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1934年6月29日
済州島南方で演習中に起きた駆逐艦の「深雪」と「電」の衝突事故により、3名の死者と2名の行方不明者を出している。俺はこの時横須賀の工廠に居て大鯨の機関部に関して手伝いをしたり、ディーゼルエンジンの開発に携わっていたから、あくまで聞いた話でしか無いが。
結局この事故により、深雪は断裂し、後部はその場で沈没。前部は曳航中に断念して放棄したそうで、特型駆逐艦では唯一戦前に沈没となってしまっている。
例え緊張感を持ち、注意して演習に臨もうが事故が起きるときは起きる。深雪と電の接触事故がいい例だろう。ましてや、しっかりとした基礎知識もないまま兵器を扱えば、事故が起こるのは当然といっても良い。
つまり何が言いたいのかというと、授業は真面目に受けましょうということだ。ISに関する授業は当然として、学生として普通科目もちゃんと受けなければなるまい。
「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合には刑法によって罰せられ――」
どうも皆様、山田先生のことを少し頼りないと想いつつ授業は期待していたら、見事期待通りどころか期待以上にわかりやすい授業をしてくださっていることに感動している元軍人の川内紫月でございます。
こうやってISに関する授業を受けていると、どうにも江田島にいた頃を思い出してしまうものです。軍人になるための教育を受けていたこともあり、また実際に扱っていた身としては兵器の扱いがどれほど危険なものかを理解しているため、こうして授業は真面目に聞いているわけであります。例え予め配布されていた参考書を読めば分かるところでも、復習は大事。その辺りがわかっているのか、流石に此処に居るだけあって皆が真面目に授業を受けているのには感心する。
「織斑くん、何かわからないところがありますか?」
しかしながら、例外というのは必ず存在しているもの。俺と一夏は世界的に見て例外的存在ではあるが、それでも学生としては従来の生徒と変わらないはず。だがまあ、彼の場合は平和な時代しか知らない若い子だ。いきなり理不尽な環境に放り出されたのだから、全てを受け入れられるとは限らない。
どうやら一夏は今授業でやっている範囲全てがわからないと言うではないか。事前に配布された参考書を読まなかったのか。
当然ながらわかっているものとして授業を進めていた山田先生は、一夏の言葉に対して引きつった顔で狼狽していた。
「えっと……、織斑くん以外で、今の範囲がわからない人はどれくらいいます?」
一応確認のためと、山田先生が挙手を促す。わかっている前提として授業が進められるのだ、当たり前の様に手を挙げる者はいない。
そんな教室内の様子を見渡し、山田先生に変わり今度は一夏が狼狽し始める。
「し、紫月はわかるのか?」
「予め参考書が配布されてたろ?まだ序盤に書かれてる基本中の基本……それと、余計なおせっかいかもしれんけど言っとく。自分がこれから操るのがどういった代物か、一度考えるといい。生半可な知識や技術、覚悟で扱っていてはどうなるのか」
これから仲良くやっていくならば言わないほうが良いのかもしれないが、友人として接するのであれば言っておいて損はない。一応周りの女生徒にも伝えておいたほうが良いだろうと、ちょっとしたおせっかい出た言葉とも言うが。
例えISに絶対防御があろうが、ISを纏っていない者、生身の人間にはそんな便利な機能は存在しない。自分さえ安全ならばそれでいいなんて、通用しないのが兵器の運用というものだ。最も、ISは本来兵器として作られたわけではないのだが。
「……ところで織斑、入学前に渡した参考書は読んだか?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
流石に授業を乗っ取られるのは不味いと考えた……わけではないのだろうが、織斑先生が口を挟む。確かに、今の範囲は参考書を読めば分かる範囲だから。
しかしまあ、残念ながら一夏はまだまだ甘い人間らしい。兵器の運用のために知るべきことが書かれた本を捨てるなんざ……。だがまあ、こんな甘い人間が増えることを、兵器が無くて済む世になることを願うよ。
案の定、織斑先生を怒らせてしまい一夏は頭を叩かれる。
「あとで再発行してやるから、一週間以内に覚えろ」
「い、いや……あの分厚さを一週間でっていうのは」
「やれと言っている」
織斑先生に睨まれた一夏は結局言い返すことも出来ずに折れてしまった。
「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と、過去の兵器を遥かに凌ぐ存在だ。そういった兵器を深く知らずに扱えば事故が起こる。川内が言っていたのはそういうことだ。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくても覚えろ。そして守れ。それが規則というものだ」
