この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

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140話

 策に自信はあるが作戦を成功させるためには事前情報の収集が大事だ。

 結界の要石となる『双子塔』の設置場所や、そして何より覗き魔道具の在処を事前に把握しておかなければならない。

 それで、偵察の出来る使い魔は多くいるが、どれも魔力が高く紅魔の里を探らせるには不向き。紅魔族が魔力に秀でているのは事実であって、その魔力感知能力も高い。シルビアからの戦況報告からも自警団を組織しており、里内に不審な魔獣を見れば警戒するだろう。下手をすれば逆探知をされかねない。

 よって、猫の使い魔を送り出した。

 

《どれどれ、覗き魔共の内情がどんなものか見せてもらおうか》

 

 前回侵攻した魔王軍シルビアらの報告はあるが、やはり自分の目で見ないと気が済まない。使い魔(ねこ)と五感を共有させるスキルでもって、探りを入れる。魔力のない小動物ならば警戒はされないだろう。それも用心に用心を重ね、気取られぬよういきなり送り込むのではなく接近できるギリギリの監視網外から森を抜けさせるのは苦労させてしまったが、おかげで怪しまれずに侵入を果たした。

 

 ――む。あそこでコソコソとしてる人間がいるな……。

 

 早速、紅魔族を発見。

 飲食店と思しき場所で数人が寄り集まって、何やらコソコソと話している。その顔は誰もが神妙としていて、日常会話をしているようには見えない。これはこの里の、もしかすると対魔王軍に関わる極秘な作戦でも企てているのかと足音を立てずに、猫が店に入ると見つかる可能性があるのでその玄関のギリギリまで接近を試みれば……

 

 

 

「『雷鳴轟く者』から証言が取れました。……(ふたり)はもうすでに……(結婚)しているそうです」

「やはりそうだったか。さっきも……(商店街)をパトロールしていた時に……(買い物をして)いるのを見かけたが、あれは大変………(仲睦まじ)かった。あんなのを見ては、………(子供がいない)のかと疑問に思ってしまうくらいだ」

「それでは、極秘裏に進めているアレはやはり実行に移すべきですね。『雷鳴轟く者』は既にこちらに引き込めましたが、障害となるのは」

「うむ、『仮面キャスター竜魔』にはやはり直前になって完全に逃げ場のない状況にしてから明かすとしよう。……(男子)の矜持として、自分の力だけで成し遂げたいと考えているからね」

「次期……(族長)となる者の一世一代の大勝負。この機会を逃しては、我々紅魔族の矜持が廃るというもの」

 

 

 

 むむむ……!?

 ここからではよく話が聴こえないが、何らかの作戦を講じている。それも『“魔王軍”はもうすでに“近場に拠点を敷いて”いる』のを把握されており、あまつさえ『“森”をパトロールしていた時に“陣取って”いるのを見かけたが、あれは大変“怪し”かった。あんなのを見ては、“隠れている”のかと疑問に思ってしまうくらいだ』などとこちらの練度の拙さを指摘するまで。

 そして、だ。会話の内容からこちらの情報を奴らに流していると思しき、『雷鳴轟く者』……まさか魔王軍に裏切り者でもいるというのか!

 『雷鳴轟く者』といい、『仮面キャスター竜魔』といい何かの暗喩で示しており、その正体を読み解くことまではできない。だが、紅魔族は『“魔王の娘”の矜持として、自分の力だけで成し遂げたいと考えているからね』とこちらの思考を分析しており、『次期“魔王”となる者の一世一代の大勝負。この機会を逃しては、我々紅魔族の矜持が廃るというもの』と魔王軍と敵対してきた紅魔族は、妾を逃げ場のない状況に追い込んでから確実に討ち取るつもりでいる!

 そういえば、以前に『アクセル』へ侵攻を仕掛けたベルディアからの報告では『毎日毎日、爆裂魔法を城にぶち込む嫌がらせをして、幹部を誘き出そうと企てた紅魔族の娘がいた』との報告があったが、妾も誘い込まれたというのか……! あの覗き魔道具は次期魔王を釣るための餌だったとでもいうのか……! なんて奴らだ紅魔族……! 魔法に秀でているだけでなく知略にも富んでいるとも話に聴いていたが、油断ならない!!

 

 これは、まずい。そして、幸いだった。

 このまま侵攻を仕掛けては、紅魔族の思う壺で策略に嵌められていたかもしれなかったが、潜入捜査を実行したことでその謀も知ることができた。ここで城へ引き返す真似などそれこそ次期魔王としての矜持が許さないが、おかげでより警戒して臨むことができる。調査を終えたらまずは位置がバレている拠点を別のところへ移して、それと内通している間者――『雷鳴轟く者』を探し出し軍から締めあげよう。

 

 

「お、ちょうどいい猫がいた」

 

 

 その場を離れ、考え事しながら外へ出ようとしたその時だった。

 背後から伸ばされた手に、首根っこを摘ままれる。

 

 ――くっ、思索に耽るあまり周囲の警戒を怠ってしまった!

