前世はバンパイア?   作:おんぐ

1 / 55
1

  

 

 

 

 

 夢の中の僕はバンパイアだった。

 でもそれは所謂、一般的広くに知られているだろうものとは少し違っていた。十字架、聖水、ニンニクは平気、牙は生えない。不死身でもなかった。

 

 そんな夢を最初にみたのは、確か小学生高学年の頃。

 …母が亡くなった後だった。

 そして、何年も経った今でもその夢をみつづけている。

 

 一人の男の視点を元に流れる映像には、残酷で辛く、心が締め付けられるようなことが幾度となくあった。最近では確か…死を満たしていく水に、一面無数の針…そして絶え間なく襲いかかる炎。

 もう何年もたった今では最初の頃にみた夢はあまり思い出せない。だが、一つ覚えていること。

 

 

 それは間違いなく悲劇だった。

 

 

 

 

 

 □

 

 

 

 「はぁっ、はぁっ」

 

 

 グールに追いかけられている。さっきは、ついに大人の階段を一気に登れると思った。それが、なぜこんなことに。

 

 命の危機の中、そんなことを考えられるくらいの余裕があった。おそらく、夢でこれより酷い状況を経験したせいだ。正直、恐怖よりもショックの方が大きかった。

 人生初デートがこんなのなんて、あんまりだ。そして、このままでは人生最後のデートにもなってしまうだろう。

 

 

 「まってぇっ」

 

 

 興奮した彼女の声がすぐ近くで聞こえる。あの変な触手を振り回している音が嫌でも耳に入ってくる。ああ、もう追い付かれたのか。今までは、遊んでいたのだろう。

 

 目を向けると、すぐそこにいた。

 

 

 「ふふ」

 

ドギョ

 

 

 お腹から変な音がした。ああしぬのかな……。

 

 あれ、前にもこんなことがあったような…いつだっけ……。

 

 そうだ、たしか⎯⎯

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 「うぅ…ん」

 

 あれ、ここどこだ。スティーブと相討ちで死んだはず…

 

 いや、違う。グールに触手のようなものをうけて

 

 頭痛が酷い。あたまがわれそうだ。

 

 

 あ

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 入院してから数日が経つ。

 病院での生活は思っていたよりもよかった。病室という静かな空間での読書は、どこか新鮮で心地よく、看護をしてくれる看護師は可愛いかった。

 経過は今のところは順調。むしろ、順調過ぎて、当初の予定よりも早く退院できるだろうとも言われた。それでも、暫くは自宅で安静にしていなければいけないそうだが。

  

 目覚めて直ぐにわかったことだが、今まさに僕は、よくある物語のような体験をしていた。まず、今まで見ていた夢は、僕の前世のようなものだった。違うかもしれないが、確めようがない。少なくともただの夢と言うには、はっきりとした記憶があった。

 前世はダレン・シャンというバンパイアだった。いや、完全なバンパイアになる前に死んだため、半バンパイアというのが正しい。最期は生みの親⎯⎯思いたくもないが⎯⎯に、運命に逆らって死んだはずだ。その後はどうなったのだろう。戦いは終わったのだろうか。次々に疑問が増えていったが、どうしようもなかった。確めようがない。

 今できることは、無事を祈ることくらいだ。

 

 この金木研の人生もあの男によるものかもしれないと、考えはした。だが、前世にグールはいなかったはずだ。今世に、バンパイアがいると聞いたこともない。だから、無関係だと思うことにした。精神的にそちらが楽だ。もしそうだとしても、また運命に逆らってやるつもりだ。

 

 

 問題は体の方だった。食事が不味い。病院食だからというわけではないはず。ダンボールを食べているみたいだった。

 

 

 医者からの話があったときから嫌な予感がしていた。

 曰く、鉄柱落下事故で即死だった女性の臓器を、まだ助かる余地のあった僕に移植したとのこと。

 そう、グールの臓器をだ。同じ人間でも、臓器移植後は拒絶反応が起こったり、変化があるという。グールならば、なおさらではないのか。いや、味覚にしか変化がないことに安心するべきなのか。もしかすると、身体に変化が起こるのは、これからかもしれない。そう考えると、憂鬱な気分になった。

