この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

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連続投稿1話目。


119話

「そんな呆れ返った悪感情は我が好む味ではない。私の不始末であったのは認めるが、夜逃げをするに止むにやまれぬ事情があったのを君もご在知だろう」

 

 あの未確認の聖獣の出現が発見された地域一帯に詳しいと思われる元地主に、地獄の公爵より経営を任されているこのカジノ店まで話を聞きに来た。

 しかし、自らの屋敷内に放し飼いしていたほど、魔獣蒐集なる貴族の趣味に嵌っていたこの高位悪魔も聖獣については噂しか知らないと言う。領地を任される以前、遥か過去に、『ひとつの街を氷漬けに凍てつかせた雪の女王の如き魔女が、街に訪れたある女神によって封じられた』なる文献が遺されていたそうだ。それでもこの情報で、関連性があると思われる聖獣『ムンババ』の話の裏付けが取れたと見ても良いのだろうか。

 

 で、他にも面倒極まる貴族の話も聞けたわけだが。

 

「私が治めていた領地は辺鄙な場所だがね、しかし魅力がある。聞いたことがあるだろう? 温泉街『ドリス』の話を。あの国教としての援助金を受けているエリス教団とは違って、マイナーでキワモノ揃いのアクシズ教団でさえ、『アルカンレティア』の温泉を含む水源を仕切っていることで活動資金を賄うほど懐が潤っているのだ。効能の高い源泉が発掘された土地と言うのはとても利用価値が高いものなのだ。上手に運営すればあとは勝手に観光客が寄ってきて金を落としてくれる。これほど旨い商売はそうそうない」

 

 ――だから、後釜を巡って熾烈な争いが水面下で行われているのは簡単に想像がつく。

 治めていた領主の突然の失踪に、宙ぶらりんとなっていたゼーレシルト伯の領地。これをいつまでも空きにはしておけない。領主の配下の人間が領地経営を問題なく回すのだろうが、しかしその上に立つべき主がいなければ体裁が整わないのである……というのが、貴族たちが声明を出した“正当な理由”。

 

 『秘湯の花』など高い収益を出している名産品は王都にも知れており、『アルカンレティア』と肩を並べる有名な温泉街ドリスは、“金のなる木”なのだ。

 

 その領主ゼーレシルト伯がいなくなった――この降って湧いたチャンス。

 これを狙う貴族が少なくないし、多額の根回しをばら撒いてでも空きになった座を欲する者もいることだろう。

 

 それで、その領土、またはこの『アクセル』を含むその周辺一帯に居を構えている、優秀な領主候補と言えば、最年少騎士叙勲した非の打ち所がない、現在もイグニス領主の補佐を務めているバルターがいるのだが、義父であるアルダープ前領主の一件が尾を引いて立候補に手を挙げることはない。そのアルダープが領主であれば強欲にも己が領地を広げようともしたが、王家の忠臣として名高いイグニスは己の利益の為ではなく任せられた土地の発展にこそ力を注いでいる。

 

「しかし、ドネリー家が後釜になるとはね。いやなに、あそことはちょっと縁があって」

 

 そんな有力な候補がこの椅子取り合戦から一抜けて、空席となった座を手にしたのが――ドネリー家である。

 

(この通り、ゼーレシルトが地獄の公爵であるバニルマネージャーから任されているカジノ経営に精を出している以上、今更、元の領地運営に戻ろうなどと言うことはしない。つまり、温泉街ドリスを仕切っていれば、富は築けていくわけだが)

 

 にしても、だ。

 前評判では返済比率が暴利で金貸ししている守銭奴が、たとえ領主にまで成り上がったからと言って、人間その性根がそう変わるとは思えない。それが一月も経っていないのに、ああも高額な依頼料を支払ってでもエース(めぐみん)を雇おうとするのだろうか。

 姫さんのご意向で、『銀髪盗賊団』に掛けられていた賞金はなくなっているのだから、ひっ捕らえたところで大した利益は見込めない。身銭を切って、一人あたま一億エリスを出すというが、そこまでする必要があるのか? しかも、わざわざ盗賊団が狙う神器の魔本まで用意して……

 

 聖鎧『アイギス』を盗み出した一件で恨みを買っているかもしれないが、あれは確かアイギスがのこのこと食客みたいにドネリー家の屋敷へ自ら赴いたのであって、出費は零のはず。そう引き摺らないとは思っているのだが。

 

(ダクネスさんが“取り立てがえげつない”とも言っていたから、しつこい性格をしているのか? ……いや、王城での社交界で宮廷道化師(おれ)を勧誘した時も忠告すればすぐ手を引いたのからすると、損得に機敏な利益優先で動く人物(タイプ)だろう。少しでも損をすると判断すれば切り替えるはず)

 

 盗賊団を捕まえて一億エリス以上の元手(コスト)に見合うだけの利益があるとは思えない――だから、ここはプラスを得るのではなく、リスクを除くためだったと考えるべきか。

 『一億エリスのコストを支払ってでも盗賊団というリスクを排除したかった』と仮定して。盗賊団は悪徳貴族を主に狙う義賊なのだから、白日の下に晒されてはマズいものがある、か。

 

 領主であるなら身綺麗であるのが好ましい。

 前領主アルダープは、真実を捻じ曲げる悪魔の力を頼って、未然に情報が流出するのを防いでいたが、あれが仕出かした悪事がひとつでも表沙汰になっていれば、即刻、領主の座から転落していただろう。『王家の盾』たるダスティネス家が、王都王宮勤めではなく『アクセル』に居を構えていたのは、怪しいのに証拠を出さないアルダープに睨みを利かせるためだったと聞かされている。というよりも、この話は誰も口には出さないが貴族の界隈では密やかに憶測が立っていたそうだ。

 

 領主としての地位にまでようやく登り詰めたのに、近くには王の番犬の如き監視者がいる。しかも昔からの因縁で娘同士は犬猿の仲。

 何か、不正を抱え込んでいる、もしくはこれから働くつもりであるようであれば、これは気が気ではないのではないだろうか。

 

(となると、わざわざ『銀髪盗賊団』が潜伏されていると言われる『アクセル』まで自ら足を運んできたのは、冒険者への依頼の為ではなく、挑発とも考えられるか。ああも大胆な、すぐ街中に広まりそうなパフォーマンスで、街のどこかに隠れ潜んでいるのだろう盗賊団の耳にも入れるための。街を代表しての冒険者の顔役(エース)を雇おうとしたのは、それなりの宣伝効果を見込んでのことだろう。これは、とっとと義賊を燻り出して捕まえたい心境のあらわれとも考えられる)

 

 守りに入った際に、いつ相手が攻めてくるかわからない状況は困る。人間、ずっと万全の警護で気を張り続けるのは無理がある。独り相撲するような事態となれば徒労もいいとこだ。だから、お目当ての神器の魔本と言うエサを出してまで、義賊を誘き出したかった――

 

(しかし、この推測には腑に落ちない点がある。ダクネスさんの存在だ。ドネリー・カレンとお互いに敵視している相手が、エース(めぐみん)と同じパーティであるはずなのに構わず雇おうとした)

 

 そりの合わない、また賄賂の通じなさそうな領主の娘を、屋敷に入れる。不正をしているのだとすれば、是か非でも避けたい事態だ。無論、そんな証拠は目の付かない場所に隠すだろうが、それならそもそも屋敷から遠ざけるべきだろう。

 積極的な保身で義賊(クリス)を捕えるために、領主の親族(ダクネス)を招いては、本末転倒ではないか。

 

(後で手切れをしたが、あれはエースの看板を単純に銀髪の義賊(せんぱい)に対する宣戦布告としか思っていなかったということなのか? つまり、警護としてあてにしておらず、最初からすぐに何でもいいからいちゃもんをつけて屋敷に上げる前に警護を打ち切るつもりでいた……と考えるのが妥当になるかもしれんが、うーむ……だが、これも腑に落ちん。素行調査で契約を破棄するに都合のいいものが見つかる、なんて捕らぬ魔獣の皮算用だろう)

 

 そもそもだ。

 元領主の高位悪魔の話しぶりではよほど下手な経営をしなければ、温泉街ドリスを中心に資産は増えていく。これまでの金貸し業だって、言い方は悪いが、グレーゾーン……娘のダクネスの耳にまで届いている悪評判で、イグニス領主が摘発し(うごい)ていないことを材料に考慮すれば、そうなのだろう。あまりに酷過ぎた前領主は比較対象に向いていないのだが、ドネリー・カレンは、悪徳貴族の中でもずっと小悪党なのだ。

 以前、隠れ家にお忍びで訪れていたお転婆娘(アイリス)より、極秘の、“王家がマークしている貴族リスト”なるものを見せてもらったことがあるが、その中にも入っていなかった。先輩(クリス)も、神器回収のために聖鎧『アイギス』を盗み出す際に侵入したが、それ以外に手を付ける気はなかった。

 

 なのだから、悪事に染める必要がなくても儲けられる領主運営に勤しんでいればいい。

 神器の魔本を所有するなんてかえってリスクを抱え込むような真似だ。アンダインのような強欲な蒐集家(コレクター)ではあるまいに。神器に執着する理由がなければ、さっさと手放せばいい。たとえば金持ちの蒐集家にでも高値で売りつければ金になる――

 

(逆に考えれば、それほど神器に執着する理由があれば話が別になる、か)

 

 あの女好きな『アイギス』は、少し付き合うだけでも、“勇者の振るう神器(ちから)の憧れ”と言うのに対し百年の恋も冷めるくらいのビックリな勢いで幻滅させてくれる性格をしていたし、しかも逃げら(ぬすま)れた経験もあるドネリー・カレンが、神器を頼りにすると考えるとは少し首を捻るところではあるが、何か別の要因が絡んでいるかもしれない。