 

 (こちら)を捕まえたのは、男性の紅魔族。

 

「最近、そけっとの警戒も厳しくなったし、ちょっと近づいただけですぐに見つかっちゃうから。だから探してたんだよねー、俺に代わって監視をしてくれる使い魔にするちょうどいい猫」

 

 ――貴様……! 他者が使役する飼い猫に手を出すとは泥棒!

 

 ふみゃあ! と叫ぶが、体は猫。鳴き声を翻訳してくれる便利なアイテムなど持ってるわけがなく、男は何ら意に介さない。それに会話をする相手でも探していたのか、向こうは一人勝手に話を始める。

 

「この球って地面に叩きつけて割って噴き出た煙を相手に吸わせれば、使用者に惚れるという、夢のようなアイテムなんだよ。通販で買ったのが早速届いたんだけどさ、使うチャンスってのが中々訪れなくって。だから君にはそけっとの隙を窺ってほしいんだ」

 

 随分とふざけた魔道具だ。昔に、その時はまだ幹部として在籍していたバニルが、城内に『気になる異性を落とす『サキュバス』直伝の魅了魔法(チャーム)』という(まじな)いを流行らせて、しばらく魔王軍内の交遊関係をギクシャクとしてくれたひと騒動を起こしてくれたことがあったが、それと同じ類な気がする。

 

「でも、自分でスト――見守っていないとなんか落ち着かないし……うんっ、今日は久々に『バニルミルド』の展望台に行って、魔王の娘の部屋でも覗いて、この無聊を慰めに行こうかな!」

 

 ――このっ! 触るな不埒者め!

 

「こ、こらっ!? いきなり暴れるなって! すごい暴れん坊だな。オス? …………いや、メスだ」

 

 ――~~~~~~~っ! コイツ殺す! 絶対殺すッ!!

 

「うわっ!? だから、爪でひっかかないでってば! びっくりして魔道具を落としちゃったじゃないか。もう、これは『パラライズ』で一端麻痺させて」

 

 断りなく、股間部をまじまじと見られては、たとえ一時借りてる使い魔の身体でも不愉快極まりない。なのだが、猫の手は短く、この変態を成敗するには無理があった。我武者羅に振るっても顎に少しかすった程度。それも紅魔族の男が、捕えている手の腕を伸ばして離してしまえば空を切るしかない。

 相手はこれでも紅魔族の大人であって、一撃熊さえ臨時報酬として狩り出す『アークウィザード』。猫一匹大人しくさせることくらい朝飯前で、このまま無抵抗に……とはならなかった。

 

 

「俺の目の前で乱暴に猫を手籠めにするとは、いい度胸だな、ぶっころりー」

 

 

 ――っ!!?

 

 表現し難い捉えどころのない感覚。火を近づかれば臆するのと同じ、生物本能的な危険予知が働いたというべきか、使い魔(ねこ)の身体が震えた。原始的な“恐怖”に、使い魔越しに圧迫された。体の髄から冷えるような静かな怒気を感じる。そして、それを直に浴びせられた紅魔族の男性は、ビクゥ! と肩を跳ね上げて、恐る恐るその出所を窺った。

 振り向いて見えたのは、吸い込まれそうなほど相手を引き付ける、力強い瞳だった。

 

「と、とんぬら君……?」

 

「前々から矯正した方が良いニートだとは思っていたが、猫相手に無理やりに迫るとはここまで根性が腐っていたか。で、話をしている間に猫を離した方が良い。問答無用のつもりはないがその代わりに説得が無理なら実力行使を辞さない。俺は口が止まれば手が出る性質だから、優しくは対応できなくなるぞ?」

 

 その仮面をつけた青年は、今此方を捕まえている変態より若いように思える。だが、変態を怯えさせていた。その冷え切った鋭い眼光だけで。

 

「以前、兄ちゃんにやった『サキュバス』から学び取った夢操作でもかけようか。そうだな、内容はそけっと師匠に告白したらそれが突然に『オーク』に成り代わるという演出はどうだ? さすれば、少しはそのストーカー癖も治るだろ」

 

「ひいぃぃ!? ご、ごめんなさい! すぐに解放するからそれは許して! ――『テレポート』!」

 

 変態は降参を示すよう両手を広げて上げ、慌てて『テレポート』で逃げていった。

 

「やれやれ。親御さんからも相談されたが、本気で一度は叩き直してやるべきかあのニートは……っとそれより」

 

 変態がいなくなり、解放されたが、いきなり手を離されてしまい、着地に失敗。これが本来の猫であるのなら反射的に動けたが、共有している今はそれが上手くはいかなかった。

 

「驚かせてしまったようですまない。どれ、足を捻ってしまっているな。『ヒール』」

 

 この猫相手に目線を合わせるようにしゃがんでから青年は申し訳なさそうに謝罪し、それからこちらの容態にすぐに勘づき、回復魔法を施す。

 紅魔族は全員が『アークウィザード』。であるが、今この青年が行使したのはプリースト職の神聖魔法だ。一体何者だ? と勘繰るが、それはあちらも同様であった。

 

