この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

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連続投稿2話目。


?章
120話


 最果てのダンジョンにて、疲労回復と覚醒ポーションで誤魔化しながら徹夜でレベルアップ(ダウン)を敢行。

 最深部まで到達して役に立ちそうな財宝もゲットして、後々残りのお宝も回収できるよう最下層を『テレポート』の登録先にもしたが、もう一生ダンジョンに行くのは御免になるくらい怖かった。

 それで、獲得した大量のスキルポイントで、丸一日以上ダンジョンに潜っている間にめぐみんとダクネスが集めてきてくれた街にいる冒険者たちから『冒険者』の特性を生かして有用なスキルを教えてもらい修得した。

 

 それから、旅立ちの前夜に、いい感じなめぐみんと心残りがないよう……には我慢して堪えて未遂で終わる。

 

 そうして、サトウカズマは出立した。

 女神としての使命を思い出し、ひとり魔王を討伐しに向かったあの駄女神を連れ戻しに……。

 

 それで道中、逃亡した魔王軍幹部への検問を敷いていた王国騎士兵……こちらに随分と失礼な、斬り捨て御免な態度を取ってきたので、ダクネスの家の大貴族の権限を使って、露払いの護衛として同行させることに。

 騎士達が先行してモンスターを駆除して、徹夜で見張りをしてくれてるおかげで、前回の旅よりもだいぶ楽ちんで安全に進むことができ、アンデッドホイホイなトラブルメーカーのアクアがいないせいか、実に順調。と言うか、順調過ぎて、物足りなさを覚える始末。

 

 

 ――そんな贅沢なことを思ってしまったからフラグが立ってしまったのか。

 

 

「うおおおおおお! こっ、こいつはっ! 密集体勢! 密集体勢! 一番固いホバーグを中央に、全員密集体勢の陣形を取れ!」

『りょ、了解しましたっ!』

 

 道中のモンスター退治を一手に引き受けてくれた騎士たちが必死になって守りを固める。

 こちらを守るよう陣形を敷く彼らに、こちらも弓を手にして、我がパーティの『アークウィザード』へ指示を飛ばす。

 

「めめ、めぐみん、お前も魔法の詠唱を! 早く爆裂魔法を!」

「わわわわ、分かってますよ! 今から詠唱を始めますから、そんなに急かさないで下さい……っ! たたた、太古の真名みょっ!?」

 

 しかし、急かしてしまったからか、詠唱途中で舌を噛み、涙目で蹲ってしまうめぐみん。

 

 そして――

 ワシの頭に巨大な翼、鋭い鉤爪を持つ猛禽類の上半身。そして、獅子の下半身を持ったメガサイズの魔獣――グリフォンが襲い掛かってきた。

 

 上空からの急降下で肉薄するプレッシャーに馬車を引いていた御者は悲鳴を上げて、護衛の冒険者らへ助けを呼び、けれど駆け出しの街から来た護衛たちは、これほどの大物は想定外なのかグリフォンの巨体に気圧され固まってしまう。

 

 そして、脅威はグリフォンだけではない。

 全員がグリフォンに気取られたそのタイミングを計ったように、後方から二つの影が飛び込んできた。

 

 人の頭が付いた獅子の体に、サソリの尾とコウモリの羽が付いた魔獣。キメラみたいな気持ち悪い体を持つ凶悪な魔獣、マンティコア。それが雌雄一対で現れた。

 

 どうやらここは、グリフォンとマンティコアが縄張り争いをしている地帯で、凶悪な魔獣に挟み撃ちにされて、御者も騎士も冒険者も、皆等しくパニックになってしまう。

 だが、まだ慌てる事態ではない。そう、スキルポイントを荒稼ぎして新たに習得した中級魔法のスキルというとっておきがある――!

 

「これでも喰らえ! 『ファイアーボール』ッッッ!」

 

 素早く手をかざし、飛び来るマンティコアに向け、覚えたての火球の魔法を撃ち込む。

 それは見事にキメラ魔獣の真正面へ飛来し――

 

「……なんだこんなモン」

 

 撃ち込んだ火球は、マンティコアが軽く振るった尻尾の先でペシッと払われた。

 渾身の『ファイアーボール』は、マンティコアに火傷ひとつ負わせる事なくあっさりと弾かれてしまった。

 

 

「めぐみーん! 俺の魔法が弾かれたぞ、どうなってんだよ! どうなってんだよっ!」

 

「単純に、威力が足りないんですよ! 上位モンスターのマンティコアは高い魔法抵抗力を持っています! 総量が少なすぎるカズマの魔力では、敵いませんよ」

 

 使えない! せっかくスキルを取ったのに、ステータスが残念過ぎて使えない! あらゆるスキルを覚えて、俺TUEEEが出来るかと思ってたのに、ちっともダメじゃねぇか!

