REBORN DIARIO   作:とうこ

58 / 92
故障

 神妙な顔つきの赤ん坊にたじたじになる沢田綱吉だった。深刻な顔で何を言い出すかと思えば、喧嘩を売られていると突拍子もなく宣言するこの家庭教師の赤ん坊に彼は一体どういうことやら、混乱する現状の中でどうにか不安を取り除こうと彼の言葉に耳を寄せた。

 

 すると小さな赤ん坊は彼にあるものを寄越す。ランキングだ。マフィアの情報屋と名高いランキングフゥ太が密かに作成していた『並盛中ケンカの強さランキング』に沢田綱吉は目を通す。作成日はつい最近のものだ。

 赤ん坊に促されランキングにある並中生の名簿の下位に並んだ名前を見て、これまでに襲われた並中生のものと完全に一致している。得体の知れない黒の孤影が身体を這い上がるような嫌悪感がした。これはカウントダウンだと言う。ボンゴレである自分をおびき出すための……。

 

 そんなことに巻き込まれる覚えはないが、現実に今直面している問題だ。

 自分にはどうすればいいものかわからない。しかし、ゆっくりと名簿を読み上げる中でそのランキングの最上位にある人物の名前を認識して、沢田綱吉は衝撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らがランキングの存在に勘づいた他方で、黒曜では彼と彼女の平行線の睨み合いに終止符が打たれようとした。

 

 彼女の頭上にまで迫ろうとした実態のない攻撃は、確かに彼の六道の能力で創造した完全無欠のものであった。

 しかし、それはまるで最初からその存在を肯定されることもなく、目が覚めると忘却の彼方に忘れ去られる不安定な存在のように、彼女の目前ではらりと霧散した。

 

 彼が仕掛けたはずの地獄道の幻覚は、彼女のあの目に見透かされた。

 並の者がまぐれで避けられるような代物ではない。彼女は確かに彼の実態のない攻撃を見破った。幻覚の攻撃を無効化できる者はそれに耐性を持つものだけ。大抵なら専門に幻術を操る者か、しかし術者ならこんな局面には自身の幻術で対抗するのが定石である。

 

 彼女は術者ではないのだろう。しかし、六道骸ほどの男の幻術にも耐性を持つ人物……。

 

 

 

「ほう……幻術に耐性があるのか……面白い。こちら側に付きませんか? あなたならきっと僕と分かり合えるはずだ」

 

 このままでは一筋縄ではいかないと彼は察した。彼らの一番の目的はボンゴレである。まだ敵の戦闘能力も未確定の現状で、得体の知れないこの女とやり合うのはリスクが高い。

 ボンゴレ狩りに向かわせた彼らが戻るまで、ここで上手く会話に縺れ込ませこの女の情報を引き出すことができれば幸いだが、六道骸の誘いに対する彼女の返しは冷めたものだ。

 

「二度も言わせるな。私は敵でも味方でもない。あくまで君達を見守る立場に在る。そして、確信があるからだ。ボンゴレ十代目はファミリーとともに逆賊を討つと」

 

 やはりこの薄情な女は見透かしているのか。応じないなら仕方ない。無駄な労力は浪費したくないが、こうなれば自ら重い腰をあげるしかないようだ。

 どうやらボンゴレの情報を持ってはいるが、口は固いようだ。自分達と同じく何か魂胆があるように見えるが、交渉決裂ならば殺すしかない敵。

 彼女から聞き出さずとも己達でボンゴレ十代目の情報は手に入る。

 

 

「気に入りませんね。やはり殺します」

 

「君に雑魚を相手にしている暇はあるのか?」

 

 土埃が舞うのを長い年月に廃れたカーテンからの木漏れ日が反射する。

 外の光から背を向けた彼は、対照的に僅かな木漏れ日を受ける女の、背後の闇に潜む猛獣の姿をその視界に入れ、愉悦を漏らす。

 

 どうやら早いところ自分の仕事を終えて退屈しているようだ。ちょうどいい。いい土産がここに落ちている。

 

 彼女の目を盗み、その闇に潜む猛獣に合図を送る。

 

 

「いッたらきいいぃ!!」

 

 紫乃の背後の隙を突いてそこから出てきたのは、ウルフチャンネルを装着済みの城島犬だ。

 

