この素晴らしい願い事に奇跡を!   作:赤福餅

70 / 150
連続投稿その1です。


70話

 グリフォンとマンティコア。

 本来、魔王城から最も離れている『アクセル』の地方には生息しないはずの大物が住み着いたのは、二年前の事。

 どこからともなく山岳地帯に現れたマンティコアに、重傷を負い怪我を癒すために山岳地帯に流れ着いたグリフォン。ギルドは最初、この二体が縄張り争いで共倒れになってくれることを期待していたが、その激しい争いは近隣に被害を及ぼし、この二年間、決着がつくことがなく長引いている。

 一匹だけでも厄介なモンスターが二種族。

 報酬は五十万エリスだが、これは万が一にも駆け出し冒険者が受けないようギルド職員があえて報酬を下げて棚上げにしているからで、難易度は最低百万エリス設定の白狼の群れや一撃熊よりも上だ。辺りに生息するのが強力なモンスターばかりの紅魔の里でも、グリフォンは中々の大物になっている。

 

 とはいえ、それも里帰りの道中で討伐したモンスターだ。

 

「ほぼ前と同じ手順で攻略完了。見せ場なんてあるわけがない」

 

 ワシの頭と獅子の胴体を持った大物魔獣が、その巨大な翼を断ち切られて、トドメの強力な雷撃に焼け焦げて墜落する。

 山岳地帯に君臨する一角である巨大生物をあっさり仕留めたのは、この危険な塩漬けクエストを、いい加減に終止符を打たんと派遣された『アクセル』のエースである少年少女だ。

 

「オイ、チョットなにしてくれんダァ。グリふぉんは嫌いだがヨ。アイツがいなくなっちまうと、この山にお前らニンゲンが攻めてキチマウじゃねーカ」

 

 グリフォンを失墜させた二人の前に、飛び込んできた二つの影。

 それは人の頭がついた獅子の身体に、サソリの尾と蝙蝠の羽がついた凶悪な魔獣。創生魔法で生み出される魔法生物マンティコアだ。

 それが二体、おそらく雌雄の番だろう

 グリフォンの方が格上であるが、数年間、グリフォンと縄張り争いをしてきたマンティコアは侮れるモンスターではない。

 

「それでも、倒せないものではなさそうだな」

 

 太刀を腰の鞘に納めたまま新たな扇を構えて、前に出る。つい先日、“危険視していた悪魔”が地獄へ還ったので全て見通す悪魔(マネージャー)から黒色のマーキングを剝がされ、白黒から白の仮面に戻った少年とんぬら。その目に恐れの色は浮かんでいない。荒ぶることもなく、至極冷静にモンスターを討伐できるものと見定めている。

 

「いいドキョウだなニイチャン。オットコマエだな。だが、グリふぉんを始末してくれたが、オレタチはそうはいかないゼ!」

「俺の太いのでそのケツに一刺しクレてやんヨ!

 

 後ろで狙う少女ゆんゆんが、指揮棒のような杖を向けた、と同時、マンティコアは咄嗟にその翼を顔の前に広げ、アイマスクのように被せる。

 知能のある狡猾なモンスターは、グリフォンを仕留める際に目晦ましした戦法を観ていたのだろう。グリフォンを当て馬にして観察していた。

 

「ウハッ! ニンゲンのやり方なんかワカッチまえば、簡単にフセ」

「知恵があろうが単細胞だな。予想通りに動いてくれる――ゆんゆん!」

 

 クエストの事前情報で、マンティコアがこの山岳地帯を陣取っているのは知っている。ならば、眩い閃光魔法なんて目立つ真似をすれば当然観られる。

 そう、端から観察されることを前提に、グリフォンとマンティコアを討伐するようにこちらは動いているのだ。

 視界を自ら塞ぎ、無防備になった魔物へ、杖より放たれた四色の光がモンスターに命中する。

 

 

「『ニャルプンテ』――!」

 

 

 『ニャルプンテ』、それはとんぬらが“一つのセーフティとして”開発し、ゆんゆんに教授した安全版奇跡魔法。

 猫耳神社に祀っている怠惰な女神様の恩恵を取り入れて、“相手を堕落させる”ことを重点に置いた状態異常弱体特化。大当たりを除いたが、誰でも扱え、外れの損害を被ることがないよう編み出した次代神主のオリジナル魔法である。

 

「ッ!?」

 

 雄の個体は眠り、より強い雌の個体は身体が重くなり、動きが鈍くなる

 

「実験一、成功。しかもマンティコアを眠らせるとは……ここ最近、『スリープ』の修練度をメキメキと上げているだけある。『ニャルプンテ』は、俺がするよりも効果があるんじゃないか、ゆんゆん」

 

「ねぇ、とんぬら、このオリジナル魔法、確かに強力だけど、もっとネーミングはどうにかならなかったの? 最初、ニャって唱えるの恥ずかしいんだけど……」

 

「その部分は魔法構成上必要不可欠だ」

 

 こ、この……! 余裕こきやがって……!

 雌のマンティコアが、重い身体を起こしながら、モンスターの前で会話をする二人を睨む。

 

「独自の魔法を創作するだけの能力があるのに、未だに上級魔法も中級魔法も取らないんだからとんぬらは」

 

「いいだろう別に。その分開発に専念できるし、奇跡魔法の可能性も広げられる。これもゆんゆんがパートナーだからこそだ」

 

「も、もうっ! とんぬらは、しょうがないんだから!」

 

 能天気にイチャイチャしていると良い。隙を見せている内に止めを刺してやるマヌケ!

 

 這い寄るマンティコアが。一息にそのサソリみたいな巨大な尻尾で刺そうとした――そのとき、押さえつけられた。

 

「ガウッ」

 

 音もなくまったく気取られずにマンティコアにのしかかり、翼に爪を立てながら尾に噛みつくのは、マンティコアよりも大きな豹モンスター初心者殺しの変異種。

 今日は、プチ悪魔の経験値稼ぎではなく、飼い魔物の散歩の日であった。

 

「油断大敵だ。モンスターは追い詰めたときこそ注意を払わなければならず、逆に狩る時にこそ隙ができる。よくやった、ゲレゲレ」

 

「俺の尻尾がッ!? ギャアアアア!?」

 

「気づかないのも仕方がない。ゲレゲレの忍び足は、盗賊職の『潜伏』よりも気配を溶け込ませている。とはいえ、こうも誘いに引っかかるとは少々小賢しいほど誘導しやすいな」

 

 武器である尻尾に鋭い牙が食い込み、いくらもがいても外れない。……こうなれば!

