前世はバンパイア?   作:おんぐ

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 今“あんていく”にトーカちゃんと二人で向かっている。

 夕食はカツ丼だった。材料は、服を買いに行った際に買っておいた。カツ丼はトーカちゃんがレシピを調べて作った。

 作ったのは初めてだったらしいが、カツはサクサク、卵もフワトロ、味もよく染みて、文句なしだった。

 作っている姿もテキパキと要領良く動いており、瞬く間に作り上げていた。喫茶店でバイトしているからだろうか。おそらく、先の手順を把握して動いているのだろう。要領がよかった。

 ヒナミちゃんはまだ食べることができないため、残念そうだった。今度また作ってもらえるよう、トーカちゃんと約束していた。

 リョーコさんは何と言うか……うん。見ていて癒された。食べ始めの方こそヒナミちゃんに申し訳なさそうだったが、あんなに目を輝かせて、カツ丼を食べる人はそうはいないだろう。トーカちゃんもその様子を見て嬉しそうだった。満足げに頷いていた。そして、今度依子と一緒にやってみよーかな。なんて声を漏らしていた。

 

 ■

 

 あんていくの前に着いた。ドアには“close”の板が下げられている。中はまだ明るい。片付けや、明日の仕込みをしているのだろう。トーカちゃんに案内され、裏口の方に進み、中に入る。

 

 

 「店長ー。こんばんはー。今来ました」

 

 

 トーカちゃんが声を掛けると、奥から初老の男性が現れた。背筋がピンと張っており、制服も相まって、どことなく執事ように見える。

 

 

 「やあ、トーカちゃん。こんばんは。

それと、はじめましてだね。金木君。あんていくの店長の芳村です。よろしく」

 

 

 「こんばんは。お伺いに来るのが遅くなって、すみません。金木研です。よろしくお願いします」

 

 

 「金木くんも忙しかっただろうから、大丈夫だよ。奥で話そうか」

 

 

 「はい、お邪魔します」

 

 

 「あっ店長。今日はすみません。休みにしてもらってありがとうございます」

 

 

 「いや、トーカちゃんが元気そうでよかったよ」

 

 

 二階の一室に案内される。芳村さんに促され、ソファーに腰を下ろした。芳村さんはコーヒーを淹れてくるよ、と言って一度部屋を出ていった。

 

 

 「トーカちゃん、優しそうな人だね芳村さん」

 

 

 「はい。…私がこうして生活できるのも店長のおかげなんです。本当にお世話になってます」

 

 

 コンコンとノックが鳴る。トレーを片手に芳村さんが戻ってきた。コーヒーの香りが鼻を通り抜ける。

 

 

 「さあ、熱いうちにどうぞ。砂糖、ミルクも自由にね」

 

 

 「態々すみません。いただきます」

 

 

 「店長、私まですみません」

 

 

 まずは何も入れずに口を付ける。……美味しいな。コーヒーには詳しくないため、上手く表現はできないが、一流ってこういうことなんだろうなぁと思う。

 

 

 「おいしいです」

 

 

 「それはよかった」

 

 

 芳村さんは柔らかく微笑んだ。

 

 

 「さて、金木くん、まずはお礼をいうべきかな。笛口さんとヒナミちゃんを助けてくれてありがとう。今日のトーカちゃんのこともね」

 

 

 「はい。でも、やりたいことをやっただけですので…」

 

 

 「それでもだよ。君は元は人間で、その上での行動だ。本当に嬉しいんだよ。……実は、私は人間と共存できる道を探しているんだ」

 

 

 共存の道か。その考えを否定はしないが、グールが、その食性から人間の敵対者である限り、難しいことだろう。

 仮に共存できたとしても、差別問題が出てくることも考えられる。芳村さんはどこまで目指しているのだろうか。

 

 

 「共存……」

 

 

 トーカちゃんが呟いた。

 

 

 「そう、そして金木くんの存在が希望になると考えている。君のその力も含めてね」

 

 

 今日、トーカちゃんに起こったことも言うべきか。僕の推測も含めて。

 

 

 「その力の話にもなるんですが、今日、実は⎯⎯」

 

 

 

 

 

 「……驚いたよ。まさか、そんなこともとは……。……トーカちゃんには、詳しくは聞いていなかったからね。正直、信じられない。いや、金木君が嘘をついているとは思っていないよ。しかし……」

 

 

 芳村さんの願いを聞いた後では、都合が良すぎる話だ。それ故に戸惑うこともあるのだろう。

 

 

 「金木君。仮に、だが私もトーカちゃんの様になることができると思うかい?望む全てのグールを変えることは、可能なのかな」

 

 

 ……どうだろうか。合う合わないがあるかもしれない。それに仮に、全てのグールに適用できたとしても、僕は実行しないだろう。必ずどこかに、落とし穴がある。確かに、人間とグールが共存するという考えは素晴らしいと思う。だが、やはり大切なものを失ってまでしようとは思わない。考え過ぎであるとは思う。……でも、もう嫌なんだ。

 だから、共存を目指すにしても、慎重に。少なくとも、今は無理だ。

 そう、伝える。

 

 