 だとすると、情報不足で、これ以上の考察は控えた方がいい、か……――

 

(……いや、待てよ。どうしてあの状況下でキャベツ収穫にドネリー・カレンが現れた。こめっこの登場に驚かされたが、普通、あの最中で外に出ようとは考えまい。貴族として一般人よりもレベルが高いのだとしても、キャベツに襲われるのを避けようと動くはず。成り上がり者ではない由緒正しき名家の貴族であるのに冒険者をしているダクネスさんのことをバカにしているわけだし、ダクネスさんと同じように自ら危ない目に遭いに行こうとするのには行動が不自然だ。めぐみんの雇用を打ち切るための粗探しにしても、調査員でも派遣すれば済む話で、これはらしくない)

 

 ならば、他に目的があったのだ。

 あの場で、ドネリー・カレンがしたのは『渡りキャベツの群れと共に到来してきたギルド未確認の聖獣(モンスター)を討伐しろ』とまくし立てたこと。

 単なるクレームかと思えたが、あの時、既に『ムンババ』は大人しくしていた。野菜のキャベツの方がよっぽど冒険者たちに猛威を振るっていた。ギルド職員さえ生態を把握していない、魔物蒐集家であった高位悪魔も自ら治める土地が生息域だと推定されているにもかかわらず存在を噂でしか知りえない。ついでに見た目もあまり狂暴そうには見えないゆるい感じ。なのに、ああまで急かす――その『ムンババ』を冒険者でもなければ魔獣研究に携わっているわけでもない貴族が危険視する理由は何か。

 不明の脅威を撃退に成功しためぐみんに、撃破のチャンスを逃したのをあげつらって罵倒したのは、本心である……心底残念がった雰囲気のようだった。

 

(……これは、また一度話を聞く必要があるか)

 

 ………

 ………

 ………

 

「それで、いつ勝負をやめてくれるんだ!? 私の数少ない稀少なコレクションも奪ってくれて、もう十分に大勝ちしただろう!」

 

 情報収集及び整理する傍らで勝負(ゲーム)をしているとんぬらへ、支配人を任されているペンギンの着ぐるみが上擦った声を上げる。

 

「『タダで教えるのは悪魔の流儀に反するし、つまらない。折角、賭博場(カジノ)へやってきたのだから、ゲームをしていかないか。一ゲームごとに汝が望む情報を語ってやろう』と誘ってきたのはあんたの方だと思っていたんだがな」

 

 残念な運ステータス、それに以前、3000万エリスの破産の最高額記録を樹立した水の女神様を崇め奉るアクシズ教徒(ではないがそう思われている)……そんなのこの事やってきた“カモ”を、ゼーレシルトは舌なめずりして誘いをかけた。地獄の公爵が星五つ認定する悪感情を頂きたく、他の客らのように屈辱を絞り上げてやろうと支配人自らがディーラーを務めたわけだが――現在、チップが大量に毟り取られていた。

 

「とりあえず、ヒットだ、ディーラー」

 

 トントン、ととんぬらはテーブルを指で小突いて、カードを一枚寄越せと催促する。

 カジノのゲームに必勝法などありはしないのだが、『ブラックジャック』には、『カウンティング』という裏技がある。

 トランプのカードの合計点数が21を超えず、ディーラーより高い点数を得られればプレイヤーが勝ちの遊戯。

 つまりは、出たカードを全部覚えておいて、残りのカードが何かわかれば確実に勝てる。ただし、用いられているトランプ6組――計312枚を一枚一枚記憶しておかなければならない。しかも指で数えたり、メモ取ったりはルール違反。

 そう、人間の記憶力では無理もいいとこなのだが……

 

 

「――よし、21(ブラックジャック)だ」

 

 

 とんぬらの椅子の周りには、カチ盛りのチップが詰められたバケツが数個ズラリと置かれている。常人以上の知能を誇る紅魔族の中でもとんぬらは、優秀(チート)な記憶能力と計算能力を誇る。札が透けて見えるほど把握していれば、運に左右などされずに勝負を決められる。

 つまりは、『エルロード』とほぼ同じパターンである。

 

「――頼む! 私が知りうる限りのことは全部話したのだ! 店を傾ける前に出ていってはくれないか! この店はバニル様より運営を任されている。君もバニル様の大望であるダンジョンづくりの資金繰りに携わっているのだから、わかっているだろう? これ以上はバニル様のお怒りを買うかもしれぞ」

 

「悪魔族とは、弱肉強食が流儀だとマネージャーから聞いている。欲深なのが悪魔なのだとしても、そんな相手を計れずに欲に溺れて泣きつく真似をすればそちらが見限られるぞ。ああ、ウチのウィズ店長も経営失敗すれば、軽くバニル式殺人光線を浴びせられているんだが、あんたじゃあ、残機が一瞬で消し飛んでしまうだろうな」

 

「あ、あわわ……」

 

 とんぬらとて、個人経営のカジノから大金を巻き上げるのは自粛したいのだが、生憎とこの支配人はパートナー(ゆんゆん)を誑かしてくれた高位悪魔であるためその辺は無慈悲だ。それに、売られた勝負(けんか)を相手が後悔するほど買い叩くのが紅魔族の流儀であるからに、ペンギンの着ぐるみが路頭に迷おうと知ったことではない。

 

「とはいえ、あんたにばかりかまけてはいられない」

 

 席を立ったとんぬらに、ほっ、と安堵の息を零すゼーレシルト。

 “手土産”に使えそうな魔界の魔道具の景品も取れた。結婚資金も稼いでおきたいがそれは真っ当に働いて得た金でありたいし、経験上、あまり調子に乗ると自分の不幸体質は計算外の事をしでかしかねないので、ここらで手を引くのが賢明と判断する。

 

「……それに、これ以上は教育によろしくなさそうだからな」

 

 ――立って後ろを向けば、そこには妙な光景が繰り広げられている。

 

「さあこれも食べてみて? お姉さんの手作りよ」

 

 このカジノではサキュバスが“飲食店”の傍らで余裕のある者が副業で働いていたりする。

 

 とんぬらはこの賭博場には一人で赴くつもりでいた。この高位悪魔が仕出かしたことを考えれば、格好のカモにされかねないゆんゆんを連れていきたくはない。同行厳禁に渋られたが、今回ばかりは納得してもらった。

 しかし、今のとんぬらには新しい連れがいるわけで、

 

「お嬢ちゃん、ほらこっちも食べてみて?」

 

「ありがとうございます」

 

 ゲームのいろはもわからない子供が退屈しないよう、ゲーム中、甲斐甲斐しく世話をしているサキュバス。そして、差し出されるがままに、黙々と菓子を食べるこめっこ。

 そう、あの一件から(めぐみん)たってのお願いで、“エース”に預けられているこめっこは、(ゆんゆん)が羨ましがるくらいに四六時中とんぬらの傍にいる。風呂の時も、トイレの時も……ドアを氷漬けにしなければ突入しかねないくらいべったりだ。

 とんぬらもこめっこは解呪不能な呪われた装備みたいな感じで引き離すのを諦めた。

 それでカジノにも引っ付いてきてしまったのだが、この託児所な状況は、とんぬらが頼んだからではない。サキュバス達が率先して行っているのだ。今も菓子を頬張るこめっこをサキュバス達は愛しげな目で見つめている。

 

「サキュバス達が唾をつけようとしているのもわかる。私もできるのならお近づきしたいくらいだ。あの娘には、高い悪魔使いの才能がある。きっと将来、とんでもない大物になるぞ」

 

 高位悪魔からもお墨付きな悪魔使いの才能。その素養についてはとんぬらも予感はしていたが、過去に上位悪魔(ホースト)をも翻弄した魔性の妹がその悪魔誑しの才を完全に開花すると地獄の公爵ことマネージャーすらも使役しかねないのではと思ってしまう。

 

「お姉さんたちは、サキュバスなんだよね」

 

「ええ、でも私達の正体は秘密にしててね?」

 

「サキュバスって、どんな男性冒険者もイチコロなすごい悪魔なんだよね」

 

「え、ええっ! そうね、悪魔族の位は最下級だけど、男の人を相手する手腕にかけては自信があるわ。でもこの街では共存共栄をモットーにしているから怖がらなくても大丈夫ですよ」

 

「愛人になりたいので、男の誑かし方を教えてください」

 

「はい??」

 

 とんぬらはダッシュして、サキュバスたちとの間に割って入り、この末恐ろしい、いいや既に十分に恐ろしい魔性の妹を回収した。

 

「これ以上妹さんに変な影響を与えたら天災児な姉にエクスプロじょられかねん!」

 

 早く保護者の許へ帰そう――とんぬらは改めて決意をするのであった。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 キャベツ収穫から一日。

 シルフィーナを連れて実家のダスティネス家の屋敷の方へと帰っていた女騎士の『クルセイダー』へ、客人(こめっこ)がおらず、仲間(めぐみん)が部屋に引き籠ってしまった事情について話す。

 

「おのれ、相変わらずケチで小狡い成り上がり者めが! 私やカズマをバカにするならまだ許せるが、年端もいかないめぐみんを貴族ともあろうものが、公衆の面前で悪し様に罵るなど断じて許せぬ!」

 

「お、おい、言ってることに共感はできるんだけど、俺ならバカにされてもいいのか?」

 

 瞑目して、キャベツ収穫でのゴタゴタした雇用契約打ち切りの話を聞いていたダクネスが、カッと目を見開き、憤然として立ち上がる。

 