「しかし……里中の猫は全て掌握しているのだが、見慣れない猫だ。あまりこの周囲の森を抜けてきたとは考えにくいが、外からやってきたのだろうか?」

 

 その純粋な眼差しは見透かしているようで、背骨をぎゅっと掴まれた気分だ。そして、相手はそんな心理を見取ったかのように、すぐに好奇心と半々の疑念を瞼の裏に伏せた。

 

「まあ、紅魔の里へ迷い込んだ冒険者を助け、そのお礼に猫神様像を寄贈されたのが猫耳神社の成り立ち。たとえ招かれざる客でもタダで追い返すなんて真似はしない。里の人間が無礼を働いたのなら尚更だ。良ければ歓待を受けてはくれまいか」

 

 一度目を瞑ってから、そっと手を差し出す青年。

 濃霧の垂れ幕を透かして見るような、まだ形が明確とならない不安へ、お節介な親切を差し込んで紛らわす。それは優しいのだろうけれど、同時に老獪とも取れる。空気を読むのに長けた人間なのだろう。おそらく、思考の回転速度がずば抜けている。

 

 とはいえ、窮地を脱したのはこの者のおかげであるのは認めても、人間にあまり世話になるわけにはいかない。背を向けようとした、その時、猫の脚がそれを蹴る。

 

「ん? なんだこれは?」

 

 それはさっきの変態がもっていた球の魔道具。ちょうど足元へ転がってきたのを青年はひょいと摘まんで拾う。

 

「丸い小さい玉……ぶよぶよとした弾力があるが、何らかの魔力を感じる。これは魔道具――む!」

 

 変態の手から落ちた弾みですでにタガが緩んでいたか。青年が指で感触を確かめただけであっさり割れて中身が噴出。その煙を思い切り吸い込んでしまった。

 

 ――んっ……え? な、な……?

 

 自分は優秀だ。もうすでに父上である魔王からその力のほとんどを受け継いでいるほどに。しかし、今回はその優秀さが裏目に出る。使い魔と我が事のように五感を共有してしまえるほどに深く繋がれる才媛であったばっかりに、それが鮮明に伝わってしまう。

 

「っ! 大丈夫か!」

 

 にゃあん! とつい漏れた戸惑い鳴き声に反応し、青年が煙の中から掬い上げようと体に触れた。途端にビクンと震える身体。煙中から脱しても止まらず、青年の腕の中で小刻みに震え続ける。

 

 きっとこれは、あの煙……魔道具の催淫効果のせい。五感共有している使い魔(ねこ)越しからでも甘い感覚が思考を支配してしまう。特に青年に抱かれてからより一層、本体(こちら)まで火照ってしまうほどのフィードバック。

 だ、ダメなのに……そんなの、魔族の王女としてしちゃダメなのに! この、人間の男に甘えたくなってしまう!

 頭の奥の冷静な部分ではダメだと命令を発しているのに、使い魔(ねこ)の体は求めるがままに頭を青年の身体にすりすりとこすりつける。匂付け。

 

「? ツンとしていたのにいきなりこうも豹変するとは一体……さっきの煙は毒ではないと思うんだが、もしかしてマタタビだったか?」

 

 青年はこちらの状態を把握しようと推理しているが、そんな事はどうでもいい。初めて覚えた、この苦しく悶えるのをどうにかしてほしい。そちらから構ってほしい!

 にゃあにゃあん♪ と普段であれば考えられない、とろけそうな鳴き声でもって懇願の意を発し、ぺろぺろと青年の指を舐めてねだる。もはや発情した猫も同然の振る舞いに対し、青年は少し驚いたふうにしながらも落ち着いて、

 

「よくわからんが、まあ、猫に応じられれば神主としては応えるしかないわけだが。数多の猫相手を陥落してきた無敗の指戯に耐えられるかな?」

 

 触れる。

 

 撫でる。

 

 くすぐる。

 

 これらの行為の意味を身を以て理解し、敏感になってる体に甘い刺激が襲う。先程以上の感覚で。時に緩急をつけて、自ら求めさせるように青年の指は巧みなまでにこれでもかとツボをついてくる。

 だからもう誤魔化せない。猫と共有して今得ている感覚は快楽なのだと思い知る。

 その甘美な感覚は、こちらから思考という概念を奪って、そして、突然その瞬間は訪れた。

 

《―――――――》

 

 これまでの生涯で最も甘い声を漏らしながら、全身を激しく震わせた。

 仲介(あいだ)に使い魔を挟んでいて尚、激しい快楽のスパークが視界を真っ白に染めた。

 それは全身の毛穴から快感が噴出し、躰が浮いてしまうような感覚で。全身が勝手に硬直し、一瞬呼吸の仕方を忘れてしまったほど。

 

《……っ、あっ…はぁ……あぁ……》

 

 やがて本体から甘く熱の篭った吐息を漏らした。白い霧が晴れ、ぼんやりと視界が戻ってくる

 ……ウソ、この妾が……。

 魔王(ちちおや)に箱入りにされているせいで未だに生娘であるが、その手の知識は当然ある。だから、自分が人間の青年、それも右手ひとつだけで、どういう状態にされたのかを理解して。その瞬間――猫と本体が同時にブルッと身を震わせた。

 これ以上はダメだ。

 

 ――っ、すまぬ!

