REBORN DIARIO   作:とうこ

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雷への嫉妬 4

【雷の対決、レヴィ・ア・タンが、ギリギリのところで白星をあげる。

 

 そして、沢田綱吉の不正行為により、大空のボンゴレリングがXANXUSの手に渡った。

 

 

 この日、一晩中雨が止むことはなかった。】

 

 

 

 

 

 人気の全く寄り付かない並盛中学校の屋外では、二大勢力がぶつかり、激しい火花を散らした。

 その話題の中心にあるのは、ボンゴレの次期後継者を争うリングの行方と、あの方の安否に纏わることだった。

 

 

「XANXUS! 貴様! 九代目に何をした!」

 

 今まで何とか押し黙っていた沢田家光がついに声を上げた。剣幕を帯びた顔は息子の前で取り繕う余裕はなく、XANXUSから受ける仕打ちと怒りに引き攣っている。

 まさか、まさか、あの方の身に何かが……。

 

「ぶはっ! それを調べるのがお前の仕事だろ? 門外顧問!」

 

 ヴァリアー側の人間なら当然知るボンゴレの座を狙った今回の計画の一端である。当然それを知る者は、紫乃も例外ではない。

 

 沢田家光の超直感はXANXUSの言葉に、激しく警鐘を鳴らす。痛みさえ伴う暗黒のベールに包まれた不安材料に、沢田家光の顔にも焦りの色が窺える。

 

「きっ……貴様まさか……!」

 

「落ち着け、家光。何の確証もねーんだ」

 

 彼をそう宥めるのは、友人でもあり、あの方とは旧友でもある、小さな殺し屋の男だ。

 

「お前こそ銃をしまえ」

 

「……」

 

 頭にきていたのはこの男だけではない。

 しかし沢田家光にそう嗜められ、トリガーに指をかけたグロック17を、リボーンは渋々と自身の懐に戻した。

 やりきれない思いだが、今は自分の教え子達の成長の場だ。衝動的な感情で、彼らが殻を破るチャンスを台無しにするわけにはいかないのだ。

 

 一方で沢田綱吉達は、この一連の会話の中で疑問に思うことも多々あるようだ。疑念を抱きつつ、沢田綱吉はXANXUSの姿を見上げる。

 

 すると次にXANXUSは、中指に嵌めたリングを掲げて若きボンゴレ候補に提案してやった。

 今後の守護者同士の対決の結果で、沢田綱吉達に軍杯が挙がることがあれば、この手にあるボンゴレの地位も名誉もくれてやると、XANXUSは断言する。

 

 

 

「だが負けたら……お前の大切なもんは全て……消える」

 

 

 XANXUSの冷酷非道さを象徴する発言に、沢田綱吉は震え上がる。

 彼は、本気だ。もうあとには引けないことを、今の彼らはどれほど頭で理解できているだろう……。

 

 

 

「精々見せてみろ。あの老いぼれが惚れ込んだ力を」

 

 

 XANXUSが審判に合図して、チェルベッロ機関がこの事態の収拾と進行を続ける。

 

 

 

「では、明晩のリング争奪戦の対戦カードを発表します。明日の対戦は……」

 

 静まり返るリングのフィールドで女の機械的な声が、彼らの運命を切る。

 

 

「嵐の守護者の対決です」

 

 

 

 発表された結果に逸早く反応したのは、嵐のハーフボンゴレリングを持つ獄寺隼人だ。

 仲間に気づかれないように動揺を隠していたが、紫乃はちらりと銀髪の彼の様子を見る。まだ技が完成していないはずだ。

 

「ベルか……悪くねぇ」

 

 

 対戦カードの結果に思いのほか満足している男のもとに、雷のボンゴレリングを携えた幹部の男が近づく。だが、冷淡な男は自分のボンゴレリング以外興味はないらしく、そいつを無視して雨が降る屋上から一人立ち去るのだった。

 一度でも置き去りにする紫乃を振り返ることはなく、男の姿はいなくなった。

 

 

「XANXUS……」

 

 雨の音に掻き消されそうな彼女の声に答えてくれるその人は、当然いない。

 

 紫乃の胸に、昔のしこりだけが残る。

 

 

 

 

 炎の絶海に焼き払われた記憶……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て。セラン」

 

 

 

 その殺気に気づくと、紫乃の背後を取る黒い影がそこにあった。しっかりとその赤子の手にグロックのトリガーを握り、いつでもその引き金を引けると紫乃を威嚇している。

 

 今晩の戦いが終結すると、チェルベッロ機関は忽然とフィールドからいなくなり、沢田家光は直ちに九代目の詳細を確認するためボンゴレ本部へと戻り、沢田綱吉達は倒れているランボのもとへ駆け寄っていた。