「カズマ、明日だ! 本来であれば今すぐと言いたいところだが、明日の朝にありったけの人を集めて襲撃を掛けるぞ! そもそもあの家は近頃、妙に怪しいと噂されているのだ。ダスティネス家が家宅捜索の権限を許可してやろう、遠慮なく丸裸にするがいい!」

 

「バカなことを言わないでくれダクネス! 短気なめぐみんですら思い留まったんだからな!」

 

 思った通り、目をギラつかせるダクネスは非常にお冠だ。ブチ切れている。

 

「何だか色々大変そうね。これ以上ややこしいことにならないように、私はお酒でも飲んで大人しくしておくからね」

 

 そそくさと退避するアクアがまともに見えるくらいに。

 

「見ていろドネリーめ、もう後のことなど知るか! すべてが終わったら裁判でも何でも受けて立つ。あいつに思い知らせてやる!」

 

 危ない宣言をするダクネスから逃げるようにカズマは居間から出た。

 これは明日になれば猛り狂った大貴族は仲間を侮辱したとばかりに動き出す。ただでさえ頑固なのに、本気になったその目は、見た時点でカズマに止めるのを諦めさせた。

 

 

 怒髪天を衝くダクネスだが、その気持ちはわからないでもない。さっきも言ったが共感できるし、どうにかしてやりたいとも思っている。

 ……いや、どうにかするつもりでいる。

 

『今回の仕事、後輩君は出ないから助っ人を一人追加したいんだけど、そのうってつけの人物の説得を助手君に任せたい……お願いできる?』

 

 この世界で最も尊敬し、憧れているお頭からの命に二つ返事で引き受けた。

 お頭から教えてもらうまでカズマは知らなかったのだが、今や伝説的な大物として名が通っている『銀髪盗賊団』には、ファンクラブがあるという。

 その予備軍な盗賊団を作り、千人を超える入団希望者を集め、この街一番の屋敷をアジトにした、ファンクラブの“団長”がその助っ人候補なのだそうだ……それでその人物の名前を聞かされた時、もう一度復唱をお願いした。

 そして、おいおいマジか、と頭を抱えた。

 “団長”はなんと身近な人物で、そういえば前からちらほらとそのような話を聞かされていたような気もする。アクアと言いダクネスと言い、まったくこのパーティは、ちょっと目を離すだけで大変なことをやらかす面子ばかりだ。

 だけど、長い付き合いでそんなやらかしてくれる日常に慣れてしまったせいか、大人しくなってしまっているのを見ると、調子が狂うのだ。

 

 カズマは、日課の爆裂散歩をサボってしまうくらいずっと塞ぎ込んでいるめぐみんの部屋のドアをコンコンと気持ち控えめにノックする。

 しばらく、反応がなく、落ち込んだ雰囲気が苦手な身としてはそわそわとしたのだが、やがてガチャッと鍵が開けられる。

 

「ああ、カズマですか……」

 

「めぐみん、部屋に入れさせてもらってもいいか?」

 

 部屋にはめぐみんの他に、ちょむすけがいた。

 カズマが部屋に入り戸を閉じると、めぐみんはそのちょむすけを拾い上げて、

 

「ごめんなさい」

 

 弱々しい、小さな声で謝った。

 

「いや、いきなり部屋に入ってその一言だけだと、俺がフラれたみたいな絵面で嫌なんだけど」

 

 時間帯的にも夜這いと取られるかもしれないと思っていた身としてはこの対応は色々とよろしくない。そう続きを促せば、黒猫の使い魔を抱きしめたままで。

 

「もし私が最初にこめっこにきちんと本当のことを話していたならば、カズマたちまでバカにされるようなことはなかったはずなんです。私が“エース”でないと知れていれば、こめっこだってああまで言い張ったりはしなかったでしょうから。カレンというあの人の言う通り、見栄を張るのも大概にするべきでした……」

 

 普段のめぐみんなら簡単に乗せられた話だったが、今は哀愁を誘うよう俯きっぱなしで、

 

「……俺に、弟がいるって話したことがあったっけ?」

 

 ポツリとそんなことを言うとピクッと反応し、顔を上げためぐみんに、

 

「見栄っ張りなことに関してだけは、俺は他の追随を許さない。俺の国には『バレンタイン』という風習があったんだが、それは男子が女子からどれだけチョコや贈り物されるかでステータスが格付けされる忌々しい日なんだ。俺は一度だけ過去に行けると言われたなら、この毎年恒例の行事を考案した奴をシバキに行く。それぐらいに貰えない男性にとっては迷惑で困ったものなんだ」

 

 カズマはこれまで誰にも言っていない、墓場まで持っていくつもりだった黒歴史を話すことにした。

 

「それで俺はある年の『バレンタイン』で機転を利かせたことがあった。お隣の家の娘さんに一つ頼みごとをしたんだ。このお金でチョコを買って、当日家に届けてくださいってな。おつりは全部差し上げますから、と。この作戦が上手くいき、俺の弟はかーちゃんからの一個だけ。そして、俺はかーちゃんとその子からの、合わせて二個。この時に、俺と弟との長い長い戦いに終止符が打たれたんだ。こうして俺は、兄の威厳を保つ事に成功したんだ」

 

 我ながらなかなかに酷い話ではあるが、めぐみんはしっかりと聞いてくれており、質問をする。

 

「……つまり、お金でサクラを雇って勝ったんですね。カズマは昔からそんな感じだったと知って安心しました。……しかし、変わったしきたりですね。その日にチョコとやらを貰えるかどうかで格付けされるなんて」

 

「それに、春、ちょうど今頃の季節には、お返しの日があった」

 

「……? お返し? 何ですかそれは?」

 

「女子にチョコを貰った場合はな、その一月後。貰った物の三倍の金額に値する品を差し出さなくてはならないと言う、悪意に満ちた行事もあるんだ。これを怠ると、女性達の間で社会的に抹殺される。貰えなければ後ろ指さされて笑われ、貰ったら貰ったで散財する。そんな悪魔のイベントなんだよ、『バレンタイン』というその日は」

 

 どれだけ悪質かを説明し終えると、めぐみんはキョトンと意外そうに首を傾げ、

 

「……なぜカズマはチョコを貰えなかったんですか? カズマは人間的には色々大事な物が欠如してますが、それでも。一緒に居るとカズマの良い所は色々と見えてきます。例えば凄く……凄く……――優しい人、ではありませんね。真面目……――でもないですね。基本的にぐうたらで、弱いくせに口が悪く、冒険者ギルドでは自分の功績を吹聴して謙虚さの欠片もない。……あれっ? ……あれっ? 冒険者ギルドの女の人達に評判かとも思えば、ちょっと煽てれば簡単に奢ってくれるチョロマさんと呼ばれていますし」

 

「あいつら覚えてろよ、今度会ったら『スティール』かけてやる。つかめぐみんも、あれっ? じゃねぇ! 妹宛の手紙であれだけ書いてくれたんだから、頑張ればちゃんと出てくるはずだろ! 俺のどこが好きだとかそういうのが!」

 

 手紙のことは忘れてくださいよ! みたいな反応を期待したカズマだったが、

 

「ええ、好きですよ。どれぐらい本気なのかと訊かれればガチです。真剣に考察してみても、何故こんなにもあなたが好きなのかわかりませんが、一緒にいると安心します。これが、気が付いたら好きになっていたというやつでしょうか」

 

「ふぁっ!?」

 

 思わぬカウンターパンチをもらった。

 真っ直ぐに見つめられて、もういっそ男らしいくらいにド直球の告白をぶつけてくる、この強烈な一発に、きょどってしまいながらもカズマは、

 

「お、お前、前々から何度も言ってるけど軽々しく突然そういうこと言うなよ、心の準備とかが必要なんだよ。これからはそう言うセリフを言う際には、事前に手紙かなんかで何月何日何時頃ってちゃんと予告しといてくれ」

 

「何ですか、そのムードもへったくれもない告白は。私は思うがままに常に言いたいことを言っているだけです。ですから、もし私がカズマの国に行ったなら、そのバレン何とかという日には私がチョコをあげますよ。弟さんにはそれを見せびらかすと良いですよ」

 

 しかしまあ、こうサラッと言ってくるめぐみんだから、なんとかしてやりたくなる。

 

 人の親愛は食べ物と同じように、温め直すのと、温め続けるのとでは、味が変わってしまう。一度でも冷え切ってしまえば、それはもう前と同じではない。

 めぐみんは、たった一日引き籠っただけ。年単位でニートして、弟との関係が冷え切ってしまった(カズマ)とは違って、きっとまだ大丈夫なはずだ。

 

「そんじゃあ、バレンタインデーでチョコを貰う予約した、そのホワイトデーの先払いでというか……こっちも妹に姉らしく振る舞えるよう手を貸してやる」

 

「……えっ?」

 

 何だか交換殺人な提案じみたことを言い募ってしまうも、この手は真っ直ぐに差し出された。

 

「俺の国の言葉には“ウソも方便”ってのがあってな。自分の見栄っ張りの為だけにウソを吐いた俺とは違って、めぐみんのは理由があるだけマシだし許されるんだよ。……なのにそのめぐみんが自信を無くされたままだと、免罪符すらない俺はどんな顔して弟に会えばいいんだ」

 

 まあ会いたくても、もう会えないんだが……と口の中にぼやきながら、カズマはそれを取り出し、頭につける。

 

「その仮面……っ! その姿はまさか、カズマが――」

 

「だからまあ……。その、なんだ。言っちゃあ何だが、お前はまだ全然名誉挽回可能だ。少なくとも俺よりも楽勝であるのは間違いない」

 

