前世はバンパイア?   作:おんぐ

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 3話目です




30 ちぐはぐ

 

 

 

 

 

 アヤト君を先頭に、森の中を進んでいる。

 

 ああ、トーカちゃん…トーカちゃんが、拐われていたんだ。

 

 拐ったのは、白スーツの男ともう一人の二人組。

 

 

 「っっ!!」 

 

 

 トーカちゃんの匂いを鼻が嗅ぎとった。あっちか…。

 

 遅い、もっと、もっと速く。

 

 進行方向から、少し東に進路を変えて、全速力で進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トーカちゃんを拐った奴らは、残酷な拷問マニアだという。そんな奴らに拐われた彼女が、タダで済むはずがない。それに、女の子だ。どんなことをされるかわからない。

 胸が苦しい。見たくない。怖い。これ以上行きたくない。いやだ、いやだ、もっと速く⎯⎯速くしないと。

 

 

 ふと、嫌なことを思い出す。

 ああ、なんでこんな時にと思う。…前世の記憶にあったことだ。

 

 バンパニーズに、ガールフレンドが拐われたことがあった。僕が間抜けだったために、二度もだ。

 あの時の僕は、年を食っているだけの子どもだった。再び彼女と会えた時、彼女は、やつれきっていたけど、僕は無事に会えたことに安堵した。

 でも、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた彼奴の顔を見たんだ。それを見た彼女の、ショックを受けたような何かを恥じるような表情。それで、何があったのかわかってしまった。わかりたくなかった。

 目を背けた。聞きたくなかった。いつも僕に最悪を告げる彼奴が何も言わなかったんだ。追及したら、彼女の尊厳も傷つけることになる。だから、何もなかったことにした。……嘘だ。自分が傷つきたくないだけだったんだ。

 

 間に合わなければ、きっと、これよりも……嫌だ、トーカちゃん、トーカちゃん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 匂いが強くなっていく。濃くなる匂いに、金木は、血の気が引いていくのを感じた。

 トーカの血の匂いだ。

 怖い。進むのが怖い。嫌だ、嫌だ、⎯助けなきゃ。

 

 ⎯光が漏れている。

 

 そう思った時には、木々の少ない、開けた場所に出ていた。

 金木の目に飛び込んできたもの、それは⎯⎯金木の倍はあるだろう赤黒い塊。表面はウネウネと動き回り、その体積を増やしていた。

 その、下。

 赤黒い塊の下から、ヒューヒューと何かが抜けていくような音を金木の耳が拾う。

 そして、気づいた。それが何なのか。塊がグチャグチャと音を立てながら夢中になっているものが何なのか。

 それが、誰なのか。

 

 

 「け……さ……」 

 

 

 

 「あっ…あぁ、ああそんな、嘘だ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⎯金木がたどり着く少し前。

 

 

 

 

 夜空に眩い月明かりが地を照らす中、木々の間を進む三つの影があった。

 

 

 「ヤモリ、たたらっちに連絡しなくてよかったの?」

 

 「うん。結局リゼとは、関係なかったしね……」

 

 「そう…」

 

 

 なんの問題もないように言うヤモリだったが、ニコは気づいていた。少女の抵抗が、ヤモリの琴線に触れていたことに。

 しかし、だからと言って、何か言うつもりもなかった。男の意に沿うのも、いい女の条件だと、そう思っているからだ。気がかりなのは、少女の勤めている喫茶店の連中だが、拐った犯人が自分達であると気づかれる可能性は低いと思っていた。

 

 

 「でも、ジェラスだわぁ。その子に、どんなハードなプレイをするつもりかしら?」

 

 「え?うーん、そうだな。まずは目、かな?生意気だったし。あ、でも女だし、色々できるよね。……うーん。その時の反応しだいかな」

 

 「アヤト君は?」

 

 「さっき言ったように、バレないようにする。バレても、知らなかったことにしたらいいし」

 

 

 ニコは、少女に少しだけ同情した。この少女に、ヤモリの攻めは耐えきれるのだろうか。いや、耐えられるはずもない。そういう場面は何度か見たのだ。それゆえに、ニコはこれから待ち受けているトーカの未来に、同情した。

