REBORN DIARIO   作:とうこ

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新生活が始まりました。
ペースは落ちますが、ゆっくり更新していきます。



霧の男

 草壁哲矢がやられたのを紫乃は病院で見届けた後、人知れずところで動き出す――。

 

 

 その頃、沢田綱吉の方は片道で偶然すれ違った雲雀恭弥の報せを受けすぐに並盛中央病院内の笹川了平の病室へと駆け込んだ。

 幸い彼と会話をするのに支障はないが、襲いかかってきたその人物に一方的に負かされ挙句には差し歯まで抜かれていた。

 例の並中生の間で大事となっている無差別襲撃事件と重なっている。彼もその標的にされたのだ。

 

 一体どうして……と沢田綱吉の方が深刻そうに頭を悩ませるが、襲われた本人の方はあまり気にしていないので、心配してお見舞いに来たことを彼は少しばかり悔やんだ。

 しかし、こんな頭の螺がズレている先輩でも、憧れの笹川京子の兄上である。

 妹を心配させないよう無茶な作り話で誤魔化す彼の姿には思わず胸を痛め、同時に目の前で涙ぐむ想い人に、自分は気の利いた台詞を言ってあげられることができず彼は手持ち無沙汰のまま病室を静かに出てきた。

 

 身近な人が標的にされ、彼も少なからず混乱していた。そこで同じように見舞いに来ていた同級生から詳細を聞かされるや、ようやく無差別に先輩達が襲われ始めている内情を知った。

 なんでそんな恐ろしいことにー!? とショックを隠せないでいたところだ。病院の廊下を通る風紀委員会副委員長の草壁哲矢達の会話を偶然盗み聞きする。あの時の雲雀恭弥が、どうやら敵地に乗り込んだという朗報に、これで万時解決だとダメツナ達は抱き合って喜んでいたが、彼の家庭教師だけは徐々に迫る得体の知れない暗雲を予期していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 標的にした男の変わり果てた屍を、楽な仕事だったと余韻に浸かりながら眺めていたところだった。

 六道骸のもとに息を殺して静かに迫る黒い影、予期せぬ刺客の気配に彼はすっかり自身の中に思い描いていた幻想に取り憑かれていたことを自覚する。

 

 

「おや……」

 

 並中の制服を纏うその女子生徒の姿に、六道骸は嘆息した。

 

「これはこれは、珍しい客人が訪ねてきたようだ。麗しいお嬢さん、歓迎しますよ」

 

 会場の玄関前で直立不動のままこちらを睨む彼女の姿を視界に収め、快く迎えた。

 眼鏡の越しの顔は正直パッとしない印象だったが、よく通った鼻筋に秘事を固く閉ざす魅惑的な唇……そして、彼女の目つき……見つめるだけで言い知れない闇を覗くような不安を掻き立てられる眼差しだ。

 吸い寄せられるように彼はその女と視線を絡めた。どこか自分と似たものを感じる。目を惹く真紅の赤に染まり、その美しさとは裏腹に闇の部分を見てきた瞳だ。

 

 廃屋内のガラクタの陰に身を潜んでいたのを六道骸に見破られ彼の眼前に自ら姿を曝した女の容姿を見て、六道骸は事前にインプットしていた情報を掘り起こす。

 

 

「君は確か……地べたに這いつくばるこの男と、親密な関係のようでしたね……伊波紫乃……もしやあなたが……」

 

 在籍名簿の顔と名前を一致させると、彼の果実頭に面白いことが浮かんだ。今まで見落としていたひとつの可能性に気づいて、思わず愉悦をこぼす。

 

「クッ……ハハッ……それならそれで傑作だ。女性であるからと、ボンゴレ十代目である可能性を否定することはしませんよ。歴代ボンゴレのボスには血統があれば女性でもなれたようですし」

 

 はなから冗談でこの男が言ってるのか真意は定かではないが、否定しておく。

 やはり脱獄直後で、まだ十分な情報収集をしていないようだ。

 

「残念だが、私はボンゴレの血統ではない」

 

「おや、ハズレでしたか。いいえ、当たりだ。ボンゴレを知っているのか」

 

 やはりボンゴレの情報は伝わっていないようだ。やけに反応が機敏だった。

 紫乃は今更包み隠すことはないと、廃屋のアジトにのさばる不気味な笑みの男を正面に睨む。

 

 

「確認しにきただけだ。とは言っても、確認するまでもなかったがな」

 

 紫乃は自身の足元を見下ろす。その足元に倒れ伏せる桜クラ病患者を、道端に転がる石同然に見下ろすのであった。

 

 一方的にやられたであろう男の変わり果てた姿を前にしても、思いのほか動揺していない。六道骸はじっくりと腰を据え観察していた。

 対面する女の冷静で素っ気ない反応にはつくづく疑問だ。彼のリサーチによると彼らは男女の仲に近しい関係であったのは間違いない。

 しかし、目の前の彼女は、まるで六道骸の仕打ちに堪えていないように見える。むしろ、何を安堵しているというのだ?

 

「目の前で倒れている男は君が慕った男ではないのですか?」

 

「この男の身勝手には辟易していたところだ。死なない程度に好きにしてくれて構わない」

 

 死ななければどんなにいたぶられようと骨を砕かれようと、この男なら立ち上がるだろう。彼の孤高のプライドがそうさせる。

 

 まるで自分がこの女の思惑通りに駒を動かされているようだ。そんな違和感を会話と言動の節々に感じていた。

 六道骸は、自身の眸子に刻まれた六の文字に女の姿を焼きつけた。

 

 

 どれほどの男が、彼女の特殊な色彩に魅入られ、騙されたのだろう。罪深い眼差しだ。

 己の忌々しい二色の色彩と対比させながら、六道骸はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

「……安心しろ。私は、お前の敵ではない」

 

 

 その女の言葉は続く。

 

 

 

「――――が、味方でもない」

 

 

 その語りかけによる真意は、彼女の純血よりも濃く海底より闇に魅入られた色彩からは読み取れなかった。

 

 

「クフフフ、君が僕の味方かどうかなど関係ない。ここで殺すのですからね」

 

 口調を早め、心臓の奥から高鳴る鼓動を聞く。静寂の中でその声明は大きく反響する。

 己が何の焦燥感に駆られているのかはわからない。ただ、目の前の蔑むような目線を寄越すこの女が気に入らないのだ。

 

 

 死に際に後悔するがいい。

 六道の目に不敵な笑みを浮かべ、紫乃のもとに実体のない脅威が、すぐそこにまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちぎれた相棒の尻尾を見つめ、思考に集中していたところに病院前で襲撃された草壁哲矢が担架で運ばれてきた。その時の大勢の者達の衝撃も計り知れないが、集中治療室に搬送される途中の草壁哲矢を捕まえ、そしてリボーンはあの事を確信する。

 

 敵の思惑に勘づいたなら、標的である自分の生徒を動かさざるを得ない最悪の事態になり得るかもしれないと、リボーンはとうとう腹を括ることにした。

 

 

 その裏には、もしやあの女が事件の一端に関与しているのではと、言い知れない大きな不安の種があった。

 

 

 

 

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