 そうして、大きく動揺するめぐみんへ、まるでどこかへ遊びに誘うように――そう、いつもの爆裂散歩の調子で、バニルの仮面をつけた盗賊スタイルでカズマはスカウトした。

 

 

「義賊の臨時助っ人として、一緒に行ってみないか? 自信がつくと思うぞ」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「ふう。まったく集合場所に来るのが遅いよ助手君」

 

「いや、そもそもお頭が時間を指定しなかったんじゃないですか」

 

 金色の筒を手元で弄んでいる、口元をマスクで隠したスタイルの銀髪の少女、クリスの姿は、めぐみんの記憶に強く焼き付いたエリス感謝祭で会った姿と重なる。

 ここまでフラフラと仮面の義賊(カズマ)に手を引かれるがままに夢遊病のようについてきためぐみん。いつものローブ姿ではなく、普段とは違うラフな服装に着替えているめぐみんは、呆然と固まってしまう。

 

「……ねぇ助手君、めぐみんが動かないんだけど。ちゃんと説明して連れてきてくれたんだよね?」

 

 言いながらクリスはニヤニヤと悪戯っ子みたいな笑みを浮かべている。カズマも同じ。めぐみんが固まったまま動かない理由をちゃんと二人は理解している。

 

「……でした」

 

「めぐみん、どうしたの? ごめん、ちょっと聞こえなかったよ」

 

 ぼそりと何かを呟くめぐみん。

 これにカズマとクリスが耳に手を当てるポーズを取るや、突然土下座を敢行するめぐみん。

 

「すいませんでした! ファンを自称するこの私とした事が、あなたの正体に気付かないだなんて!」

 

「お、おい、声が大きい、周りに聞こえるだろ!」

「めぐみん、いいからいいから! 別に謝ることでもないし土下座はやめてえ!」

 

 めぐみんが騒ぐのを慌てて止めたカズマとクリス。しかし、依然と煌々と紅く光っている瞳は興奮と期待に満ちている。これにクリスはクスリと笑みを漏らし、

 

「めぐみん、ちゃーんと見るんだよ。これが、キミが、あれほどあたしに好きだって熱弁してた人の正体だよ」

 

「ええ、ちゃんと見ます。私が大好きな人が今まで何をやっていたのかを知りたいですから」

 

「ふぇっ!?」

 

 先程カズマもやられた手前あまり強くは言えないが、揶揄うつもりで思わぬ反撃を食らった純情お頭が逆に顔を赤らめてしまう。

 

「お頭、コイツはいつだって全力なんですから、揶揄うのはNGですよ。俺も何度もカウンター喰らいまくってるんですから」

 

「ごごご、ごめんね、何か知らないけどあたしもすごくダメージきてるよ。何だろうこの甘酸っぱい気持ちは、恥ずかしいんだけどもっと聞きたいような、それでいて顔を覆いたくなる感情……!」

 

 内緒話をするよう顔を寄せ合い小声でヒソヒソやり合うカズマとクリスに、めぐみんは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、

 

「その、二人はかなり深い仲なのですか? いつぐらいからこのような間柄に?」

 

「めぐみん勘違いしないで!? 助手君は最近加わった新人だし、あたし以前に言ったじゃん。『盗賊』スキルを教えたりいろいろしてるけど助手君のことは何とも思ってないって! ただの友達としか思ってなくて、特別な感情は抱いてないって!」

 

「ちょっと待ってくれ、俺がいない間にいつも二人で何話してんの? なんで俺は知らないところでフラれてんの?」

 

 猛烈に手を振って否定するクリスに、めぐみんはほっと胸を撫で下ろし、

 

「そうでしたか。では……今はいないようですが、あの覆面がクリスのお相手なんですね?」

 

「こう……っ! 彼も違うよっ! 助手君よりも長い付き合いになるけど、そういう特別な関係じゃないから!」

 

「でも、お頭、呼(喚)んだら来たり、イベントでサービスしたりと結構依怙贔屓してますよね」

 

 先ほどの仕返しとばかりにカズマがツッコめば、クリスはわたわたと両手を振り、

 

「やめてよ助手君!? これじゃあ先輩に何を言われるか……」

 

「私は応援しますよ。カズマの女性の知り合い、敵になりそうな相手がなくなるのは歓迎することですから」

 

「だから、違うからっ!? えーっと、ほら、敬われる念が快いというか……――そう! 親分子分みたいに、奉仕する分世話してあげよう! って感じだね! はい、この話はおしまい! 今日は綺麗な満月だね! 助手君は暗視能力があるから良いけど、あたしにとってはこんな日こそが仕事をするにはもってこいだよ」

 

 こうして自己紹介が終わると、月明かりだけを頼りに『アクセル』の街を駆け抜けながら、説明が入る。めぐみんはクリスから用意された、光る赤目もばっちり隠してくれる、『隠密トカゲ』製の覆面頭巾を被りつつ、二人から一歩引いた殊勝な距離感から、

 

「あの、本当に私も行っていいんですか? 『盗賊』スキルも持ってないので、足手まといになりませんか?」

 

「この仮面を被った俺はいつもと違うと思ってくれ。今の俺は最強の『冒険者』サトウカズマじゃなく、元大物賞金首、『仮面盗賊団』のお頭だ。満月の夜限定だが、誰にも負ける気がしないと酷く昂る時があるんだよ。そして、今夜ももちろん絶好調だ!」

 

「ねぇ助手君、君って本当い悪魔や魔族じゃないんだよね? ただの人間なんだよね? それと『()()盗賊団』だしお頭はあたしだからね?」

 

「賞金がかかった時はもう『仮面盗賊団』でいいしお頭も俺でいいって言ったじゃないですか」

 

「最近はほとぼりも冷めてきたし、賞金首も撤回されたしね、元々はあたしが作った盗賊団なんだから、あたしのトレードマークの銀髪を名前にしないと」

 

 言い争いをする二人に、ファンの第一人者としてめぐみんは挙手し、

 

「名前を付けるのには自信があります。何なら私が団名をつけましょうか?」

 

「「それはダメ」」

 

 期せずして声がハモって拒否。

 残念そうにするめぐみんへ、気を取り直すようクリスが話題を戻す。

 

「それで、ドネリー家の屋敷は前回忍び込んだんだけど、今回は厄介な用心棒がついていてね……」

 

「厄介な用心棒……王城の最奥まで突破したお二人が、警戒するほどなのですか?」

 

 そんな相手が存在するのか? と暗に言いながら問いかければ、クリスは厳かに首を縦に振る。

 

「できる限り、彼らとの顔合わせは回避したい。それで、高い魔力を持っためぐみんに、助っ人に入ってもらいたかったんだ」

 

 そう言ってクリスが、めぐみんに渡したのはスクロール。光りを屈折させる魔法が封じられた巻き物だ。魔道具は高い魔力適性のある魔法使い職が使うほど効力を発揮するもの。なるほど、これで透明になりクリスとカズマの『潜伏』を行使しながら進めば、用心棒との対決は避けられる。

 しかし、クリスから説明を受けても、めぐみんは腑に落ちない様子で、自嘲げに、

 

「それでしたら、私ではなくてもよかったのではないですか。高い魔力適性を持った紅魔族がこの街にはいます」

 

 浮かれていた夢見心地な気分が、一気に醒めたように落胆する。

 魔力操作が極まっていて魔道具店で働いているあの男は魔道具の扱いが巧いだろうし、自称ライバルはスクロールに頼らずとも透明になれる『ライト・オブ・リフレクション』を習得している。

 わざわざ爆裂魔法しか使えない欠陥魔法使いを選ばなくても……と項垂れかけためぐみんへ、クリスは淡々という。

 

「残念だけど、今回、頼れる紅魔族はめぐみんしかいないよ。だって――」

 

 街外れにある、森に囲まれたその屋敷の正門には当然のように見張りがついている。

 月明りしか頼れない暗がりでも、めぐみんはその見張り二人を確かに把握できた。何故なら、それは良く見知った相手なのだから。

 

(ゆんゆん、とんぬら――!!?)

 

「その厄介な用心棒が、キミ以外の紅魔族なんだから」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 一度目を擦ってから再確認したが、あの二人が正門前に立ち塞がっている光景に変化はなし。夢でも幻でもない。それどころか余計なものも捉えた。

 

「あれは、こめっこではないですか――!?!?」

 

 とんぬらに肩車されていつもよりも高い視点であたりをきょろきょろと窺っている妹の姿。一体何がどうなってこんな事態になっている?

 

「二人ともどうしてこんな真似を……!」

 

「あー、それはね……後輩君なりに、あのこめっこちゃんにあたしらを会わそうとしたかららしいんだ」

 

 クリスが躊躇いがちに、頬を掻きながら、

 

「ほら、団長命令で、『銀髪盗賊団』とコンタクトを取れるようにって」

 

 そういうことです、か。

 この消沈した姉に代わって、彼らは妹の希望を叶えようとしてくれたのだ。

 かつて王城の社交場にて、誘いをかけられたときの伝手を使って、自ら用心棒を売り込んでまで、ああして盗賊団が襲撃を仕掛けると思われる屋敷に陣取った。

 

「……さて、こめっこよ。『銀髪盗賊団』と会ってどうしたい?」

 

 この小さな虫のざわめきも聴こえるほど静かな夜、正門から会話する彼らの声が、こちらまで響く。

 

「捕まえたい!」

 

「あんたの姉さんは、捕まえられないと言い切った輩だぞ?」

 

「だから、私が代わりに捕まえる!」

 

 笑顔で即答するこめっこ。あのとんぬらが仮面の下の頬を軽くひくつかせるほどの強気っぷり。将来が不安になるくらいの無鉄砲な頼もしさだけれども、姉の色眼鏡など外してみてもやはり、妹は大物だ。

 そして、

 

「まったく。そんなに姉さんが好きなのか?」

 

「好き!」

 

 ……妹の魔性っぷりに一番やられているのは自分(めぐみん)かもしれない。

 農家の畑から盗みを働いたり、ゆんゆんから弁当を巻き上げてでも自分の分の食事をこめっこへ回したのは、シスコンだったんだろうきっと。

 だから――

 

「兄ちゃんも好きだよ!」

 

「そ、そうか」

 

 あの時、余計な手心を加えず、魔獣と一緒にプレイボーイを爆葬してやらなかったことを後悔しています……!