 

 がっかりさせるようなことを叫びながらめぐみんは、爆裂魔法の詠唱を再開。

 今度こそは邪魔しないように――としたいのだが、マンティコアは一直線にこちらに向かってきた。

 

「ウハッ! 男前な兄ちゃんじゃネーカ! おいお前、俺の太いのをチクッと一発ドウダイ!?」

 

「ヒイッ!」

 

 マンティコアが、色んな意味で物騒な事を言いながら、サソリみたいな巨大な尻尾を見せつけて、こちらに真っ直ぐ突っ込んで来る。

 アクアがいない今、マンティコアの一刺しによる猛毒は致命傷になりかねない。

 しかも二体もいるせいか、冒険者たちもこちらへの対応は間に合わない。これは慌ててめぐみんの腕を引いて避難――!

 

「ニイチャン、ええやんけ! ナア、ええヤンケ!」

 

「何がいいんだよ、魔王軍幹部のシルビアと言い、キメラっぽい連中はこんなんばっかか! ダクネス、ダクネース! ダクネスまだかよぉ!」

 

 鉄壁の『クルセイダー』へと救援を叫ぶ。

 騎士たちもグリフォンを相手に阿鼻叫喚でとてもこちらに回せる余裕もない。

 

「オラッ、コイツで一発ショウテンさせテッ!?」

 

 ついにのしかかられたとき、黒い塊がマンティコアを弾き飛ばした。

 命とそれから貞操の危機に颯爽と現れたのは、もちろん、ダクネス。

 ダンジョン最深部で入手した漆黒の鎧に着替えるのに手間取ったみたいだったが、ようやく駆け付けてきてくれた。

 

 ダクネスは大剣を構えると、タックルで弾き飛ばしたマンティコアへと対峙。高レベルの状態異常耐性スキルを持つダクネスならばマンティコアの猛毒も跳ね返せるだろう。ここはダクネスに壁役をしてもらいながら、めぐみんの爆裂魔法で仕留めるお馴染みの戦法で行きたいが、しかし、グリフォンにマンティコア二体とどれから倒すべきか。それともここはダクネスの『デコイ』スキルで誘導してから一網打尽に――

 

 

「ぶっ殺してやるっ!」

 

 

 そんな逡巡してる間に、物騒な台詞を叫びながら壁役(ダクネス)は飛び出してしまった。

 おい! そんな勝手に!

 いつものドM騎士はどこへやら、荒い息を吐きながら嬉々としてマンティコアへと自分から攻めていく。

 

「ハハハハハ! フハハハハハハ!」

 

「おいダクネス、笑いがどっかの悪魔みたくなってんぞ! どうしたんだ!」

 

 ……後に判明したが、ダクネスに与えた、強力な魔法の掛かった『クルセイダー』専用装備である漆黒の鎧には、戦闘時になると高揚感を湧き上がらせ(ハイにな)る加護(呪い)があり、勇猛果敢に常時『ガンガン行こうぜ』状態になるようだ。

 

 しかし、防御は鉄壁でも攻めはへっぽこなダクネス。

 大きく剣を振り被り襲い掛かるのだが、マンティコアはそれをヒョイヒョイと躱す。当たらないのだ。意味がない。

 

「うわあああっ、ホバーグ! ホバーグーっ!」

 

 さらに混沌した戦闘の最中、騎士団の方から劈く悲鳴が。

 そちらを見れば、グリフォンが騎士のひとりを前足で鷲掴み、そのまま空へと連れ去ろうとしていた。

 

「カズマ、準備が整いました!」

 

「爆裂魔法はマンティコアには勿体ないし向こうがピンチだ! グリフォンの方がはるかに強敵なんだ、こんな雑魚より向こうを狙え!」

 

「わ、わかりました! 確かにグリフォンの方が格上と言われてますからね!」

 

 しかし、めぐみんも捕まってる騎士のひとりを巻き込むかもしれないと躊躇して魔法の照準を中々捉えられず、時間がかかる。

 

「この数年間アイツと渡り合ってキタ俺が、グリフォン以下って言ってんノ」

 

