新機動戦記ガンダムSEED DESTINY  -白き翼‐   作:マッハパソチ

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戦い、戦い抜き、それでもまだ終わりは見えない。

新たな戦場へと彼らは飛び立つ、自らの想いを抱いて……。


      飛び立つ翼(後編)

その夜、夜といっても既に日を跨ぎあと数時間で朝日が昇る時間帯

十数人以上もの男たちがキラやラクスたちが滞在している家の傍の

海から這い出てきた。

 

彼らは潜水具を脱ぎ捨て、暗視スコープや突撃銃、防弾具などを手早く装備していく。

 

全員が装備を整い終えると、彼らの中のリーダーがこう告げる。

 

「―――いいか、彼女の痕跡は決して現場に残すな。

 しかし、確実に仕留めろ」

 

「「「了解っ」」」

 

 

そうして、彼らは目的の為に動き出す。

 

彼らの目的はただ一つ、

 

―――『本物』のラクス・クラインの抹殺。

 

 

 

 

『ザンネン、ザンネン、アカンデー!』

 

家の中に機械音声が鳴り響く。

 

いつもラクスの傍にいるマスコットロボ「ハロ」

昼間は子供たちの遊び道具の一つでしかないが

夜間、皆が寝静まっている間は防犯システムとして稼働させている。

 

そのハロが廊下を飛び跳ねながら住人たちに警告音声を鳴らす

―――侵入者在り、と。

 

 

「無事かっ?」

 

キラが廊下に出ると駆けてきていたバルトフェルドから声がかかる。

彼の手に拳銃があるのが見える。

 

「どうしたんですか?」

 

「早く服を着換えろ、……御客さんだ」

 

「っ! ラクスたちは!?」

 

「そっちはラミアス艦長が向かってくれている。

 お前もすぐに、あの少年を起こしてこい」

 

 

キラは身なりを整えると、ヒイロが使っている客間に向かう

緊急事態であると彼に伝えようと部屋に入るが、

 

「っ! いない!?」

 

既に部屋の中に彼の姿は無かった。

 

 

一方でバルトフェルドと別れ、ラクスと子供たちの元へ向かった

マリュ―もまた彼女たちの眠る部屋へと来ていた。

 

「ラクスさん、ラクスさん」

 

「……っ、どうかしたのですか?」

 

「緊急よ、すぐに起きて」

 

「――っ! わかりました、……さあっ、皆さん起きてください」

 

「んー、何ー」

「まだ眠いよ」

「どうかしたのー」

 

ラクスの声に起きた子供たちが寝ぼけ眼を擦りながら疑問と嫌悪の声を上げる。

 

「申し訳ありませんが、どうか御願いします」

 

そのとき、

 

―――「ぐあっ!」

 

部屋の外から聞き慣れぬ男の呻き声。

直後、――――ッ、鳴り響く一つの銃声。

 

マリュ―も、ラクスも、そして子供たちも

この部屋にいる全員が何事かと扉に目を向ける。

 

扉が開き、何者かが部屋の中に入ってくる。

マリュ―は咄嗟にその方向に銃を構える。

 

「っ! あなたは!?」

 

「ヒイロさん…」

 

キラが助けた少年、ヒイロ・ユイが入ってくる。

彼の手には突撃銃があり、

その背後、廊下の床には襲撃者と思しき人物が血を流し倒れているのが見える。

おそらく既に事切れている。

 

 

「ラクスっ、――っ!?」

 

「何があった? っ‼ これはっ!?」

 

数秒も経たず、銃声を聞いたキラとバルトフェルドが部屋に駆けてきた。

そして、彼らもまた目の前の光景に驚愕を顕わす。

 

「ヒイロ……、キミ……」

 

「お前、どうしてここに? それに……」

 

「そんなことはどうでもいい、敵が来ている、急げ」

 

「ちっ、後で話は聞かせてもらう、……キラ、ラクス、シェルターに急ぐぞ」

 

 

先頭にバルトフェルド、続いてキラ、ラクス、子供たちが、最後尾にマリュ―とヒイロの順で進行していく。

 

前後左右から、次々と襲撃者たちが押し寄せ

次々と浴びせられる狂弾の中、シェルターまで走る。

 

「この動き……間違いない、こいつら全員コーディネイターだ」

 

「!? ザフト軍って、ことですか?」

 

敵に銃を放ち牽制しながらバルトフェルドがキラに話す。

 

「まあ、狙われた原因は一つ、だな」

 

「ラクス、…ですか?」

 

「何故今になって来たのかは、分からんが十中八九、そうだろうなっ」

 

さらに数発の弾丸を敵に放つ。

 

