世界が惑星レベルでの汚染と荒廃を極めた時代。
高度な文明が築かれた時代は過去に流れ、その名残にしがみつきながらも人々は必至に生き延びていた。
わずかに残されたまともな土地に縛られる者。
あるいはそういった土地を転々としながら生計を立てる者。
そして他人を貶めることで本能のままに生きる者。
『識別コードを確認。システムを起動します。ようこそ、フェアリクト』
生きる者と奪う者が居ればそこには守る者が求められる。
まぁ奪うのも守るのも本質的には同じだ。殺すだけ。
『カデンツァ、セーフモードで起動完了。各兵装は30秒後にアンロックされます。機体コントロールを搭乗者へ移譲』
だが俺達はきっとどれにも属さない。別のグループ。
俺達は狩る者だ。敵からはスカベンジャーと揶揄されることも珍しくない。
事実ゴミも漁りはする。
「スキャンモード」
短くワードを唱え状態を移行する。
目の前には凄惨な光景が広がっていた。
そこかしこに転がる損壊した死体。複数の銃痕と多量の流血。きっと外は血の匂いが漂っている。
「……酷い事をする」
いくつかの破壊痕と残された状況証拠から、おおよその元凶を推測。
襲われていたのはキャラバンの一種だ。まともな抵抗の後がないから、無謀にも護衛すらつけずに荒野を進んだのだろう。
その金が無かったのか。雇うあてがなかったのか。あるいは既に護衛が死んでいたのか。
真相は闇の中だが、そうした瞬間を狙われたに違いない。
再びワードを唱えてスキャンモードを終了。しばらく目を閉じ気持ちを落ち着ける。
同族……つまりは人間の手によってこの凄惨な光景はもたらされた。
ただ安寧の地を求め彷徨うだけの人命は、罪深きモノによって蹂躙され散っていく。
心臓の鼓動が速くなる。
許されない事だと思った。
モニターに反射する自分の顔と地面に飛び散った血が重なり殺人鬼の様に見える。
なぜなら…その顔は静かに笑っていたから。
俺は今、この瞬間、蹂躙すべき獲物を得て歓喜に打ち震えているのだ。
許されざる事である。
例え罪を犯したモノとはいえ狩る事に愉悦を覚えるなどとは。
いや、この様な殺戮を繰り返すモノを人と認識すべきではないのかもしれない。
獣…そうだ、獣だ。
血濡れの顔が嗤う。
もしそうなら俺自身もまた獣であるのだろうな、と。
タイヤ痕が見受けられる事から連中は車を所有している。加えていくつかの機動兵器の足跡も見て取れた。
追いかければ戦闘は避けられないだろうが、ただの盗賊であるなら遅れをとる気はない。
キャラバンを襲撃した族が向かった先へ…未だ高く鳴り響く鼓動を抑えることすら忘れて俺は機体を飛ばした。