 

 

「めぐみん!? 何いきなり飛び出そうとしてんだ!?」

 

「っ、すみません、カズマ。ちょっと妹に悪影響を与える女誑しに爆裂魔法をぶっ放したくなりまして! 手を離してくれませんか?」

 

「やめろマジでやめろ!」

 

 カズマがめぐみんを羽交い絞めにする――が、こめっこの大胆な告白に火が点いちゃった暴走娘はひとりだけではなくて。

 

 

「……肩車。いいなあ、肩車。私もまだやってもらったことがない肩車」

 

「いや、ゆんゆん、流石に、今の体格(サイズ)でやるのは色々と危ういというか……」

 

 とんぬらが賢明に諭そうとするのだが、その努力を魔性の妹が破壊する。

 

「兄ちゃんの肩は私だけの特権!」

 

 がしっと仮面の頭を抱え込むようべったりと身を寄せるこめっこ。

 

「……こめっこちゃん、女の子がそんなはしたない真似をしちゃダメよ。男の人とは貞淑に適度な距離感を取るのが……」

 

「すりすり~♪」

 

 こめっこは、マーキングでもするように頬擦りまでし始めた。

 もう笑顔がピクピクと崩れかかっているが、流石にここで手を出すのは大人げないと自覚があるので、ゆんゆんは口頭での注意を心掛けていた。

 

「とんぬらから降りて、こめっこちゃん」

 

「いやだ」

 

「こめっこちゃん」

 

「いやだ。兄ちゃんから離れない。好きだから!」

 

「うぅぅぅぅ~! ――もうっ、とんぬら!」

 

「ちょ」

 

 とんぬらに飛びつくゆんゆん。腕を腰に回し全身で密着するようにべったりと抱き着く。頭も体もむにむにぎゅむぎゅむと人肌の弾性に富んだ感触にサンドイッチにされたとんぬらは、この状況下でも鋼の精神力で努めて冷静に、

 

「ゆんゆん、さん? ちょっと態勢がキツいから離れて」

「ダメ! 私の方がずっとずぅぅぅっと、とんぬらが大好きなんだから! こめっこちゃんより先に離れるわけにはいかないわ!」

 

 なんだその理論は! 一体何の勝負をしている! とツッコミが口に出掛かったとんぬらだったが、真っ赤に燃える乙女の眼力に圧されて口を噤む。

 で、それに乗っかる魔性の妹。

 

「じゃあ、私も先には離れない!」

 

 “なぶる”という言葉は、ニホンゴの漢字に変換されると『嫐』と書くそうだが、今こうして女難の渦中にある男はそれを体現していると言っても過言ではないかもしれない。

 しかし、そんな男の意思など関係なく、傍から見れば“リア充爆発しろ”な状況下に、観衆の反応は?

 

 

「カズマ、離してください! 今度こそ我が爆裂魔法でその屋敷ごと一掃してみせますから!」

 

「だからやめろって! とんぬらのことになると本当に容赦ないなめぐみん!」

 

「そうだね。この『銀髪盗賊団』がやってくるかもしれないのに、あんなふざけた真似をされちゃあ、カチンとくるよねー。――うん、やっちゃおうかめぐみん」

 

「お頭まで!?」

 

 盗みに行った屋敷で、その用心棒の命運をかけて仲間を制止するという訳の分からない状況にカズマも周囲を気にする余裕がなくなり――『潜伏』スキルに割いた集中が揺れる。

 いくらなんでも油断し過ぎであった。そう、双方ともに。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「――っ!」

 

 一瞬で、雰囲気が切り替わる。

 彼女たちを傷つけないように遠慮してされるがままであったとんぬらは、魔法の指先を持ち、稲妻の如き早業で手を振るう『宮廷道化師』。脱出不可能な状況などありはしない。『縄抜け』スキルの応用で、するっと束縛を緩ませるや、頭にくっついたこめっこの脇に手を差し入れて、肩車から降ろしてから、手をパートナーの肩に触れる。それだけで彼女もまた察する。言葉を交わす必要のない、密の濃い付き合いが成す熟練の意思疎通、そして、連携。

 

「とんぬら! ――『感覚器増加』!」

 

 仮面の奥の双眸を見開いたその反応を見てから『ドラゴンロード』が即座に繰り出すは、『竜言語魔法』の支援魔法。相方の感知網に微細に引っかかった感覚をさらに増強。その知覚を拡張させた気配探知は、隠れ潜むものを容赦なく暴く。

 

 『潜伏』や透明化も絶対ではない。

 感に敏いものであれば、気配遮断のスキルを用いても気づくし、姿を消しても存在までは消え失せてはいない。

 

 ドラゴンの体質で感性がより研がれる以前に、とんぬらの五感は鋭い。

 幼き頃に、少し先も見通せない暗中模索のダンジョン生活を経験している。視覚()以外に頼る術を身につけている。足音、それに気息の乱れを聴覚が捕捉し、位置間合いを測り取ることは造作もなく――そして、最短距離で狙い撃つ。

 

「そこかっ!」

 

 ゆんゆんの肩から手が離れ、それと連動して、地を擦る足が砂塵を上げて半歩踏み込む。そして、身を捻りながら振り返りざまに拳を突き出す。それだけ。それだけで、比喩表現などではなく、目に見えない流動が大気を突き破った。

 

「うおっ!?」

 

 飛ぶ拳、とも表現できそうな、真空波。風を切る魔力塊は不可視で無詠唱。咄嗟に『自動回避』スキルが働いたが、隠密行動中の此方を掠めていた。確実に、捉えられている。

 

「透明魔法で姿を隠しているのか。ならば、その光を屈折させるその干渉力を更に上書きしてしまえばいい――ゆんゆん!」

 

「行くわよ! 目を瞑って! ――『ジゴフラッシュ』!」

 

 夜闇を眩く照らす強烈な閃光が真紅の指揮棒から瞬く。

 それは姿を覆い隠す膜をひっぺ剥がすように、めぐみんが発動していたスクロールの透明化を強制的に解いてしまった。

 

 姿が露わとなったカズマ、クリス、めぐみんを目視して、仮面の口元は不敵な笑みを浮かべる。

 

「銀髪に、仮面に、覆面と手配書通りの情報だ。あんたらが、この屋敷にある神器の魔本を狙ってのこの事やってきた『銀髪盗賊団』ってことでいいんだな?」

 

 魔王軍幹部とも互角以上に渡り合う、正真正銘のエース。

 こめっこは戦力外だとして、人数的には3:2で有利であるが、その程度は容易く覆してみせるほどのオーラを立ち昇らせている。

 

「さあ、盗人ども、冥途の土産に教えてやる。我が名はとんぬら。王家公認の宮廷道化師にして、今はこの貴族の屋敷の用心棒を務めるもの!」

 

 速攻の真空波、こちらが魔法を行使するよりも先んじて撃ち抜く牽制は至極厄介。敵に回して改めて思い知らされる脅威に、めぐみんはゴクリと息を呑む。

 

 ここは、戦闘を避けるよう交渉に臨むべきか。

 だけど、そうなると姿を明かさなければならないし、この場にはこめっこもいる。

 

 判断を迷うこちらに対し、向こうは悠然と宣告する。

 

「神妙にお縄につけ。抵抗も逃亡も無駄だ、我が奇跡魔法で汝らの伝説に終止符を打つ!」

 

 刹那、空気の揺らぎが目に見えるほど濃密な純度の魔力の解放。

 全身から放たれる圧力に思わず息を呑む。こちらに交渉する余地など与えない、問答無用の裁きが今振りかかる――!

 

 

「――『パルプンテ』ッ!!」

 

 

 術者を中心とし、虹色の波動が漣を打つ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「………………………………」

 

 身構えたが、何も、起こらない。

 魔法を放った時のポーズのまま無言で固まるとんぬら。

 これに、ゆんゆんが声を上擦った調子に震わして、

 

「とん、ぬら!? こ…れって……まさか……!」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

 とんぬらが、ふっと自嘲げに笑みを浮かべる。

 で、これに、事前に言いつけられていたのか、戦闘が始まるや屋敷の方へと避難してこちらを窺っていたこめっこが、

 

「兄ちゃん、どうしたの?」

 

 この純粋な眼差しから避けるよう、その仮面は顔を逸らす。

 ……その反応に、めぐみんは今の彼らの状況がわかった。

 そう。とんぬらだけではなく、ゆんゆんもまたその場から動かない。ピクリとも微動だにしていない。

 

「ひょっとして、あなたたち、動けないんですか?」

 

 つい、突っ込んでしまった。

 これに、シンと静まり返る中、とんぬらは夜空の満月を仰いで、

 

「……どうやら、神様は、ここは見逃せと言っているのだろう」

 

「つまり、滑ったんですね?」

 

「何が起こるかわからない、猫のように気まぐれな魔法、それが『パルプンテ』の魅力だ」

 

「ええ、ですから滑ったんだと認めるんですねっ?」

 

 格好つけて言おうが、残念なのには変わりない。

 これは奇跡魔法で凶を引いた。かつて、そけっとやぶっころりーをも巻き添えに幻惑を見せたように、とんぬらとゆんゆんは麻痺してしまっている。

 あまり当人たちも実感し難いみたいだが、この盗賊団にはずば抜けた幸運持ちが二人もいるのだから、運に影響される奇跡魔法は相手が悪かったとも言える。

 

 まったく……! どうしてこの男は、こういう肩透かしをさせて……! これじゃあ警戒した私が相手を過大評価した間抜けではないですか! というか、あなた、奇跡魔法に使わない方が確実に私達を捕まえられたんじゃないんですか!? 本当に、この私が天才だと認めざるを得ないと思っているというのに、これだから素直に褒められないんですよ!