 その女のガラ空きの首筋へ噛み付こうと素早く飛びかかる。上手く隙は突いていた。身体能力が桁違いのウルフチャンネル、普通なら避けきれるはずもない。

 

 

 猛獣の牙が涎を垂らしながら彼女の首筋に食らいつこうとする。彼女の顔より大きな獣の手鈎がすぐそこまで迫ろうとした。

 その刹那、紫乃は僅差で体勢を変えた。その手には仕込んでいた拳鍔が握られている。のうのうと懐に入り込んでくる刺客に、素早くその一撃を振るう。こめかみにヒットしたそれは紫乃のふた周り大きな図体の獣を広い場内の壁にまで吹っ飛ばした。

 

 その束の間に起きた一部始終を悠々と鑑賞した六道骸は、あの不気味な笑みを浮かべて紫乃に驚嘆した。

 

「ほお……見かけによらず野蛮な小娘だ」

 

「加減はした。少し経てば起きるだろう。満足か?」

 

「ええ、あなたの手の内を見られたのはいいことだ。その格闘スキルなら、さすがの僕も無傷では済まないのでしょうか」

 

 城島犬を囮に上手く彼女の謎に包まれていた手の内を確認することができた。しかし攻略となると現時点ではまだ条件が合わない。ボンゴレを手に入れる前に無駄な疲労は避けたいところだ。

 

 城島犬を殴った血が拳鍔とともに彼女の手を汚すが、頬にまで飛び散った血を顧みず彼女はこんな提案を彼に持ち込んだ。

 

「君が思うよりボンゴレ側はここに迫ってきている。私は君に手を出さないし、邪魔もしない。優先順位は明白だが、どうする?」

 

 その言葉を信用するほど、これまでの彼も能天気ではない。幼少に受けた傷が彼の心までも侵略した。もう誰も信じない。自分を利用する奴は、逆にその身が擦り切れるまで利用してやる。

 現時点で彼女の提案に六道骸は頷いておく。泳がして隙を見せたところを、次は仕留める。

 もうすぐボンゴレを手にする彼に、恐れるものなどない。

 

 

 

 

「いいでしょう。僕の計画に支障はない。ないものは食いこませるまで……」

 

 絶対的自信と自負をその六道の瞳に宿す。六道骸という男は、狂気的で情熱的な野心を抱いた曲者のようだ。

 

 

「その前にお聞かせ願えますか? あなたは、何者だ」

 

 男にそう問われ立ち竦む紫乃は、言い淀んだ声音で細々と呟いた。

 

 

 

「きっと何者にもなれないなり損ないだ。なり損ねたんだきっと。あの人の娘に……」

 

 

 まるで答えにならないその女の応答に、六道骸は眉を顰める。

 彼女にどこか自分と重なる片鱗を感じていたが、気のせいだったのか。序盤に彼女に語りかけた言葉は、あながち冗談ではないような気がしたが、むしろ一生相見えない部類かもしれない。

 

 

「君も、知っているだろう。この世は残酷なんだ。たとえ何度輪廻を廻ろうと、君がずっと見てきた世界の闇は消えない」

 

 どこまで行っても、光が当たるところに闇は存在する。それはこの世界が均衡を維持するための真理というものかもしれない。

 

 まあ、この男ははなから世界平和など望んでいないようだが。己の野望が叶えばそれでいいのだろう。

 

 

 君にはどこまでも突き進んでほしい。

 あの軟弱なボンゴレの十代目が、復讐に人の道を外した君を、正しい方向に必ず導いてくれる。だから、安心して、突き進むところまで、今は間違えればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、エラー(error)……?」

 

 

 

 ランキング最上位に書かれていたのは、"error"というたった五文字の英語表記のみ。

 中学生英単語を理解するのも授業ではままならない沢田綱吉だが、マイブームのゲームに出る英単語はこの時偶然読むことができた。

 そしてフゥ太のランキングに、そんなゲームのような表記があるのか?

 

 彼の単細胞はさらに複雑に混乱を招くことになり、自分の頭では手に負えないと言い淀んだ声色で自身の家庭教師に助けを求める。

 

「な、なにこれリボーン? 故障?」

 

 

 生徒の不安の声に耳を傾けることはなく、彼の脳裏には終始あの女の影がチラついていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。