「しかし、このままではシェルターに辿り着く前に、こちらが危うい」

 

敵は戦いのプロであり、おそらくこの襲撃のための訓練も積んでいるだろう。

対して、こちらは、戦力になるのはバルトフェルド、マリュ―、ヒイロの3人だけ

キラはラクスや子供たちを誘導するのに手いっぱいで戦力にはならない。

かつてザフトで『砂漠の虎』と名を馳せたバルトフェルドではあるがこの戦力差はさすがに厳しい。

 

そして何より、こちらには怯えた子供たちがいる。誰かをかばいながらの

それも誰も死なせてはいけないという状況により、行動は臆病といえるほど

慎重になり、シェルターへの道を遠のかせる。

 

「こわい、…こわいよー」

「死にたくないよー」

「うぇぇぇん」

 

鳴り響く銃声の一つ一つが子供たちに恐怖を刻み、

物心がついたばかりの人間に死の存在を知らしめる。

 

「大丈夫、泣かないで、少し我慢してくださいね」

 

ラクスが恐怖に駆られる子供たちをあやしていると、

 

「止まれっ」

 

廊下のT字路に差し掛かったところでバルトフェルドが静止の声を上げる。

ここを抜け、先にある突き当りを曲がればシェルターの入り口に辿り着くが、

 

「まずいな」

 

「どうかしたの?」

 

後方からマリュ―とヒイロが追いついてきた。

マリュ―が止まっているバルトフェルドに声を掛ける。

 

「厄介だな、敵が4人こちらに近づいてきている。

 ……まだ、こちらには気づいてないが……、出て行けば確実に犠牲が出る」

 

敵がT字路の真ん中を左右二人づつに分かれ

一つ、一つ部屋を確認しながらこちらに近づいてきていた。

 

「さて、どうするか……」

 

バルトフェルドは解決策を模索する。

こうしている間にも敵は歩をこちらに進めている。

 

「……よし、ここはお、――「俺が囮になろう」――!?」

 

「俺が奴らに陽動を仕掛け、時間を稼ぐ。その隙にシェルターへ急げ」

 

今まさにバルトフェルドが言おうとした事を先にヒイロが告げる。

 

 

「駄目です、あなたのような若い人が犠牲になるなんて」

 

「戦況はこちらが不利だ、誰かが犠牲にならねばならない

 それに、戦うものに歳は関係ない」

 

「ですが……」

 

ラクスの制止の言葉をヒイロは一蹴する。

 

「駄目よ、犠牲になるなんてそんなやり方」

 

マリューもまたヒイロの提案に対して異を唱える。

例えこれがバルトフェルドだったとしても彼女は反対していただろう。

 

(……もう絶対あんなこと……)

 

前大戦、マリューの目の前で自らの盾となり、いなくなった『彼』のことを思い出すから。

 

 

「では、他に方法があるのか?」

 

「それは……」

 

「対案が無いなら俺は行く、時間が惜しい」

 

そんなマリューの思いとは裏腹に、ヒイロの決心は揺るがない。

 

「ヒイロ……」

 

「キラ・ヤマト、お前の今の戦う目的は何だ?」

 

「……………」

 

「自らの感情のままに行動することは悪い事ではない」

 

「……今の君がそうであるように?」

 

「そうだ」

 

「………」

 

キラにそう告げると再びヒイロは敵に足を進める。

 

そこに、

 

「待て」

 

「…………」

 

バルトフェルドから声が掛かる。

 

「少年、ヒイロだったか? ……お前さん、わかってるのか?」

 

「……何をだ?」

 

「今お前がしようとしてるのは確実に負ける戦いだ。

 ………お前、命が惜しくないのか?」

 

「……負けることには慣れている、それに―――」

 

ヒイロは一度怯える子供たちに目を向け

次にバルトフェルドを見据えて

 

 

  

  「命なんて安いものだ、特に俺のは」

 

 

 

強い眼差しと意志を持ってそう答えるのだった。

 

 

「3秒後に俺が敵の注意を反らす。その隙にお前たちはシェルターまで走れ」

 

そう言ってヒイロは突撃銃を構える。

 

「……1、……2、……

  

 ――3っ!!」

 

 

 

 

次の瞬間、ヒイロは通路に躍り出、突撃銃を天井に向けて乱射する。

 

銃の発砲音に敵がこちらを向くが

天井壁が崩れ辺り一面に粉塵が舞い上がり、視界を覆い尽くす。

 

その隙にキラたちは一目散にシェルターへと駆けて抜けて行くのだった。

 

 

 

 