 

 マンコティアは思い切り身体を転がせ、自ら尻尾を食い千切らせた。

 トカゲの尻尾のように再生するわけでもないのに、だが、この危機的状況を脱することができた。拘束を外されたゲレゲレはいったんとんぬらたちの側へと下がる。

 

「ほう、ゲレゲレの押さえつけから逃れるとは」

 

「ヨクモ、俺を、去勢してくれたナッ!?」

 

「『ニャルプンテ』の弱体効果時間はそう長くない、か。……ゆんゆん、実験二をやってみよう。今の俺が、どこまで御せるか試したい」

 

「とんぬら、……うん、わかったわ――『本能回帰』!」

 

 これまで、竜化変身前の人間時には使うのを控えた『竜言語魔法』

 燃え盛る戦闘意欲、竜本来の獣性を引き出し、諸能力の制限(リミッター)を外す。正常な判断力こそ失うも、引き換えに上昇する戦闘力は凄まじいの一言。それだけに制御するのが難しい。

 

「な、ナァッ!?!?」

 

 髪が逆立ち、仮面の奥から真紅の眼光が十字状に迸る。人が放つ獣のような凄まじい殺気。

 小賢しい人間と見ていた大物魔獣は、その自らをも上回る怪物性に怯み、そして、圧倒される。

 

「――覚悟しろ。こうなれば、一度、血を見ない限りは止まらん!」

 

 

 ♢♢♢

 

 

「やあ、よく来てくれたね、とんぬら君」

 

 悪辣な前領主から、正式にこの駆け出し冒険者の街『アクセル』一帯の領地の統治を任されることになったダスティネス家。アルダープの義理の息子バルターが補佐について精力的に働いてくれていても、アルダープの犯した不正や犯罪が山とあるので、その処理やら引継ぎに忙しい。

 そんな執務室に缶詰めになっている現領主のイグニスから“個人的な依頼がある”と呼び出しを受けたとんぬらはひとりダスティネス家の屋敷へと訪れていた。

 

「いえ、イグニス様には、先日の一件で助けてもらいましたので。お呼びとあらば、すぐ参上いたします」

 

「はは、そう畏まらなくてよい。アイリス様から道化免状が許された君だ。それに、アルダープの事について君は被害者で、私の娘を助けてくれたんだ。あの悪魔には私も呪いをかけられていたようだからね」

 

 娘に執心していた政敵を失脚させ、その悪事を暴くきっかけとなったとんぬらに、イグニス領主はとても感謝をしている。

 ただ、今日ここに呼び出したのは、単にお礼を言うためだけではないはずだ。

 

「それで、私に頼み事とは何でしょうか?」

 

 とんぬらとしても、王国の懐刀とも謳われた真っ当な貴族で、まともな感性を持っている大人。尊敬しているし、何と言われようともダスティネス家には庇ってくれた恩義がある。何でもやるとは言わないが、全力を尽くすつもりだ。

 訊ねると、イグニスはコホンと口元に手を当てて咳払いをして、

 

「色々と娘から話は聞いている。君は、ララティーナが認めるほど……その、我慢強いようだね?」

 

「(微妙に間が空いたのが気になるが)ええ、我慢強さには自信がありますよ」

 

 この前も尋問を経験したし、オークの責め苦も……思い出したくはないが、純潔を守り抜いたのだ。

 

「そうか……私の娘と同じなのかぁ……」

 

 なんかすごく変に勘違いされているような気がする。

 けれど、どう思われているのかわからない以上は、訂正を求めることもできないので、

 

「その、ララティーナお嬢様は、どのように私の事を語られているのですか?」

 

「とても頼りになるとよく聞かされているよ。パーティではないが、信頼のおける仲間だと」

 

「そうですか……私も、いえ、俺も『クルセイダー』であるダクネスさんの堅い守りはとても頼りにしています。ダクネスさんが前にいるといないとでは安心度が段違いです」

 

 『クルセイダー』。それは騎士の称号を与えられるに足る者が、本来は王へと捧げるべきその剣を信仰する神へと捧げ、民や弱きを守るために神の騎士となった者。

 その身には神の加護を受け、他職の追随を許さない耐久力と防御力を誇る、頑丈な盾としてパーティの仲間を守る前衛職。

 そして、ダクネスは特に、いやとんぬらが知る限り最も、その防御性能においては他の者の追随を許さず、充分な支援さえ得られれば、最強魔法の直撃を食らっても耐え切れるだろうと予想している(その代わりに充分な支援がないとまともに攻撃が当てられないくらい不器用だが)。

 

「そうか。うむ……それから、いつも美味しいところを取っていくから羨ましいとも」

 

 とはいえ、守り専門の『クルセイダー』は、活躍が地味だ。だから、派手な魔法を使う『アークウィザード(主に物理で戦っているが)』のとんぬらよりも目立たない。

 しかし、どちらの働きも重要である。

 これから、もしクエストを共にすることがあれば、なるべくダクネスにトドメを刺せるようにしよう、と心に決める。

 

「では、今度からはダクネスさんに出番を譲るようにします」

 

「ちょっとそれは親としては遠慮してほしい」

 

「え?」

 

 真顔で言われ、とんぬらは戸惑う。あれ? 今そんな変なことを言っただろうか?

 コホン、と二度目の咳払いをして、娘の性癖に悩まされる当主は本題に入る。

 

「実はだね、ここ最近、ララティーナに見合いの話が殺到している」

 

 アルダープがいなくなってから、ダクネスの見合い相手を立候補する若手貴族が増え、積極的にアプローチするようになっているという。

 あのマクスウェルに、ダクネスに寄りつこうとする貴族の男が婚約させないように働きかけていたのだろう。それがなくなったため、一気に表に出てきたのだ。

 

「親の欲目かもしれんが、娘は器量も良いと思う。とてもお淑やかで、そして優しい子だ」

 

「はい。王都でのパーティでも多くの方々に取り囲まれてとても人気でした」

 

「しかし、ワガママな娘でね」

 

 『私は、私よりも我慢強い男でなければ結婚しない!』としつこく言い寄る貴族たちに痺れを切らしてそう宣言した。

 嫁に欲しくば近々、行われる我慢大会で勝負しろ。そう啖呵を切ったそうだ。

 足の速い森の女狩人が、求婚してきた男たちに追いかけっこで勝負して、相手を決めるお話のようだ。

 イグニスが悩めるのはそこである。

 

「無論、私もそこら辺の馬の骨に娘を娶らせる気はない。……しかし、だね。このままいくとララティーナは誰とも結婚しなくなってしまいそうだ」

 

 今やカズマパーティの『クルセイダー』ダクネスは、『ベルゼルグ』随一と言ってもいいほど硬い女騎士だ。

 それを相手に我慢比べなどしようもなら勝てる相手がいるだろうか? このまま宣言通りに行けば、独身貴族である。十八歳の女性はこの国では既に結婚して、子供作っていてもおかしくはないというのに、ここまで身持ちが固いと将来が不安になる。親として孫の顔は是非とも見たい。

 

「だから、とんぬら君。君に、我慢大会に出場してほしい」

 

 話を聞いて、娘を心配する親の心情は理解した。けれど、とんぬらはすぐ首を縦に振るのはできない。

 

「イグニス様。ご在知かもしれませんが、俺、許嫁がいるんですよ?」

 

「わかっている。『アクセル』でその話は有名だからね。別に娘と婚約してほしいなどとは言わん。普通に選手として参加して、ララティーナを負かしてほしいのだ。ララティーナは『アクセル』で毎年夏に行われる我慢大会の連続優勝者だ。とんぬら君、君に娘の連続優勝を阻止して……いや最後に引退するに相応しい好敵手と争って満足させてほしい」

 

 そうすれば見合いに我慢強いのが条件だなんて言わないようになるだろう。できれば、もうこんな無茶な真似を止めて、お淑やかになってくれることを望む。

 