 

 五感が繋がっていた使い魔(ねこ)とのパスを断ち切った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 しかし――

 

「やっ……な、何故……?」

 

 困惑の声が上がる。てっきりこれで終わり、魔道具の催淫効果とは、それに侵された使い魔ごと縁切ったものだと思ったのに、躰に甘い感覚は消えずに残っている。それどころか、疼きはどんどん強いものになっていく。

 

「ダメなのにダメなのにぃ! あ奴がああも巧く弄んでくれるから! くぅぅ~~~っ!」

 

「――姫! どうされましたか! いきなり悲鳴を」

「来るなぁ! 妾の傍に誰も近づけるなあああああっ!!」

 

 次期魔王と名高い魔王の娘のご乱心で、魔王軍の拠点は滅茶苦茶に荒れた。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「とんぬら、お待たせ!」

 

「欲しい本は見つかったのかゆんゆん?」

 

「うん! でもあるえから自分で書いた本を三冊も押し売りされそうになって……って、その猫どうしたの?」

 

「ちょっと里のニート筆頭に絡まれていてな。それで急に懐かれて……多分、この球の中に詰まっていたマタタビのせいだと思うんだが」

 

 クンクンとゆんゆんは鼻を鳴らし、きょとんと首を傾げる。

 

「? 確かに少し変な匂いがしてるけど……」

 

「仕方がない。しばらく落ち着くまで社で預かっておこうと思う。野良ではないと思うが里の者の使い魔ではないようだし、主人が探しに来るかもしれないからな」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「モケモケモケッ」

 

 特徴のある鳴き声を発するのは、物置小屋ほどの巨大ザリガニ。この甲殻類モンスターの名は、『モケモケ』。鳴き声から安直にその名が付けられたモンスター。その肉は煮込むととても柔らかくなり、臭みもなく美味しく頂ける。調理次第では高級食材の霜降り赤ガニにも劣らぬとも評される。

 だが、この紅魔の里の近辺に生息している『モケモケ』は、名前こそ可愛いが、そのハサミでもって数多のモンスターを屠ってきた強力なモンスター。

 

「この一刀は二度“破壊”の風を起こす」

 

 口元から泡を吹きながら、猛然と迫る『モケモケ』を前に、とんぬらは腰と落とす。

 左手を腰の刀の鞘に添えて位置を確認し、浅い呼吸を数度こなして、深く腹の底の丹田に練り込むように吸い込んだ。そして、息を細く長く吐き出しながら、あと少しを残して呼吸を止める。

 

「―――」

 

 突き出してきた巨大なハサミを、姿勢低くし潜り抜けて躱しざまに太刀を抜き放ったが、対象は斬れていない。

 

「『紅蓮十文字斬り』が変形二文字斬り、猫耳神社仕立て」

 

 ――と思いきや、腰の鞘に太刀を納刀した際の、チン、とかすかに音を立てたその弾みをきっかけとし、二文字に斬りこまれた巨体が三分割にバラバラになった。

 

 後ろで見ていたゆんゆんは、鋭い剣の振りに感嘆する。

 先端で文字を描くかのように繊細な剣筋でありながら、『モケモケ』の硬質な甲殻を割断する剛の太刀。

 もう本来後衛職の魔法使いであることを忘れてしまいそうになるくらいに、ゆんゆんは彼が前衛で剣を振るうのを見てきたけれど、ここのところはますます上達している。今では構えだけで凄みがある。

 でこれにとんぬらは、やや落ち込んだような嘆息を落とし、

 

「まだまだ、だな。あの時の感覚を手離さないように、二日に一度は鍛錬しているが、紅蓮に彩る剣法には届かない」

 

 単なる技の構えはとにかく、心構えと言った部分でうまくいかない。

 それも仕方がないこと。何故なら己は剣士ではなく、元々修めていたのは剣術と言うより短刀(ナイフ)の延長みたいな棒振りである。この物真似から卒業(だっ)しなければ、我が物に昇華しないとものにしたとはとても言えない。

 

「とんぬらって、魔法使いだけど魔法使いらしくないわよね。爆裂魔法しか習得しないめぐみんも特殊だけど、魔法使いでは覚えられない剣技に執心するなんて」

 

「手札は一枚でも多い方がいいし、別に覚えられないと決まったわけじゃない。単に冒険者カードの習得項目の中にないだけだ。ゆんゆんも、『料理』スキルなんて覚えてなくても美味しい料理が普通にこなせるだろう? 人間、冒険者カードのシステムに頼らずとも“技”というのは習得できる。職業に適性がないとカードに判断されただけで断念するのは、その人間の可能性を狭めてしまうものだと俺は思う」