流石に教師を務めているだけあるというべきか。織斑先生が少し言葉を付け足して言ってくれたことに感謝して教科書に目を落とす。だが、どうやら話はまだ終わらないらしい。
「……貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」
一夏くんよ、俺だって此処に来たくてきたわけではない。なんなら戦うことを忌み嫌い、兵器としてのISなんざ無くなってしまえば良いとさえ思っている。だが、こうして此処に居る以上は勉学に訓練と励まなければならないのだ。
「臨む望まないに関わらず、人は集団の中で生きていかなくてはならない。それすら放棄するというのなら、まずは人であることを辞めることだな……そして川内、お前は何故目から鱗が落ちた様な表情をしている」
「気の所為ですよ、織斑先生」
考えていることが表情に出て来るのは自分がまだまだ未熟な証拠か、はたまたこの15年ですっかり腑抜けてしまったか……。
しかしまあ、織斑先生の言葉にはすっかり感心してしまった。確かに、人である以上他者とかかわらずに生きていくのは不可能に等しいことだ。しかし、それはあくまで人の身であればの話。人であることを辞めたなら、このIS学園に在籍する必要もなく、争うことも戦うことも無く生きていける筈だ。
しかしまあ、そんな生き方は私には無理だ。嘗ての大戦で、私は軍人として生きた。戦争だから人を殺す。そんな異常が当たり前な場所で過ごし、人を殺め、時に救い、人として生きてきたのだ。今更変えられる筈がない。
雷の艦長を務めた工藤君なんかがいい例だ。彼は素晴らしい人格者であり、戦争の最中であっても敵兵を助けたのは有名な話だ。
そうだ、軍人は人だ。戦うことを生業とし、人を殺めることを是としようが、それでも大和の誇りと共に命を繋いできた。故に、我々は人でいられたのだ。
だから、今更人であることを辞めるなんてありえないことだ。故に、織斑先生の言ったことは考えたことがなく、彼女の言ったとおり目から鱗が落ちる思いだったのだ。
……流石にくどかったな。
小さく、周りから気付かれないように溜息を溢す。過去は過去と割り切らねば、いつまでもあの頃のままではいられないのだから。
「あー、んんっ。山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ!」
すっかり沈んでいた思考も、織斑先生の咳払いと共に浮上する。何やら山田先生と一夏との間でやり取りがあったようだが、全く聞こえていなかった。考え事をして周りが見えなくなるのは、今の俺の悪い癖だ。考え事が出来る余裕があるというのも、ある意味で考えものだ。贅沢な話とも言うが。
「それでは、授業を再開しますね――」
そう言って、またスラスラと教科書を朗読する山田先生の声に耳を傾けながら、ちょっとぐらい一夏の助けをしてやろうと決めたのであった。
一時間目終了直後、中央の列最後尾にて。
「紫月頼む、勉強教えてくれ!」
「焼き菓子で手を打とう」
「授業料取るのかよ!」
何故取られないと思ったのか。
二時間目の休み時間、授業が終わった直後に行われた俺と一夏のやり取りがこれだった。ちょっとは冗談を言い合える仲になれたのではなかろうか。今のところ一方的だが。
それはともかくとして、現在、実はとても気になっていることがあって仕方が無い。それは何かというと、視線とその主だ。視線に嫌悪感の様なものが混じったとあれば、気にせずにはいられない。
ただ見られているだけならば無視していても良いのだが、問題はその視線の主がこちらに向かって来ているということ。それに気付いているのは俺だけで、一夏はどうやら気付いていない様子。
「ちょっとよろしくて?」
「へ?」
「いいですよ」
―――面倒は 向こう側から やってくる。
あれ、これ誰かの言葉だったか。五・七・五になって良かったのだが、ありがちな言葉故に誰かが言っていそうな気がしたが、まあ良しとしよう。
問題はそのやってきてしまいやがった問題の方だ。女の子を問題と言うのはいささか気が引けなくもないが、こればかりは仕方が無い。
話しかけてきた少女はイギリスの代表候補生にして、女子の中では唯一実技試験で教官――ただし、手加減をしていた山田先生だと、後から聞いた――を倒した上、勉学でも非常に優秀な入試主席の学生だ。
さて、そんな彼女だが、第一印象は今時の女性と言う印象を抱かせる。流行りに乗っかった見た目というわけではなく、女尊男卑思考の女性という印象だ。腰に手を当てた姿がとても様になっている。
余談だが、このIS学園は無条件で多国籍の生徒を受け入れなくてはならないため、様々な国の生徒が入り交じった学園となっている。
