REBORN DIARIO   作:とうこ

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切り札

 翌日の昼休みに沢田綱吉がそそくさと教室を離れていくので、紫乃は周囲に気づかれずその後ろをついて行った。

 裏庭に出るようなので、人気のない校舎の絶好のポジションを見つけてそこから見守ることにする。換気で開けられていた窓からは、真下の会話もよく聞き取れる。

 

 あとから獄寺隼人と山本武がやって来たが、ランボの教育係を決めるとリボーンが言い放ち、沢田綱吉の右腕を賭けたタイマンに白熱している二人。苦労するな、沢田綱吉。

 

 そして案の定、獄寺隼人がランボを泣かせ、山本武の豪速球が追い討ちをかける。ランボの顔面が跡形もなくなってきているのに多少同情する紫乃である。

 

 泣きじゃくるランボのもとに、新体操部の交流会があり学校に来ていたという三浦ハルが割り込みランボの面倒を見ている。向いてないなダメンズ、と紫乃が哀れみの目を向ける。これでは三浦ハルが沢田綱吉の右腕か、とよくわからない展開になってきたところに、10年バズーカの登場だ。

 

 白煙に囲まれる中、視界が晴れると三浦ハルが10年後のランボを抱えていた。当人らもわけがわからず、三浦ハルの腕力で支えきれなかった10年後のランボが彼女の膝で尻もちをついた。やれやれと小言を言っている。

 どういうわけか知らない男の人を抱っこしていた三浦ハルは、狼狽えつつも牛柄のシャツがはだけた男に全体的にエロい! と言い放っている。「これはファッションで……」と弁解している大人ランボだが、散々だな。

 

 恥じらう三浦ハルに同調して、獄寺隼人が大人ランボにトドメの一言を浴びせている。惨めだな、大人ランボ。心身ともにズタズタにされた大人ランボの背中が悲しそうである。

 

 フィナーレに、ランボの落としたツノを拾った山本武だが、ついと言いながら大人ランボの額にクリーンヒットさせてしまった。

 そこで遂に心が折れた大人ランボであった。十年後も報われない男である。

 

 結局こうなるのか……と落ち込む沢田綱吉を見届けて、教室に戻ろうとした時だ。

 予定なら、泣きじゃくる大人ランボを見て、結局沢田綱吉が教育係にさせられるオチなのだが、校庭にいるリボーンは、おもむろに彼女が潜んでいる校舎の方向を見上げた。

 

 

 

「んじゃあ、お前はどうなんだ。伊波紫乃」

 

 踵を返そうとした足がピタリと止まった。

 校舎の真下では、リボーンのその問いかけに沢田綱吉らが目を丸めている。

 

「えっ!? 伊波さん!?」

 

「伊波! どうしてお前がこんなとこに!」

 

 校舎を見上げた彼らは、三階の廊下に佇む顔見知りの女子生徒の姿を見て各々に声を上げた。

 

「……」

 

「始めっからそこで見てたんだろ。俺がセッティングしてやったんだ。会話もバッチリ聞こえてたはずだぞ」

 

 ……誘導されていたのか。しくじったな、などと言っていても仕方ない。

 それにやはり狙われていることは確かだろう。

 

 

「……私はたまたま通っただけだ。それより、君は誰だ」

 

「俺はそこにいるダメツナの家庭教師のリボーンだ。マフィア・ボンゴレ九代目の命を受けて遥々イタリアからやって来た殺し屋だぞ」

 

 彼と彼女にはこれが初対面ではないが、このやり取りには重要な役割がある。彼女の切り返しにはリボーンも淡々と名乗り出た。お馴染みの常套句である。

 

「それより、伊波紫乃、ランボの教育係やらねえか? 今ならツナの右腕になる特権が付いてるぞ。こいつはボンゴレ十代目後継者最有力候補だからな」

 

「伊波も一緒にマフィアごっこやろうぜ!」

 

 今度はうるさいのが割り込んできた。ごっこであろうとこの何枚も着込んだ仮面男と関わりたくない。

 流れに持っていかれそうな会話をさっさと打ち切り、紫乃は開け放たれた窓から彼らを見下ろしている。そしてレンズ奥の真っ赤な瞳に彼らの一人一人の姿を捉える。

 

「話は聞いた。子供のお遊びに付き合うほど私は暇じゃない。ここにいるのも風紀委員会の業務の一環だ。雲雀恭弥に告発されたくなければ全員速やかに解散しろ」

 

 校内巡回だと名義を打って、彼らに警告する。

 青ざめる者もいれば、思いのほか動揺することもなく落ち着いている者もいる。風紀委員長のあの男を想起させる彼女の言葉にピクリと反応している者もいた。

 

「伊波さんって、風紀委員なの……?」

 

「その通りだ。あの男に見つかり咬み殺されるか、ここで私に見逃してもらうか、さっさと選べ」

 

 体育祭以降、親密にしている二人だったが、本人からの決定的な言葉に皆が固まっている。

 無理もないが、紫乃には一刻も早く彼らに立ち去ってほしかった。さもなければ、ここは奴の縄張りだ。

 

 

 

「紫乃」

 

 

 並盛一帯を束ねるこの男に、すぐに嗅ぎつかれた。やはりこの男の縄張りで身を隠すことは無駄な足掻きか。紫乃はここはもう彼に委ねることにした。

 

 廊下に佇む紫乃と、校舎を見下ろすと校庭に集う群れを見て、俄に機嫌が悪そうだ。しかし、その中に見つけた赤ん坊と、一人の男の顔が、雲雀恭弥の考えを改めた。

 

 

「行くよ」

 

 それだけだった。校舎の奥に彼女を連れて消えていった。

 

 思いがけず雲雀恭弥に見逃された一同は、安堵を漏らしたり腰を抜かしたり舌打ちしたりなど、様々な反応を見せた。

 校庭の地面に座り込んだ沢田綱吉は、ふと隣の山本武の顔を覗き込んだ。奥歯を噛み締める険しい友人の顔を、彼は少し悩んだ末に見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 

「伊波紫乃の切り札はヒバリか」

 

 やりにくくなるな、とリボーンはこぼした。今の時点では無理に伊波紫乃と関わると、雲雀恭弥の報復に遭うかもしれない。リボーンなら問題ないが、彼は沢田綱吉のファミリー候補だ。慎重に扱わなければならない。

 

 その時を、今はまだ先送りにするしかないと、リボーンは小さく落胆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【運命には、抗えない。

 否、運命に抗う者に待つのは破滅だ。

 彼もまた、絶望の淵で抗おうとした。

 

 たったひとつの行き違いで、運命に翻弄され最愛の人の手で破滅に追い込まれたあなたが、あまりにそれは惨めで、あなたの身体が動かなくなるまで、何も出来ずただただ嗚咽を堪えていた。

 

 汚い大人達の、運命に弄ばれた。

 それでもあなたは、最期まで抗おうとした。

 その身を焦がして、訴え続けた。

 

 あなたを見捨てた者達に報復しよう。

 大丈夫。私のこの知識で、あなたの運命に報いる。

 

 

 沈黙に耐えた者が勝ちだ。私は墓場まで持っていく覚悟だ。君はどうだ。おしゃぶりの運命に選ばれし者よ……】

 

 

 

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