 

 芸能の宴会芸スキルや奇跡魔法と言う上級魔法以上にスキル構成のウエイトを占めてしまうものを伝統し続けるために、神主一族は様々な方策を考案し、時にスキルポイントに頼らない“技”の習得法を試してきたのだ。

 

「あの男が研鑽してきた“技”を無念のまま終わらすのは惜しいし空しい。一端とは言え模倣した身として無駄にはしたくないとつい意地が働く。それと俺の琴線に響く格好良さもあったしな。まあ、その分苦労するけど、できない話ではないさ。だから、やる。紅魔族の誰もが“不可能”と言う文句を、己を鼓舞するためでもある名乗り上げにいれないだろ?」

 

「うん……そうよね、とんぬら」

 

 紅魔族らしくはない自分は紅魔族の長には向いてないのではないのか? と心の奥底で思い悩む彼女にそれは励みになってくれれば幸いだととんぬら。

 とんぬらは、ゆんゆんを支持すると決めている。それは彼女がパートナーだからと言うだけの話ではないのだ。自分は向いてないのではないかと迷いつつも、きちんと前に進めるよう努力を重ねてきたことを知る、そして、それをゆんゆんの輝きと見たのは自分だけではないだろうと信じている。

 

 ――紅魔族の第三の族長試練。

 知力魅力ときて、最後に試すのは、実力だ。

 第一第二の試練は遊び要素のあるどこか緩いものだったが、この第三の族長試練は違う。改造人間である紅魔族に最も必要なのはどんな戦地でも生き残れる生存能力。危険なモンスターが生息する紅魔の森で、一晩を無事に生き延びるのが最後に課された試練の内容。

 

 

 ――紅魔族の長になる。

 それが、子供のころから夢もやりたいことも特になかった私の、たった一つの目標だった。

 魔力や知力を測った日、『流石は族長の娘だ』と、『やがて長を継ぐ者だ』と褒められた。

 友達もいなかった私はそれがとても嬉しくて。

 そして、族長を目指すのが当たり前のことだと思ってた。

 

「なあ、ゆんゆんは、どうして族長になりたいんだ?」

 

「え?」

 

 危険なモンスターが蔓延る紅魔の森。モンスター達の奇襲を用心して、あたりを警戒しながらとんぬらはそんな質問を投げかけた。

 

「ゆんゆんなりの族長像があるのは知ってる。族長になったらやりたいことも聞いた」

 

 知能があるモンスターを捕まえて、それを飼い慣らして友達になること。

 そんな他人からは笑われるような夢を、とんぬらは苦笑しながらも付き合うと言ってくれた。

 ただそれは、特別族長にならなくたってできることだ。

 

 紅魔族の長となるのが、小さなころからの目標。そこに一石を投じて漣を起こすよう、とんぬらの在り方は縛られず自由であれるという言葉が凄く胸に響いている。

 

 その昔、紅魔族一の天才と呼ばれ、将来を期待されていた凄い親友(ライバル)

 周りの期待なんて気にせず、自分の夢を追い求め、その結果落ちこぼれ呼ばわりされたバカな親友。

 それでも毎日楽しそうで、仲間や友人に好きな人までできた、凄くてバカで大事な親友――

 

 この今でも皆の期待に応え、願いを叶え、ロマンを欠かさず己のすべきことを成し遂げてきた、想い焦がれる相方(パートナー)

 多くの不可能を可能とする、もはや超人的な英雄になってる相方。

 そんな誰からも期待を背負わされても格好つけてきた、時々格好悪く滑ることがあっても諦めない、本当にカッコよくて大好きな相方――

 

 もしめぐみんととんぬらが本気で族長を目指していれば、今頃どうなっていたんだろう。

 

 もし私以外の誰かが族長を目指していたら、そして、族長の座を譲ってくれと言われていたら……私はそれでも族長となろうとしただろうか。

 

「私は、ただ」

 

 私よりもずっと凄いと思えるライバルやパートナーに出会ってからでも、私は頑固にも『族長になる者』を名乗り続けてきた。だからそれはきっと、そういうことなのだ。私だってずっとずっと頑張れたのはそれがつまらない目標じゃないから。

 

「私は、ただ、強くありたいの」

 

「強く、か」

 

 強調した単語を拾うとんぬらに、私は笑った。力強くあったかは怪しいけどそれも承知の上で、それでも満面に笑顔を被せた。だって、私が思う最も格好良い時の彼らの横顔は不敵なまでの笑みであったのだから。

 

「とんぬらも、めぐみんも、私よりずっと凄いなって思ってた。それが誇らしかった。けど、いつの間にか、私は憧れるだけでは物足りなくなったの」

 