一人通路に残ったヒイロは未だ健在であろう敵に向かって

残りの残弾全てをばら撒く。

 

しばらくして、薄っすらと視界が開ける。

一人が血を流し倒れていたが、残りの3人の姿が見えない。

 

「……ちっ」

 

ヒイロは舌を打つとすぐに右側のキラたちが駆けて行った方の通路に身を隠す。

 

顔だけを通路に出し、目標の確認をする。

廊下の左右の部屋から残り3人の敵が出てくる。

おそらく、銃弾を避けるため身を隠していたと思われる。

 

敵はヒイロから見て通路の右端から二人、左端から一人、という陣形でこちらに近づいてくる。

 

今ヒイロの手には弾薬の尽きた突撃銃が一丁だけ

ヒイロは右手にその突撃銃の砲身部を持ち、身をかがめこちらに来る二人を待つ。

 

一人目の敵の脚が見えたところで、銃のグリップ部分を膝関節に叩きつける

激痛に怯んだ隙に敵の腰部分に携帯されているナイフを左手で奪い取り、素早く敵の首筋に斬り付け

絶命させる。

 

その敵の傍にいたもう一人の敵がヒイロに気付き銃口を向けてくるが、発砲するよりも速く

敵を床に押し倒し、一人目と同じように首を切り裂く。

 

敵の絶命を確認するより先にナイフを捨て、二人目の腕から突撃銃を奪い取る。

対岸、通路の左側に位置していた最後の一人がヒイロに向かって銃口を向けてくるが

敵が引き鉄を引くよりも速く、ヒイロは引き鉄を引き、三人目を絶命させる。

 

例え相手がコーディネイターの軍人だとしても

幼少時から工作員兼ガンダムのパイロットとして英才教育を施されたヒイロの反応速度にはついて来れない。

 

その場にいた全員の排除を完了したところで、

 

『目標の対象を取り逃がした、これよりアッシュを出す。

 ラクス・クラインの命は必ずこの場で奪わねばならん』

 

敵の通信機に入電が入る。

 

『アッシュ』というのが何かは不明だが

敵は何かを仕掛けて来るつもりらしい。

 

ヒイロが先を急ごうと窓の外を見ると

敵部隊の数名が海の方へと走っていくのを目撃する。

 

ヒイロはそのまま窓を開き外に飛び出て

彼らの後をつけるのだった。

 

 

 

 

敵の後を追うと、浜辺に出るのが分かる。

ヒイロは近くの岩陰に身を潜め、様子を窺う。

敵の数は8人、彼らは浜に置いてある潜水具を身につけ

一人、また一人と海中に潜っていく。

 

最後の一人が海に飛び込もうとしたところでヒイロは岩陰から飛び出す。

敵の首を掴み浜に引き倒し、上に跨ったところで敵の両肩関節を外し反撃を封じる。

 

「がぁぁぁぁーーー!!!!!」

 

敵の絶叫が辺りに響くが、他は全員、海の中にいる為当然助けは来ない。

ヒイロもまたそんな事は気にしないとばかりに敵の首に両手を掛け、

 

「……貴様らの目的はなんだ。これから何をしようとしている?」

 

詰問する。

 

敵が話せる程度に首を締め付ける。

 

「……いっ、はぁ………、答える……義務は、……ない」

 

「そうか……、なら、お前に用はない」

 

敵兵士の返答を聞くと手に力を加え、首を締め上げ

 

「ぐっ、ぁぁぁぁ……――っ」

 

敵の息の根を止めに掛かる。

敵の意識が途絶えたところで、さらに手の力を強め

首を圧し折ろうとしたとき、

 

 

「―――っ!?」

 

 

海から朱色の光が近づいて来るのに気付く。

 

咄嗟に先の岩陰まで走り、身を隠し様子を窺う。

徐々に陸に近付き、その全貌を明らかにする光源、

 

「……あれは!? …水中用モビルスーツ?」

 

それは7機のモビルスーツであった。

腕に鉤爪をつけた、緑色を基調とした装甲のモビルスーツ。

 

(あれが、奴らの言っていた『アッシュ』か……)

 

ヒイロでも生身でモビルスーツを相手にすることは出来ない。

そうこうしている間に、アッシュの腕が家屋へと向けられ

ビーム兵器による攻撃が開始される。

 

見る見るうちに破壊されていく建物

このままではいずれシェルターにまで被害が及ぶ、そうなれば……、

 

「クソッ、―――っ」

 

ヒイロは覚悟を決め、放置してきた敵の倒れている元へ向かう。

敵が8人に対して、モビルスーツが7機、おそらく気絶させた敵兵士の分が残っているはず

そしてそれは偶然にも水中航行が可能なものである。

 

ヒイロは敵の装備している潜水具のうち酸素ボンベのみを奪い

海へと駆ける。

 

 

『アレ』を取りに行くために…。

 

 

ヒイロが酸素ボンベの供給口を口に咥え

海に飛び込もうとしたとき、

 

 

 

  ――――――――――ッッッ!!!