 なるほど、ようはライバルになってほしいということか。とんぬらも職業上魔法使いながら、超高レベル冒険者としてステータスは高いと自負しており、耐久もそこらの上位騎士に負けないだけの数値はある。

 正々堂々と伯仲した勝負をして、最後の花道を飾らせる。そして、ワガママを満足させてくれれば、後は父親としてイグニスが娘を説得する。

 うん、これならば、ゆんゆんに浮気となることもないだろう。あくまでこれは爽やかな(汗臭い勝負になると思われるが)スポーツマンシップ溢れる勝負なのだから。

 

「そういうことでしたら、わかりました。お引き受けしましょう。イグニス様の刺客として出るからには、ダクネスさんを負かしてやりますとも!」

 

「そうか! ありがとうとんぬら君! 応援しているよ!」

 

 ……しかし、この思った通りに行かないことが多い不幸ステータスなとんぬらが参戦したからか、事態は予想外な方向に転がる。

 若手貴族が、ダクネスの言質を撤回されないために触れ回ったのだ。そして、それから『我慢大会の優勝者には、ダスティネス家のご令嬢を嫁にもらえる権利が与えられる』という話になって広まっていった。そして、どういう伝言ゲームを経たのかは割愛するが、『宮廷道化師がイグニス様の推薦で嫁取り我慢比べに参戦。これはご公認か!?』という話に……

 こうして、多くの若手貴族がこぞって参戦する夏の我慢大会は、例年を大きく上回る規模で開催されることになり、とんぬらが知った時にはもう色々と後の祭りであった。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「……というわけだ、ゆんゆん。これはけして浮気ではない。当主公認の婿候補などではなく、嫁入り前の娘を大人しくさせるために送り込まれた刺客なんだ」

 

「うん、わかってるわ。私、とんぬらの事信じているもの」

 

「そうか。ゆんゆんが理解してくれて良かった、これで俺も心置きなく我慢大会に出場できる」

 

「……実はね、とんぬら。私、我慢大会のスタッフをお願いされているの」

 

「うん?」

 

「とんぬらが負けるように頑張るから」

 

「ゆんゆん!?」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 そして、とんぬらの参戦は何も貴族社会だけに影響を及ぼすものではない。

 

「季節は夏。では夏と言えば? そう、海にプールにアクシズ教団。では祭と言えば? それはもちろんアクシズ教団。宴会やお祭り事が好きで、特に夏が大好きなアクシズ教団を差し置いて、この時季にエリス祭を開催するだなんて私達に喧嘩を売ってるとしか思えない。ええ、これは戦争ね、戦争しかないわ!

 ぬら様! 忌々しいエリス教徒をコテンパンにしてやってー!」

 

 開催が近くなった夏祭りへの前哨戦とばかりに、今年のエリス感謝祭に参戦しようとするアクシズ教徒らが、代々敬虔なエリス教徒であるダクネスを降さんと門外顧問こととんぬらを応援。

 もう大貴族のお嬢様の結婚相手を巡る競争だけでなく、エリス教VSアクシズ教の代理戦争という構図になっていた。

 我慢大会会場である広場には、『アクセル』の支部長セシリーを筆頭に応援団が揃っていて、その向かい側にはエリス教徒のマリスやセリスら顔見知りである女性信者がまるで女の敵とばかりにこちらを見ています。何を吹聴されたかは知らないが思いきり敵視されている。

 

「頑張って! ダクネスと争うことになるけど私はこっちを応援するわ!」

 

 もう一度逆サイドへ視線を振ると、アクシズ教団の応援席から、アクア様も、大事そうに卵を抱いてこちらにエールを……

 皆が屋敷を留守中にやって来た行商に有り金全部で譲られたというドラゴンの卵で、いずれドラゴンたちの帝王になる運命から、キングスフォード・ゼルトマン(略してゼル帝)という名前が付けられている……でも、とんぬらの目にはあれはニワトリの卵にしか見えない。

 

「この守護竜後輩になるゼル帝に『アクアアイズ・ライトニングドラゴン』の勇姿を見せてあげて!」

 

 水の女神への信仰度が五ポイント下がりそうだ。

 

(いや、もう外野のことは何も考えるな。一度依頼を請け負った以上、勝つことだけを考えよう。紅魔族たるもの勝負事となれば負けるわけにはいかない)

 

 目を瞑り、精神統一をしていると、声を掛けられた。

 

 今日は、腰近くまである長い金糸の髪を首筋の辺りで束ね、それを左肩から前へと垂らしている。

 黒のシャツに、同じく黒のタイトスカート。そして、足元も黒のブーツと、全身を黒で統一している。『ダクネス(あだ名)』の通り、私服では黒が好みなのだろうかとふと思う。

 それで、その出る所は出て、全体的に肉感的なその体型は、男好きするというか、おそらくは特殊な趣味を持った者以外であれば、多くの男が彼女に劣情を覚えるだろう。

 

 そんなこの我慢大会の覇者であるお嬢様より、

 

「とんぬら……! アクシズ教の門外顧問が、エリス教の『クルセイダー』である私を手籠めにして、ものすんごい辱めを受けさせた後、心屈した私をアクシズ教に改宗させるという話は本当か……!?」

 

「まったくの誤解ですダクネスさん」

 

 そんな鬼畜極まることをするのは前領主だ。

 嫁取り競争やら宗教闘争が入り混じった結果、根も葉もない噂に尾ヒレ背ヒレがついて、大変なことになっている。これは婚約者狙いの若手貴族にエリス教徒の皆さんが睨むのも納得である。

 頬を赤らめて、荒い息をしていた“お怒り(興奮)気味な”ダクネスにとんぬらは、すぐに否定。

 

「そ、そうか……。いや、とんぬらがそんなことをする奴ではないとわかっていた」

 

「ご理解いただけで何よりです。正直、さっきから周囲の視線がきついので」

 

「なに、誤解なら私から解いておく。だから、大会は、正々堂々とやろう。『アクセル』のエースはとんぬらだが、我慢大会は私の土俵だ。この勝負では負けないぞ」

 

「ふっ……! 我が名はとんぬら、紅魔族随一の鉄心を持つ者。こちらもそう簡単に勝ちを譲る気はない」

 

 互いに強敵となる相手と見て、この試合の健闘を祈って、握手をするダクネスととんぬら。

 そして、我慢大会が始まる。

 

 

『さあ、今年も始まりました! アクセル我慢大会! 例年以上の賑わいを見せております……!』

 

 街の中心に位置する大広間に設けられたステージ上で、マイクのような魔道具を持ったタキシードの男が開始の合図を告げる。

 夏の我慢大会のルールは単純。冬に着るような厚着衣装を重ね着し、焚き火が焚かれている試合ステージ上で、只管暑さに耐え、我慢が出来なくなってリタイアしたり、意識を失ったりしたら、そこで終わり。一番長く、最後まで残れた者が優勝になる。

 当然、魔法やスキル使用は禁止。『フリーズ』で涼もうものなら退場である。

 薄着でも汗をかくほどの気温、カンカン照りに日射が降り注ぐ炎天下で、参加者たちが早速、顔が茹ったように赤くなっている。遺伝的に高ステータスな貴族も、普段は快適な生活を送っているので、これは辛かろう。

