REBORN DIARIO 作:とうこ
他方で、山本武の記憶の裏にも、彼にまつわる幾つかの情報が流れ込んだ。
聞いたことがある……。
ヒバリは、気に入らねー奴がいると相手が誰だろうと、仕込みトンファーで滅多打ちにするって――……。
「なんだこいつ!」
後退した獄寺隼人が、得体の知れない相手に吐き捨てる。
「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いだ。視界に入ると……咬み殺したくなる」
その言葉に、雲雀恭弥以外のこの場にいた者達の肌が粟立つ。紫乃は身動きがとれなくなった。
「へえ、初めて入るよ、応接室なんて」
そんな場面に、沢田綱吉がやはり何も知らずに雲雀恭弥の視界に入る。山本武が咄嗟に制止する。
「待て、ツナ!」
「え?」
しかし先に雲雀恭弥の牙が光る。
「一匹」
いきなり顔面に凄まじい攻撃を受け、わけもわからず沢田綱吉が奴に倒された。その身体は応接室の床に投げ出される。
その衝撃の光景に導火線がプツリと弾けて逆上した獄寺隼人が今度は殺る気を見せたが、あえなく雲雀恭弥に瞬殺されてしまった。
二匹目を、雲雀恭弥がカウントする。
殺気を抑えた室内に、二人があっという間に倒され山本武が取り残された。
目の前の雲雀恭弥に屈辱と怒りが込み上げる。
しかし、視界の端に身動きがとれない紫乃を見て、雲雀恭弥と格闘する間際彼女へとこう叫ぶ。
「逃げろ! 伊波ッ!」
山本武の声に、ハッと意識を呼び戻される。
彼の言う通りだ。紫乃は、山本武が雲雀恭弥の意識を逸らしてくれている隙に応接室を飛び出した。
その直後、山本武が雲雀恭弥に倒された。
同じだと、紫乃は校舎の廊下を走り続けた。記憶に焼きつけた光景と重なっていた。
あの日も、身体が竦んで、目を凝らして、見届けていたんだ。破滅の景色を。
言い知れない悲しみを含んだ涙が、彼女の視界を濁した。
――――応接室に三匹の草食動物の抜け殻を転がした後、雲雀恭弥は扉の方へと視線を投げた。
逃げられたか……。
そこにいない少女の姿に、雲雀恭弥は舌打ちした。
しかし、次はもっと容易く彼女を捕まえられるだろうと確信していた。その時が来るのを心待ちにしていた。
さて、そろそろ起きてくる頃だ。
取り逃がした彼女の分まで、血を吐いてグチャグチャになってもらおうと沢田綱吉に近づく。
「――――そこまでだ」
雲雀恭弥が暴走しかけた時、男の声が応接室に響いた。それはとても幼い子供のような声である。
その声がして、雲雀恭弥が機嫌の悪い顔で窓際を見ると、いつの間にか開いていた窓の柵に子供がいた。否、子供よりまだずっと幼い赤ん坊か?
「やっぱつえーな、お前」
「君が何者かは知らないけど、僕は今機嫌が悪いんだ。横になって待っててくれる?」
その台詞を言い終わらないうちに雲雀恭弥のトンファーが猛威を振るう。小さな的にめがけて一直線に繰り出された一撃だが、鉄同士がぶつかる激しい音とともに、雲雀恭弥のトンファーは十手で易々と受け止められた。
「ワオ……素晴らしいね、君」
殺気立った男の眼が見開かれる。
その一瞬にも伊波紫乃のことが頭から抜け落ちるほど、雲雀恭弥はその目の前の赤ん坊の皮を被った"何か"に理性を奪われた。
しかし、胸躍る瞬間はそう長くは続かない。
お開きだぞ、と同時にその手の火花を投げ落とした。全員素早く応接室から退避する。
爆発の直後、応接室は黒煙に包まれ……大破した。