を切り、  

ゼクスのいる所に近づいて、

 

「あと、10分ほどしたら面会人が来るから……くれぐれも、失礼のないようにな」

 

それだけを伝え、また離れて行った。

 

 

 

しばらくして、施療室のドアが開き一人の男が入ってきた。

 

「失礼するよ……。ドクター悪いのだが、しばらく席を外してもらえないか?

 一対一で話がしたい」

 

男は医者に自らの旨を告げる、

彼の頼みを受け医者は施療室から出ていく。

それを確認するとゼクスの元に近づいてきた。

 

「プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです」

 

「ゼクス・マーキスです」

 

長い黒髪、白と黒を基調としたスーツを着ている。

デュランダルと名乗る男は

 

「いやはや、驚いたものだ。まさかあんな所にモビルスーツがあるのだから。」

 

朗らかな口調でゼクスに語りかけてくる。

 

「っ!…あなたが、私と『エピオン』を?」

 

「エピオン?…ああ、あの機体の名前かな?」

 

「あれは、今どこに?」

 

「この基地内のドッグで修理をおこなっている。

 といっても、技術体系が違いすぎて、手の付けようがないという話ですが……。

 ……ところで、少し不躾な質問をしてもよろしいかな?」

 

「ん?、あ、ああ、大丈夫です」

 

「それでは、単刀直入に聞かせてもらいます。

 

 

  ―――あなたは、一体、何者かな?」

 

デュランダルを纏う空気が、がらりと変わり

口調も、これまでとは違い真剣なものとなる。

 

「どうにも、あなたには不審な点が多い。

 まず一つ目、あなたの乗っていたモビルスーツだが、

 ザフト、連合、どちらにも合致するデータがない。しかもそれは、技術体系のレベルで違 っている。

 

 二つ目、私はこれでも、この二極化している世界の一極の長であり、世界中に知られている。

 しかし、私が名乗ったとき、あなたの反応は、私のことなど知らないといった風だった。

 

 三つ目、記憶障害という可能性も考えられるが、あなたは自らの名を口にし、

 且つ、自分の乗っていたモビルスーツの名も覚えている」

 

デュランダルからゼクスについての不審点が列挙される。

それに対し

 

「そのことについては私の方からも、聞きたいことがある。

 自慢ではないが、私も自分が、全世界に知られているという自負がある。

 それなのに、あなたも、あの医者も私に対し何の反応もしめさないッ!」

 

ゼクスはホワイトファング創設の際、世界中に声明を出している。

地球にとっても、コロニーにとっても、『ミリアルド・ピースクラフト』の悪名と顔は知れ渡っているはずである。

 

「……どういうことかな?」

 

ゼクスは『オペレーション・メテオ』から始まる、戦いのことを、

デュランダルに伝えていく。

 

「……ふむ、知らないことばかりだな。

 それに、あなたの言う、ピースクラフトという家名は聞いたことはない。

 それから、ここ1年、世界ではそのような戦争は起きていない」

 

デュランダルはゼクスからの話を吟味し、考えを巡らせていく、

そうして、一つの推論を打ち立てる。

 

「マーキスさん、これまでの話から、あなたが嘘をついているとは思えない。

 だとすればだ、あなたは、

 

     ―――異なる世界から来たのではないですか?」

 

 

「………異なる、……世界?」

 

「そう、文字通り、異世界という意味です」

 

「馬鹿なっ、そんな夢物語―――」

 

「ですが、そうであれば、全ての事に辻褄が合う」

 

「っ!?」

 

デュランダルの通りである。

そうであれば、ここが、異世界ならば、

自分の知らないコロニーやザフトという軍隊があっても不思議ではない。

 

(本当に?……)

 

デュランダルの推論に否定する理由を打ち立てようと考えを模索する。

しかし、否定すればするほど、彼の考えが現実味を増していく。

 

(……ヒイロ……、リリーナ……)

 

そんな彼の心に浮かぶのは、やはり二人の少年と少女であった。

 

 

 

異邦の地にて戦士には、どのような運命が待ち構えているのか……。

 

 

 

 

ミネルバがオーブに入港すると、

アスランは、カガリやミネルバクルーと別れ

一人ある場所へと向かっていた。

 

車を飛ばし、目的地の途中の海岸線を走っていると、

 

「………?……キラ?」

 

浜辺に親友であるキラ・ヤマトと子供たちと戯れるラクス・クラインを見つける。

 

車を停車させ、クラクションを鳴らすと、

 

「あー、アスランだ」

「違うよ、アレックスだよ」

 

子供たちがこちらへと駆けてくる。

キラとラクスはその後ろから歩いて、アスランの元に近づいてくる。

 

「……アスラン」

「おかえりなさい、大変でしたわね」

 

「君たちこそ、家が流されて、こっちに来てるって聞いて、大丈夫だったか?」

 

ユニウスセブンの欠片の衝突によって引き起こされた津波に巻き込まれ、

キラたちは住む場所を失うが、知人の勧めで、その知人宅で厄介になっていた。

 

「そうなんだよ」

「おうち流されちゃったの」

「引越しするんだよ、引越し!」

 