 修行時代、真冬の雪山に篭っていたとんぬらは、どちらかといえば寒冷地仕様である。

 熱いのは苦手とは言わないが、得意な環境ではない。

 

「くーっ! こんな暑い日には、冷凍したところてんホイミンが一番よね!」

「やっぱり、夏はキンキンに冷えたネロイドが最高だぜっ!」

「欲しい? このかき氷欲しい? アクシズ教団なら、分けてもいいんだけどなー」

 

「この私はそのような誘いに屈しはしないっ! 『クルセイダー』の誇りにかけて、このまま一時間でも二時間でも耐え抜いてみせる……!」

 

 流石アクシズ教団だ。嫌がらせにかけては他の追随を許さない。汗だらだらな参加者たちの前で冷えた水やらかき氷らをこれみよがしにいただいて、煽りに煽る。そこかしこから生唾を呑み込む音が聴こえる。

 あと、その精神攻撃は、当然、門外顧問(とんぬら)も入っている。応援する気があるのだろうか。

 でも、約一名、かつて水と温泉の都に移住を望んだエリス教のお嬢様はアクシズ教の口撃に、身震いさせていた。

 

『今年はなんと優勝すれば、この我慢大会の覇者ララティーナお嬢様と結婚できるという噂があるそうですが、果たしてララティーナお嬢様の連続優勝を阻止する猛者が現れるのでしょうか!』

 

「……、っ……!」

 

 司会者から実名を連呼されて早くも顔が赤くなっているララティーナお嬢様。さっきとは違い、この手の責めには弱い模様。

 それを見て、あと少しで陥落しそうだと勘違いした貴族たちは士気を上げる。

 

『さあ、今年はララティーナお嬢様たっての希望で、大会運営側より例年以上に参加者を振るい落とすための試練を用意させてもらいました! まず一人目は――』

 

「我が名はゆんゆん! 『アークウィザード』にして、上級魔法を操る者……。紅魔族随一の魔法の使い手にして、やがて長となるべき者! 今日の大会で試験官を任されました!」

 

 呼ばれてステージ上に恥ずかしそうに顔を赤くしながら登場したのは、とんぬらの相方。事前通告通りに、ゆんゆんはこの我慢大会で何かを任されているのだろう。

 激しくイヤな予感がする。こちらの試合会場の前に、とんぬらの真ん前に立った彼女の目は、芒っと焦点の薄い赤い瞳……

 昨日、ほわんほわんと頬を緩ませながらまったく目が笑っていなかった記憶から、とんぬら息を呑む。

 

「皆さん、決して……決して、動いちゃダメですよ」

 

 この我慢大会に肉体的にダメージがあるようなことはないと聞いているが、忠告するということは危険なことをするのだろう。

 この街で屈指のまともな『アークウィザード』(頭のアブない方の紅魔族とも恐れられているが)であるゆんゆんだ、きっと魔法の火力で一気に体感温度を上げるつもりで――

 

 

「『インフェルノ』――ッッ!!」

 

 

 初っ端から灼熱地獄が来た。

 直撃しないよう炙るように制御されているが、火傷しそうなくらいに熱い上級魔法の業火。一気に気温が数度上昇する、ヘルモードに突入した。

 

「とんぬらぁ……!」

 

「熱っ!? 今、ちょっと俺の鼻先を掠めなかったかゆんゆんさん!?」

 

 事情は理解した、けど、感情で納得するのはまた別である。

 少女の情念が乗り移っているかのような業火は、真正面で最も近くにいたとんぬらを大いに震え上がらせた。我慢比べではなくこれでは度胸試しだ。

 

「り、リタイアだ! リタイヤする!」

「俺もだ! もう限界だ!」

「駆け出し冒険者の街なのに、なんてレベルが高いんだ!?」

 

 そして、その熱風の余波を食らった参加者たちが一斉にリタイアする。というか、逃げ出した。

 

『続けて、二人目――』

 

「ゆんゆんがリタイアさせたのは、三分の一程度ですか。それも本命が残っているとは、手ぬるいですね。――ここは、大魔導師である私が、全滅させてやりましょう!」

 

 頭のおかしい方の紅魔族の少女が壇に登場した。

 外に来た貴族たちは最初、見た目幼い娘に、ボーナスステージかと勘違いしたが、先端が光り輝くめぐみんの杖を見てすぐに危険を察知する。

 これにはとんぬらも猛抗議をした。

 

「おい! この街のど真ん中で何躊躇なく爆裂魔法を完成させてんだめぐみん!?」

 

 その切羽詰まった一言で、貴族連中は愕然と大口を開けて、試験官二番手を見る。

 その視線を受けためぐみんは、声高らかに、

 

「我が名はめぐみん! アクセル随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者っ! この『アクセル』での通り名は頭のおかしい爆裂娘!」

 

 掲げている杖には凄まじい魔力が篭められているのが目に見えてわかり、また紅魔族の危険信号的な身体特徴である赤く光るその瞳。これは、危険、さっきよりも危険だ!

 

「この『アクセル』には、頭のおかしい爆裂娘がいると噂で聞いていたが、まさか本当だったのか……!」

「止めろ! 近づくな! 近づかないでお願いします! リタイアします! ですから、私が離れるまで待ってください!」

「なあ、冗談だろ! お願いだから冗談って言ってくれ大会運営!」

 

 慌てて避難する参加者たち。それを睥睨しながら、マントをバサッと翻しためぐみんは、静かな声で、

 

「ただ名乗り上げただけで逃げ出すとは。この程度で私達の優秀な『クルセイダー』を嫁に取ろうなどとは、随分と思い上がったものです」

 

「なんという自爆テロだめぐみん。まさか、自らおかしい子を認めるとはな」

 

「一度目なので注意してあげますが、この魔法を制御し続けるのにはかなりの集中を必要とします。これから爆裂魔法を空に放つつもりではいますが……今後私を侮辱したり集中を乱すような真似をすれば、制御を失い、その人物の側で、ボンッ! ってなるでしょう。その辺りを弁えて今後言動には注意してください」

 

 要約すると、ちょっとでも悪口や抗議をしたら災いを降りかからせると言っている。

 頭のおかしい爆裂娘の名に恥じないお見事な恐喝ぶりだ。大事な仲間であるダクネスを嫁に取る、つまり、パーティを抜けさせるようなことは許さんとばかりに気合が入っている。

 うん。これを採用した大会運営も頭がおかしい。

 

「兄ちゃんは!? 問題児の保護者な兄ちゃんは来てないのか!?」

 

「カズマなら今頃屋敷で涼んでいるでしょう。『くーらー』の効いた部屋から一歩も出たくないと引き籠っています」

 

 打つ手なし。

 そして、宣言通り、めぐみんが爆裂魔法を空に向けて打ち上げた。

 

 

「『エクスプロージョン』――ッッ!!」

 

 

 凄まじい轟音と共に、空中に閃光が奔り大爆発が起こる。

 その衝撃波で街中のガラスが罅割れ、観客席にいた人々も頭を抱えて地に伏せた。そして、高熱の余波が参加者たちに瀑布の如く頭上から降りかかり、バタバタと気絶。

 

「私の勝ちですねゆんゆん。明らかに私の魔法でリタイアした人数が多いですよ!」

「めぐみんの方が後出しなんだから有利に決まっているじゃない! 私の魔法でギリギリだった人もいるし、そこらへんもポイントに入れるべきよ!」

 