 ライバルとして、パートナーとしての座にあることを認められていた。

 その心地良さに浸って過ごす日々の、どれだけ甘かったことだろう。それは何物にも代え難い、得難い幸せだった。

 それで十分ではないかと、何を贅沢なことを言っているのかと、他人には言われるかもしれない。けれど私の心には、いつしか小さな疑問があった。

 傍にいる現状だけで満足している私は本当に相応しいのかと。彼らのように確固として主張できる自分の夢がなくて、我が道を行く二人と肩を並べられているのかと、そう思うようになった。

 その想いは日々を重ねていくごとに少しずつだけどより強くなり、確かなものとして胸を占めるようになった。

 

「隣に立てるだけの強さが欲しくて、それだけの強さを持っているのだと思いたくて、だから族長になるのは私の意地で、そして、大切な目標になったの」

 

 そう、ライバルとして、パートナーとして相応しくありたかったのだ。ほとんど競争相手のいない、打ち勝つのは己である試練で、族長になることを断念してしまうような、弱い女であるなんて認められない。そんなの我慢ならない。いつまでも冴えないままではいたくない、私だって二人と対等であれるように(つよ)くありたいのだ。

 例え族長に向いていなくても、それでも私は、とんぬらとめぐみんの隣に並びたかった。

 

「ゆんゆんはもう十分に凄いと思っているんだが、自分のことにはとんと疎い娘であるからなぁ」

 

 とんぬらに嘆息される。

 

「私は、めぐみんに勝ちたいし、とんぬらにもっと頼ってもらいたいの」

 

「俺はいつもゆんゆんを頼りにしている。ただ、なんだその、ゆんゆんは際限なしに応えてくれそうだから、自重しているだけで」

 

「本当に?」

 

「初級中級上級魔法に転移魔法、それから『竜言語魔法』までこなせる『アークウィザード』を頼りにならないという評価は間違ってもあり得ない」

 

 じっととんぬらを見る。

 やや呆れながら、自信の足りない私を励ます。とんぬらは、いつも格好良い。そうあるように意識している。実際、ひとりで何でもこなして人知れずに悩みを解決してしまえるだけの能力がある。そう、ほとんどいつも一緒にいる私でも格好悪いところなんかそう見れないのだ(『パルプンテ』で失敗す(ズッコケ)るのを除き)。

 だけど……それでもいつも一緒にいたから、わかる。

 問答で自分の気持ちを再確認したゆんゆんは、ひとつの決意を定めるように頷く。

 

「ねぇ、とんぬら、何か悩み事、隠してるでしょ?」

 

 この機会に、思い切って訊ねる。

 仮面の奥で少し驚いたように目を大きく開ける。

 

「あー……うん、黙ってることがある。でもな、これは頼りにしてないとかじゃなくて、今は族長試練中だし、ゆんゆんが余計なことを気負わないようにだな」

 

「遠慮しないで。試練は三回までは落ちても大丈夫だし、私には、族長になることよりもとんぬらの方がずっと大事だから」

 

 必殺の台詞で、とんぬらの口先を縫い留める。

 それから、『誤魔化さないで!』と睨むように瞳に目力を籠め(実際は若干潤ませ)見つめ続けるとやがて、困った風に頬を指でかくとんぬら。

 このにらめっこの末に、格好つけたがり屋なパートナーは、そのどうすればいい逃れるかという余計な思考を放棄した。

 常に客観的に己を意識するように努めているけれども、彼女の前では仮面を外したい。

 

「……そうだな、ある程度もう決めたことだけど、ゆんゆんに話しておこうか」

 

 軽い言い回し。この軽さが、とんぬらのささやかなプライド。

 彼女に重い荷物を持たせるなど、男子の沽券にかかわるというものだ。

 のだが、ゆんゆんは『うん、どうぞ!』とちょっと気合いが入り過ぎるくらいの静聴の姿勢をとる。

 

「実はな。……この前『アクセル』にやってきたあの堕天使からの情報だが、俺の父、ぽかぱまずが、紅魔族を裏切って魔王軍の幹部になったそうだ」

 

「え?」

 

 とんぬらから投げ込まれたのは、ゆんゆんの想定外を行く魔球じみた内容だった。

 その戸惑いをうまく呑み込めるのを待たず、とんぬらは自らの結論をさらりと述べる。

 

「敵の情報をそのまま鵜呑みにしてはいないさ。ただ何かしらの理由はあると思うが、それでも何かあれば……いや、何かする前に、身内である俺がけじめをつけたいと思ってる」

 

 その口調は穏やかに言い切った。

 そこには不安も不満も片鱗すら表に出さず、自分のやるべきことを確認するように。

 

「しかし何にしてもそれが事実であったら、俺は里を裏切った人間の子供になる。だから、ぶっちゃけていうと、恥じている。ちゃんと顔向けできているのか怪しいのは俺の方だよ。――それでも、恥を百も承知で一つ訪ねるが」

 

 自ら行うべきことを自ら定めてきた彼が唯一つ、自分だけで決めていいものかと判断を保留にしてきた、問いかけを飾らずに口にした。

 