 

 

 

後方から轟音が鳴り響いた。

 

 

何事かとヒイロが振り向くとそこには、

 

 

 

―――青い翼を広げた『ガンダム』がいた。

 

 

 

 

ヒイロと別れた後も、キラたちの前には幾人かの敵が襲ってきたものの、

キラたちは何とかシェルターへと逃げ込む事に成功していた。

 

 

「……彼、大丈夫かしら?」

 

「分からん、だが、奴が自分で決めた事だ

 それに、人の心配ができる状況でもあるまい、……ただ」

 

「……ただ?」

 

「ただ、あんなことを言う奴の死ぬところが想像できんと思ってな」

 

「……そうね、………彼、一体どういう生き方をすればああなるのかしら?」

 

「さあね、それも分からん。あいつには分からない事だらけだ」

 

マリューとバルトフェルドがヒイロの身について言葉を交わすが答えは出ない。

 

 

「バルトフェルドさん、……これからどうするんですか?」

 

「さて、どうするかな…、奴らがこれで大人しくしてくれれば良いんだがな」

 

キラがバルトフェルドに今後の事について尋ねるが

芳しい答えは得られない。

 

シェルターに逃げ込み、敵の襲撃から逃れることができたが

いつまでもこの場所にいる訳にもいかない。

また、外の状況がわからない限り容易に出る訳にもいかない。

 

「まあ、日が昇る時間帯になったら、俺が一度外の様子を―――」

 

 

  ―――ッ!!! ―――ッ!!! ―――ッ!!!

 

 

「何だっ!?」

 

突如 シェルター内に響く衝撃。

それは断続的に続き、今も尚響き続ける。

 

「ラミアス艦長、キラ、ラクス、奥の格納庫へ急げ!

 このままではここも時機に破られるっ」

 

マリューが先頭になり格納庫の扉を開く、

その後ろに子供たちを連れたキラとラクスが続き

マリューが入ったところで、最後にバルトフェルドが入ってくる。

 

 

「モビルスーツ?」

 

「おそらくな、何が何機いるのかはわからないが

 集中砲火されればここも長くはもたない……」

 

泣き叫び、身を寄せ合っている子供たち

無情にも迫る敵の脅威にバルトフェルドは決意を固める。

 

「――ラクス、鍵は持っているな?」

 

「っ!」

 

「『扉』を開ける。

 …仕方がなかろう、それとも今ここで皆死んでやってもいいと思うか?」

 

「いえ、あの、……それは」

 

ラクスは何かに迷うように傍にいるキラの顔を見つめる。

 

「?……ラクス?」

 

「………キラ」

 

「……? ―――っ!!」

 

ラクスがキラの顔から視線を逸らし、ある場所を見つめる。

キラもラクスの視線を追い、その場所を見る。

そこには不自然に一つだけ大きな扉が構えられている。

そしてキラは勘付く。その扉の向こうにあるものを……。

 

「……貸して」

 

「……え? 」

 

「鍵を貸して、……僕が開けるから」

 

「ですが、これは……」

 

「大丈夫、大丈夫だから、……それに、

 このまま君たちの事すら守れない方がずっとつらい」

 

「キラ……」

 

「だから、鍵を貸して」

 

ラクスはキラに鍵を渡す。

2年前、キラに託した『剣』を

今再び、託すために……。

 

 

重々しく扉は開き、キラが中へ入ると再び元に戻るかのように閉じられる。

 

ラクスは2年間、戦いで傷ついたキラをずっと見てきた。

そして、自分が『剣』を渡した所為だと思い、もう2度とこの優しい青年に戦わせる事はしたくなかった。

 

しかし世界が、状況が、再び彼を戦場へと誘う。

何より、彼自身が戦う決意をした今、もうラクスにはキラを止めることは出来なかった。

 

ラクスはただ祈る、彼がもう傷つかないようにと……。

 

 

 

 

キラは『剣』の中に乗り込むと先日ヒイロ・ユイから聞かされた事を

思い出していた。

 

『自分を信じて戦うまでだ』

 

(自分を信じて、僕は戦う……皆を守る。それが今の僕の目的だっ)

 

奇しくも、今、キラの掲げた目的は

2年前、ヘリオポリスでストライクに乗ったときと同じであった。

 

