木の葉の里の入り口。手続きを終えた第11班はさっそく目的地である波の国へと足を運ぶ。今までの任務は里外のものもあったが、多少の無理をすれば日帰りができる範囲。1日1任務を熟してきた第11班はその感覚に慣れていた。
「今回は徒歩ですね」
「波の国に入る手前、そこまでなら急いで行っても構わないが、歩いてでも十二分間に合うだろう。警戒したり、外の地形を頭に入れるのも忍者の仕事だ」
「確かに、慣れ親しんだ地形での戦闘ばかりですから、これはためになります」
優等生はさっそく学習しようと、そこらを見回りながらついてくる。ハザマは自分に足りない要素を早く補完しようとする努力を止めない。たやすく弱点を克服している二人に後れを取らないためだ。
「いろいろと柔軟な思考をするにあたって、答えを複数出すってのは基本だ」
「答えを複数ですか?」
「ああ、例えば戦略において、勝率70%、勝率50%、勝率30%の作戦が提案された。もちろん70を取るだろう?」
「ええ」
「じゃあここに推定される殉職者がそれぞれ十人、一人、0人と有ったら、どれを取る?」
「…」
「そうだ、生半可で70%を取るわけにもいかない。かといって30%を取るのかといえば、そうでもない。俺なら回り道して他の案を、時間がなければ30%を取るだろうが、それも状況次第。得られる戦果だったりで代わることもある」
「…そこで回り道ですか?」
「そうだ、時間をおいたり、勝率70%の作戦の一部を30%の方でも使えないかとかな、回り道して見えてくるものもある。最終的には一つの作戦に絞られるが、それを決断するのは隊長の役目だ。この班なら俺だ」
「なるほど」
答えを複数だし、決定権は他に委ねる。決断力のない人には甘えになる行動だが、こうも頭の固いハザマは決断力は結構ある。ならば、足りないものといえば、破棄する思考を拾い集めること。すべては全か無ではない。使えないと判断するものの割合がハザマは大きすぎるだけだ。それを使えるものの割合を大きくすればいい。
「戦闘の最中にお前は変化の術を使う場合、どういう効果があると思う?」
「戦闘中ですか?意味ないのでは?」
「ま、そうなるよな。じゃあ、例えば他の術と併用した際に何か効果があったりしないか?」
「うーん…」
「お前が使える術でも応用が利く」
ハザマはその言葉にさらに唸る。
「応用ね。俺もあまりわかんねえな。変化の術って言ったら密偵用の忍術だろう」
「空間と時間の把握の訓練をしたのに、この有り様か…」
ツカイがソラに話しかけるが、ソラはハザマの現状に呆れてぶつぶつと何かを言っている。
「ソラ?」
「あー、ごめん。なんだっけ?」
「いや、だから変化の術の応用の話だよ」
「それね。多分だけどハザマにはもう少しヒントが必要かな。私が仕込んだ影分身の術が最も応用に優れてるのよ」
答え言うなよとシカクが呆れるが、ソラはその先を用意している。
「影分身?」
「ええ、影分身も変化ができるけど、そのとき、本体もしくは分身体が変化する対象でどんなメリットがあるか答えてみて?」
「…え?」
「いろいろあるわ」
なるほどと、シカクは納得する。下忍レベルの思考回路まで落とすのはシカクには難解だ。そのためハザマの思考をすべて考えられるわけではない。適任な人物ならこの班にいるのだから。
「もう、メリット答えればいいから。まずは本体が変化で苦無に化けたら?」
「バレるのでは?」
「そういうのはうまく相手の注意を逸らして、影分身とバレてない前提の話」
「それなら、苦無を投げ、弾いたところで解除すれば一気に近づける。相手にバレずに間合いに入り込めるってわけか?」
「それが一番大きい理由ね。それから次に、仲間に変化したら?」
「それなら___」
大丈夫そうだな。シカクは次々に答えられるハザマに安堵する。ソラの特訓はかなり効果的だ。ハザマの思考回路も徐々にだが柔軟なものに変化している。だが、頑固な点というのも時として利点にもなったりするが、忍の世界では柔軟な思考回路の方が望ましいだろう。
一行が国境付近に着いたのは夕方になってからだ。
「外泊は初だな」
「そうだな」
外泊するにはそこそこ立派な宿屋に泊まる。シカクは1度4名を集め、明日の段取りを決めた後、明日からの注意事項を言い渡す。
「お前ら、今日ほど気を緩めるなよ」