 爆裂魔法を撃ち放って魔力切れのめぐみんが、ゆんゆんにもたれかかり、二人は互いの戦果を壇上で張り合っている。

 死屍累々と倒れる大勢の参加者。残っているのは、もうとんぬらとダクネスの二人しかいない。貴族たちは意識朦朧に『ララティーナ様は、これほど過酷な試練を毎年やられておられるのか……』と恐れ戦いたりしているようだが、それはないととんぬらも断言する。例年の大会の様子を知らないが、こんな紅魔族の首席と次席が試験官をした大会以上に酷な試練などない。

 

「ふう……。今年の我慢大会はいつになく最高だ。しかし、私も今年はかなりレベルが上がったからな、熱に対する耐性なども上昇している。この程度ではまだまだリタイアせんぞ! もっとやってくれ!」

 

 灼熱と爆熱の余波を食らいながら、アンコールを要求するダクネス。

 頬は火照っているも、とんぬらよりも余裕がありそうである。

 

(凄いな、俺もわりとキツくなっているんだが、ダクネスさんは何て我慢強いんだ……!)

 

 流石は、敵の攻撃から壁となって皆を守る『クルセイダー』だ。

 純粋に尊敬するとんぬら。だから、まだまだ負けるわけには行かないととんぬらは奮起する。

 イグニスからの依頼というだけでなく、紅魔族の負けず嫌いに火が点いたのだ。

 顎に滴る汗を手の甲で拭って、不敵な笑みでとんぬらは、残る最後の好敵手へ、

 

「ええ、こちらもまだまだいけますよ、ダクネスさん!」

 

「流石は、私が認めた同士だ。だが、我慢にかけては誰にも負けない!」

 

『では、三人目に登場してもらいましょう!』

 

 互いに勝利を目指して背中より燃え上がるオーラを立ち昇らせたところで、司会者が呼んだ三番手の試験官。

 それは、司会者の男と同じタキシード姿をした大男で、白黒の仮面の奥より真紅の双眸を妖しく光らせる――悪魔。

 

「ダクネスさん! ゆんゆんやめぐみんにだけでなく、バニルマネージャーまで呼んだんですか!」

 

「ま、待て! 私は奴には頼んでないぞ! これはどういうことだ運営委員!」

 

「フハハハハハ! こんな暑苦しい時に好んで火にいる体力バカ共よ。ウチの欠陥店主の手により我が成り上がり計画がパーになったからな。実は、このままでは今月の店の家賃すら危うい状態でな。仕方なくこの我慢大会の試験官のバイトをすることにしたのだ。大会の運営連中にとびっきりの試練を課してやると押し売りしてな」

 

 どこが仕方なくだ! 自らセールスに行ってやる気満々だろ!

 というか、やっぱりこの大会の運営は頭のネジが外れている!

 

「まあ、安心するがいい。『人間は殺さない』を信条とする我輩の試練は、頭のアブない娘や頭のおかしい娘とは違って、身体に危険のあるものではないと保証しよう。ただ、参加者の秘密を暴露するだけのとても安全で優しいものだ」

 

「あんたのが一番酷だよ! 精神的に!」

 

「やめろっ! 公衆の面前で何をする気だ! それは私が望む責めではない!」

 

「では、まずは小僧からいこうか」

 

 参加者たちの嘆願を一切無視して始まる第三の試練。

 ご指名されたとんぬらは、すぐに両手で耳を塞いだ。もう何度も羞恥責めされて、マネージャーに慣れているとんぬらは、ひたすら心を無心に、何を言われようが聞き流す心構えであったが、そんなのはお見通しとばかりにタキシードの懐から一冊の本を取り出すバニル。

 それは、大会参加する際に、事前に預けた所持品の袋の奥の奥に隠してあったはずの……とても見過ごせるようなものではなかった。

 

「これは、小僧の袋にあったものだが……」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 ひとりの少年の話をしよう。

 駆け出し冒険者の集う街と知られる『アクセル』は、この国土の中でも大変治安が良いと評価されている。ガサツで喧嘩っ早くて酒好きと荒れくれ者なイメージのある冒険者だが、それに反して意外に温厚なのだ。

 それは、この街で飲食店を運営する女悪魔たちのサービスによって、男性冒険者たちが皆、賢者になれるからだという。これのおかげで同じパーティ内の女性冒険者を巡るいざこざも発生しないし、女性住民にセクハラを強いる事件などは発生しない。悪魔との共存共栄は街に安全をもたらしているのであった。

 けれど、ここに女悪魔からの恩恵を受けられないたった一人の男性冒険者がいる。それが、少年だ。

 彼は女悪魔から崇拝される公爵級の最上位悪魔から恩恵を受けており、それの残り香につられ密かに女悪魔から狙われていたりするのだろうが、彼女たちと紳士協定を結ぶ男性冒険者一同からけして手を出さないようにと忠告をされている。

 『あいつには、頭のアブない方の紅魔族がついている』とちょっかいを出そうとすれば、滅ぼされかねない。実際、一度その“頭のアブない紅魔族の少女”のデビルスレイヤーっぷりを体験したロリな女悪魔は強く同意。常連のお得意様のKも刺激はしない方が良いと証言している。

 なので、少年は女悪魔から優遇チケットやらをもらってはいるものの、店の場所は知らない。男性冒険者たちから省かれているように教えてもらっていないのである。

 

 でだ。

 常連のお得意様のKから、王城の宝物庫から盗んだ、警報に引っかかる要因ともなった一冊の本を、『誰にも見つからないように預かっていてほしい』と渡された。

 まあ、それは駆け出しの街に帰ってからすぐに返したのだが、その際に、お礼として、少年の好みに合うお宝本が提供された。

 これは男性冒険者たちの思春期真っ盛りで、ほとんど一日中少女と共に行動し、ムラムラしても発散できる余裕のない少年への哀れみや省いている罪悪感もあったのだろう。

 それがどのようなものかを知り、少女にバレたらあかんということは理解しているのだが、『男性冒険者たちから、いつも助けてもらっている『アクセル』のエース様へのお礼だ。受け取ってくれ』と言われれば無碍にするのも申し訳なく、鉄心な少年にだって魔が差すことくらいはあるのだ。

 

 

 そんな秘中の秘をあっさりと見抜き、暴いてしまうのが、全ての見通す悪魔である。

 比較的、冷静と思われる方の、二番手の試験官を務めた紅魔族の少女が問う。

 

「それで、道具袋から出てきたというこの『エッチな本』は、何なんですか? この猫耳フェチ」

 

 今回の裁判ではとんぬらは被告人として扱われ、検察役なめぐみんに、見通す悪魔から提出された物証を掲げられて、とんぬらの体感温度は摂氏五度ほど下がっている。夏なのに彼だけ冬だ。

 

「それは、一神主として猫耳の奥深さを知るための文献というか……」

 

 男性観客から哀れみの眼差しを集めているとんぬらは、今、大会終盤の大舞台にいるはずなのにものすごく肩身が狭かった。身体のサイズが四分の三くらいになるほど縮こまっている。

 そんな同郷の少年に、めぐみん。なんかもうダメな兄を見る妹のようなジト目を向けて、淡々と、

 

