REBORN DIARIO 作:とうこ
気配に反応した紫乃は咄嗟に身構えた。今まで肌で感じたことのない禍々しいものだった。
何が起きている……!? 状況が理解できないまま、現れたその者達の姿に息を飲んだ。
「コノ男ハ、連レテイク……」
復讐者……!
彼らの黄泉から降臨したかのような格好と、圧倒する存在感に、紫乃も咄嗟に動けなかった。何よりその死骸を包帯で包んだような容貌から紫乃を捉える目は、この世のものとは思えない恐怖を彼女に植え付けた。
思いがけず邂逅したことで、多少の動揺もあった。しかし、予想より随分と早い登壇だ。これも、最悪の事態の予兆なのだろうか。
「…………アノ男ノ、ニオイ、ガスル……」
復讐者が、そんな小言を言った。
少なくとも紫乃の存在が、影響を及ぼしている。復讐者の足を止めてしまったのは、彼女の失態だ。紫乃の脳裏に、透明のおしゃぶりをぶら下げたあの赤ん坊が過る。
その刹那、突風が切るように視認できない何かが横切る。鉄臭い刃物のようなその攻撃が彼女の身体を掠ると、同時に熱を持った生々しい液体が傷口を裂いて噴き出す。
「……人間、カ…………」
復讐者の一人が撃った鎖の攻撃が、紫乃の頬と腕を骨まで深く抉る。傷口から見慣れた真っ赤な鮮血が辺りに飛び散る。それは紛うことなき自身の血だ。
猛烈な痛みに身体の自由を持っていかれるが、ここで倒れるわけにはいかない。身体を奮い起こし、意識を覚醒する。
視界に入る三体の復讐者を睨む。視界が既に霞み始めている。逃げなければ……それだけが紫乃の頭に過ぎる。
奴らは脱獄した六道骸一味を監獄に連れ戻す仕事が残っている。夜の炎のチャージを踏まえると、紫乃をここで深追いする危険は侵さない。
それを念頭に置き、復讐者から逃げ切るタイミングを図った。二度目の攻撃を負えば助かる余地はない。それに、この場にとどまるほどに彼を巻き込む可能性がある。
膠着状態の最中、紫乃は死に物狂いで復讐者のもとから逃げ出した。殆ど感覚のない腕を振り上げて、林の中をどこへ向かうかもわからないまま走った。
気配を探るが、復讐者は追ってこなかった。夜の炎で紫乃の居場所までワープする危惧もあったが、彼らは当初の目的を優先したようだ。
どこへたどり着いたかもわからない樹海の中、とうに体力が底を尽き、足が縺れるまま崩れ落ちる。
傷口を見れば、彼女の片腕を赤に染める血が溢れていた。長く血を垂れ流し続けて、意識が朦朧としていた。
これくらい、今後の彼らに待ち受ける過酷な運命と天秤にかければ、なんでもない痛みだ。
「っ………………クソッ……!」
樹海一体に響き渡る声で吐き捨てた。
彼女にも、彼女の知らないところで何が起きているかはわからない。ただ、自分の存在は、呪われている。全ては、あの瞬間から――……。
どうして、どうして殺したんだ。あなたにとって、彼女はッ…………。
彼に触れた左の手を、禍々しい赤い血の色に染めて、紫乃はただ祈るだけだ。夕日のように真っ赤に燃えたあの日の景色を悼みながら、紫乃は大空の覚醒を望み続けた。
復讐者に至っては回収するかは微妙。余力がない。