めは耐えきれるのだろうか。いや、耐えられるはずもない。そういう場面は何度か見たのだ。それゆえに、ニコはこれから待ち受けているトーカの未来に、同情した。

 

 

 「それよりさあ、ちょっと遅いよ……あ?何しているのかな、君」

 

 

 荷物持ちにと、呼びつけた男が遅れていることに気づいたヤモリが、背後に目を向ける。目に入ったのは、バッグのファスナーを僅かに開いて鼻を近づけている男の姿だった。

 

 

 「あぅはあ…………あ、すっすいません‼ついっ‼あ、でも食っては」

 

 

 バキリ。ヤモリが人差し指を折り曲げた。

 

 

 「それは、俺のだ。それを食う?死ぬか、お前」

 

 

 あ、死ぬわね。

 

 眺めているニコは、確信した。言葉遣いから判断しても、今のヤモリは頭に血が上っている。先ほどまでは、一見クールに見えていたが、うちでは、まだ怒りが燻っていたということだろう。

 

 

 「すいませんっ!‼もうしなっゲヒャッ」

 

 

 地に落ちた男の胴体には、二つの穴が開いていた。そしてそれは、終ぞ再生する兆しを見せることはなかった。

 

 

 「あ、死んじゃった」

 

 

 ヤモリは、面倒だと思いつつも、少女が入っているバッグに手を伸ばす。運んでいた男を殺したのだ。あとは、自分で持つしかなかった。その時、開いたファスナーの、隙間から漂ってくる香りがヤモリの鼻を、脳みそを刺激した。

 

 

 「…ニコ、ちょっとだけなら、今食べてもいいよね」

 

 「…え?ええ。お腹空いてたの?」

 

 「うん、少しだけ」

 

 

 ヤモリは、バッグからトーカを出して、地面に寝かせる。

 目についたのは、ショートパンツとソックスの間。僅かに肌が見えている肉の部分。無意識に、吸い寄せられるように、舌を触れさせた。

 

 

 

どくん…

 

 

 「…あ?なんだ、これ」

 

 

 ヤモリの眼が、ビキビキと音を立てながら赫眼に変わる。

 

どくん、どくん

 

 

 「あつ…」

 

 

 身体中の細胞が、目の前のものを求めている。

 

どくん、どくん

 

 

 背から、赫子が発生する。食べたい。どこから喰おうか。

 

 

どくん、どくん、どぐんっ!!

 

 

 喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい

 

 

 欲望が、ヤモリを埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⎯ああ、死んじゃうのかな

 

 もう、声も出ない

 

 さっき、痛くて痛くてあんなに叫んだからかな

 

 喉が枯れたのかも

 

 痛みも感じない

 

 ただ、背中でグュチュグュチュグチャグチャしてる音が気持ち悪い

 

 

 

 

 

 

 あーあ……

 

 こんなことなら、赫子使えばよかったな

 

 本気で望んでやれば、出る気はしてた

 

 でも、だって、おかしいよね

 

 研さんは赫子が出せないのに、私が出せたらおかしいよね

 

 また、元のグールに戻っちゃうかもしれないし

 

 それだけは嫌だった

 

 もし、元のグールに戻ってしまったら、依子のお弁当は食べられなくなるし、皆で料理することもできないよね

 

 

 

 人間になりたかったのかもしれない

 

 きっとそう、普通に生きてみたかった

 

 なんて贅沢。以前の私も、幸福なグールだったのに

 

 でも、もっともっと大きな幸福を知ってしまったから

 

 何かの拍子で、この幸せが崩れてしまうことがこわかった

 

 

 

 あ、ブチッて音がした

 

 たぶん、私の音。気持ち悪い

 

 

 

 眠くなってきた

 

 

 

 ……いやだ 助けて 死にたくない

 

 誰か、誰か、お母さん、お父さん、アヤト

 

 こわい、助けて

 

 もうやめて、食べないで 

 

 こわいよ、やめて

 

 

 無くなる

 

 

 私が無くなる

 

 

 

 

 

 




神アニキと呼ばれるきっかけになった話はよかった
エンディングだったかな?
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