「へぇ、そうなんですか。一神主として猫耳の奥深さを知るために、ねぇ……?」

 

「……いえ、なんかもう色々と、ごめんなさい」

 

 それは多種多様な獣人種の写真集で、表紙には獣耳女性やらデンジャラスビーストな衣装をした女性が女豹のポーズをとっている。男性冒険者たちを代表し、カズマから日頃のお礼と言われて渡されたものだ。家に隠すのは同居している少女に見つかる恐れがあり、かといって捨てるのも忍びない。そんなわけでとんぬらが道具袋の一番下に仕舞い込んで携帯しっぱなしになっていて、未だに封も切られていないという……どこか男心の未練がましさのあるものである。

 鋼の精神を持つと評判の少年でも、こんな目も当てられないものを出されてはそんなのは木端微塵だ。普段の威風堂々とした様など微塵もない。

 

「………」

 

 そして、被告人とんぬらと相対する真正面に座るのが、有罪無罪を決める裁判官役なゆんゆん。黒髪に結んだリボンが、風が吹いてない大会会場でゆらりと揺れているように見えるのは、自身の目の錯覚だろうか?

 

「その、だなゆんゆん」

 

「何そんなに狼狽えているのよ? こういうのは……男の人なんだから仕方ないんでしょ」

 

「すいません。本当、これは貰い物で、興味本位につい……受け取ってしまったと言いますか」

 

「興味本位……別に、いいんだけど……」

 

 ありありと軽蔑の眼差しを送ってくるめぐみんとは違い、無表情なゆんゆん。

 色々と思うところはあるようだが、頭ごなしに怒ったりしない。

 

「……それで、どの娘が良かったの?」

 

「はいっ!?」

 

「やっぱり表紙に載ってる猫耳の娘?」

 

「い、いや、確かにそのデンジャラスビーストに目が引かれたのは認めるが、まだ封を開けてないというかだな……」

 

「見てなかったの?」

 

「なかなか……チャンスがなくて……未使用でございます」

 

「ふうん」

 

 居た堪れない。暑さによるものではない、手のひらにイヤな汗を掻いてる。何だこの尋問は。ものすごく恥ずかしいが、器用に誤魔化したりできるものでもない。それに潔癖なところがあり、独占意欲が強いゆんゆんのことだから、このまま穏便に無罪とは……

 

「へ、へぇ、色々な写真があるのね」

 

「おい、なに封を切ってページを開いてるんだゆんゆん!?」

 

 とんぬらの制止など無視して、これまで切られたことのなかった封を外し、中のグラビアを捲るゆんゆん。険しく目を細め、瞳を赤くするゆんゆんは色んなポーズをとる獣耳娘の写真をガッツリと眺めて……ふんふんとしきりに頷き、半分ほど読み進めたところでこほんと咳払い、

 

「事情はわかったわ。これは没収させてもらうわね」

 

「え、っと……それで幻滅したか、ゆんゆん?」

 

「そんなのしないわよ。でも、怒ってないわけじゃないからね」

 

 あ、いつも通りに見えるけど怒っているパターンだな?

 

「本当にもう、本当にもう。とんぬらってば、そんなに獣耳が好きなの!」

 

「いや、それは、誤解――とは言えん。猫耳神社の跡継ぎとして獣耳に関して、ウソはつけない。ああ、大好きだ!」

 

「そこで誤魔化さないのはいいけど、開き直らないで! とにかくこれは没収だから! いい、わかった、とんぬら?」

 

 ……と羞恥責め(しれん)が終了した。

 公衆の面前で堂々と己が嗜好を主張したとんぬらは、まさしく男であった。ただし、脇で艶々としている仮面の悪魔の様子から察せられると思われるが、とても恥ずかしい思いをしている。それからエリス教の皆様方からは『ああ、まともだと思ってたけどアクシズ教なんだな』みたいな眼差しを頂いている。もう泣きたい。

 

「これは、暑さに耐える我慢大会ではないのか……!」

 

「顔が熱くなるであろう?」

 

「ふざけるな! うまい事を言ったつもりか!」

 

「フハハハハハハッ! ご馳走様だ、いつもながら汝の悪感情はとても美味であったぞ、星三つ小僧!」

 

 趣味と実益を兼ねたお仕事にマネージャーは絶好調のようだ。

 

「さあ、次は、貴族としての変な義務感だけは強いくせに、実力が伴わず空回りばかりする娘の番だ」

 

「その前置きは必要か!?」

 

「では、言い換えよう。日夜熟れた体の性欲を持て余し、処女の癖に夜な夜」「なあああああーっ!!」

 

 今は競技中。席を立ち上がっては、失格。負けになる。なので、大声を張り上げて阻止するしかない。

 だが、この状況、バニルからすればお好きに料理してどうぞと俎板の上に魚があるのと変わらない。

 

「残念ながら小僧の道具袋を漁るしか時間がなかったのでな。貴様には、三つの質問をさせてもらおう」

 

 良かった。別に人に見られたら恥ずかしい物は持ち歩いていないが、とんぬらのような公開処刑とならずに良かった。肉体の頑丈さには自信があるも、精神的な羞恥には弱いと自覚のあるダクネスは、とんぬらがやられるのを見ながら内心で戦々恐々していた。

 しかし、安堵するのは早計である。

 羞恥責めをやらせて見通す悪魔の右に出る者はいない。

 

「では、まず第一の問いかけだ。防御力も大事だが、攻撃に踏ん張れる重さも重要な『クルセイダー』なのに、先日こっそり鎧の修理の際に軽量化を注文したようだが。それは何故か?」

 

「……そ、その……。わ、わ、私は不器用なので、鎧を軽くし、少しでも攻撃を当てやすくしようと……。し、しよう……と……」

 

「我輩は、正直に答えよと言ったぞ」

 

「……最近、ますます腹筋が割れてきたのを気にして、鎧を軽くして……みました……」

 

「よしよし。……では第二の問いかけだ。風呂場の洗濯籠に放り込まれていた、仲間の魔法使いのワンピース。これをコッソリ自分の体にあて、鏡の前でちょっと嬉しそうにしながら、『うん、コレはない。コレはないな……』とブツブツ言っていたのは何故か。しかも、自分でこれはないと言いながら、普段笑いもしない無愛想な顔を、首を傾げてにこっと笑ませていたのは何故か。そして頬を染めて周りをキョロキョロ確認し、そのまま慌てて洗濯籠に戻していたのは何故か」

 

「……か、かか、可愛らしい系の服は似合わないし、買うのも買ってきてもらうのも恥ずかしいので、今までは触ることもなく……。ふと目にしてつい、試してみようかな、という出来心で……。こ、こんな無愛想な筋肉女が出来心で体に合わせてしまいました、ごめんなさい……ご、ごめんなさい、めぐみん……」

 

 もう耳まで真っ赤な顔を、両手で覆いながら、消え入るような声で頭を下げるダクネス。

 

「だ、ダクネス? その服を合わせてみたぐらいでそんなに謝らなくてもいいですよ! ほら、私も第一王女に冒険譚を聞かせる席でダクネスの衣装を借りたことがありますし!」

 