 

 ……と口を開けば、ありったけの文句が飛び出してしまいそうなので、固く噤んで喉元に堪える。

 そんなふるふる微動するめぐみんの肩を、クリスが叩いて先を促す。

 

「うん、それじゃあ、今のうちに行こうか」

 

「ええ……」

 

 厄介な用心棒とやらは自滅した。

 でも、まだひとり。妹がいる。

 覆面を被っているので正体はバレていないと思うが、それでも相手し難い。無難に事を済ませるのであれば、彼女を無視していくべきだが。

 

「めぐみん、行ってこいよ」

 

 だけど、クリスとカズマはこちらに任せるよう促す。彼らの気遣いに軽く頭を下げてから、自身の失態で招いてしまったこめっこの前にめぐみんは立つ。

 

「姉ちゃんたちが、凄い盗賊団なの?」

 

「ええ……そうですよ。初めまして、こめ…娘っ! こんな夜更けにどうしてこんなところに? あなたはもうベッドで眠っていなければならない時間でしょう……とお姉さん辺りが言い聞かせているのではないですか?」

 

 一応意識して声を変えてはいるものの、敏い者にはバレてしまうだろう。

 

「うん。でも、全然眠くないよ」

 

 だが、こめっこは興奮した様子で瞳を紅く輝かせて、

 

「盗賊団は、庶民の味方で、困ってる人の為にどんなところだって忍び込んで、人類の未来のために盗みを働いているんですか?」

 

「ええ、そうですよ」

 

 『銀髪盗賊団』について手紙に書いていた内容の通り。自分の功績ではないのだが、『ウソも方便』と言うカズマに教えてもらった言葉の後押しがあって、めぐみんは頷いた。

 

「かっこいい!」

 

 して、こめっこからこちらへヒーローを見る羨望な眼差しを向けられて、ちょっとだけ心地良さを感じる。でも、しっかりと言わねばならない。

 

「ですが、盗みと言う行為は褒められるものではありません。あなたが通報するというのなら止めませんが」

 

「しないよ」

 

 こちらが言い切る前に答えられた。

 

「だって、姉ちゃんは私のために色んなとこからご飯を採ってきてくれた。盗賊団ってそういうものなんでしょ?」

 

 にしし、と笑いながら。

 なんというか、一本取られた気分である。確かに、自身の過去の行いを振り返れば後ろ指を指されるものだったと思い知らされるも、そんな背中に守られていた(もの)がいたのだと思い出す。

 めぐみんは胸の中に渦巻いていたものが、あっさりと掃い飛ばされた気分に、苦笑を漏らしてしまう。

 

 

 ――ビュゴウ! とそのとき、吹雪のカーテンが姉妹の間を遮るよう、一瞬にして視界を奪い去った。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「……ッ!?」

 

 突然、吹き抜けた凍てつく狂風。覚えた魔力反応のままに顔を上げれば、すぐに見つけた。

 ドネリー邸の切妻屋根の頂に、絹より眩いカーテンを裂いて姿を現すのは、目にも鮮やかな青。

 すらりと立つその肢体、白と言うより蒼褪めた美しい肌を覆うのは、氷で作られたような透き通る女王のドレス。

 手にした大柄な杖に腰かけて乗ると、空に浮いてこちらを睥睨する。

 

「エースなどと呼ばれようとも、所詮は、駆け出しの街の冒険者。まったく、頼りにならないわね。盗賊団如きに私が出張らないとならないなんて」

 

 ガクン!! と膝が折れた。瞬く間に凍り付かされた両足に力が入らず、身体がストンと真下に落ちる。

 まるで女王を前に相応しくあるよう、跪く形を強要される。

 

「な……」

 

 驚きとも抗議ども言える感情に任せて声を発しようとしたが、それさえもうまくできず。

 カチカチカチカチ、と歯が鳴るばかりで、舌や唇、声帯(のど)もまともに動かない。

 

「未だ封印されたままだけれど、私を狙う卑しいコソ泥を、()()()()()のように雪だるまにするくらい、これで十分よ」

 

 ウフフッ。

 そんな艶めかしい雪女の含み笑いが吹雪く冷気に溶けゆく。

 そして、手中に集う蒼白の魔力が弾けた――!

 

 

「永遠に凍るが良い! ――『コール・オブ・ブリザード』!」

 

 

 直後に暴風雪と言う蒼白の壁が全てを埋め尽くしていく。

 

 それは、かつては街ひとつを氷漬けにした魔女の魔法。力が封印されていても、屋敷の土地とその周囲を氷結することは容易く。庭の土も、緑の木々も、何もかもが冷徹に凍りついていく。

 この空間は今や冷蔵庫に閉じ込められたも同じで、五分十分で人間樹氷と化すビジョンが真っ先に思い浮かんでしまう。

 そうなるはずだった。

 このままであったなら。

 

「氷結系なんて見飽きていますし、ただ凍らせるだけとは芸がない」

 

 すでに太ももまで凍りついた盗っ人のひとりが囀る。

 何事かと雪の女王は見下す。凍り付く前の負け犬の戯言だろうと。

 だが、目前で妹を雪だるまにされた天災児は、淡々と啖呵を切りながら、いつもの眼帯を取る調子で、覆面をかなぐり捨てて――

 

 

「ええ! 私から言わせれば、ロマンが足りません! ――『エクスプロージョン』ッ!」

 

 

 轟く轟音。解き放たれた爆炎。

 普段より威力が控えめであっても、それは最火力を誇る魔法。爆裂魔法は、ただ標的を屠るに足らず、地形はおろか気象さえ一掃してしまう。

 

「な……!!?」

 

 驚愕。

 雪の女王は目を大きく見開く。

 詠唱(ため)もない。

 補助(つえ)もない。

 けれど、この才能のすべてをこの一点に注ぎ込んでいる紅魔族随一の天才は、この制御が困難を極めるであろう爆裂魔法を詠唱破棄から峰打ちまでやってのけるほど、極まっていた。

 初級魔法も満足に扱えないが、この爆裂魔法の一芸のみならばすでに神をも超えている。

 

 この天候をも盗む(うばう)爆裂花火に、猛威を振るうはずだった暴風雪が、発生源の鉛色の分厚い雲ごと薙ぎ払われた。

 

 

 ――あんな娘が、私の魔法を……!?

 信じられないが、現実。かつて、自分を封印したあの女神が、街全体を凍えさせた暴風雪に対して行使したのと同じように、『コール・オブ・ブリザード』を吹っ飛ばした。

 封印されて本領を発揮できないのだとしても、人間に覆されたのはあまりに信じ難い。

 

 しかしだ。

 あの娘はこれで力尽きた。女神であっても、激しい消耗を強いるのが爆裂魔法。これで無力化。お荷物だ。それでこちらはまだ魔法を振るえる。魔力の蓄えは尽きていない――

 

「――『デルパ』」

 

 と、めぐみんへと注意がいってしまい、察知するのが遅れた。

 

 ズン!! と。魔女の身の丈を大きく超える巨大なまん丸が、出現。

 

 雪玉のようなボディに、金色のモヒカン。最初、頭部のない巨大雪だるまに見えた。

 だが違う。

 間違えるものか。この顔を。この魔力を。己を封じ込めている天敵の気配を。なぜ、どうして、ここまで懐に入れるまで気づけなかった!?

 

 ――かつて、温泉街ドリスを凍えさせた雪の女王を封じたのは、とある温泉好きの女神だった。

 

 まだ半身と別れる前の、邪神となる前の、完全体だったその女神が、雪の女王の力に対抗するために、生み出したのが、その聖獣。この眷属に、神族にのみ許された“神器の封印”の権能、それを模倣した『怠惰』の魔力を与えた。

 

「くっ! 『クリスタル」

「させないよ! 『スキル・バインド』!」

 

 天敵の聖獣を、雪の女王は上級魔法で氷漬けようとしたが、『盗賊』のスキル封じのスキルによって不発にされる。

 ハッと聖獣の背後にいた邪魔者を睨めば、その銀髪の義賊は、金色の筒を突き付けながら、一声。

 ――さあ、いってみよう!