 そこへ、飛び出してしまった壁役で空いた隙、それから爆裂魔法の強力な魔力波動を感じ取ったもう一体の魔法生物が、素早く身を翻して、こちらを狙って迫る。

 上位の魔獣の本気の疾駆は駆け出し冒険者たちに対抗できるはずもなく、囲んでいた冒険者たちは尻尾の猛毒にやられ体当たりを食らい撥ね飛ばされた。

 

「喰らえ! 『フラッシュ』ッ!」

「ギャンッ!?」

 

 閃光弾の如く、襲い掛かったマンティコアの眼前で強烈な光を放つ中級魔法。この強烈な目晦ましを食らい、マンティコアも怯む――

 

「ぎゃー! 目、目があああああっ!」

 

「な、何をやっているんですか! 閃光魔法を使うならそう言ってください! 私まで巻き添え喰らいましたよ! カズマって、馬鹿なのか賢いのかどっちなのですか?」

 

 それから、自分(カズマ)と目を凝らして集中していためぐみんまで。

 

 ちくしょう、覚えたてのスキルによる弊害が! 馬車での移動の間、魔力の温存なんて考えずにちょっと試しておけば良かった!

 折角、目潰しに成功したのに、こっちも視力回復するまではまともに動けない。めぐみんも爆裂魔法を中断してしまったみたいだし、ここからどう立て直す――!?

 

 

「――まったく、どの世界でも落ち着きのない戦況だ」

 

 

 そんな時だった。

 聞き覚えはないが、どこか親し気な声が割って入ったのは。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「登竜門を潜り抜け、昇華せよ! ――『火炎竜』!」

 

 紅蓮の昇り竜へと具現化した灼熱が噛みつくように、『ファイアボール』が効かなかったマンティコアを断末魔すらあげさせず一瞬で灰に焼き尽くした。

 閃光で目がやられて朧気だがそれでも肌に伝わる熱量で凄まじさが窺える。

 

 何者だ? 馬車で雇われた駆け出し冒険者ではなさそうだし、そして、駆け出しのレベルではない。

 

「『宵闇桜』――『ライトニングブレア』!」

 

 扇の一振りで一陣の桜吹雪を放って、それがグリフォンを捉えるや、グリフォンは見悶えたようにくねらせて、その隙を狙って、もう片方の手に取っていた竜像の杖より、レーザービームの如き雷光が迸る。これに脚を撃ち抜かれてグリフォンは、捉えていた騎士を解放。そして、解放されて落下した騎士は、先の桜吹雪の突風に柔らかく回収された。

 

 おおっ! 何と鮮やかな! と歓声が上がる。

 そして、視線を走らせるよう首を巡らし戦況をまた一度確認すると、マンティコアの猛毒にやられた冒険者たちを見て、

 

「ハッスルハッスル! 『セイクリッドハイネス・ハッスルダンス』!」

 

 いきなり何を踊ってるんだ? と突っ込みかかったが、すぐに気づく。この見るだけで元気が出そうな舞踏からは回復の波動が放たれていて、毒にやられた冒険者たちをたちまち治癒してしまう。

 

 回復魔法(ヒール)を習得したからわかるが、怪我を直す回復よりも状態異常を治癒する方が難しく、アクアのように毒をあっさりと治療してしまうのは相当ハイレベルなのである。

 

 そして、踊り一連の流れのようにクルリと回ってから桜吹雪を纏わせて扇をブーメランのように投げる。

 

「さあ、攻勢に転じる時だ! ――『風斬りの舞』!」

 

 回る鉄扇が廻り巡って、皆に振りかかるのは、筋力強化(パワード)魔力強化(マジック・ゲイン)、全体の攻撃力を上昇させる支援魔法。駆け出し冒険者や騎士たちの攻撃が、上位魔獣らにも通るように。

 

「おっとそれから、『ヴァーサタイル・エンターテイナー』!」

 

 最後、一周して戻ってきた鉄扇をキャッチするや、空振りを連発しているダクネスへと器用度を底上げしてくれる芸達者になれる支援魔法までかける。

 

 完全に視界が回復するまでの僅かの間に、たった一人で戦況を立て直してしまった乱入者は、扇と杖を仕舞うや、今度は腰の太刀を抜いて、攻撃が当たるようになったダクネスから逃げるよう空へ羽ばたくマンティコア目掛け――自らも飛んだ。

 

「じゃあ、そっちのグリフォンの方は頼んだぞ」

 

「お、おう」

 