子供たちが久しぶりのアスランに矢継ぎ早に話をする。

 

「あらあら、これじゃお話になりませんわね」

 

そうして、ラクスは再び子供たちを連れて浜へと戻る。

 

アスランとキラは車に乗り込み、浜を離れる。

 

 

アスランは気づかない、

―――浜辺に、もう一つ人影があったことに……。

 

 

 

 

 

浜に残ったラクスと子供たちと

彼らに歩みよる少年。

 

「あら、どちらにいらっしゃいましたの?」

 

「………」

 

少年は返事の代わりに、今まで自分がいた方向に目を向ける。

 

「そう、……そろそろ戻りますが、一緒に行きませんか?」

 

 

 

      

      

 

       「……了解した」

 

 

 

 

 

 

アスランは、車の中で

ユニウスセブンの破砕作業に参加したこと、テロリストと交戦したこと、

テロリストの一人から言われたことをキラに伝える。

 

やがて、現在のキラたちの住まいに到着する。

 

車を止め、エンジンを切ると、アスランは、

 

「あのとき、俺聞いたよな?……やっぱり、このオーブで」

 

「え?」

 

「『俺たちは本当は何と、どう戦わなきゃならなかったんだ』って」

 

「……うん」

 

「そしたら、お前言ったよな『それもみんなで一緒に探せばいい』って」

 

「っ、………うん」

 

「でも、やっぱりまだ……見つからない」

 

アスランは2年前から置き忘れてきた自身の命題に再び立ち向かう。

そして、キラもまた、同じである。

 

 

―――翌日、答えを出すため、アスランは再びプラントへ渡る決意をするのであった。

 

 

 

 

戦士たちは変わらず迷走する世界で、それぞれ戦うべきものを見つけようとする。

そして気づかない、彼らが再び、戦場で出会うという運命に……。

 

 

 

 

翌日、オーブへの上陸許可の出たミネルバクルーは思い思いの休息を堪能していた。

 

 

そして、その夕刻、シン・アスカもまた、海辺のとある場所を訪れていた。

 

 

―――C.E.71 戦場となったオーブ、

   銃弾飛び交う中をシンとその家族が必死に逃げ惑う。

   その途中、妹のマユ・アスカが携帯電話を落とす。

   妹の代わりに携帯電話を取りに行くため一人家族の元を離れるシン、

   そのとき、一発の銃弾が降りそそぐ、

   爆風で吹き飛ばされるシン。

   彼が家族と離れた場所にもどると、

   父が、母が、妹が…、

   たった一発の銃弾が彼から全てを奪ってしまう。

   泣き崩れるシン、

   そして、彼は戦争を憎み、オーブとアスハを憎み、

   何より、何もできない、弱い自分を憎むこととなった。

 

 

彼――シンは、そんなかつての場に立っていた。

 

銃弾で焼かれた土地はきれいに整備され、今は記念碑が建っている。

 

だが、シンの瞳からはあの頃と変わらず涙が溢れる。

 

 

『こんにちは、マユでーす。

 でも、ごめんなさい今マユはお話しできません』

 

 

死に別れてから幾度となく聞いた携帯電話の留守電音声が頭に甦る。

 

強くなったつもりだった、ザフトに入り、エリートである赤服をもらい、

インパルスに乗り、戦場に立ち、強くなったと思った。

 

でも、この地のに立つと未だに泣くことしかできない、弱いままの自分。

 

やがて、涙は渇れる。

 

 

――ふと、人の気配を感じその方向を向く。

 

若い男、自分より2、3年上な感じの青年。

 

青年

は崖にある石碑を眺めていた。

そうして、彼もまた自分に気が付いたのか、こちらに振り向く。

 

「慰霊碑……ですか?」

 

「うん、そうみたいだね」

 

シンの問いかけに男が返す。   

 

「よくは知らないんだ。僕もここへは初めてだから。

 ……自分でちゃんと来るのは……、

 せっかく花が咲いたのに、波をかぶったから、また枯れちゃうね……」

 

男は慰霊碑の周りに植えられた花を見ながら話す。

 

「……ごまかせないってことかも」

 

「え?」

 

「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす」

 

「……君?」

 

「っ、すいません、変なこと言って」

 

そうして、シンはその場を後にする。

 

 

 

青年―――キラは、去っていく少年の背を見つめる。

 

と、

 

「何か、あったのですか?」

 

いつの間にか戻ってきていたラクスが尋ねる。

 

「いや……、ちょっとね。

……それよりラクス、『彼』は?」

 

 

「あそこに……」

 

ラクスは『彼』――安寧の世界が終わった日、海で見つけた少年――の立っている方を指す。

 

「彼、また海をながめてるんだね」

 

「ええ、目が覚めてから、ずっとですわ……」

 

キラとラクスは少年を見つめる。

二人には彼の瞳に映る考えを読み取ることはできない。

 

 

 

 

プラントが攻撃を受けたと報告が入ったのは、その翌日のことだった。

 

 

                            つづく




次回は『あの人』を大暴れさせます。
次からはようやく、クロス作品らしくなりそうです。


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