「まあ!なんですの、貴方のその気の抜けたお返事は。私に話しかけられるなんて、とても光栄な事ですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?そこの貴方はまだわきまえているようですが……」
一夏と俺を順に見ながら、それぞれに辛いコメントをつぶやく。人の反応を見てわきまえている、なんて評価を下すとは、此奴はやはり今時の女性というわけか。
彼女が女尊男卑だろうがなんだろうが、兎に角厄介事さえ持ってこないのであれば俺からしたらどうでもいいことだ。ただの学友、それだけ。
「それで、オルコットさん、どういったご用件で?」
「……まあいいですわ。そこの貴方、織斑一夏さんといいましたか……。貴方ISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でありながらISを操縦を出来ると聞いて、少しは期待していたのですが……期待はずれですわね。川内さんは今のところボロを出していないようですが」
「俺に何かを期待されても困るんだが……」
「……」
彼女の言葉に、一夏は消極的な発言をし、それに対して俺は言葉を噤む。思わず言葉を発しかけたが、俺が言ったところで信じてもらえなどしないから。
嘗て兵器を扱っていたなんて言っても、危ない人としか思われないから。
というか、今のところボロを出していないようですがってどういうこと?
「まあでも、私は優秀ですから、ISのことでわからないことがあれば、そうですわね……泣いて教えを壊れたら、教えて差し上げてもよくってよ?なんせ私、イギリスの代表候補生にして、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「入試ってあれか?ISを動かして戦うっていう」
「それ以外にありませんわ」
オルコットが、入試での成績を自慢するが……確かに凄いな。どんなに手を抜かれようと、俺はISを使っていては教官に勝てる気が一切しないのだが……。
戦ってみてわかったのだが、ISを用いた戦闘の場合、剣の腕だけでは本職の者には敵わず、それどころか本来の実力する出し切ることが出来ない。少なくとも、今感じている違和感をなくすまでISに乗らなければ、織斑教官には勝てないだろう。
例え手加減されたとは言え、それでも織斑教官に勝てる辺り流石は代表候補生と言うべきか。
「凄いな、弱音になってしまうけど、俺はまだ織斑教官に勝てるイメージが浮かばないよ。攻撃は当たってもあまりダメージが稼げないし……。何より、陸上でのイメージに身体が引っ張られてしまうし」
自分でも性格が悪いなと思いつつ、戦った教官の名前を出して卑屈になって言う。本来、実技試験において織斑先生が出張ることはなく、基本的には山田先生他、元代表候補生クラスの先生方が教官を務めるのだ。
しかしながら、どういうわけか俺のときに限って織斑先生が試験教官として登場し、戦ったというわけである。世界最強と名高い織斑教官が相手では、例え剣の腕に覚えがあろうと、ISの戦闘では勝てるわけがないのだ。今までの経験が違う。
それでも、俺とてかつては軍人だったのだ。剣術においては免許皆伝にまで至り、同期の奴らよりもずっと強いという自負があった。
その経験を活かして戦った結果があれなのだから、織斑先生の実力は本物と言うほかあるまい。素直に地上で、剣で戦うのであれば、俺とて簡単に負けるつもりもないし、それこそ勝ちにだっていけるのだが。
「紫月、教官って山田先生じゃなかったのか?というか千冬姉相手に攻撃を当てられるだけでも凄いんだが……」
「私のときも山田先生が教官を務めていたのですが……」
つまりはそういうことだ。俺と皆さんでは、入試の結果を比較することなんて出来ないというね。
「俺だって普通に山田先生と戦いたかったよ。織斑先生のあの機動は一体なんなのさ、人間じゃ……並の人間じゃ絶対出来ないよ、絶対」
「……命拾いしたな」
突如として背後から人が近付いてきた事を感じ取った俺は、即座に言葉を修正する。後ろから聞こえてきた声を聞いて、途中で修正できて本当に良かったと溜息を溢す。
どうやら俺達の会話を聞いていたらしい織斑先生が、俺の発言に反応して後ろから近づいてきていたのようだ。なんとも意地悪な先生だ。と、丁度チャイムが鳴った。
「全員席につけ、授業を始めるぞ……とその前に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
教卓の方へと歩きながら、クラス全員に着席を促す。そしてあたかも思い出したかのように、クラス代表について話題を持ち上げた。