 

 この金色の筒は、『結界破り』と同じく魔族にだけ製作法が伝わる――悪魔が経営するカジノの景品のひとつだった――『魔法の筒』。これは、筒の中に生物を自在に出し入れできる魔道具。

 事前に聖獣『ムンババ』と交渉し、金の筒に収納してもらい、対雪の女王に備えて、“保険”のひとつとして用意されていた。

 

「ああっ! やっ、やめなさい……っ! ああぁ――っ!」

 

「ムフォフォーン! フォオオオオオオオオーーーッッ!!」

 

 大口を開けて、大きく息を吸い込むムンババ。

 この強力な吸引力に、雪女の体から糸を引くようにその魔力が奪われていく。

 

 そして、この魔力抵抗が著しく弱ったチャンスにお目当てのモノをゲットせんと、満月の夜は絶好調な仮面の盗賊が手を突き出して、得意技を炸裂させた。

 

「『スティール』!」

 

「んなっ!?」

 

 驚きの声を上げる雪女を尻目に、カズマは高々と掲げた。戦利品を――この手に収まった白い下着を。

 

「あ、またパンツだ」

 

「もう何やってんのさ助手君! 君の『スティール』はどこまでセクハラに特化してるの!」

 

「でもお頭。俺としてはこれもお宝に入るんですって」

 

 何とも緊張感が抜けてしまう戦果に、雪の女王はスカートの裾を抑えながら好機とみてモンスター扱いされる聖獣には踏み込めないであろう屋敷の中へと逃げ出した。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「ごめんね。君がいるとパニックになるし、討伐されちゃうかもしれないから、またこの筒の中に入っててくれないかな?」

 

「ムフォムフォ……」

 

「うん、ありがと。――『イルイル』」

 

 暴風雪に爆裂花火、これだけ目立つ真似を正門前で起こしたのだから、屋敷の中にいた警備の傭兵もいくら何でも気づく。氷漬けにされて出入り口が塞がれていた屋敷の凍結も融かされたため、もうすぐにでも蜂の巣を突いたように飛び出してくるだろう。

 そんな切羽詰まった最中、クリスはムンババを『魔法の筒』へと収納し、カズマはこのパンツをどうしたものかと悩みながらも紳士的に畳んでポケットにしまう。

 そして、めぐみんは、雪ダルマにされた――が、その前に“金色の彫像”と変化させられて、無事だったこめっこへそれを渡された。

 

「姉ちゃん、これつけて!」

 

 つい昂って、かなぐり捨ててしまった覆面、その代わりにと妹が差し出したのは仮面。カズマが付けているのと同じ、バニルの仮面である。それも紅魔族(レッド)カラーでとても格好良いし、紅魔族に相応しいと言っても過言ではない。

 

「こめっこ、これを一体どこで?」

 

「兄ちゃんからもらった」

 

 あの男……魔性の妹に篭絡されないと思っていましたが、貢物をしていたとは油断なりませんね。事が終わった後で色々と問い詰めてやりましょう。

 で、だ。

 それよりも、正体がバレてしまったのだが……どうにも、妹はあんまり驚いていない。最初からこちらの正体に気付いていたような様子である。

 

「あー、こめっこ、そのですね……」

 

「姉ちゃんは、やっぱりすごいねっ!」

 

 まあいっか。

 とめぐみん、こめっこから満面の笑みを見て、野暮なことをは喉の奥へと引っ込めた。

 たとえ一日限りの盗賊団なのだとしても、妹の姉ちゃん(ヒーロー)であるのは変わらないのだから。

 

「…………じゃあ、こめっこのことは頼みましたよ」

 

 独り言のようにポツリと。

 空気を読んで、黒子のように姿を消している誰かさんらへと呟いて、めぐみんは幕引き(しめ)へと向かう。

 

 

 こめっこから受け取ったその大事な宝物を装着する。

 このバニルの仮面(レプリカ)には月夜限定で魔力上昇させる効果があって、そのせいか爆裂魔法を放った直後でふらついていた足取りが軽くなる。それともこれは、自信を取り戻せた精神的なもののせいか。

 どちらにしても絶好調になっためぐみんは、『潜伏』スキルを発動させているカズマの服をしっかりと掴みながら、時に警備兵を昏倒させつつクリスの『宝探知』を頼りに屋敷内を探索して――見つけた。

 

「あ、あなたたちは何者! この屋敷に侵入して……さては、盗っ人ですか!?」

 

 それは無数の本が収められた棚が並ぶ書架に、この屋敷の主であるドネリー家の当主カレンがいた。

 けれど、こちらに警戒の眼差しを向ける彼女の腕の中には、常に抱いていた神器の魔本がない。

 

「あれ? お頭、神器の魔本を持っていませんよ?」

 

「おかしいね。神器の反応からここにあるはずなんだけど」

 

 緊張感のないこちらに若干の苛立ちを滲ませながら、カレンが声を張り上げた。

 

「我がドネリー家の屋敷に侵入してただで済むとは思わない事ですね! もうすぐ警備のものがやってきますわよ!」

 

「ひとつ言いですか? この屋敷に魔女が来ませんでしたか?」

 

 先の逃亡した雪の女王の行方を気にしためぐみんの問いかけに、カレンがフッと鼻で嗤う。

 

「はて? 一体何のことですの?」

 

「顔色の悪いエルフのような女性なのですが」

 

「顔色の悪いは余計ですわよ!」

 

 おっと口を閉ざすカレン。

 

「ふん。どうして私が盗っ人の貴方達に情報を提供しなくちゃならないのかしら? 私はずっとこの屋敷にいましたが、美麗な魔女はここには来ていませんし、神器の魔本もございません。とっとと出ていかれた方が身のためでは?」

 

 めぐみんはより真剣味に再度追及する。

 

「隠し立てはしないでください。我が魔法で防いでみせましたが、この『アクセル』を氷結させてしまっていたかもしれません。もし匿っているのだとしたら、あなた方も危険ですよ」

 

「それがどうしたっていうの。大体あなたの爆裂魔法の方が危険ではなくて」

 

 妹を雪だるまにされ(かけ)ためぐみんは何としてでも雪女を捕まえたいのだが、協力する気は一切ないとカレン。

 事態は平行するか……と思ったその時、カズマはふとそれを耳にした。

 

 

 だま……れ!

 

 

「お頭、今、黙れとか言いました?」

 

「言ってないよそんなこと。急にどうしたの、助手君?」

 

 

 ……ねえ。……ちょ……まっ……。き……えますか? わたしが……ほん…も……ですのよ!

 

 

「ほら、また……」

 

「私には何も聞こえないけど、空耳なんじゃない?」

 

 にしてもなんか気味が悪い。確かに何か聴こえるのに……ああ、そうだ。

 カズマは思い出す。自分が、『盗聴』スキルを習得していたことを。

 このスキルに意識を集中して耳を澄ましてみると……

 

 

 お願い気づいて! 私が本物のカレン! そこにいるのは魔女が化けた偽者よ!

 

 

「――っ! お頭! こいつは偽者ですよ、本物に成り代わってるぽいです」

 

「そうなの助手君?」

 

「えっ!? なっ、何を言うのですかいきなり! まったく戯言ばかり吹聴する輩ですわね!」

 

 カレンが激昂しながらまくし立てる。

 これにめぐみんが仮面の奥の目を眇めて、

 

「そういえば、どうして私の爆裂魔法が危険などと言ったのですか?」

 

「え、そんなの」

 

「今の私は紅魔族的に決まっている洒落た仮面ですが、しかし屋敷に突入する前は覆面でした。まったく別な変装をしているというのに、爆裂魔法を特定できるのはおかしくはありませんか?」

 

 頭隠して体隠さずな仮面と覆面。頭部の違いはあれど、全体的な見た目は変わっておらず、だから直前直後で違いはほとんどないように見える。ただし、屋敷に篭っていたカレンには爆裂魔法云々を知る由はないはず。

 

 ハッとカズマもまた気づいた。あの前後で衣装に違いが出ているのは、めぐみんだけではない。そして、それは魔女を追い詰める一手になると。

 

「なあ、ぱんつを見せてくれないか?」

 

「は、はあああ!?」

「いきなり何を言っているのですかこの男は!」

「助手君、一回、君、捕まった方がいいんじゃないかな」

 

 セクハラ発言に女性陣に睨まれるが、カズマはポケットにしまったそれを取り出して、

 

「ほら、さっき俺が魔女からパンツを()ったじゃないですか。だから魔法で変装はちゃちゃっとできても、新しいパンツに着替えるまでの余裕はないはず。つまり今はノーパン。だから、ちょっとだけスカート捲りをさせてもらえばこいつがさっきやりあった魔女だってわかるんです。どうですか、俺の完璧な推理は?」

 

「完っ璧に最低です。パンツを盗んでおきながらパンツを穿いてるか確認するなんて、どんだけ鬼畜なんですか」

 

「この男、どうしてこんなに堂々と女性の下着を突き付けられるんですの!?」

 

 大ブーイングだ。だけど、これは動かぬ証拠なので手放すわけにはいかない。

 

「とにかく、ここでスカートを捲れないようならコイツの正体はノーパン魔女なんだよ」

 

「ノーパンだなんて言わないでくれます!?」

 

「まあ、助手君の推理はとにかく、彼女が魔女の化けた偽者だっていうなら、神器の魔本は隠し持っているはず」

 

 そう言って、クリス、それからカズマも便乗するように、揃って手を翳して、幸運補正で狙った獲物に必中なスキルを炸裂した。

 

「「『スティール』」」

 

 『窃盗』スキルの光が瞬いて――そして、二人はそれぞれ確かな手ごたえを得る。

 

「うん、これは神器の魔本、『魔女の禁書』――つまり、彼女は偽者ってことなのかな?」

 

「よし、これは、ブラ――つまり、パンツを盗めなかったコイツはノーパン魔女と言ってもいいんじゃないか」

 

「なんですの!!? 本当になんなんですのーっ!!?」

 