(……想いだけでも)

 

キラは『剣』―――フリーダムを起動させる。

 

 

    『G ENERATION

     U NSUBDUED

     N UCLEAR

     D RIVE

     A SSAULT

     M ODULE     COMPLEX』

 

 

そして、キラは

 

(力だけでも)

 

戦場へと舞い戻るのだった。

 

 

 

空へと上がると7機のモビルスーツがこちらに気付く。

 

キラはフリーダムを敵機へ急接近させ

 

頭の中で、種を砕けさせる。

 

『SEED』――『Superior Evolutionary Element Destined-factor』

      「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」

 

この世界でナチュラル、コーディネイターを問わず

特定の因子を持つ人間が危機的状況において感情の昂りにより発現する状態で

学会では「人類が新たなステージに立つ可能性の体現」とされている。

 

キラは2年前にアークエンジェルが危機に陥った際

初めて『SEED』を発現させ、その後も幾度となく窮地を脱してきた。

 

 

キラは手近な敵機をすれ違いざまにビームサーベルで切り裂く。

しかし、切ったのは敵機の武装のみであった。

 

その後もキラはビームサーベル、ビームライフル、クスィフィアス(レール砲)、バラエーナ(プラズマ収束砲)とフリーダムに実装されている武器を駆使し、敵機に攻撃を仕掛けるが決してコックピットは狙わない。

 

メインカメラ、武装、スラスターなどを狙い敵の戦意を奪い、無力化していく。

そうして次々と敵を圧倒し撃墜していくのであった。

 

 

 

 

ガンダムにより敵機が撃墜されていくのを見ていたヒイロは

 

「キラ・ヤマト、それがお前の答えか」

 

そう言って、今度こそ海の中に飛び込む。

 

 

 

しばらく泳ぐと予想通りアッシュが待機されていた。

 

ヒイロはその一機に乗り込むと

目的の場所に向けて機体を進ませる。

 

(『アレ』のある大凡の場所は先日確認してある、あとは予測とどれだけの誤差があるのかだが……

 

 

       っ! ………見つけた)

 

 

ヒイロは予測地点の30メートル先に目標のものを捉える。

そのままアッシュを『アレ』―――ウィングゼロの至近距離につける。

 

酸素ボンベを口に咥え、アッシュのコックピットから出て、ウィングゼロのコックピットに入る。

すぐにコックピットハッチを閉めるが、コックピットには海水が充満している為ボンベを口に咥えたままである。

 

ヒイロはすぐにウィングゼロの起動に移る。

 

(動けるか? ……ゼロ)

 

ヒイロの想いに応えるかの様に起動を開始する。

 

(機体損傷度確認、各センサー及び、全推進システム―異常なし、

 全関節駆動部及び、ゼロフレーム― 異常なし。

『ゼロシステム』―異常なし。装甲損傷率―37%、許容範囲だ。いける)

 

ヒイロはウィングゼロのバーニアを点火させ浮上を開始する。

 

もし動かなかった場合は破壊しなければならなかったが

リーブラの破壊、大気圏突入など立て続けに酷使させられたウィングゼロは

驚くべき事にほとんど損傷が見られない。ガンダニュウム合金の装甲をやや失った程度である。

この機体を設計した5人の科学者がどれほど優れているのかが、一目瞭然である。

 

 

ヒイロはウィングゼロを海面にあげるとハッチを開き、コックピット内の海水を排出する。

排出を終えると再びハッチを閉める。

 

(続いて、武装確認。ツインバスターライフル―異常なし。ビームサーベル―異常なし。

 マシンキャノン―残弾0)

 

ウィングゼロの全チェック作業を終えると、

ヒイロはこれからの事について考えを巡らせる。

 

(………どの世界でも同じだ……)

 

 

先ほどキラたちと別れ、ヒイロが囮を引き受けたのは、

「自分がこの世界の人間ではないから死んでもいい」とかそういう理由ではない。

 

彼が命を賭けるに値するものが在ったからである。

 

ヒイロは怯え、泣き叫ぶ子供たちを見たときに思い出したのだ。

 

自分が殺してしまった。

 

 

――― 子犬と、少女を……。

 

 

(……俺には……この生き方しかできない……)

 

そうして、ヒイロはこの異なる世界で再び戦いに身を投じることを心に決め

ウィングゼロのバーニアを吹かし、何処かへ飛び立つのだった。

 

 

 

                        つづく




第五話(後編)です。


今回、フリーダムの戦闘描写を大幅にカットしました。申し訳ございません。
書こうとも思ったのですが、アニメ映像そのままに戦闘が進むので、途中まで書いて止めました。

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