「私は可愛いワンピースを着たダクネスさん、悪くないと思います! いつもカッコイイ系や大人系の服を着てますけど、王都の社交界で着てたお嬢様風のドレスも大変お似合いでしたし、可愛いワンピースもきっと似合ってますよ!」

 

「う、……ぅぅ……!」

 

「ゆんゆん! あなたのせいでダクネスがさらに縮こまっているではないですか! 追い打ちをかけてどうするんですか!」

 

「ええっ!? 私、そんなつもりじゃ全然なくて……」

 

「そうよ! ダクネスがコッソリ可愛い服着ることの何が悪いのよ!」

 

「くっ! こ、殺せ!!」

 

 悪気はまったくないのだが、めぐみんとゆんゆん、それから観客席からアクアがフォローを入れるたびに、ダクネスの頭はさらに沈み込み、今では土下座状態で膝枕をしているくらいに前屈して、動かなくなった。

 

 そんなダクネスを見て、バニルは笑う。

 二つの質問が、“時間稼ぎの”前菜であるものの、とても香ばしい悪感情が頂けて、満足そうにウンウン頷く。

 して、向こうからこっちへやってくる人影を確認する。

 

 

「――お前ら、何を騒がしいことやってんだ! さっき爆裂魔法を街中でぶっぱなしやがっただろ!」

 

 

 それは、二番手の試験官が放った爆裂魔法を聞きつけ、またこちらに責任が逝くような厄介事を増やされてはたまらないとすぐに炎上する前に事態の消火に屋敷を飛び出したサトウカズマ。

 端から家に篭る気満々の彼には今回の我慢大会はほとんど話を聞かされておらず、ここに来てやっとイベントに気付いた様子。

 そして、バニルはこのタイミングで最後の質問を始める。

 

「では、最後の問いかけだ。汝よりも年若い紅魔の娘が婚約して以来、同居人の今ここへ来ている男にいやらしい目で見られていることを自覚しながら、それでも屋敷内で、体の線がくっきり出る服を着てウロウロしているのは」

「わああああああこの悪魔成敗してやるー!」

「こっ、こらっやめろ! 気安く我輩の仮面に手を掛けるな! 泣きながら仮面を引き剥がそうとするな! 失格になるぞ!」

 

 

 ♢♢♢

 

 

 最後の最後で我慢し切れなかったダクネスが、試験官のバニルに飛び掛かり、選手失格……結果、今年の我慢大会は、とんぬらが優勝した。

 それで、『宮廷道化師がダスティネス家の高嶺の花を娶った』という話が――広まりかける前に、ご本人からきっちり否定、婚約する気など一切ないと優勝した舞台の上で表明したことで阻止できたのだが、しかし、伝言ゲームを経ると王都ではどういうわけか『ララティーナお嬢様は若い燕に逃げられた』などという不名誉な話になっており、そこから同居人の男から『バツネス』とからかわれて、数日、屋敷に引き籠ることになる。

 

 けれども、親御さんの望み通りに、今回の我慢大会でトラウマができたダクネスはこれから先、出場を控えるようになったという。

 

 

 ――そして、こちらもご機嫌取りをせねば。

 

 今回の婚約が掛かっていることになった我慢大会、出場してしまい、ゆんゆんをやきもきさせてしまったし、バニルのせいで残念なものまでばらされたわけで。

 その汚名を返上せんと、今日はとんぬらが台所に立っていた。

 二人で暮らすようになってから任せっぱなしだが、自炊はできる。そして、このチーズ作りスキル(錬金術)を活かした料理、チーズフォンデュ。

 出来上がったメインディッシュをスプーンで少しすくって、味を見る。

 

「ふむ……味はこんなものかな。ゆんゆん、ちょっと味見するか?」

 

 もう料理することが癖になっているのか、出来上がるまで座っていられず結局、おかず以外の“三人分の”夕飯を手伝ったゆんゆんに勧めれば、こくんと頷き、

 

「うん、とんぬらの手料理、是非頂きたいわ」

 

「それじゃあ、あ~ん」

 

「あ、あーん……」

 

 一口サイズにカットした温野菜のニンジンをフォークで刺し、溶かしたチーズに絡めてから、掛け声で開けさせたお口に入れる。雛鳥にご飯を上げる親鳥の気分で。

 

「んん……。あ……おいしい……とってもおいしいわ、とんぬら」

 

「よしよし、じゃああとは配膳して――うぁちッ」

 

「だ、大丈夫!? とんぬらっ」

 

 うっかりと、けして“本に載っていた女の子のように猫耳をつけている”ゆんゆんに餌付けした様子に見惚れてしまったわけではないが、そううっかりと目測を誤った。

 

「大丈夫だ。ちょっとチーズに指突っ込んじゃっただけで大したことはない。うん、そうだ、ゆんゆん。もう一回、あ~ん」

 

「はい? あ、あ~ん」

 

 汚名返上しようとしたのに、ドジったのが気恥ずかしくて、誤魔化すようにとんぬらは、開かれたゆんゆんの口の前に、チーズの付いた指をそっと持っていく。それから、すぐに指を引こうとしたところで、

 

「はは、なんて冗談」

「――はちゅむ、んんっ! はちゅぷ……ちゅむ……ちゅじゅぅぅ」

 

 ……とふざけてやってみたら、予想外に食いついてきた。

 

「ちゅぷぁ……おいしいわ、とんぬら……ちゅっ」

 

「お、おう、そうか」

 

 最初の一瞬は戸惑いを見せたのだが、すぐに指に吸いついたゆんゆんは、チーズを舐めとってしまった。そして、舐めとってから最後は、その指先に軽く感謝をするよう口づけをする。

 思わぬ反撃を食らい、とんぬらはポツリと感想が漏れる。

 

「うん……なんか、エロいな……」

 

「え、エロいなんて言わないでよ。とんぬらがやらせたくせに……」

 

 いや、こちらは直前でフェイントを掛けようと思っていたのだが、実際そうなったのだから文句は言えない。

 

「じゃあ、魅力的ってのはどうだ」

 

「……まぁ、それなら、いい」

 

 よし、これで終わり。

 とんぬらは、妙な空気を振り払おうとして、袖を摘ままれる。

 

「ねぇ……」

 

「なんだ、ゆんゆん?」

 

「とんぬらの、もっと味見したい」

 

 恥ずかしながらもおねだりをされる。……そうだな、これはゆんゆんの機嫌取りでやっているわけだからなるべく彼女のご要望を叶えてやるべきでは? なんてチーズが蕩けるほど茹った頭で理論武装を固めたとんぬらは、熱いチーズをもう一回、今度はうっかりではなく指ですくって、ゆんゆんの眼前に差し出した。

 

「はぷっ……んちゅっ……んっんっ……」

 

 ゆんゆんはそれにおずおずと唇を近づけ、そして咥えこむ。

 その口の中に入れた指を動かして、器用に動き回るゆんゆんの小さな舌と絡み合わせた。

 

「んくぷっ……あぷぁっ……はちゅつぷちゅっ……んちゅっ、んちゅっ……うぁっ……」

 

 如何なる戦闘においても高速詠唱を心掛け、早口で噛まずに呪文を紡ぐ熟練の魔法使いの舌はとても働きものだ。けれども、口が上手く閉じず、ちゅぷちゅぷと指を出し入れするたびによだれがそこから零れ落ちていき、ゆんゆんの小さな顎や白い喉を伝って、シャツの胸元を湿らせていく。

 

 ……大丈夫、だよな? 別にこれは味見であって、いかがわしいことをしているわけではないよな?