 

「俺はゆんゆんのこと、愛してもいいか?」

 

 

 ほんの数秒見つめ合って、視線を切ってしまう。

 

「さて、そろそろお喋りはここまでにしよう。ここから先は大人たちでも滅多にいかない森の奥地になるからな」

 

 卑怯なくらいにこちらに何も言わせてくれない引き際で、こちらが返答する前に会話を勝手に打ち切ってくれた。

 

「とんぬら!」

 

「余計な前振りを入れてしまったが、心配するな。俺はゆんゆんを長にするのを全力でフォローする。それは確定事項だからな」

 

 強気な発言は、とんぬらが答えを今求めていないという意志表示だろう。ここで何を言っても聞いてもらえない。

 だから、全部が終わってからきちんと言ってやろうと、ゆんゆんは杖を握り直した。

 

「……とんぬら、試練が終わったら、話があるから」

 

 覚悟しておいてね、と私の気持ちを映し出したように真っ赤な瞳で宣戦布告した。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「――姫! 森に紅魔族と思しき人間が、こちらに近づいてきます!」

 

「なんだと」

 

 こんな暗い夜に、人里から離れた森の奥地へずんずん向かっていくなんて真似をする理由は普通考えられない。となるとやはり拠点の位置は紅魔族に把握されているようだ。これは早急にこちらの陣容を密告している『雷鳴轟く者』を見つけ出さなければならないが、それよりもこちらに接近する紅魔族を対処しなければ。

 

「数は?」

 

「二名です」

 

「我々の陣を攻めるには少なすぎる。偵察か。ならばそいつらを黙らせればいい……いや、待て、本当に二人だけか?」

 

「はっ、他に敵影は確認できていません」

 

「……だが、紅魔族は上級魔法の使い手。姿を隠す魔法を心得ていよう。周囲に隊を控えさせ、その二人は我々を陣から誘き出すための(エサ)の可能性がある」

 

「いかがなさいますか姫?」

 

 もうすでに拠点を別のところへ移す準備を絶対の信用の置いている側近と使い魔たちのみで極秘裏に進めてある。しかしウソ発見器を用いて軍内の魔族を尋問しているが『雷鳴轟く者』の摘発はできていない。裏切り者を抱えたまま行動するのは危険だが、手間のかかる準備が終えていないのに、開戦するのはマズい。

 紅魔の里を本格的に侵攻するのは、紅魔族の厄介とする上級魔法と転移魔法を封じ込めてからだ。

 

「ここで追い詰めても『テレポート』を使われれば逃げられる。それで情報を持って帰られれば厄介だ。今すぐ陣を引き上げるぞ。痕跡を残すな」

 

「よろしいのですか」

 

「ふっ、無論、妾がただで引き返すわけがなかろう。引っ越しまでの時間稼ぎがてら、この現地でスカウトした魔獣を森へ小手調べがてらに解き放ってやるさ。紅魔族相手に生き残ってくるようならいきなら我が影に入ることを許そうではないか」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 まずとんぬらは、人前で弱音を吐かない。

 怒ったりとか泣いたりとか、全て終わってからでないと許せない。

 そういう意固地なくらいに格好つけにこだわる人だってことは重々にわかってる。

 私は、そんなとんぬらが格好悪いと思い込んでいる部分を晒すのを許せるくらいに頼られたいのだ。そして、終わるまで仮面を外せないとんぬらに代わって、怒ったり泣いたりしたい。

 買った本にも書いてあった。『この人と幸せになりたいと思うのが恋愛であり、そして、この人となら不幸になっても良いと思える相手とするのが結婚』だと。

 私達はもう結婚を決めている。お互いに苦難も何も分かち合おうと誓った。だから、私に対してそんなことを気にするなんてしなくたっていいのに、とんぬらはまだ私に気を遣う。

 あんな、そう、もっと雰囲気が整った状況でねだってもパルプンテって誤魔化す癖に、こんな場面であっさりと普段は言えない五文字の呪文(あいしてる)をしてくれて……嬉しいんだけど! ……そんなの訊かないでも、私からの返答なんて言うまでもないとわかってほしい。

 

 だから、私は決めた。そう、私は燃え上がった。

 誰であろうと文句のつけようがないくらいに、族長試練を制覇してやろうと。

 そして――

 

(ふぅ……なんだろ、試練に集中しなくちゃいけないのに体がうずうずして、とんぬらと二人きりでいることばかり考えて……)

 

 ごくりと喉を鳴る。戦闘前で精神が高揚しているのだろうか? いつになく自分が興奮状態にあるのがわかる。身体の内側が燃え上がるように熱い。そして、視点はいつの間にやら、辺りを警戒して周囲に巡らさず、いつも前に出て私のことを守ってくれる頼もしい背中に固定されている。

 

「……なあ、ゆんゆん」

 

「なあに、とんぬらぁ?」

 

「その、だな……緊張してるのか? いやなんか凄いこっちを見られてるのを感じるんだが。それも背中に穴が開くくらいの熱視線というか」

 