 空を()ける、その()()()()仮面の青年は中空で加速するや逃げたマンティコアを一刀の下で斬り捨ててみせたのであった。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「……ウィズ()()、念のため、もう一度だけドッキリでないか確認しますが……俺のこと、本当に知らないんですか?」

 

「はい……。残念ですが、私とあなたとは初対面です。この店で働いているのはバニルさんと二人だけです」

 

「氷結系統の魔法が得意で、至高の冒険者パーティを率いていた『氷の魔女』時代はミニスカートのイケイケで、一線を退いてからぽわぽわと気が抜けたのか残念な商才を遺憾なく発揮して赤字経営、食うにも困る生活、特に厳しいときの主食はほぼ砂糖水でご馳走はパンの耳の――リッチーにしてなんちゃって魔王軍幹部なウィズさんであることには間違いないんですよね?」

 

「わわわっ! そんな詳しく知っているなんて……ま、まさかストーカーですか!?」

 

「違います。あと、恋愛感情とかそういうのは一切ありませんから。人間的には尊敬しているんですけど。ええ、こんな性質の悪いドッキリをしてくるような性格はなかったのもわかっています」

 

 そちらからすれば、突然、店の倉庫――カギのかかっていた密室――に現れたあやしい来訪者であるにもかかわらず、こうして話をしてくれる彼女の変わらぬ人間性には助けられる。

 だけど、情報交換をするほど、あまり直視したくない予感が段々と現実味を帯びてきた。

 

「だから、すべてを見通す我輩が保証してやっただろう? ()()()()に“とんぬら”なる面白ネームをした人間はいない。ここまで波乱万丈な人生を行く者が他におるまいて! フハハハハハッ!」

 

 そして、どこの世界でもこの仮面の悪魔が愉快犯なのは共通しているようだ。口にすると確定してしまいそうだから口に出すのは控えていたのに、高笑いしながらトドメを刺してくれた。

 

「ああ、自分も自分で自分の奇運がこれほどとは思わなかった。我が事ながら想像の斜め上をいっている」

 

 ――『平行世界』とやらに飛ばされてしまった。

 それもご親切にも仮面の悪魔が断言して保証してくれたが、“自分はおろか、奇跡魔法を振るう神主一族すら存在しない”という、“とんぬら”が消失された世界だ。人生がベリーハードモードからノーフューチャーモードに移行された。

 長い付き合いになるはずの、初対面のウィズ店長(さん)と、一切の真実や対象の過去を見通す悪魔バニルが、『平行世界』のファーストコンタクトであったから、事態は早く理解できた。非常に理解しがたい話だが、二人の話しぶりからそう理解せざるを得ない。

 

「……確か、大掃除をしようと倉庫を片付けていたら、奥に箱を見つけて……それでウィズ店長に確認を取ったら、『異世界に行くことができるという転移の魔道具』だと答えられて、『かずまはゆこのすばむいちだつたゆのだよむ』と合言葉を口頭で説明した途端、パカッと俺の手の中にあった箱が開いて……」

 

「私がそんなことを……ご、ごめんなさい!」

 

「いや、あなたではないのですが。まあ、どちらの世界でもウィズさんは問題のある魔道具を高値で仕入れては店の経営状況を追い込んでくれる店長のようですが」

 

 どうするべきか。

 元の世界に帰りたいが、しかし平行世界を渡る術など自分には全く未知の領域だ。

 

「せめて、あれと同じ魔道具があれば……」

 

 と、そこでピンときた。

 

「そうだ。この店にあったものだから、ここにもあるんじゃないか? ――ウィズさん、『異世界転移の箱』が置いてあったりしませんか?」

 

「それは、すみません。多分ないかと。ここのところ、バニルさんに仕入れを厳禁にされていましたから」

 

 一抹の期待が砕かれる。

 思わず落胆に項垂れてしまったこちらに、気の良いウィズさんは慌ててフォローするよう付け加えてくれた。

 

「……ただ、見たことがあると思います! その箱の魔道具」

 

「本当ですか! 一体どこに……!」

 

 バッと顔を上げて、その蜘蛛の糸へ飛びつく……も、彼女は躊躇いがちに表情を曇らせており、それでも先を促すよう目力を篭めると、言い難そうにしながらも答えてくれた。

 

 

「魔王城の宝物庫で、ですが」

 

 

 魔王城の宝物庫……。

 それは、王城の宝物庫にも盗み入った怪盗でも命懸けの難関を極める。それまで人類がたった一人(目の前のなんちゃって魔王軍幹部)しか到達しえなかった魔王城、その中でも厳重に警備されているであろう宝物庫に、帰りの手段がある。

 

(って、ウィズ店長、あの魔道具、まさか魔王城の宝物庫からパクってきたのか?)

