REBORN DIARIO 作:とうこ
同じ星空の下では、ボンゴレの炎が灯されている。彼女の希望の星が――。
「――それでは始めます。雲のリング、セランVS.雲雀恭弥――――勝負開始」
直面しているこの現実は、彼の意識を置き去りにしたまま駆け足に進んでいく。
冷たい鉛の鈍器を、自分よりずっと小さな拳に嵌めたあの娘が戦っている姿を目の当たりにしても、山本武には受け入れ難かった。
「なんでだよ……」
どうしてお前は、戦わなければならなかったんだ。
お前が戦う代わりに、俺がお前を守ることはできなかったのか……。
飛んでいった野球のボールを拾ってくれた時から、こんなものを背負っていたのか。いつも一人で。
馬鹿みてえじゃねえか。野球ができなくなったくらいで、死にたくなったことが。
「伊波――」
彼が口にしたその名も、もう彼女に届くことはないのだろうか。
耳障りな金属音が、彼らの間で擦れ合う。
彼女の耳元で劈く音が聞こえ、トンファーの攻撃を受け止めた。それを押し返して、今度は男の綺麗な顔に殴りかかる。風紀委員会の暴君にパシられ続け、いつかはこんな機会を望んでいたかもしれない。しかし、その拳はそいつに易々と受け止められてしまう。
「へえ。君、そんな物騒な物振り回すんだ」
「……驚いているのか?」
「別に。やっぱり君は只者じゃなかったんだね」
「……お前のような鼻が利く強い奴は大嫌いだ」
この風紀の男は、昔から彼女が必死に隠そうとしていた本質を見抜いていたようだ。死に物狂いで隠し通した。君達の日常が壊されないように。
雲雀恭弥が不満そうにこちらを睨みつけている。
「それ、前も言ってたね。聞き飽きたんだけど」
「口を利くのも今日が最後だ」
挑発的な物言いで言い返して、彼のトンファーを打ち返すと一旦距離を置く。そういえば彼が部屋に押しかけた時にも、そんなことを言ったかもしれない。
一年前のことを思い出そうとすると、その隙を突いて雲雀恭弥がこちらへ距離を詰めてくる。今この場では自分だけを見ろと主張してくるかのように。
「嘘だろ……あの雲雀と互角にやり合ってやがる……」
同年代の女の子とは思えない凄まじい戦闘スキルに、それを繊細に操る軽い身のこなし。雲雀恭弥を相手にしてもまったく劣らない近接戦を展開している。
この目がまるで暗幕の空から吊るされた複数の糸で、彼女の手足を操っているかのように錯覚した。
しかも、驚くのは彼女の十分に鍛錬された技術だけではない。彼女の両手に嵌められた彼女の拳より一回りも大きな鉄の武器。
一般的なナックルダスターに比べれば、随分と重装備だ。装着すれば大男の拳ほどの威力を発揮するが、彼女の細い腕にはずっしりと重く負担が大きいだろう。
再び雲雀恭弥のトンファーと激しくぶつかると、右手の拳鍔から鉤が飛び出し彼の動きを止める。すかさず左からはサバイバルナイフほどの殺傷力がある刃物を振り上げる。雲雀恭弥も寸前でそれを躱して距離を取る。
「からくりがあるのは君の武器だけじゃないんだよ」
「わお。燃えるね」
デットヒートする雲戦の行方を静観していた野次馬の中にいたリボーンは、彼女のその戦闘スタイルを目の当たりにしてひとつの考えにたどり着く。
「……まさかあいつ」
「リボーンさん。どうしたんすか?」
近くにいた獄寺隼人にその微かな声を聞かれてしまい、リボーンの顔色は曇る。それが事実ならば、彼女はまだ9歳の少女だったのだ。
「error……それがあの女のもうひとつの名前だ。壊れたマリオネット。八年前に死んだと思われていたが……」
まさか……彼女がその暗殺者だというのか。
彼もあの女の演技にすっかり騙されてしまったというわけだ。
八年前のクーデターの後で、errorの死体はあがったと聞いた。たった一人でボンゴレの1/3を壊滅に追い込んだ刺客。
あの事件の中でもそいつの死の謎は残されたまま、今もボンゴレの内部でまことしやかに囁かれていた。