「大丈夫よとんぬら、私、落ち着いてるから。ちょっといつもより気合いが入ってるかもしれないけどそれだけ」

 

「そうか。それなら俺の考え過ぎか。……(既視感というか、前に着ぐるみ悪魔にしてやられたときのことを思い出したが気のせいか)」

 

 とんぬらの背中がビクッと僅かに強張るのが見て取れた。もうっ、相方(わたし)の事ばかり気にかけていて、自分が緊張していることに気付いてないみたいだ。

 周りに気を張りながらとんぬらはこちらをちらと振り返り、それからすぐ、体もこちら側に回る。

 

「……いや、本当に大丈夫か。頬や首筋が赤く染まってるし、心なしか瞳も潤んでて息苦しそうだぞ」

 

「え、そうなの?」

 

「気づいてなかったとは……風邪でも引いたんじゃ……なあ、ゆんゆん今日は、中止にしてここで里へ引き返さないか?」

 

 心配するとんぬら。さっき“余計なこと”を明かしてしまったことが原因なのかと思い詰めてる。それは違う。断じて!

 だから、ゆんゆんは大声で、

 

「大丈夫! 大丈夫だからとんぬら! 私、やれる! 全然問題ない!」

 

 強引に言い張る。空元気に空振ってしまってる感じはするけど、それでも充足してることをとんぬらにアピールする。

 

「むしろ体の奥から溢れ出しそうなくらいに熱いものがね!」

「わかったわかった。だから、落ち着こうかゆんゆん。……これはひょっとして、魔力を溜め込み過ぎてるのか? 紅魔族によくある症状だが……それなら、ここで発散させた方がいいが……」

 

 自然な魔力放出が苦手な紅魔族は、時に魔力を身体に蓄積させ過ぎて体調不良に陥ることがある。

 この最近、族長試練の事や、それから試練後で催すアレの事に時間を取られていた。でも、自然に魔力を発散するのを補助してくれる紅魔族製マントを羽織っていたし、この最後の試練に向けて勘が鈍らないよう一日と欠かさずとんぬらと森でモンスターを狩っていた。

 とにかく、そういう場合は魔法を使って体内に保有する魔力を消費するのが一番手っ取り早いのである。

 

「とりあえず、ゆんゆん。――一歩後ろに引いてくれ」

 

 言われて、気づいた。

 必死に問題ないアピールしに詰め寄り過ぎて、とんぬらの胸に体を押し当てる形になっていた。腕を拳闘技(ボクシング)のガードのようにしてとんぬらの胸に当たっているけれど、その隙間からゆんゆんの身体の一部が当たっていて、とんぬらも何だか熱暴走とは別の理由で顔が赤くなっているのが見て取れた。

 

「あー、そうだな、あまりくっつきすぎるのは良くないが、俺から離れるなゆんゆん」

 

 なんだろう……こう、意識してもらえるを見ちゃうと、ますます私の躰の疼きが増し、体温が高まる。そんな茹っていく心身を、とんぬらはこちらの肩に手を置いて距離を離す。それから努めて冷静に注意を促す。

 これにゆんゆんはこくんと頷いて、一度深呼吸をしてから、

 

「……とんぬら、約束、忘れてないよね?」

 

「ああ、わかってる。試練を終えたら……ゆんゆんの答えを聞かせてもらう」

 

「それもなんだけど、前にした……」

 

「ん?」

 

「ううん、何でもない」

 

 この族長試練が終わったら……

 

 

『それはだな……ゆんゆんが族長になれたらの機会にしておかないか。それくらいのきっかけがあれば、俺も踏ん切りつくだろうから……』

 

『……族長になったら、いいのね?』

 

『あ、ああ、その……跡継ぎを作ることも族長の務めであるし』

 

『わかったわ、とんぬら』

 

『くっ……! どうして、男の俺が迫られているんだ』

 

 

 あの時の“約束”を果たしてもらう。

 

 

 ♢♢♢

 

 

《――リア充――爆殺――コウマゾク――守護――マスターの命――》

 

 

 参考ネタ解説。

 

 

 煙を吸った相手を惚れさせる魔道具:外伝あの愚か者にも脚光を! に登場する魔道具。ウィズが見つけてきた魔道具の中では珍しく本物。形状は丸い小さな球。

 作中では赤の他人相手では無意味であるという設定でしたが、今作では見知った相手であるほど効果が高まるものだと修正しています。

 過剰な量を一気に吸うと相手を暴走させてしまう代物で、たとえ相手が同性であっても関係なく熱烈に惚れさせてしまう。そして少量であれば……

 

 モケモケ:戦闘員、派遣します! に登場するモンスター。モケモケと鳴くから『モケモケ』と名付けられた。巨大なザリガニで食べると美味しい。ただし、同サイズくらいの巨大蛇『スポポッチ』と互角以上にやり合えるくらい戦闘力が高い。でも、意思疎通はできる、かもしれない。




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