 

 だが、食事は全部食べた。キレイに残さず、我慢して食べた。一度経験していたから耐えられたんだと思う。前世の、完全なバンパイアになるための純化の時にも食べ物は全てダンボール味だった。まあ、食べたあと、しばらくは気分が悪くなるのはどうしようもない。

 それを知った看護師、医者からは、無理しないように言われた。そして、味覚の変化は精神的なものらしい。

 

 

 「そんなわけあるか」

 

 改めて思った。手術時に何も気がつかなかったのだろうか。そんなはずはないだろう。この医者は信用できない。

 

 

 

 

 ■

 

 事前にあった通り、退院は予定よりも早くなった。検査にまた来るよう言われたが、正直もう来たくない。

 

 

 自宅までの帰り道、携帯を見ると、ヒデからメールがきている。退院祝いに奢ってくれるそうだが、断ることにする。味覚は未だにおかしいままなので、気が乗らない。それに、ヒデは勘がいい。気づかれて心配をかけたくない。

 少し返信に迷って、まだ食欲が湧かないことを理由に断ることにした。結局心配させることになってしまうが、まだマシだろう。続けて、一週間ほど大学に行けない、次に大学で会った時によろしくと打って返信した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰って数日後、体に変化がおきていた。

 

 

 味覚が戻り、以前のように食事をとれるようになった。食べたあとに体調も悪くならなくなった。

 一生このままかと、諦めかけていたので、一人でガッツポーズをしてしまうくらい嬉しかった。テレビで得た知識では、グールは普通の食べ物はすごく不味く感じて、栄養も摂取できないみたいだし。

 そういえば、彼女は身体の後ろから触手が生えていたなと思い出した。すると突然腰の上辺りがムズムズしだした。すごく嫌な予感がしたため、考えることを止めると、それはおさまったが。他にもまだある。爪が硬くなって切れ味が凄い。感覚が鋭くなって力が強くなっていた。

 

 一回目の純化後と似ている気がする。

 

そうとなると、不安要素は血だ。いや血ならまだいい。人肉を食べるよりはましだろう。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 耐え難い空腹感が襲ってきている。久しぶりにコンビニに行った帰り道、中年の男に絡まれている、高校生くらいの女の子を一目見た時から。

 

 

 柔らかそうな脚 青々とした血管が浮いて、透けてみえる血の流れ でも、それよりも露になっている首の後ろから、おいしそうな匂いが⎯⎯

 

 

 気づいたら、中年の男の頭が宙を舞っていた。その瞬間、女の子の目が赤くなっているのが見えた。

 

 「……欲しいの?」

 

 

 え⎯⎯

 

 「欲しいんじゃないの……これ?」

 

 

 でも、いいのか。

 

 

 「?」

 

 女の子が近づいてくる。

 

 「食べないの?」

 

 

 

 ぷつんっ。と何かが切れたのがわかった。…そうだグールだったんだ。じゃあ、仕方ないよね。

 

 

 「つーかアンタ片方だけ紅目なんて変わっガぁッ!!⁉」

 

 

  ちゅー。

 

 

 「なんッ⁉てめぇっ、あああっ……」

 

 

 ちゅー。ちゅー。

 

 

 「あっあぁぁぁあ」

 

  

 ちゅー。ちゅー。

 

 

 「あぁ⎯⎯⎯」

 

 

 ちゅー。…ん、あれ?何だか震えて

 

 「⎯⎯⎯あ⁉っこのっ!!」

 

 「がふっ」

    

 

 …完全に理性が飛んでいた。あと、殴り飛ばされたみたいだ。

 

 

 「はぁはぁー……‼」

 

 

 

 …あっ、やば。

 全速力でそこから逃げ出した。

 

 




次は菫香sideからです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。