「「「はい!」」」
「わかっているならいい」
木の葉の里を出る際に男子二人はかなりの緊張感を持っていたが、それを鎮めるのに手助けになったのがソラだ。道中最も緊張感を持っていたハザマをシカクと共にサポートしていた。普段行っていることから緊張感を解くのは基本である。ハザマが最近行っている思考の柔軟化のトレーニングをしていたのは主にこれが理由だ。
「ソラ、明日からは気遁を展開することになるんだ。早めに休んでおけ」
「はい」
「俺たちはなるべく注意力をあげず、道中での体力消費を抑えることを忘れるな」
「「はい」」
「戦闘はいつ起きるかわからない。心しておくように」
解散した4人は各々のペースで宿を満喫する。風呂上がりのソラにツカイが声をかける。
「ソラらしくないな」
「…うん。ちょっとね」
「暗殺任務だもんな」
「人の命を取るんだもの、任務とはいえ、思うことはいろいろあるわ。どうせ通る道だけどね」
「そうだな」
ツカイは命について考えることは少ない。それはソラ以上に善悪の区別がついているからだ。敵は倒す。そうしなければ自分たちがやられることを本能的に理解しているのだ。それが天野一族である。対してソラは蒼井一族、幼少期の頃から他人の気質に触れ、善悪を多くの他人に委ねた総合的な判断。そこにはソラ本人の意向は少なく。飾られた感情といっても差し支えない。ソラは自分のアンデンティティーが希薄であることに最近気づいていたが、それは蒼井一族に起きる特徴だ。自分を見失うことが多い。それに気づけばいつも悩んでしまう。
「私は正しい判断をしてるのかな?」
ソラは呟く。
「ツカイはそういうところないよね」
「まあな。敵は敵、味方は味方だ。それ以上でもそれ以下でもねえさ」
「そういうところ、羨ましいなあ」
「そうか?俺はソラのように仲間に気配りできるところとかすげえって思うぞ」
「そう?」
「ああ、俺にはできねえ。俺ができんのは目の前にいる敵をぶっ倒すだけだ」
悩みなさい。自分自身を見失わないようにと相談した祖母の返答はたった一言だった。人には優しくされど残酷性とも取れる思考誘導で悩みの解決案を提示できる。しかし、自分にはそれがない。同じ蒼井一族に相談しても答えてはくれない。
「ソラはさ」
黙り込んだソラの横顔を見ていたツカイが言葉を漏らす。
「ソラは、悩みを相談しないよな」
「え?」
「俺やハザマが何かに行き詰るとさ、ソラは率先して声を掛けてくれるじゃねえか。まあ、なんか気分悪いなって最初は思ったけど、今じゃ感謝してる」
「そう、ごめんね。それと、ありがとう」
「まあ、それはいいんだよ。そうじゃなくてさ、ソラの悩みは俺たちにはわからねえんだ。だから声に出してくれねえと困る」
ツカイは愚直な少年だ。ゆえに真っ直ぐに思ったことを仲間に告げる。もちろんツカイもまた裏を読んだり、裏の裏を読んだりと忍者らしいことはするが、根は真っ正直な少年だ。
「…ちょっと、難しいかな」
「難しい?」
「うん。あまり他人に相談とかしないから、どう言えばいいのか…」
「…他人じゃねえだろ?」
「え?」
「俺はソラの仲間だ。他人じゃねえ」
本当に真っ直ぐだな。ソラはツカイの気質に触れながらもそして、その言葉をも受け止める。あまり愚直な人間に遭遇したことはない。ナルトもその一人だが、ナルトはナルトで歪んでいた。九尾のことや、里のことで、とても真っ直ぐに生きているとは言えなかった。それでもナルトは他の人間たちより真っ直ぐに生きているように思えた。そしてそれにツカイが重なる。
「なんかナルトくんみたいだね」
「はあ!?俺をあんな猪突猛進バカと一緒にするんじゃねえよ」
その言葉にそっくりそのまま返そうかと言いたいが、ソラは押さえ込んだ。相談か、そう呟いてから少しずつ話し始める。
「…私まだダメみたい」
「そうか…、そのうち聞かせてくれよな。俺だってハザマだって、もちろんシカク先生だってソラの力になりたんだから」
「うん…、ありがとう…」
ソラは自分のことを誰かに打ち明けることをしたことがない。仲間であるツカイにも話そうと思ってもかなりの抵抗を心の中で感じていた。
「いつか…、ね」
「ああ」
ツカイの優しさに甘えてしまう。ソラは目を閉じる。ツカイに相談するのに抵抗があるならば、里に帰ってから相談できる人に相談すればいい。だから、この任務は集中して頑張ろう。