 「…勿論、私も強制するつもりはないよ。…でも、不思議だね。まるで経験してきたかのようだ。…では、私にも試してもらえないかな?」

 

 

 確かに、前世ではバンパイアとして、人間と関わった。そして、拒絶されたこともある。

 

 

 「ええ、構いません。……今のところ、他言無用でお願いします。どこから漏れるか分かりません。……では、血をいただいてもいいですか」

 

 

 僕の血を飲んでもらうことも考えたが、却下した。一度通った道を辿るほうがいいだろう。

 

 

 「ああ、私もトーカちゃんと同じ羽赫だ。よろしくお願いするよ」

 

 

 芳村さんが、上半身の服を全て脱いだ。……すごい身体だ。

かなり鍛えていることがわかる。トーカちゃんも目を丸くしている。

 

 

 「では、失礼しま……?」

 

 

 なんだ、これは。匂いの源がどれだけあるんだ。……赫包が多数あるということか。

 

 

 「……芳村さん、赫包いくつありますか」

 

 

 芳村さんも気づいたのか、ハッとした顔になった。

 

 

 「正確には分からないが、少なくともトーカちゃんよりは多いね……」

 

 

 吸血しながら、Rc細胞も同時に吸い、僕の細胞が侵食しやすい様にしている。…これ、できるのか。僕の細胞、すぐに消えると思う。

 

 「…一度やってみます」

 

 

 「ああ。それと、私が眠ってしまったら、そのままソファーに寝かせてくれると助かる。トーカちゃん。戸締まりを頼んでもいいかな?」

 

 

 「はい、店長」

 

 

 「では、改めて失礼します」

 

 

 芳村さんの皮膚を深く切り裂く。そして直接、吸い始める。

 

 

 

 駄目だった。

 

 もう一度と、何回も挑戦したが結果は同じだった。……その度に血を飲むことができた僕としてはよかったが。味に深みがあった。他にもあるが、よそう。

 

 

 「すみません。力に成ることができなくて。えっと、ここまできたら、僕の血を飲んでみますか?」

 

 

 軽い気持ちで言ってしまった。

 

 

 「ああ、よろしく頼むよ金木君。私も悔しく思っている。こうなれば、赫包をいくつか……と頭に浮かんだほどだ。

できることはしたい。」

 

 

 怖いことが聞こえた。トーカちゃんは、芳村さんの様子に引いているようだ。

 

 

 「……はい、わかりました。では」

 

  芳村さんが大きめのグラスを貸してくれた。直接より、この方が助かる。爪で手首を切り裂き、グラスを血で満たす。

 

 

 「どうぞ。芳村さん」

 

 

 「いただくよ」

 

 

 芳村さんは少しグラスを見つめた後、口をつけた。

 

 

 「む……これは、中々」

 

 …飲み終わったようだ。途中から、味わうように飲んでいたように見えたのは、気のせいじゃないと思う。

 すると、トーカちゃんから一言あった。

 “受け入れるように”と。

 芳村さんは静かに目を閉じる。誰も何も喋らないまま、時間が過ぎていく。……芳村さんに変化があった。トーカちゃんの時と同じようだ。苦しそうに身体を丸める。

 

 

 「店長っ!!」

 

 

 

 ……トーカちゃんよりは随分立ち直りが早かった。少し息を乱しているが、大丈夫なようだ。

 

 

 「……トーカちゃん。悪いけど、下の冷蔵庫にサンドウィッチがあるんだ。お願いしていいかな」

 

 

 「はいっ。すぐに持ってきます‼」

 

 

 もしかしたらと期待して、予め用意していたそうだ。

 トーカちゃんはバタバタと部屋を飛び出して行った。

 

 

 「芳村さん。もしかすれば、ここまでして、やっと数日もつくらいかもしれません」

 

 

 正直に言った。トーカちゃんの様にはいかないと思う。それこそ、赫包を減らさない限りは。

 

 

 「いいんだ。金木君。私は一度でも食べることが出来たら、それで……」

 

 

 そうだろうか。…トーカちゃんが戻ってきた。

 

 

 「店長。……どうぞ」

 

 

 トーカちゃんが緊張した様子で芳村さんに渡した。僕まで緊張してくる。

 

 

 「ああ、いただくよ」

 

 

 芳村さんはタマゴサンドを選び、一息に口に入れた。……食べ慣れているような食べ方だ。

 

 

 「ぁ、……ああ」

 

 

 芳村さんが小さく、消え入るような声を漏らした。何と言葉にすればいいかわからない、そんな心情が伝わってくる。

 

 

 

 「…ああ、憂那……憂奈と一緒に、食べてみたかったなぁ……。…っ」

 

 

 その言葉に、どんな思いが込められているのか僕にはわからない。だが、そんな芳村さんを見て、胸が苦しくなった。

 

 

 「……トーカちゃん。今日はもう、おいとましようか」

 

 

 芳村さんも今は独りになりたいだろう。

 

 

 「…そうですね。店長、お疲れ様です」

 

 

 「芳村さん。また近い内にお邪魔します。」

 

 

 「……ありがとう、二人とも。…ありがとう、金木君」

 

 

 閉ざしたドアの向こうから、啜り泣くような声が聞こえた気がした。

 

 

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