ブラック鎮守府に配属されたので、頑張ってみる(凍結中)   作:ラインズベルト

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第8話

あれから俺は各部屋を周り、会えないか交渉してみた。結果は惨敗。誰も取り合わない。返事すらない。

 

「…………」

 

はぁ、どうすれば良いんだ?会うことができないならばケアはできない。詰みの状態だ。

 

「はぁ……」

 

いますべき最善の行動は何だろうか。無理に押し入れば鳳翔さんが精神的に危なくなるだろう。青葉に協力してもらうか。

 

「えー青葉、至急執務室へ。繰り返す、至急執務室へ」

 

青葉の協力で会うことさえできれば―――

 

「失礼しますね、司令官!」

 

青葉が入ってきた。ノック……。まぁ、今はいい。

 

「青葉、頼みがある。全艦娘の健康診断をしてくれ」

 

青葉は驚いたように目を見開いた。無理もない。部屋から出る艦娘が少ないというのに全艦娘の健康診断など、出来る確率がかなり低いからだ。

 

「おそらく皆が一番見たくないのは提督だ。だけど同じ艦娘である青葉なら大丈夫だと思うんだ。だから、頼む」

 

「そういうことなら任せてください!」

 

青葉は健康診断表の入ったファイルを持ち、部屋から駆け出していった。後に聞いた話だが青葉が艦娘の寮からファイルを抱えて出てきたのを蒼龍が目撃したらしい。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「皆の体調はどうだった?」

 

「あまりよくありません。ですから今は重症者を中心に医療妖精さんに看病してもらってます」

 

「そうか…」

 

帰って来た青葉はそう言った。状態はすぐには治らないよなぁ……。時間が必要だな。

 

コンコン。かノックがしたので俺は入るように言う。

 

「失礼するぞ」

 

「ん、長門か。どうした?」

 

「いや、少し話したいことがあってな」

 

何だろうか。普段特に何も言ってくることがない長門が珍しく、話を持ち出してきた。

 

「以前動ける艦娘は私達だけと言ったが、実は他にもいる」

 

「何!?」

 

他にもいたのか。なら何で言わなかったんだ?長門は姿勢を正してはっきりこう言った。

 

「他の動ける艦娘達は下手をすれば提督を殺してしまう」

 

俺はそれを聞いた瞬間、憎しみがわいてきた。今すぐにでも前任者を殺してやりたいとまで思った。必死に戦っている彼女らをそこまでさせたのだから。

 

それは、本当なのか……?」

 

「ああ、事実だ」

 

提督という存在を殺してしまうほどの感情がある艦娘。それは俺達の勝手な押し付けが招いたこと。いつかはこうなる運命だったのかもしれない。

 

「誰が、そういう状態なんだ?」

 

「夕立と時雨だ」

 

「…………」

 

彼女達はそれほどまでに提督が憎いか。いや、当たり前か。使い捨てように扱われ、失敗すれば暴力を振るわれ、歯向かえば解体だと脅される。誰が、こんなことを許せるだろうか。俺が艦娘なら殺してしまうだろうな。

 

「提督、私はあなたを信じきれてはいないが、あなたは私達を助けてくれる存在だと確信している。だから、皆を、以前のように……」

 

「任せろ。絶対助ける」

 

「ありがとう」

 

長門は深々と頭を下げて感謝を述べた。これからは忙しくなりそうだ。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「どうすべきか……」

 

ガチャ。

 

扉が開かれた。目を向けるとそこには夕立がいた。俺は夕立の目に恐怖した。明らかに生気の抜けた、それでもって殺意のある目をしている。まるで機械のように無表情で、冷たい。

 

「ゆ、夕立?どうしたんだ?」

 

「…………」

 

返答はない。これはやばい。死んだかも。瞬間、俺の右腕に夕立が噛みつき、血が流れる。しかもかなりの力で押し倒されてしまった。

 

「あぐっ!?」

 

痛みで動くことができなかった。しかし俺の目には夕立が泣いているように映った。皆を守りたい一心に見えた。彼女は、まだ戻って来られる。まだ、堕ちきってはいない!

 

「夕立!」

 

だから俺は夕立を抱き締めた。次は左肩を噛みつかれる。戦場で狂犬といわれ恐れられるだけあるが、艤装をつけていないのでやはり少女に変わりなかった。

 

「ッ!ッ!」

 

「無理を、するな…………夕立、お前一人が抱える必要なんてないんだからな……?」

 

「…………」

 

………やがて夕立はおとなしくなり、俺は夕立を見た。口元や服は血で汚れている。しかし、目には涙が溢れていた。

 

「大丈夫だ。もう、前任も、君たちを傷付ける奴等はいないんだ。大丈夫、大丈夫だ」

 

夕立はしばらく泣いた後、疲れたのか眠ってしまった。

 

「やっべえ……血、流しすぎたか……」

 

ミスったな…………応急処置を…………忘れる………なんて……。俺の意識はそこで途絶えた。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「知らない天井だ」

 

「ん?目を覚ましたみたいだね、提督」

 

見るとそこには時雨がいた。やべえ、やべえ。彼女もたしか提督を殺したいんじゃ……。

 

「安心してよ。僕は提督の味方さ」

 

「え?」

 

「だって、僕は―――」

 

「司令官!良かったぁ!!」

 

「うぉ!?」

 

いきなり抱きつかれた。驚いて抱きついた本人を見ると青葉だった。他に部屋にはも蒼龍、大淀、長門、辻谷、中尾がいる。

 

「すまない。今回は俺の不注意でこんなことになった」

 

「顔をあげてください、提督」

 

頭を下げた俺に、大淀は頭を上げるように促す。俺は頭を上げ、皆を見る。

 

「九条提督が無事でなによりですよ」

 

「そうだね。本当に無事で良かったよ」

 

辻谷と蒼龍は良かったという表情だ。2人は仲が良い。辻谷が着任してから数時間で仲良くなっていた。

 

「生きているだけマシ、か」

 

左肩も右腕もしばらくは使い物にならない。軍医はいないから今回は明石に見てもらったようだ。

 

しばらくは書類仕事ができそうになかった。ケアはしていきたいが、どうしたものか。

 

俺はしばらく悩んだ。


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