「うん、今日はもう休もうかな」
「そうだな、おやすみ」
ツカイもソラも気づかない。ソラの心に一抹の不安が残っていることに。2人が気づかない場所でシカクはタバコの煙を吐いてソラ達を見つめる。
明け方、まだ靄(もや)のある時間帯に11班は行動を開始していた。
「ソラ、良い状態だな」
「はい」
ソラは現状適度な緊張感と集中力を以って任務に入る態勢ができていた。こういう姿勢は下忍にはかなり厳しい。まるで上忍レベルの任務に対する調整を見ているようであった。中忍でもここまでできる忍者はそうはいない。今やるべきことがはっきりとしたソラの心境が体現されていた。
「他の二人も良い感じだ」
「「はい」」
「出発だな」
昨日までの徒歩とは違い、街道を素早く走る。波の国に突入してからの一連の流れは把握済みである。ガトーの戦力に見つからないうちにカカシ班と合流。そのまま、敵が戦力を誤解しているうちに懐に潜り込むというものである。
シカクは見つからないに越したことはないと言っているが、本人は十中八九見つかってもおかしくないという判断だ。カカシ班が戦闘をしたということは増援の危険性もまた相手の頭の片隅にはある。そして話では霧隠れの里の抜け忍相手。靄を使う忍術はまずないので見つかることはないが、これが霧の濃度になれば、相手の感知のための霧の可能性が浮かび上がってくる。そして明け方や夜間はセオリー通りの潜入時間帯。実は特別な警戒をされる時間であったりする。もちろん日中よりは警戒は薄い。
数時間、街道から外れ、森の中まで入り込んで足を進めていったとき、シカクがつぶやいた。
「見つかったか」
「え?」
真っ先に反応したのはハザマである。
「どうやら口寄せ動物が見張っていたらしい」
「なるほどな」
シカクの視線の先にはサギが飛んでいた。
「サギは珍しいですね。木の葉では一般的にはカラスですが」
「元霧隠れの里の忍ってことだよ。水鳥が多い地域だからな。それに霧に紛れれば見つけにくいのも奴らには利点だ」
「なるほど」
シカクはソラへ視線を配る。この隊の司令塔はソラである。シカクは隊長ではあるものの、ソラの補助役ということが多い。ゆえにツカイはソラへと相談する。
「どうするソラ?」
「足は止めないでください。敵がわざわざここに向かってくるとも限りません。ここにいれば相手は奇襲されると思われます。このまま目的地であるタズナさんとこの地点の間で戦闘になる。敵は正面からは来ません。戦闘はシカクさんで、次にハザマ、ツカイ、私の順です。後ろから襲わせます」
「それだと…」
「私は感知タイプです。それからツカイにはいつでも雷遁の準備を、できれば雷龍弾を放つ準備でお願いします」
「わかった」
まだ気付かれていない体でタズナの家へ進み、途中で背後から襲ってくる相手を一網打尽にするという作戦だ。
「それから」
「まだあるのか?」
「ハザマは影分身で左100mの位置に一体おいてください」
「…了解」
波の国の地形を考えると左から襲われる可能性は著しく低い。そしてハザマの分身を並走させることで左の注意力をハザマの影分身1体という最小限に抑え込み、ソラは右側と後方へ大きく感知を広げる。通常の倍以上の距離を把握する。およそ1kmまで伸びている範囲網にさっそく魚が引っかかった。
「…来ました」
「いつでもいいぜ」
「合図をしたら私の後方に攻撃をお願いします」
「オーケー」
比較的速度を抑えめに動いていた一同にすぐに追ってきた敵襲は追いつく。
「…散!!」
ソラの言葉が響く。
「雷遁・雷龍弾の術!!」
振り返ったツカイの正面からソラが退き、真面に霧隠れの抜け忍が現れる。龍の姿をした雷が木々を縫うように3人に襲いかかる。
「しまった!?」
「まずい!?」
「避けろ!!」
3人。ソラの感知は残りの右方向から2人、左方向から1人の合計3人。ツカイの雷遁は森を切り裂き、敵の忍3人を即座に堕とす。
「スリーマンセルの2小隊です。右から二人、左から一人来ます。左手はハザマの分身体が応戦するので、このまま右の2名を堕とします」
「おう」
一個小隊そのまま右へ舵を切る。
「残り2秒で衝突します。ハザマ!」
「了解。時空術式・叛展」