 とにかく、もうこれでやめにしよう。これ以上したら、引き下がれなくなりそうで……

 

「んぷぁ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……とんぬらぁ……もっと……」

 

「も、もっとか……」

 

「うん……もっと、ちょうだいにゃあ」

 

 その殺し文句はダメだ。

 発情しちゃってるような顔を見せるゆんゆんに、一抹の危惧を覚えたとんぬらだったが、右腕は勝手に意思を持ったかのように、もしくは『ドラゴンロード』な彼女の意に従うままに、指でまたすくい……

 

「はむっ……るちゅ……んちゅっ……んっんんっ……」

 

 ゆんゆんは自分から指を咥えこむと、ちろちろと人差し指と中指の隙間に舌先を這わせてきた。

 ……なんか、マズい。結構ゾワゾワと来ている。正直に白状すれば気持ちいい。

 

「ちゅぷっ……んっ……んぷっ……ふぁむっ……」

 

 今年の我慢大会で、優勝してみせた鉄心のとんぬら。きっと精神的な我慢強さはゆんゆんが鍛えてくれたようなものだろう。

 けれども、快楽は訓練しても我慢できるようなものではないとものの本で読んだことがある。

 

「んちゅるっ……ちゅぅっ……ちゅじゅくちゅじゅちゅるぅぅぅぅ」

 

「ゆ、ゆんゆんさん? もうついてないんじゃないんでしょうか……?」

 

「んぷはっ……で、でも、もう少し……とんぬら……はちゅぅっ」

 

 うん、やっぱりエロい。

 あまりに扇情的なゆんゆんに触発されて、とんぬらも軽く指を動かし、そのかわいらしい舌を指先で弄り、軽くこねて、艶めかしい水音を立てていく……。触覚的に舌の動きもさることながら、夢中でしゃぶりつく表情も視覚的に溜まらないものがある。

 

「はちゅるちゅじゅっ、はちゅ、んちゅっ……ちゅるるっ、はちゅっ……んちゅぽ、んちゅぽ……ちゅ、ちゅじゅっ、ちゅっ、ちゅじゅぅぅぅぅ……んちゅはっ……

 はぁっ……はぁっ……とんぬらぁ……ちゅるっ……」

 

「…………も、もう少しだけ……舐めるか?」

 

「あ、味見……そう、これはあくまでも、味見、だから……」

 

「ああ、そうだな。味見だ……ほら、ゆんゆん」

 

「とんぬら……はぁむっ――」

 

 明らかに味見とは無関係な動きを舌がしていたような気がしなくもないが、誰も見ていないことだし、このまま――

 

 

「………………」

 

 

 あ、いた。

 そういえば、今日は一緒に大会の試験官役をしためぐみんをゆんゆんが夕食に誘っていたのだ。もう勝手知ったる紅魔の同胞は、ノックもなく家に入って、居間に……

 流石のめぐみんもこのキッチンの光景には目をぱちくりぱちくりと何度もしばたたかせており、とんぬらもあまりの事に中々声が出せない。そのうえ、ゆんゆんは――

 

「はちゅるぷはちゅぅっ……んはっ、とんぬら……ちゅぅっ……んちゅじゅつちゅ……んちゅっ……」

 

 めぐみんの存在に全く気が付かずに、さらに激しく舌を動かして指を攻め立てている。

 正直、気持ちいい。が、気持ちよがっている場合ではない。

 

「どっ、どうだゆんゆん? チーズの味は美味しいか?」

 

「おいひいはよ……すごくおいひくて……はぁ……ちゅぅっ、んちゅっ……もっとぉ……とんぬら……」

 

 まだ気づいていない!?

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう――」

 

 めぐみんの方はと言えば、淡々と、突如として杖なしで、人類最大火力のオーバーキルな詠唱を口ずさんでいた。

 

「爆裂魔法を詠唱するな!」

 

「ふぇ……? とんにゅりゃ……?」

 

「いえ、私の事は気にせず、どうぞ最後の晩餐をお続けください。私はちょっと爆裂魔法の試し撃ちがしたくなっただけですから。今ここで!」

 

「お前、今日はもう爆裂魔法をぶっ放してまだ魔力が」

「はちゅっ」

「ゆんゆん!?」

 

 おい、何でまた指を舐めるんだ!?

 本能的な危機感で一気に目が覚めたとんぬらが腕を引こうとするも、ゆんゆんが両手で挟むように手首を捕まえて阻止する。

 

「わ、私はただ、とんぬらの指からチーズの味見をしていただけ……。み、見られて恥ずかしい事なんてしてないわ……!」

 

 だったら、そのウソの付けない真っ赤な瞳はどう説明するんだ!

 

「はぁっ……はふっ……あ、とんぬら……ごめんね。とんぬらの指から、私の唾液が零れちゃってる……ちゅぅっ」

 

「……覚醒の時来たれり」

 

「その、めぐみんさん」

 

「ちゅぱっ……ちゅっ、れろ、れろ、れろ……」

 

「無謬の境界に落ちし理」

 

「いや、もう本当、言い訳のしようがないというか、無理なのはわかってる」

 

「んくっ……はふぅ……」

 

「無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

「お願いだからそれ以上の詠唱はやめてください!」

 

 とんぬら、必死の懇願。

 ゆんゆんが指を舐めるたびに、爆裂魔法の詠唱を進めていくめぐみん。いや、こっちが悪いのは理解しているが、とんぬらはもう何か泣きたかった。

 

「うん、これでおしまい。大変いいお味だったわ。さぁ、盛り付けしましょ」

 

「お、おお……」

 

「というわけで、めぐみん! 今のはべ、別にいやらしい事なんて何もなかったから! そういう変な誤解はしないでよね!」

 

「……いやいや、もう平気で人前でいちゃつく紅魔族随一のバカップルにとやかく言うつもりはなかったんですが、それでもその誤魔化し方は正直ありませんから。それに食べ物を使って、あんな……あんなっ、ことをするなんて言語道断です! ちょっとそこに座りなさい、あなた達に説教してあげます!」

 

 その後、嘆願に詠唱はやめてくれたものの、めぐみんから説教された。

 ゆんゆんもたじたじで、とんぬらとしては助かった思いだ。あのままめぐみんが現れず、ブレーキをかけてくれなかったらどうなっていたことか。しばらくこの天才様には頭が上がらなくなるであろう。

 して……

 

「ねぇ、とんぬら。またいつか、手料理、作ってくれる?」

 

「……気が向いたらな」

 

 これは、しばらく眠れない夜になりそうであった。

 

 

 参考ネタ解説。

 

 

 ニャルプンテ:ドラクエの猫魔導師のモンスタースキル『猫魔法』の呪文。ラリホーマ(眠り異常)、ボミオス(速度減少)、ルカナン(耐久減少)、ディバインスペル(魔防減少)といった弱体効果をいっぺんに掛ける。全て的中すれば、一気に四つの妨害効果を相手に及ぼせる。命中判定は、魔力値によって成功率が上がる。パルプンテの弱体効果のみに限定し、マイナスをなくしたような効果。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。