ところで、クラス代表とはどういうものなのだろうか。単純にクラス対抗戦のためだけの選出か、それともクラス委員の様なものなのか。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。クラス対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……所謂委員長だな。因みに対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。自薦、他薦は問わん」
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
「じゃあ私は川内くんを推薦します」
「わたしもかわちーがいいと思いまーす」
ちくせうのほほんさんめ、普段のほほんとしてるくせに、こういうときはさらっと爆雷を投下してくるんだから。
結局その後も、俺か一夏を推薦するという声ばかりで、代表候補生であるオルコットを推薦する声は無かった。高飛車な態度、そして世界で二人だけの男性IS操縦者がいるのだから、それも仕方がないのかもしれないが。
しかしまあ、このままオルコットを推薦しないでいるのは非常によろしくない。あの手のタイプは、男が代表になっては恥さらしだとかなんとか言いそうだ。
結果として、案の定というべきかなんというべきか、オルコットは爆発してしまった。
自分が推薦されたのは困るという一夏と、他薦された者に拒否権はないという織斑先生のやり取りを遮って、彼女は言う。
「実力から行けば、私がクラス代表になるのは当然のこと。それを物珍しいからという理由で極東の猿どもにされては困ります!私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は一切ございませんわ!」
流石に猿扱いは不愉快ではあるが、小さな子供が騒いでいるだけと考えれば、まだ許容できないこともないか。
だが、あまりにもヒートアップしすぎたのだろう。ついには国そのものに対しての批判までし始めた。
「良いですか?クラス代表は実力トップの者がなるべきで、そしてそれは私。大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、私とっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって対してお国自慢ないだろ。世界一料理のまずい国で何年覇者だよ」
それに対して何故か一夏が腹を立てらしく、イギリスの侮辱とも取れる言葉を言ってしまった。
当然だが、プライドの高く、愛国心の強いオルコットが反応しないはずもなく、怒髪天を衝くと言わんばかりに、彼女の横顔は真っ赤に染まっていた。
俺とて嘗てはお国のためにと戦って、命を落とした身だ。例え国より身内の方が大事だとしても、国を守りたいという気持ちだってあった。それを侮辱されたようなものだ、俺とて腹が立つ。
しかしまあ、一夏が先に言ってしまったが為に、俺まで言うわけにはいかなくなったのだから、少し感じている怒りを飲み込んで二人に割って入る。
「はいはい、猿扱いはこの際置いておくから、二人共相手の侮辱は一回ずつってことで、これで終了ね。一夏、イラッとしたからと言って感情に任せて発言するのは子供のすることだから、今後気をつけるように。そしてオルコットさんは、自分がどういう立場で、此処がどういう場所で、自分が何を発言したのかを考えてみなさい」
割って入ったことが気に触ったのか、オルコットがこちらに振り向いて来るが……俺だって軽いとは怒りを抑えてるんだ、多少それが態度に出ても仕方が無いことだろう。これ以上不穏な発言をされても困るので、これ以上は黙れという気持ちを込めて睨んでおく。本当なら睨まないのだけれども。
それで少しは落ち着いたのだろう、オルコットは少し顔を青くして着席する。なんせまあ、イギリスの代表候補生が日本にあるIS学園にて日本の侮辱をしたのだ、下手をすれば国際問題に発展する可能性だって無くはないのだから。
流石に同級生に対して説教をしたとなると、色々と俺の立場が危ぶまれる可能性だってある。小うるさい奴なんて言われたくはないからね。
「というわけで織斑先生!二人を諌めたのでクラス代表争いから――」
「却下だ。拒否権はないと言ったはずだぞ?」
淡い期待を込めて言ったのだが、にべもなく却下されてしまってはどうしようもない。別にクラス代表になってしまってもよかったので、兎に角教室内の空気を弛緩させる事が出来たので良しとしよう。
おどけた調子で言ったのが良かったのだろう、なんて馬鹿なことを考えつつ、オルコットと一夏の2人を観察してみる、
オルコットの方はまだ少し顔が青いが、少なからず反省はしている事が伺える。一夏の方も、子供扱いされたのが効いたのか少し俯いている。きっと二人共、もう大丈夫だろう。
「ではこうしよう。織斑、オルコット、川内の三人で決闘を行い、その結果を持ってクラス代表とする」
先程のほほんさんが爆雷を投下してきたと思ったら、今度は織斑先生が酸素魚雷を撃ち込んできたでござる……。