敵と自分たちの位置を移し替える時空間忍術。対象は2人と4人。対象が増えるにつれ消費するチャクラは膨大となる。チャクラの消費量の割に効果は薄いが、相手の一瞬の隙をつくのには適している。
「な!?消え___」
「おい!?どうし___」
二人の背後から手裏剣を投げつける。ソラは変わり身で避けられる可能性を考慮していたが、咄嗟のことで判断が鈍った敵2人はソラたちの手裏剣をそのまま食らう。
脳髄まで突き刺さっており、絶命していることが判明。だが、まだ一人残っている。雷遁・雷竜弾で墜落した3人の忍は辛うじて生き延びていることもあり、ソラは安堵の息を吐かない。まだ終わっていない。
冷静沈着に物事を捉える。チャクラを半分失ったハザマとシカクの二人を堕とした3人に向かわせ、残りの一人の元へソラとツカイで向かう。
影分身体をなんとか倒した忍者は相手の強さに戦慄を覚え逃走を計ろうとしていた。
「あいつが逃げる」
「先に仕留めればいいんだろ?」
「ええ」
「いくぜ、雷遁・網蜘蛛」
蜘蛛の巣状に走る雷に逃げる忍だが、予想に反して逃げ切る。水遁の忍術を利用して雷の矛先を誘導していた。
「はあ、はあ、当たらなければどうとでも___!?」
「結界術・八方水精」
八つの水の玉からそれぞれを立方体で囲む。
「な、なんだこれは!?」
「動けねえなら今度は当たるよな?」
「な!?」
「雷遁・感激波!」
「グワァァァァ!」
水の立方体に雷遁を流し込み、絶命させる。第11班が6人の忍を倒すのに1分も掛からなかった。
あっけない速度で終わったが、息も絶え絶えになっているのが二人いた。ソラとハザマである。二人は初の実践ということもあり、過度な緊張から解かれると体力を相当に消耗しているのがわかる。一方でツカイは元々の神経が図太いのか、あまり堪えてはいない。
「お疲れ」
シカクは一言3人に向けていう。シカクの率直な感想はソラの取った態勢は見事である。もっとも敵に見つかった後の動きとしてはという点だ。もともと朝方に動くというのも、こうしてタズナの場所に向かうというのもすべてソラの指揮の元だ。シカクならまず見つかることさえなかっただろう。潜入捜査の始動は下忍レベルだが、こと戦闘に関しては中忍、ないし、上忍クラスの守備隊形が取れていた。ソラの読みもまるで問題がない。
「さて」
一旦言葉を切り開こうとしてシカクは止める。次を催促しているのだ。
「シカク先生、私たちに拷問技は…」
「それもそうか」
敵から情報を奪うための拷問の知識も経験もない。生半可な拷問で嘘の情報をつかまされた方が危険性がある。
「尋問できないならどうする?」
「ここで始末します」
捕まって意識も翻弄していた忍者たちは抗議する。この6人は下忍だ。中忍以上のいかなる犠牲を負ってでも任務を成し遂げる霧隠れの忍ではない。ゆえの上司にとっては捨て駒だ。生かすも殺すも無価値と判断してもおかしくはない。
シカクは決めかねていた。戦闘中ではなく、拘束後の殺害は心境に多大な負担を与える。班員には何事にも挑戦的な取り組みに賛同してきたシカクだ。
「今回は俺が指揮をとる」
今のソラは大きく不安定である。ソラ自身も気づいていることだが、他人の目には明白。こちらに敵意を失っている忍を殺すかどうか悩んで、自己を押し殺してまで、ソラは自分たちの最善を尽くそうとしている。パンク寸前だ。すでに殺人を経験してしまったソラではあるが、その瞬間と、今の瞬間はまた別の意味を持つ。殺意のあった相手と、殺意もなく、命を懇願する相手。気質に触れることのできる少女には、前者の相手ですら殺すのにかなりの抵抗があるというのに、後者を殺すことは特に酷である。高揚した中での冷静さとは異なり、完全なる冷静さを取り戻している状態でもあるからからだ。
忍として任務に就いたなら、その覚悟は相手にある。それを忘れるな。たとえ、今、目の前でそれを恐怖で忘れていようとも。
涙するソラの代わりに捕らえた3人に始末を付け、シカクはソラに諭した。
「うぅ…、ぁ…、先、生…」
「まだ任務は終わっていない、わかるな、ソラ?」
「………は、い」
ソラの目から涙が止まらない。
気質に触れる少女は相手の気持ちまで理解してしまう。技は忍者に向き、心は忍者にもっとも向かない一族、それが蒼井だった。
雷遁・雷龍弾
火遁、水遁、土遁、に龍弾という技があるのだから雷遁や風遁もあってもいいだろうという理由。