 クリスの手には神器の魔本が。

 カズマの手には女性のブラが。

 これに、カレン?はスカートだけでなく胸元まで押さえながら涙目で、めぐみんは頭を抱えながらも少し留飲を下げた。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 その後、クリスが盗んだ『魔女の禁書』より、カズマが『盗聴』で拾った本物のカレンの声をクリスとめぐみんも確認し、偽者の化けていた魔女は降参。“魔力もほぼすっからかんに奪われて抵抗することもできず、これ以上丸裸にされるくらいなら本の中に閉じこもっていた方がましだ”と。

 本の中に閉じ込められていた本物のドネリー・カレンを救出し、魔女の本体こと神器の魔本も大人しく回収されたのだが、最後の最後が盗賊団と言うより強姦魔みたいな脅迫をしたせいか、めぐみんは武勇伝を全年齢対象版に編集して、楽しみにしていたこめっこに語り聞かしたのであった。『ウソも方便』である。

 

 それから、救出された本物のカレンだが、屋敷の中にモンスターの卵を材料にしたモンスター召喚のご禁制の魔道具を保有し、これを使ってモンスターを裏で売買していたことが発覚。イグニス領主の許へと匿名希望で証拠が届けられて、その翌日に警察を率いた娘のダスティネス・フォード・ララティーナによって、その違法は暴かれた。温泉街ドリス一帯を治める領主の座は三日天下で再び空白となってしまったのである。

 

 そして、こめっこは勝手に納得していた。

 『姉ちゃんが本当にエースなら、『銀髪盗賊団』を捕まえられるはず!』だったのが、『姉ちゃんが『銀髪盗賊団』を捕まえられないのは、実は姉ちゃんもまた『銀髪盗賊団』の一員であるから』という具合に、妹の中で設定が固まったのである。

 

 

 翌日、色々と“話し合い”をしようと魔道具店を訪れて、コーヒーを口にしながら飄々と応対する店番のバイトに、一応、昨日の顛末を話してやってから、めぐみんはじっと睨んで、

 

「それで、昨日のことは一体どこまであなたの脚本通りだったんですか?」

 

「脚本とは何のことだ? 人生とは筋書きのないドラマだ。全てを見通すマネージャーではあるまいし、先のことを読むなどとてもじゃないが無理だぞめぐみん」

 

 なんて調子ではぐらかされるがしかし、これが“黒子にして黒幕”だったのはめぐみんも気づいている。相方であるゆんゆんにも証人喚問したいが、すぐ顔に出るパートナーを買い出しへと避難されており、こうして話を聞きに来ることもこの男はお見通しなのだろう。いけしゃあしゃあとよく言ってくれるものだ。

 

 あの時、キャベツ収穫に参加していなかったクリスが、聖獣を携帯している魔道具を持っていたのか?

 これを“偶々”だと言い張るには無理があろうに。

 

 用意周到にそんな『“偶々”出せる切り札』を、幾つも準備する。あるいは、その場の状況に応じてアドリブを利かせて無数の妙手を打ち出す。こんな芸当を実行するには、知能だけでは足らず、技術と経験が必要で――めぐみんが知る限り、そんなことがやれる下手人はひとりだ。

 

 全てを見通す悪魔にも予想できないこの神主一族の魔法は、あらゆる可能性を引き起こす。多くの不可能を可能にする奇跡を認めてしまうために、例外が存在しない魔法。それの使い手は予想外な例外を無くすようあらゆる可能性を想定しなければ務まらない。

 誰が見ても“決定打”を思わせる爆裂魔法の使い手たる自分とは、対極の境地を目標としていて……あちらが上手。どちらも道半ばであるが、向こうの方が先を進んでいるようだ。

 しかし……。

 

「色々と世話になりました。ありがとうございます」

 

 悔しいが、負けを認めるようで癪だが、今回ばかりは、頭を下げよう。

 フッと仮面の下の口元に笑みがこぼれて、

 

姉馬鹿(シスコン)で魔性の妹だとか過大評価してるみたいだが、こめっこは普通の妹だ。逞しく育ってくれてはいるが、長い間、姉離れしていたのは寂しかったんだろうよ。ああも姉を困らせるくらいにヤンチャだったのも、久方ぶりに会っためぐみんに構ってほしくてそうしてたようにも俺には見えたな。

 だから、こちらに預けていた時間分を挽回できるよう、早く妹さんの元へといってこい」

 

 言われなくてもそうします、とめぐみんはお節介な小言に鼻を鳴らした。

 

 

 ♢♢♢

 

 

 今回の一件、問題児な姉妹には大変ではあったが、いつぞや頭を下げた借りを返せたことだし、それに色々と思うところもあった。

 

「好きなものは好き、か……」

 

 

『こめっこ。俺は例え――子供っぽくっても、ぼっちを拗らせていても、変なこだわりを持っていようとも、なかなか猫耳を付けてくれなくても――長い年月を経ていずれそれが骨だけの骸となっても、何も気にしない』

 

『好み、とは性癖だ。相手がどうこう、とこだわるようではまだ愛ではない。そんなのはただの性欲に過ぎない――そんなものに囚われるのは、愚かしいことだ』

 

『こめっこもいずれいい男を見つけるんだ。何ができるとか、何かが優れてるとか、真に重要ではない。それに気づいた時、人生で一番幸せな時となる。俺はこめっこの未来が素晴らしいものであることを願っているよ』

 

 

 過去の己がこめっこに説いた文句は、翻って考え直されると、今の悩み事がちっぽけなものに思えてしまう。気にしてしまうのは、自身に相手からそう思ってもらえるだけの自信のなさの表れのようであると。

 こめっこの強引さに、とんぬらは完全に解消されたわけではないが、気が楽になった。

 

 ゆんゆんには気苦労を掛けてしまうことになるかもしれないが、自分もその分に見合う以上に彼女のどんな要望にも応えられるようにしよう――

 

「ただいまー、とんぬら」

 

「おかえり、ゆんゆん」

 

 めぐみんと入れ替わるよう、買い出しから帰ってきたゆんゆん。

 挨拶を交わしながら、とんぬらは少し考える。

 彼女は奥ゆかしいというか、遠慮がち(その分爆発した時が凄まじいが)。ストレートに訊ねても、自身の要望を素直に話してくれないのではないか。

 そう思ったとんぬらは、変化球を投じてみた。

 

「なあ、ゆんゆん、ちょっと質問なんだが、いいか?」

 

「質問?」

 

「ああ、でもこれはアンケートのようなものだ。そう難しく気構えないで思ったことを素直に応えてくれればいい」

 

「うん、よくわからないけど、思ったことを言えばいいのね」

 

 ゆんゆんの了承を得たところで、とんぬらは探りを入れてみる。

 

「『目の前に動物用の檻がある。その中に猫は何匹入っているか?』」

 

 これは、ご先祖様が書いた『悟りの書』に記載されていた“心理テスト”なるもの。

 この質問に答えるだけで、その者の深層心理が測れるのだという。

 そして、この問いかけで判明するのは――

 

「うーん、十匹以上かな」

 

 え……と、十?

 女子クラスが11人だったことを考えると、およそ一クラス分、か……。

 

 こめっこやシルフィーナや授業で受け持つ子供たちと接したことに触発されてか、将来望んだ未来予想図を具体的に描こうかと思って、この心理テストをしてみたが、どうやらその額縁の枠を超えてしまうくらい想定外であった。

 

「だって、一匹だけだと寂しいし、多ければ多い方がいいと思うの。とんぬらも猫がたくさんの方がうれしいでしょ?」

 

「ああ、そうだな。うん……俺、頑張るよ」

 

 とんぬらは遠い目をしながら、コーヒーをグイッと煽った。

 将来のためにも、“猫”が十人分は養えるだけの貯蓄が要りようみたいだ。

 

 

 参考ネタ解説。

 

 

 魔女の禁書:ドラクエⅪに登場する重要アイテム。魔女が封印されていた魔法の書物。封印されている魔女は、街ひとつを氷漬けにできてしまう魔法力があり、本の中に閉じ込めた女王に化けて、主人公一行を欺こうとした。しかしゲーム中ではその後、改心する。

 作中では、本の神器。聖鎧『アイギス』のように人格が表に出ている神器で、自由になろうとカレンと入れ替わった。

 ゲーム中の通称は『氷の魔女』なのだが、それだとウィズと被るので『雪の女王』やら『雪女』などと、ドラクエⅤの冬の妖精女王要素も入っています。

 

 ムンババ:ドラクエⅪに登場するボスモンスター。猛威を振るった古の魔女の力を封じていた聖獣であったが、その女王に化けていた魔女に“魔女の手下の魔獣”であると誘導された主人公に倒されてしまう。主人公たちがその正体を知るのは後日。しかし、終盤にて、邪神に汚染された魔獣として復活したのを聖獣に戻すイベントがあり、故郷の街を復興するための仲間(マスコット)になってくれる。

 作中では、女神(アクア)のように“神器を封印(制限)する”力を持った準神獣(聖獣)。完全状態だったころの温泉好きな女神が、対『魔女の禁書』の聖獣として生み出したもの。

 

 魔法の筒:ドラクエ漫画ダイの大冒険に登場するアイテム。生物(魔獣や人間)の出し入れを自在に行える魔道具で、元魔王軍の幹部であった主人公の育ての親のモンスターも所有していた。『デルパ』で出して、『イルイル』で戻す。またスライムたちを合体させ、キングスライムにするなどある程度の魔物をサポートする力もあると思われる。

 作中では、『結界殺し』と同様に、人間には製法が伝わっていない魔族側の魔道具。高位悪魔で魔獣蒐集家であったゼーレシルトのお気に入りのコレクションのひとつで、客を釣るカジノの目玉景品にしていたのだが、とんぬらが獲得してしまう。


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