 

「おめーが言ってたのは、この事だったのか。九代目の身に何かあったら俺は容赦しねえぞ」

 

 "伊波紫乃"で最後に彼と面会した際、そんなことを彼の小耳に漏らした気がする。

 今の紫乃には、赤ん坊が銃口を向ける理由も些細なことに思えた。

 

 

「待てよ、小僧」

 

 牽制し合う二人の間に水を差すのは、これまでの成り行きを静観していたはずの山本武だ。

 伊波紫乃が関わるといちいち首を突っ込んでくる。こればかりはリボーンも手を焼いた。

 

「山本、どけ」

 

「落ち着けよ。話はよくわかんねえけど、そうピリピリすんなって。伊波もずっと黙ってたらわかんねえだろ?」

 

 どうせ仲違い程度の喧嘩だと思い込んでいるこのちゃらんぽらんな奴の言い分が、不安定な彼女の気に無性に障る。

 彼の前で演じた伊波紫乃は、本当の自分ではないのだ。

 

 

「茶番にはうんざりしていたところだ」

 

 不躾に言い放ったその一言に、場は静まり返る。

 視界の端にランボを抱えて紫乃達を唖然と見つめる沢田綱吉がいた。居心地が悪い。苛立ちを含んだ目を視界に憚る彼らに向ける。

 

 

「しかし、私は予め忠告してやったぞ。なのにこんな事になったのは、一体誰の落ち度だ? ボンゴレの危機管理はこんなにも杜撰だったか? 門外顧問も慌てて本部に引き返す始末じゃないか」

 

 

 

 殺し屋の逆鱗に触れる言葉が口々に飛び出す。彼も即座に言い返す真似はしない。紫乃の忠告を活かしきれなかったのは、彼の落ち度である。

 紫乃にはあの時点でXANXUSが九代目の替え玉を用意していると踏んでいた。その替え玉が上手く扮しているお陰か、こうしておしゃぶりの赤ん坊や門外顧問の男の動きを計画の内に組み込むことができた。

 

 

 

 

「ゔッ!」

 

 屋上のフェンスまで、山本武の身体が吹っ飛ばされる。あまりの突然の出来事に、ボンゴレ達の動きが止まる。

 紫乃の手には、鉄の拳鍔がしっかりと嵌められていた。

 

「君にも言ったはずだ。私の前に立つな。二度とその名を口にするなと。君が慕っていた伊波紫乃は、もうどこにもいない」

 

 自ら山本武を冷たく突き放す。

 そして豹変する彼女から腹部への強烈な攻撃を不意打ちで喰らった山本武は、口元に滲んだ血を噛み締める。痛みの感覚も麻痺し、精神的苦痛に打ちひしがれる。

 

「伊波……」

 

「もう聞き飽きた。押し付けがましい優しさも、生ぬるい君達の友情ごっこにも……沢田綱吉」

 

 握り締める拳鍔にグッと力を入れ、紫乃がその真紅の瞳を向けるのは、第二次性徴期前の小さな背中がまだどこか頼りなく見える少年。つぶらな瞳は、紫乃を見て狼狽えている。

 自分を標的にする男でも、偽物を好んだ男でもなく、紫乃は彼だけを見据えていた。

 

 

「前に君に言ったことを憶えているな。この醜い戦いで、君は本当の絶望を味わうことになるだろう。楽しみにしているよ」

 

 

 

 苦しそうに笑う。どうしてだか、沢田綱吉の目に彼女の表情はそう映る。

 

 ああ、憶えている。

 俺に迷子のランボを預けてああ言ってくれた言葉も、六道骸との対決で逃げようとしたダメツナを奮い立たせてくれた小言も……。

 

 

「伊波さん……」

 

 

 

 弱るランボを抱きかかえて、今の沢田綱吉には、かつてのクラスメイトの女の子にそう返すので精一杯だった。

 

 

 

 

「行こーぜ、お嬢」

 

 ししっと、明日の嵐戦の対戦相手であるベルフェゴールが、紫乃を連れて雨のフィールドを引き返す。

 その後をスクアーロや小柄な隊服の守護者が続く。

 

 フィールドにポツンと残されたボンゴレの面々は、誰も彼女が去るのを引き止めることができなかった。

 

 

 突き飛ばされたフェンスにドサッと背中を預け、鉄の鈍器に殴られた痛みに唇を強く噛み締める。

 一度も彼女に触れることができず、引き止められなかった自身の右手を見つめ、山本武の小言はこの日の雨に打ち消された。

 

 

 

 

 

 

 誰が為に空は泣き続けるのか。

 それぞれの胸に抱く悲しみを溶かして降り続く雨は、しばらく止むことはなかった。

 

 

 

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