 

 少し現実逃避気味に思考が逸れてしまったが、しかし何であれ、自分が取るべき手段は決まっている。

 帰らなければならない。自分の世界へ――!

 

「そういえば、異世界の小僧よ」

 

 盗っ人ではないことを証明するために境遇(かこ)を見通された仮面の悪魔が、にやにやと笑いながら、こちらの尻に火をつけるような情報をくれた。

 

 

「実は奇遇にも、この世界のボッチな娘は、数日前に魔王城へと出立してしまったぞ」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 最後、めぐみんが爆裂魔法でグリフォンを撃破して、戦闘は終結した。

 強敵な上位魔獣たちを倒して、騎士、御者、冒険者らは一同喝采を上げて喜び合う。そして、当然この逆転の立役者である、その仮面をつけた青年へと注目が集まる。

 

 一体誰だ?

 見た目はこちらと同年代に見える。仮面で隠しているが顔立ちは整っていて、まあ、イケメンだ。それで先の戦闘では、強力な攻撃魔法から回復、支援、それから白兵戦と八面六臂(オールマイティー)に活躍していた相当な実力者。全体的に隙が無い印象を受ける。

 もしかして、特典(チート)持ちの日本人か? という考えも過ったが、黒髪黒目でも日本人とは趣の異なる感じがある。

 

「いやー、探しましたよ」

 

 とりあえず、助けてもらった礼でも言おうかと思ったら、向こうから声をかけてきた。

 仮面の青年は、自分(カズマ)、めぐみん、ダクネスと見てから、何かを呑み込むように一度しばらく目を瞑り、一枚の手紙を懐から出す。

 

「サトウカズマ殿で良いですね。実は、ウィズさんよりあなた方が魔王城へと向かうという話を聞きまして、是非、パーティの一員に加えさせてもらって同行させてもらえないかと」

 

 『ああこれ、ウィズさんから預かった紹介状です』と渡された手紙にはウィズの筆跡で、“彼は私の知り合いで、きっとカズマさんたちの力になってくれるでしょう”という旨の内容が書かれていた。

 おおっ。魔王軍関係者で、『アクセル』を守るために残ったウィズ(それからバニル)だったが、こちらに助っ人を送ってくれたのか。

 

「本当か! いや、助かるけど、魔王城だぞ?」

 

「遠慮は無用だ。俺もその魔王城に個人的な用があるからな」

 

 当人にも過酷な旅路について確認を問えば首肯で応じられる。これは頼りがいがありそうだ。

 仲間たちの方を見れば、ダクネスは自分と同じように心強い助っ人の登場に笑みを浮かべ、めぐみんの方はと言えば、仮面をつけてるその顔を注視するよう何やら目を細めてはいるものの文句はないようだ。

 

「よし、じゃあよろしく頼む……えと」

 

「俺は……トール。トールと呼んでくれ、サトウカズマ殿」

 

 

 参考ネタ解説。

 

 

 超ハッスルダンス:ドラクエⅩに登場する曲芸スキル。ハッスルダンスの強化版。

 作中では、神聖魔法も行使できるようになって、治癒効果も入った宴会芸。『超』ではなく神聖魔法の最上級の『セイクリッドハイネス』がつく。

 

 風斬りの舞い:ドラクエⅩに登場する扇スキル。周囲にいる味方の攻撃力と魔法力を上昇させる。

 作中では、神聖魔法も行使できるようになったとんぬらの『マジック・ゲイン』、『パワード』の合わせ技な宴会芸。

 

 異世界へ転移する箱:このすばの漫画に登場したウィズの魔道具を参考。原作では、主人公一行が日本に転移したが、作中ではプロトタイプ(WEB版準拠)の平行世界へと飛ばされてしまった(ついでに半日限りの時間制限もなし)。ドラクエ風にいえば、冒険の書の世界。

 時期設定は、アクアが魔王城へ行ってしまった五部。ただし話の流れはWEB版と変わっていないが、人物設定(年齢や容姿など)は原作に寄っています。そして、”とんぬら”と言う紅魔族がいない。

 

 トール:人名とんぬらの由来である雷神トールから。それから裏設定で、先祖の勇者の名前は、サトウ・トオル。とんぬらの名前は、このご先祖様にあやかってつけられている。


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