冗談はともかくとして、これはある意味チャンスと捉える事もできる。結果によってはクラス代表にならずに済むということは、手を抜いて2人に勝ちを譲ればそれでクラス代表にならずに済むだろう。オルコットが相手だと、手を抜かずともまだ勝てない可能性だってある。なんせ相手は代表候補生だ。
しかしまあ、戦いにおいて手を抜くことなんて出来はしない、このあたりは前世の影響だろうか。
こちらの事情はともかくとして、オルコットはどうやら息を吹き返したらしく、
「川内さん、言っておきますけど、わざと負けたりしたら私の小間使い――いいえ、奴隷にしますわよ?」
「……あれ、一夏は?」
「紫月がさっきあんなこと言うからだろ……と言うか巻き込もうとするなよ!」
大胆にも人権を侵害して俺のことを所有物にすると宣ってきやがった。最も、手を抜いて敗けた場合なので、特に問題はないのだが。
まあ奴隷云々は別に構わないだろう。問題はその直後の一夏の発言だった。
「それで、ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺らがどのくらいハンデつけたらいいのかなーと」
きっと一夏は、男が女相手に本気で力比べするのも、と考えたのだろう。しかしだ、一夏の発言はあまりにも馬鹿馬鹿しいことこの上ないものだ。
案の定、クラスからドット爆笑が巻き起こった。
「……一夏、いくら相手が女性だからと言って、武術の有段者相手に初心者がハンデをつけるなんてしないだろう?」
どうにも例えと言うのは難しい。
しかし、相手は代表候補生である。ということは、それ相応の努力をしてきた上で実力を認められているということだ。動かしてからまだまともに訓練を受けていない俺達がハンデをつけるなんて、あまりにも傲慢が過ぎるのだ。
そんな一夏の発言も大概だが、俺の直後の発言もまた頭を抱えたくなるものだった。
「それに、男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
何故、彼女はそう思うのだろうか。
確かに、男のほうが女より強いというわけではない。当然、女だから男より強いという話でもない。ISに乗れるからと言って、女の方が強いと言うのはあまりにも早計が過ぎるというものだ。
強い兵器を扱えるから強いのではない。強い力を正しく、適切に使いこなせる者が強いのだ。
残念ながら、同年代となっている俺が言ったところで、彼女たちの考えを変えることは出来ないだろう。まだ幼い頃から女のほうが偉いと教わって成長してきたのだ。
そう考えると、ある意味彼女たちもまたかわいそうではなかろうか。間違いを正してくれる者が存在せず、間違った考えが常識となった世で生きてきたのだから。
「……じゃあハンデはいい」
「ええ、そうでしょう。むしろ、私がハンデを付けなくて良いのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男性はジョークセンスだけはあるのね」
まあ若者達のやりとりはこの際置いておくとして、俺は俺で誰か指導してくれる人を見つけなくてはと考える。
だが、此処で誰に頼るかというのが問題となってくる。先生方に頼むとしたら、一番は織斑先生だが忙しくてあまり時間を割いてもらえるとも思えない。何より、クラス代表決定戦に担任があまり干渉するとも思えない。山田先生も同様だ。
では同じ生徒に頼むとしたら、敵であるセシリア・オルコットか。流石にそれはやめとくほうが良いだろう後々面倒臭い未来しか見えない。
そうなると、上級生のお姉さまに頼むか……しかし、適当に頼んだ人が学年最弱とあっては目も当てられない。
―――じゃあ、学園最強なら?
世界最強が織斑先生だとしたら、学園最強はこのIS学園の生徒達の長である生徒会長だ。生徒会長ということは、男である俺でも今後接触する可能性はある。
ならば、これを機にこちらから出向いて頼んで見るのも良いかもしれない。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。織斑、オルコット、川内はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
今回の決闘騒ぎが収まったことを確認し、授業を始める織斑先生の声を聞きながら、これから決闘までの過ごし方について思案し始めた俺だった。
凄く中途半端な終わり方な上に内容も滅茶苦茶……。
未だ明記していませんが、主人公は剣の達人です。
前世では戦争があることを知っていたので、凄く真面目に剣術に取り組んでいた結果、免許皆伝に至りました。
次回以降少しずつ実力が見えてくると思います。
どうでもいいけどキーボード買い替えて見ました。
メカニカルキーボード、良いですね。
そしてグラボの交換作業もしなきゃ……。