REBORN DIARIO 作:とうこ
【六月二十九日
その数日後にも山本武の自殺騒動が起きる。しかし、沢田綱吉のまるで謝罪のような説得で山本武を救った。私も後列に同席していたが、ダメツナの彼らしい心に染みる言葉だと思った。】
その日の放課後にも、沢田家にダメツナと帰宅していた彼の家庭教師リボーンは、あることについて逡巡していた。
「なあ、ツナ」
「な、なんだよっ」
山本武と友達になれたことですっかり浮かれていた沢田綱吉は、不意打ちの鬼の家庭教師の呼びかけに恐る恐る返事を返した。
リボーンは少し考えた後、沢田綱吉にこう聞き返した。
「お前んとこのクラスにいる伊波紫乃についてどう思ってんだ?」
またボコられると構えていた沢田綱吉は予想外の質問にヘンテコな構えのまま固まった。
「え……? い、伊波さん?」
最初はリボーンが何を言っているのかわからなかったが、自室の天井を見上げぼんやりとクラスメイトの伊波紫乃について考えを触れてみた。
静かで、教室でもよく一人で窓際の席にいる女子生徒だ。ダメツナの頃、なんとなくそう思っていた。自分のように孤独ではなく、自ら一人を選んでいるような凛とした横顔に少し憧れていた。
「う〜んと……よ、横顔が綺麗な子だよね?」
「バカツナ!」
「いでーっ!」
やっぱり殴られた! というか蹴られた! 理不尽と叫びたそうにしている沢田綱吉を無視してリボーンは言った。
「俺はそんなこと聞きたいんじゃねーぞ。ツナの変態」
「なんでだよ! 俺は別にそんな意味で言ったんじゃ……!」
全く下心などはなかったが、そう言いかけて顔から火が噴き出した。
「い、伊波さんがなんだよ? まさか伊波さんまでマフィアにするとか言い出すんじゃ……女の子だぞ!?」
横でオドオドしながら騒がしい沢田綱吉の親指を第二関節まで曲げて一旦黙らせたところで、リボーンは一人考え込んでいる。
ほんの数日前にファミリー候補を探して偵察した沢田綱吉と同じクラスの女子生徒だ。
肩で切り揃えた黒髪、重い前髪、銀縁の眼鏡によく見ると鼻筋の通った端正な顔立ち、運動を知らない白い透明肌、校則に従ったスカート丈の制服……。
どこを見ても真面目な優等生だ。
中身も外見に伴い、成績は学年で十番以内、教師からの信頼は厚く、沢田綱吉にも是非見習ってほしいくらいだ。
彼女を数日後につけた時も、図書館で自習をする勤勉さを見せていた。
リボーンは数分程度観察し、ママンの夕食に間に合うよう早めに切り上げたが、その印象に残っている生徒のことを逡巡する。
何故だ。彼女のような生徒は普通なら影に埋もれるタイプだ。何故この時も印象に残っているんだ?
常に教室で一人でいることは知っているが、彼女の性格ならそう違和感のあることでもない。クラスに一人くらいそういう類の生徒はいるものだ。女子生徒というのが少し珍しいくらいだが。
そういえば、数日前の山本武の自殺騒ぎがあった時も、さほど興味のない素振りをしていたのに屋上には来ていたな、とリボーンは思い出す。さすがにクラスメイトの自殺は彼女も心動くものがあるのか。
待てよ……確か球技大会の時も、彼女は観覧席に来ていた。球技大会の行事は彼女の性格なら欠席するはずだが……。さらにリボーンは、初日にあった騒動にも彼女が道場に来ていた姿を思い出した。
全て沢田綱吉が死ぬ気弾を撃たれた場面である。
その女子生徒の顔つきを思い起こして、リボーンはふと気づいた。
彼女の瞳。まるで眼鏡越しに隠すかのように鋭利で真っ赤な伊波紫乃の"目"だ。
それはマグマのように、錆のように、血管を裂いて噴き出した鮮血のように赤い赤い目をしている。
リボーンは、どこかであの目を見たことがある気がした。昔にどこかで……。
しかし、どこで見たと言うんだ? あの女を……。
「リボーン?」
夕食の時間を知らせに来た沢田綱吉の声にも反応せず、その赤ん坊は伊波紫乃という女に思考を奪われた。